第144話

 腰に携えるは慣れ親しんだ剣。



 魔力効率がよく、一般人が持っても岩すら切れる代物だ。



 早朝から軽く運動をし、何度か剣を振るう。



 流れる汗が、俺の中の邪気を洗い流してくれるようである。



「今日は、天気が良いな」



 どっかの誰かさんに教わった天気の良し悪し。



 本日は晴天なり。



「お疲れ様です、アクト様」



 使用人はタオルを手渡す。



 俺はそれを無言で受け取る。



「なんだその顔は」

「いえ……」

「言え」

「はい。まさかあのアクト様が鍛錬をなさる日が来るとは思ってもおらず」

「ふん、余計なお世話だ。失せろ」



 俺はタオルを投げ飛ばし、服を着る。



「お気をつけて」

「誰に物を言ってる」



 俺は制服を着



「俺様はアクトグレイスだぞ?」



 昔のように自然と笑った。



 ◇◆◇◆



「遂に始まりました、武闘大会ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」



 会場から大歓声が起きる。



 巨大な学園の施設の一つ、まるでコロッセオのような巨大なドーム状の場所に大量の人間が席を埋めている。



「始まったか」



 俺は学園の屋上から舞台を眺める。



 別にカッコつけているわけではなく、俺があの場に行くと少々面倒だからだ。



 だが、ここからでもその熱気は十二分に伝わってくる。



 この日は学生にとっては祭りであり、そして挑戦でもある。



 誰も彼もがその胸の内に大きな闘志を燃やしているのだ。



「本日の実況を担当させていただきます、一年C組のキナコと申します。どうぞよろしくお願い致します」



 会場中から拍手が鳴り響く。



「なんだ実況って。聞いてないぞ」

「説明しましょう」



 横を見ると、鍵をかけていたはずのドアが破壊され、黒髪の美少女が立っていた。



「いつからここにいた」

「私はお兄様のいる場所どこにでもいますよ?」



 ニコリと微笑むリア。



 そうやって可愛さの暴力で屈服させようとするのズルくない?



 毎度効く俺もどうかと思うけど。



「それで?」

「はい。今までの大会はあくまで学生の行事であり、規則正しく礼節にが基本でした。ですが、此度は学生どころか国中の視線が集まるここは、学園という枠組みを超え、一種の祭りと化しました」

「なるほど」

「その結果、映像によって国中のリアルタイムで放送されることが決定し、実況までついてしまう事態にまで発展しました」

「理解はした」



 だが、納得はしていない。



「この映像が他国に情報が売られないといいがな」

「そこは致し方ありません。むしろ、抑止力になる映像を見せつければ良いのでは?とユーリさんはおっしゃっていました」

「さすがだな」



 相変わらず戦闘力という面では誇りを持っている様子だ。



 本来なら多芸なのだが、その部分は謙虚であるところもある意味彼女らしい。



「そして今回お越し頂いた大物ゲストはこちらのお方!!」



 ゲストまでいるのかよ。



 本当にお祭り騒ぎなんーー



「なに!!」



 視界に入り込む。



「ゲストとしてお呼び頂いた聖エリカです。今日は皆さんと同じように全力で楽しんでいけたらなと思っています」

「おいおい、マジかよ」



 会場が一斉に歓喜の声を上げる。



 軽く悲鳴すら聞こえるくらいだ。



「驚くほどの人気だな」

「知名度ならお兄様も負けていませんよ?」

「光と影だろそれ」



 実況のキナコとかいうのが何度も声を上げるが、会場が落ち着くまでその声がこちらに聞こえることはなかった。



「……えー、皆さんが静かになるまでに23分かかりました。カップ麺どころの騒ぎではなかったですね」



 少し声が疲れている様子だ。



 なんか少し可哀想である。



「さすがエリカ様、その美しさと優しさは留まることを知らないようですね」

「ふふ、お世辞が上手ですね」

「いえいえ本心ですとも。こうして肩を並べるのも烏滸がましい程のお方です」



 キナコとかいう奴の言う通りなのだが



「なんか手慣れてるな」



 普通、一般人がエリカに会えば仰天して泡吹いて倒れた後に、幸せ過ぎて天国を一度見てくるはずだが



「さすがにそれはないですが、お兄様の考えている通りどこかリラックスしていますね」

「だからナチュラルに俺様の脳内を読むな」



 キナコか、一体何者なのだろうか。



「それでは早速ですが武闘大会のルールをご説明します」



 会場に大きなスクリーンが降りてくる。



 相当金かけたなあの学園長。



「武闘大会は予選と本戦の二日間かけて行われます。予選では数を減らす……ではなく、乱戦の中でも戦う力が問われます」



 ぶっちゃけたなあいつ。



「予選はポイント制で行われます。ポイントは全部で三つ、生存力、殺傷力、そしてアシスト力を試されます」



 ポイントか。



「まるでゲームみたいだな」

「見栄えを良くする為でしょう。評価が分かりやすい方が盛り上がりますからね」



 と、なると



「さっき言った三つ以外の点数も存在するな」

「私も似たようなことを考えていました」



 今回の大会は強さ、賢さ、そしておそらく



「見栄えのいい存在、持ち上げられる人間を作る目的もあるのか」

「魅せるような戦いなども重要になってきそうですね」



 今回の大会、思っていた数段上の厄介さと面白みがあるな。



「えーそれぞれのポイントの説明に入ります。まずは生存力。これは乱戦の中でもどれだけ敵を作らず、そして逃げ躱すことが出来るかを評価されます」



 これは……



「不利だな」

「お兄様はモテモテですから」

「憎悪や嫌悪をそう呼ぶのなら、お前は少し学を改める必要があるな」



 アクト並みに嫌われていては攻撃の対象になるのはまず間違いない。



 この前の武闘大会では一対一を繰り返していた為、俺への攻撃は無かったが、乱戦ともなれば間違えたという言い訳が立つ。



 その上



「……」

「そ、そんなお兄様、そのようなお顔で見つめられると照れてしまいます」



 この上なくデレデレの少女こそが今となっては俺の上の存在。



 そして皆にとってはリアは心優しい少女。



 アクトグレイスの所業を罰する人間だと思われている。



 だからこそ



「今までのようにはいかないだろうな」



 アクトは憎くもザンサの庇護下にあるお陰で誰も抵抗してこなかった。



 そんなザンサがいない今



「骨が折れるな」

「大丈夫です。お兄様ならきっと」



 なんか自然とリアが寄りかかってきたので、躱す。



「生存力は余裕そうだ」

「お兄様はいけずです」



 怒っているリアを無視し、アナウンスへと耳を傾ける。



「続いては殺傷力。これは純粋な強さを測るものです」



 純粋にしては物騒だな。



「強力な魔法で倒すもよし、磨き上げた技術で倒すもよし、不意打ち横取りトラップ。あらゆる力が試されます」



 全然純粋じゃないだろ。



「何でもありこそ、戦場においての純粋という意味では?」

「好きなように感じ取れか」



 メディア展開したからといって、変わらず本気のバトルが御所望のようだ。



「そして最後のアシスト力。これはその名の通りどれだけ支援、援護をしたかによるポイントです」



 綺麗な言葉で言うもんだな。



「間接的に複数で誰か一人を叩くプレイもありだと言いたいんだろ?」

「はい。そして、そのように客観的に見ていて気持ちの良いとは言えないプレイをされると」

「点数が下がる」



 相変わらず性格最悪だな、あの学園長。



「ルールは後ほどもう一度確認できます。本戦の内容は今はまだ秘密ですので、早速ではありますが予選のブロックを紹介したいと思いまーす」



 そして画面に現れた名前の欄を見て俺は



「おもしれー」



 少し泣きそうになった。

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