第140話

「どうしたんです?アクト」

「そういえば、今の俺様が真にあって大丈夫だろうか」



 俺達は既に昼過ぎとなった学園へと向かった。



 多分これ以上遅れると暴れる連中がいるからである。



 だがそれはそれとして、問題が山積みである。



「やっぱり別々で教室に行こう」

「嫌です」



 問題点1、ソフィア頑固過ぎ問題。



 いやここまで来ると気にする方がおかしい気がしてくるが、二人の男女が遅れて学園に来るってヤバいだろ。



 俺に変な疑いがかかるのはいいが、ソフィアにも似たような嫌疑がかけられるのはごめん被りたい。



 そして問題点2



「中の連中がヤバすぎる」



 ここで改めて俺と同じ教室のネームドキャラを紹介しよう。



 桜、ユーリ、アルス、そして今学期から実力的に問題ないという理由で同じクラスになるソフィア。



 そう、このメンツやばいのである。



 何がヤバいって……色々とだ……



 おそらく俺が教室に入ればまず間違いなく一悶着が起きる。



「嬉しいけど違うんだよ……」



 俺は世界から嫌われるアクトグレイス。



 そんな男がモテる環境なんておかしいだろ。



 いや、悪いのは俺なんだけどな。



 俺なんだけどね!!



「はぁ、憂鬱だ」



 そして最後に先程名前を出した真についてだ。



 ハッキリ言うと俺と真の仲は最悪。



 これはある意味原作通りではあるが、些か過剰に思われる。



 邪神教を俺が解決し過ぎたせいか、真はそこまで邪神教に恨みを持っていない。



 本来なら今まで上げたヒロイン達がいないわけだからな。



 そして逆に溜まったヘイトがこちらに向き過ぎて、俺はいつ刺されてもおかしくない状況である。



「観念するか」



 俺は勇気を持って学園へと足を進めた。



 ◇◆◇◆



「今日は午前までだよ、少年」

「こんにちは、学園長」



 ソフィアと共に教室に入ると、中にはキセルを持ったこの学園の長がいた。



「何をしている」

「なーに、大事な生徒が二人も遅れたと聞いて事件を疑っただけだ」

「学舎で煙をばら撒くなクソ教師が」

「おー怖い怖い。君達みたいな大きな家に圧力をかけられると私も色々と不都合が生じるんだ。仲良くしないかい?」

「お断りーー」

「学園長」



 俺の言葉を遮ってソフィアが前に出る。



「あなたのあの時の言葉、間違っていませんでした」

「……そうかい。私も、一人の生徒が希望を見出したようで何よりだよ」



 何の話だ?



「それで学園長。私達を待っていた理由はそれだけではないのですよね?」

「お察しの通り。さすがマーリン家当主だ」



 マーリン家当主?



 まさかここで欠落した記憶が響くとはな。



「今は話に乗りましょう。記憶は後々思い出せるとソピアーも言っていまし」



 ソフィアの言う通りだな。



 今は俺らの問題を周りに悟られ、混乱を起こす方が面倒である。



「話を戻そう。二人、特にアクトグレイス。君に伝えたい内容だ」



 学園長はキセルを咥え、息を吐く。



「柊真が失踪した」

「……は?」



 なんて……言ったんだ?



「つい最近、家族から連絡があったそうだ。自宅に書き置きがあり、事件性はないらしいが学生が一人でいなくなるなんて只事じゃないことは確かだ」



 学園長が何か話しているが、右から左へと流れていってしまう。



「アクト、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫だ」



 真が消えた。



 当然ながらそんなルートは一つも存在しない。



「原作ブレイクもここまで来たか」



 いよいよ俺の知識が役に立たなくなり始めてきた。



 何より



「エリカを置いてどこ行ってんだよバカが」



 俺は彼女達を救うことは出来ても、幸せにすることは出来ない。



 そして真。



 お前にはその力があるのに、たった一人しか選ばない。



 そしてその選んだ一人すら、見捨てるっていうのか。



「ぶん殴って目覚ませてやる」

「真の置き手紙にはこう書かれていたそうだ」



 真、俺はお前が嫌いだ。



 俺と違って力があるのに。



 救えるだけの状況も揃っているのに。



 これは勝手なエゴだと分かってる。



 桜の時からずっと、俺は真に八つ当たりを続けてきた。



 だが、俺のエゴは悪いが理不尽なものでな。



「アクトグレイスを倒す」



 俺は心の中で宣戦布告を受理する。



 ラスボスの主人公の定めは避けられないらしい。



 どうやら、次戦う時は



「絶対に負けねぇ」



 本当の最後になりそうだ。



 ◇◆◇◆



「本日は解散ということでよろしいでしょうか?」

「そうだな」



 こんだけ長い時間続いたはずだが、まだ昼頃なのは少し違和感だな。



 まぁあの空間が現実と同じ時間軸とも思えないしな。



「多忙でしたね」

「ああ。お前のことを忘れ続けると考えたら恐ろしい話だな」

「……照れますね」

「あ、いや、そういう意味じゃ!!」

「……」

「……」



 なんだこの空気!!



 まるで付き合いたてのカップルみたいな空気はなんだ!!



「記憶は消えても思いは消えない。ソピアーはそう言っていましたね」



 つまり、俺とソフィアのこの気まずい関係に発展するまでの何かが起きた。



 そして記憶によって蓋をされた何かを思い出せば、俺とソフィアの関係は一気に前進するだろう。



 それだけは避けないと。



 最近はフリにしか聞こえなくなってきたが、俺は毎回本気で言っているからな。



「思い出すのはエムリルがどうなったかだ。俺とお前に関する記憶は無かったことにする。いいな!!」

「アクトは頑固ですね。いくら記憶が戻ったところで、私とアクトは友人のままに決まってるじゃないですか」

「どうしてそうやってフラグを立てる!!」



 なんなのこの子!!



 頭いいのにバカなのか!!



 そしてそんな軽口に全力で乗っかる自分も嫌になる。



 思いまでは消せない。



 俺は完全にソフィアに心を許した何かがあったということだ。



「思い出したくないな」



 これ以上この世界に止まれば、俺はもう去れなくなってしまう。



 俺がまだ、俺でいられる内に殺して欲しいものだ。



「解散だ。エムリルの件は俺様が調べておく。お前はとりあえず変化した周りについて調べておけ」

「分かりました」



 俺は家へと向かう道を歩く。



 これ以上ソフィアと話していたら本格的にダメそうだ。



 だが



「アクト」



 メインヒロインを飾る彼女が



「また明日」



 一筋縄でいくはずがなかった。



「ああ、また明日だ」



 ◇◆◇◆



「お兄様ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 家に帰ると、新幹線も驚きの速度で突進してきたリアをいなす。



 昔ならリアの抱きつきに動揺して反応が遅れた俺だが、気持ちよりも先に体が動くよう訓練されたようだ。



「二段階攻撃は聞いてない」

「お帰りなさい、お兄様」



 俺の腰に抱きついたリア。



 本当に可愛くて仕方ないよ。



「またお怪我をされていますね」

「だからなんで分かるんだよ」



 俺の体は傷を負ってもすぐ修復されるが、治ったわけではない。



 血も減るし、胃とかに穴が開けば飯も食えなくなる。



 だから体を後から治す必要がある。



「エリカ様の元に行って下さい」

「言われずともそのつも……なぁリア」

「はい、なんでしょうか?」

「真とかいう男の話聞いたか」

「……はい」



 そっと離れるリア。



「殺しましょう」

「おい」

「お兄様に喧嘩を売ったのは万死に値します。殺しましょう」

「俺様の知ってるリアはもういないようだ」



 頼む。



 優しいリアを返してくれ神様。



「冗談ではありますが」



 リアの顔が一瞬曇る。



「お兄様のことを何も知らないくせに」



 珍しく怒っているようだ。



 アクトの為に怒るなんて半年前の俺に言っても信じないだろうな。



「お兄様?」

「あ」



 何故かルシフェルにするように、いつの間にかリアの頭に手を置いていた。



「いや、これは」

「ありがとうございます。少し……焦っていたかもです」



 リアは自分を罰するように笑う。



「真さんは友人でした。そして、愛するお兄様と真さんの仲を取り持つのも私の仕事だったはずです」

「リア……」

「本当に……情け無い妹で申し訳ございません」



 心の底からの謝罪をするリア。



 もし、彼女が俺の手を頬擦りしていなければ抱き締めていたところだ。



 こうして学園生活の始まりは、怒涛の展開で幕を開けたのだった。



 救済√6



 ソフィア マーリン



 完

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