第142話

 全身ボロボロだった体が治った。



 見た目だけでは分からないが、体感してる身としては幻肢痛に耐えるのは少し大変なものがある。



 それに、これから先のことを考えると特にな。



「夏休みの間に様々なことが起きました。ですが、学園はいつも通りに進んでいきます。そんなわけで、皆さんご存知の大会が行われます」



 教師が黒板に文字を書く



「武闘大会、頑張って下さい」



 ◇◆◇◆



「桜とアルスは今日も休みか」



 俺は外を覗きながらポツリと言葉を溢す。



 真がいなくなってから、二人と連絡が取れない。



 真を探しているのだと思われるが少し心配だ。



「あいつがいないと、膝の上が軽くて仕方なーー」

「武闘大会、そういえばアクトと学生として出会ったのもこの行事でしたね」

「……降りろソフィア」

「色々調べてみましたが、どうやら記憶のない間に私はマーリン家の当主になっていたようです」

「話聞こか?」



 最近みんな俺の話聞いてる?……いや、結構最初から話聞いてないな。



「現在、最も権力を持つ王家、そして貴族が全て若輩でのみ構成される歴史的な事態が起きているわけですね」

「……なるほど、そうなってくると早々に二人を連れ戻す必要があるな」

「理解が早くて助かります」



 つまり、今の国は期待と不安が入り混じっている状態だ。



 そんな中で開催される武闘大会は、かなり注目を浴びるだろう。



 ここで力を示し、今後の国が安泰だと知らしめることが出来れば物事が良い方向に進んでいけるだろう。



 そして前回優勝者のアルス、そしてなんかどこまで強くなるの?みたいな桜。



 その二人が大会に参加しないとなると、盛り上がりが大いに欠けてしまう。



 その事態は出来るだけ避けたい。



 今後の未来を背負い続ける彼女達に不安の種は残さないでおきたい。



「残念ながら私はお二人との友好的な関係は築けていません。出来ればアクトにお願いしたいのですが」

「……」



 ここで俺は直ぐに首を縦に振ろうとした。



 だが、俺はアクトグレイスだ。



 ここで二つ返事をするような人間じゃない。



 少し、気を緩めすぎだな。



「悪いが」

「その役目は私が果たそう」

「あ……」



 そこに立っていたのは



「久しぶりだな、アクト」

「ユーリ……」

「どうしたんです?」

「全く……ソフィアだな。いきなりこちらのクラスに来たのは驚いたが、私は同じクラスのユーリペンドラゴだ。よろしくな」

「はい、こちらこそ」



 二人は短い握手を交わす。



 ちなみにソフィアは膝の上に乗ったままだ。



「桜とアルスの件は私に任せてくれ。なんとなくだが、居場所は分かってる。それに桜は賢い。時が来たら自分の足で戻ってくるだろう」



 それってもう片方がバカってことか?



 俺怒っちゃうぞ?



「突然アクトが喋らなくなりましたが、どうしたのでしょう」

「照れてるんだ。あの日以降、アクトはずっとこんな感じだ」

「あの日……とは具体的になんのことでしょう?」

「ん?ああ。少し照れくさいが、アクトが私にキ」

「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」



 怪鳥のような鳴き声を上げる。



「ユーリ!!久しぶりだな!!相変わらず偉そうな口ぶりで俺様に話かけてくるとはいい度胸だな!!」

「ふむ、なんだかそんなアクトも懐かしいものだ。あの時はあんなに優しい言葉をかけ」

「おま!!マジ!!マジふざけんなマジ!!」

「アクトの語彙力が死んでいます。分かりやすく焦っていますね」



 あぁもう死にたい!!



 ホントになんであの時俺はあんなことを



「どうしたアクト。私の顔に何かついてるか?」



 ユーリはわざとらしく唇に指をそっと当てる。



 わざとだ。



 ユーリ、あんなに塩らしかった君がいつの間に魔性の女になっちまったんだ。



「何やら深い関係のようですね。私とは一線を隠す距離感です」

「やめろ。それだとまるで俺とユーリの関係が」



『ちなみに、抑止力さんとソフィアの関係も目の前の子と同じで一線超えてますけどね!!アハハ』



 !!!!



「な……んだ……と……」

「どうしたんですか?」



 ソフィアには今の声が聞こえていなかったのか、コテンと首を傾げながら後ろに振り向く。



 すると自然と、そのピンク色の唇が目に入り



「……殺せ」

「また持病か」

「アクトは時々こうなりますよね」



 なんか既に二人が仲良くなり始めているが、俺は既にこの二人と体の関係にある(過言)。



 なんだかやってはいけないことをしている気分だ。



「今更だぞ」



 誰かの少し怒った声が聞こえた気がした。



「やはり、記憶は思い出してはいけない」



 改めて決意を固くする。



 どうにかエムリルのことだけをピンポイントで解明し、残りは全て抹消しよう。



 それが皆の幸せのためだ。



「とりあえず……二人のことはユーリに任せるか」

「随分と信用していますね」

「任せてアクトく……任された」



 そしてユーリはどこかへと向かった。



「今度、アクトのお話を聞いてみたいものですね」

「誰が喋」



『俺はみんなが好きだ。だからソフィア、俺は君と』



「……ったことが……ある……のか?」

「なんでしょう今の感覚。まるで知らない絵のパズルが一つ埋まったような……」



 記憶が、少し戻った。



「これは……もう少し調べる必要がありそうですね」

「だな」



 やっとソフィアは俺の膝から降り



「それではまた明日」



 教室を後にした。



「モテモテですね、お兄様」

「覗きとは趣味が悪いな」

「では盗聴と盗難は大丈夫でしょうか?」



 よく分からないが



「悪いと思うからやめろよ」



 少し寒気が走った。



「どうでしたか?久方ぶりの学園は」

「特にどうも。俺様にとってはただの暇潰しだ」

「私も同じ気持ちです。お兄様と私の大切な時間を減らす学園は今すぐ消した方がいい。そうですよね?」

「違うよ?」



 何故そんな野蛮な考えを俺と同じにした。



 てか怖いよ。



「冗談です」

「好きだな、最近そういうの」

「そんな、私のこと大好きだなんて」

「もういいや。可愛いし」



 この子は手遅れなのだろう色々と。



 そこが可愛くもあるのだがな。



「さて、それでは行きましょうか」



 リアは俺の横に立つ。



「お姉様の元に」



 ◇◆◇◆



「おいリア、声かけてこい」

「お、お兄様からどうぞ」



 そこには明らかに意気消沈しているリーファの姿があった。



「惨めだよね。真がいなくなったことにも気づかず、桜とアルスに置いてかれた私を笑ってよ」



 笑えなかった。



 人一番自由奔放な俺とリアが、どう言葉をかけようか迷う程度にはリーファから出る負のオーラは凄まじいものだった。



「きっと桜さんもアルスさんもお姉様に気を遣ったのですよ。お姉様も居なくなってしまえばお店が大変なことになりますから」

「でもせめて一言くらい教えてくれてもよかったんじゃない?確かに納得はできないだろうけど、それでも友達なら……へへ……友達だと思ってたのは私だけだったのかな……」

「お兄様……」



 リアまで泣き目になり俺に助けを求める。



 俺にどうしろと?



 イケメンボイスでも囁けばいいのか?



「まぁなんだ。お前が凹もうが項垂うなだれようと俺様にとってはどうでもいいが」



 俺は吐き捨てるように



「お前にはあいつらがそんな薄情な人間に見えたのか?」



 二人がポカンと口を開ける。



「……ううん、そんなことない。桜も、アルスも、そして真だって私の大切な友達」



 リーファは立ちあがり



「やっぱり何も伝えなかったのは許せないけど……でも、落ち込んでてても何も始まらないよね!!」



 フンスと荒い鼻息を立てるリーファ。



「なんだか、励まされちゃったね」

「そんなつもりはない。お前が勝手に立ち直っただけだ」

「お兄様素敵!!」



 やれやれ、またしても好感度を上げてしまったな(涙目)。



「それにしても二人はどうしてここに?お姉ちゃんに会いたくなっちゃった?」

「こいつはネガティブなのかポジティブなのかどっちなんだ」

「無駄な場所で自信満々な所はお兄様そっくりです」

「あ?」

「そんなお二人が私は大好きです」

「「好きぃ」」



 は!!



 顔がニヤけてしまった。



 おいリーファなんだその顔は。



 美人が台無しだぞ。



「ねぇアクト、私達の妹可愛い過ぎない?」

「俺様は違うが、世間一般の目線から考えると、メチャクチャ可愛いことが分かる」



 俺とリーファは自然と拳をぶつけていた。



「仲良しですね」

「「そんなことはない!!」」

「少し妬いてしまいますね」



 このままでは完全にリアのペースに持ってかれる。



 早めに本題に入ろう。



「さて、さっきの質問を返してやる」

「うん」



 俺とリアはアイコンタクトを交わし



「今回の武闘大会に出ろ、リーファ」

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