第143話

「私が?」



 リーファは不思議そうな顔をする。



「いやいや、私は学園に通ってないんだよ?それに私はあんまり戦うのが得意じゃないし……」

「ちなみに俺様は一度脅されたことがある」

「お兄様が負けたんですか!!」

「いやあれは別に戦いってわけじゃ……そもそも勝手に部屋に入ってきたあんたが悪いんでしょ!!」

「私ですらお兄様を部屋にお招きしたことはないのに!!」

「リアは何と張り合ってるの?」



 ふむ、さすがだ。



 奇跡の巡り合わせで出会った家族だが、一つも息が合っていない。



 個性の殴り合いである。



「今回お前に参加してもらう目的は大きく分けて何個かだ」

「せめて話まとめてから来てくれる?」

「まず第一に盛り上げ係だ。亜人になるほど高い魔力を持つお前なら、学園でもかなりの活躍を見せてくれるはずだ」

「まぁ……そこらの人に負ける気はしないけど……」

「そして二つ目は」

「亜人差別を減らすためです」



 リアが横から入ってくる。



「あの事件以降、大きなデモ活動などは減っています。ですが、それでも亜人への差別意識を持っている方々は多い」

「でも……私が参加したところで無くなるなんてことは……むしろ、強力な力を見せるとより怖がられちゃうんじゃ……」

「その点は問題ありません」



 リアはニッコリと笑い



「全力で圧力をかけて潰します」

「……へ?」

「良い機会なんです。ここでお姉様に参加してもらい、私達…つまりは三代貴族が亜人への対応に好意的だと国中に知らしめるんです」



 笑顔で怖いこと言っちゃう系女子、リアグレイス。



 素敵である。



「え、えっと……それは根本的解決になるのかな?」

「いえ、ですが世界への認識を変えるだけの力はあります。亜人を憎んでいる人がいるから関わるのを止めようではなく、嫌ってる人間は過去の人物である。そういう考えを持たせるには十分です」

「う、う〜ん」



 リアの言葉にリーファは少し懐疑的である。



 大きな力を持ち続けた者と、常に虐げられる人生を送ってき者の差だ。



「私は嫌です。お姉様に対する世間の目、あれを見ていると……悲しい気持ちになってしまいます」

「リア……」



 二人は出会って間もない。



 だが、その長い年月を同じ存在によって苦しめられた二人の間には、確かな思いがあるのだろう。



「お涙頂戴も好きにしていいが、話を続けるぞ」

「ちょっとアクト!!」

「さすがお兄様。既にお兄様にとってお姉様が虐げられる世界は過去のものなのですね」

「いや絶対違うでしょ!!こいつそこまで考えてないよ!!」



 確かにリアのヨイショはいつものことだが、実は今回に限ってはリアの言ってることは合っている。



 実は俺もそろそろムカつくから、リーファの悪口言う奴ら全員処刑すればいいんじゃねと思っていたところだった。



 多分リーファは嫌がるだろうが、俺が全ての汚名を被って死ねばいいかなーなんて考えていた。



 だが、リアによって穏便に解決してくれればリーファも悲しまないしいい感じである。



 そんなわけで俺にとってはどう転んでもリーファは既に亜人ではなく、一人のめちゃんこプリティーガールとなっているわけだ。



「そして三つ目だが……リア、何かあるか」

「少々お時間を、直ぐにそれらしい理由を考えます」

「無いのね」

「いや、ある!!……はず」

「ご安心をお兄様。これまでのお姉様との交流で、お姉様が騙されてやすく落としやすいことが分かっています。多少強引にいけばいけるかと」

「よし、なら適当に丸め込め」

「はい!!」

「はい!!じゃないから。全部聞こえてるんでけど?」



 リーファが何故か疲れたようにため息を吐く。



 どうしたのだろうか。



「もう分かったから。出ればいいんでしょ?出れば」

「やっぱちょろいな」

「お兄様みたいですね」

「あ?」



 本音を言えば、実はまだ理由は存在する。



 だが悲しい雰囲気にはしたくない気分でな。



 これでリーファが出てくれるならありがたい。



「あんたのことだからどうせまだ隠してことがあるんでしょ?」

「なんのことだ?」

「別にいいけどさ」



 リーファは目線を上に向け



「困ったら頼ってよ。私達、友達なんだから」



 少し照れ臭そうに言った。



「じゃなきゃ私、本当にヘラるから」

「お、おう」



 なんか本気だった。



「マロさんに休み取れるか聞かないとだな〜」



 とりあえず当初の目的達成だな。



「お付き合いありがとうございます、お兄様」

「俺様は俺様の目的がある。偶々だ」

「ふふ、そうですね」



 最近益々心を見透かされている気がするが



「ま、いいか」



 二人の姉妹の楽しげに話す姿を見て、俺は浄化されるのであった。



 ◇◆◇◆



「妾も参加したい」

「最近見ないと思ったらどこに行ってた」



 本日リアはリーファの家に泊まるらしい。



『お兄様も一緒にどうですか?』



 と聞かれたが



『行きたい……わけが……ないだろバ……バカが!!』

『すごい目が充血してるけど大丈夫?』



 未練など一切なく断ってやった。



 そしてなんとなくプラプラとそこいらを歩いていると、麗しの吸血鬼が目の前に現れた。



「何故妾にそのような面白そうな大会があることを伝えなかったんじゃ!!」

「だってお前が来ると問題がデカくなるし」



 いくらみんなが強くなったとはいえ、さすがに終盤の最強キャラ相手じゃ勝負になるかどうか。



「いや……案外いけるのか?」

「のう、妾は退屈で死にそうなんじゃ。このままではゲリラ参加で大会を壊してしまう」



 カーラは凶器ともいえるその輝く瞳を潤わせ



「どうにか妾を参加させてくれないじゃろうか」



 懇願する。



「……はぁ、しょうがない。大会を壊される方が最悪だからな」



 リーファの話は既に通っているが、カーラもねじ込めるだろうか?



 同じ亜人という点で考えれば……



 念のためにサブプランまで用意しようと思考を巡らせる。



 するとカーラは何かを思い出したかのように



「ところで、お主は大会に出るのか?」

「ん?いや、俺様も出るが、一回戦で負けるつもりだ。前回は色々あったが、元々俺様はああいうのは好きじゃない」

「む、それは些か不満じゃ。お主が出ないとなると……」



 カーラが何か考え事を始める。



 別に俺がいなくてもいいだろうに。



 そんなに気に入られることをした記憶はないが



「そうじゃ。良いことを思いついた」



 カーラは楽しげに



「賭けをしよう」

「賭け?」

「お主のチップは妾の出場を取り決めること。妾のチップはとある情報」

「とある情報?」



 正直カーラの言葉の信憑性ってそんな高くないが……いや、ここまで言うのだからかなるのものなのだろう。



「いいだろう。それで?賭けの内容は?」

「お主が準決勝までいけるかどうかじゃ」



 準決勝?



「いやいや、お前に当たった時点で負け確なのにそりゃないだろ」

「実力も運の内じゃ。先の見えている勝負を賭けとは呼べんからの」



 そもそも出場する選手はヒロイン達という最強格だけでなく、学園の生徒多数。



 俺の力の大部分はルシフェルからの借り物であり、長期戦には向いていない。



 そんな中で準決勝まで上がることは相当困難であろう。



「勝率1%もないだろこんなん。賭けになんてなるか」

「倍率が高い賭けというのは総じて景品も豪華じゃ」

「俺様が金銀財宝で目が眩むような」

「妾を賭ける」

「……何?」



 今、なんて言ったんだ?



「聞き間違いか?」

「耳が悪いの、昔からそうなのか?」

「そんなわけないだろ」

「まぁよい。もう一度言おう。お主が準決勝まで行けば妾がお主の物になる」

「……」



 俺は生唾を飲んだ。



「う、うううううう頷くわけにはいかないな。俺様は何を出すのかまだ決まっていないのだから!!」

「物凄いスピードでヘドバンかましておるが、そうじゃな。もしお主が途中で敗退した場合は」



 カーラは微笑を浮かべ



「負けた相手に告白する、でどうじゃ?」

「な、なんだそりゃ」



 まるで学生のする罰ゲームかのような内容。



 正直拍子抜けというかなんというか



「それくらいでいいならいいが……」

「決まったの。いちいち大掛かりな契約を結ぶのも面倒じゃの。ほれ、手を出せ」

「手?」



 俺はわけも分からずに右手を前に出す。



 そして



 カプリ



「うむ、お主中々……いや、かなり美味じゃの」

「で、でへへ」

「なんじゃ急に気持ちの悪い顔をして」



 ちょっと唇触れちゃった。



 もう死んでもいいや。



「さて、お主に呪いをかけた」

「へ?」

「先程の条件を達成しなかった場合、勝手に命令に従うものじゃ」

「マジかよ」



 幸せには対価が必要なのか。



「妾は約束は守る女じゃ。それじゃあ大会楽しみにしておるの」

「結局情報ってなんなんだ?」

「ああ。それはだな」



 カーラは何気ないように一言告げる。



「……やっぱりか」

「ふわぁ……眠い。妾はもう少し寝る。じゃあの」



 そう言ってカーラはプカプカと空に飛んでいった。



「解くか?」

「いや、いい。カーラは確かに約束は守る。もし本当にカーラを好きにできるなら」



 あんなことはこんなことを



「手すら出せないくせにイキるのは良くないぞ」

「う、うるさい!!」



 少なくともカーラの横暴を今後抑制できると考えれば、かなりの得だ。



「なんとしても勝つぞ、今回の大会」



 こうして月日はあっという間に当日を迎えるので合った。

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