第139話

「あの、プロパンさんが死にかけてますけど大丈夫なんですか?」

「もちろんですよ!!あれでも一応私の父親ですし、神に死ぬとかの概念はありませんですしおすし!!」

「いや死ぬから。神も普通に死ぬから……」



 先程までのシリアスな雰囲気が一気にぶち壊される。



 バトル系から日常系アニメに移ったみたいだ。



「なぁ、俺様もう帰っていいか?」

「もう少しお待ち下さい。今抑止力さんに帰られると私達全員皆殺しにされますので〜」

「死ぬんじゃねぇか」



 なんだコイツ。



 神の割にノリが軽いし



「いや、前例の邪神がいるからなんとも言えないか」

「どういうことだぞ!!」



 それになんか



「ソフィアと似てる?」

「そうでしょうか?」

「いや、なんとなくだけど」



 髪色も同じ茶髪だし、好奇心が刺激された時のソフィアとどこか今の姿は似ている。



 ただ胸の大きさは同じどころかむしろ



「フン!!」

「アイッテェエエエエエエエ!!」

「抑止力さん、女性のコンプレックスの部分をジロジロ見るのはいただけませんよ?」

「前言撤回だ。お前とソフィアは一ミリも似てねぇ」



 ソフィアはこんな凶暴じゃない。



「さて、さすがに父に死なれるのは困りますので、早速始めますか」



 ソピアーと名乗った神は何かを設置し終え、そして



「それではご唱和下さい。今、世界の法則が変わる瞬間です」



 そしてソピアーが指パッチンをする。



 すると



「……何も起きないじゃないか」

「いえ、そうでもありませんよ」



 ソフィアが何か手渡す。



「眼鏡?」

「はい。電子機器を扱う際にはこれを開けています。ついでに色んな機能をつけていまして、簡易的な魔力の流れを見ることが出来ます」

「お前それって結構凄いことなんじゃ……」

「量産出来なければ同じですよ。それよりどうぞ」



 ソフィアに促されるように眼鏡をつけると



「これは」

「何かから魔力を吸い出し、それがプロパンさんへと流れていっています」



 徐々に流れていく魔力が、死にかけの神の体に吸収され、消えかかっていた体を修復していく。



「何をしているのでしょうか?」

「世界のルール、つまりは知っちゃいけないことの一部を無理矢理剥がしてる感じかな?」

「雑にヤバいこと語るあたり同じだな」



 やっぱり少し似てるかもな。



 同じ研究者だからか?



「それはどのような仕組みで?」

「それも教えちゃタブー。そもそも世界の法則を塗り替えること自体全然いけないんだけどね」

「じゃあお前死ぬのか?」

「いえいえ、私は生きますとも。何故なら唯一世界の法則から外れたこの子の中に棲むんではい」

「なるほど、話が見えてきました」

「俺様はどんどん分からなくなる」



 ソフィアとソピアーは何故か通じ合ってるようだが、確実にこの中で頭の良さが下から二番目の俺は理解が追いつかない。



「ルシフェルどういう状況か分かるか?」

「我は赤ちゃんだから分からないぞ」

「さすがだな」



 だがバカ同士で結託したところで先に進むわけじゃない。



「おい、どういう意味か分かりやすく教えろ」

「思考の放棄ですね」

「アクトなら考えれば分かると思いますよ?」



 なんだコイツら。



「考えを止めることは学ぶ者として失格ですよ抑止力さん。だから今まで計画的に物事が進んだ試しがないんですよ」

「グッ!!テメェどこまで知って」

「知りませんよ私は。ただ予想しただけです。それより、仕組みは分からずとも何が起きているかくらい分かりますよね?」

「喧嘩売ってんのかクソ神」



 しょうがない。



 バトル系から頭脳戦に切り替えるか。



「まぁ簡単だな確かに。お前の言った世界の法則からソフィアを除外する。そうすればソフィアを排除しようとする世界の仕組みもなくなり、俺様との対立もなくなる。その上おそらく世界レベルでソフィアという存在を消そうとしたその神の魔力も戻ってくる。そして禁忌を犯したお前は、世界から消えた存在のソフィアの中に避難する。そういう算段か?」

「さすがアクトです」

「やれば出来るのに最初からしないからですよ?だから前の人生でも上手くいかなかったんですよ?」

「チッ、お前黙れ」



 ソピアー。



 こいつ思ってる数百倍は厄介だな。



「テメェみたいな世界の異分子をソフィアの中に住まわせられるか」

「元々異分子はこの子の方ですよ?むしろ平和的に解決した私のお願いくらい聞いてくれてもいいのでは?」

「ダメだ。ソフィアを救ったことは感謝する。だがその恩でソフィアに危険が迫るなら話はなしだ」

「傲慢で強情ですね〜。ま、予想してはいたことですが」



 やっぱり天才は俺の考えなんて想定済みか。



 だが、ここでソピアーが俺を納得させるだけの情報を持ってるってなら、俺としても実はこの話はありがたい可能性がある。



「もちろんタダでとは言いません。条件はですね」



 ソピアーは笑い



「あなた方の消された記憶。つまりはこの子をアクトが救い出した夏休みの思い出の返還などはどうでしょうか?」



 予想を遥かに超えた答えを提供してきた。



 ◇◆◇◆



「おかしいとは思っていたんだ」



 俺の記憶がある日を境に思い出せなくなっていた。



 ただダラダラしてただけのようだし、もしくは忙しかったようでもある。



 どちらにせよ深く思い出せず、それに



「何故か俺様はソフィアに心を許している。それにソフィアがお前ら神々を見えること自体がおかしな話だ」

「私も何故かアクトの好感度が爆増しています。少し前までは好きって感じでしたが、今は大好きになっています」

「お前そういうことマジで……」

「甘酸っぱい展開は好きですが、まずは交渉の結果を教えて下さい」

「いやそんなの」



 取引にすらなっていない。



「ダメに決まって」

「問題ありません。私の中にお住まい下さい」

「おいソフィア!!」



 これで記憶が戻れば多分よりソフィアの好感度が上がってしまう。



 これは由々しき自体だ。



 それに



「もう過ぎだことだ。むしろ厄介事が解決したと思えば」

「アクト。嫌なことから目を背けないで下さい」

「嫌なことって、そもそもメリットが」

「メリットならある」

「もう大丈夫なんですか?プロパンさん」



 先程まで消えかかっていた神が起き上がる。



 まだ本調子ではなさそうだ。



 今なら少しおかしな挙動をすれば殺れるな。



「アクト」

「分かってる」



 ソフィアに咎められる。



「お主らの記憶は今もなお我の力で眠っている。そしてその記憶は、エムリルという人間との戦いの記憶だ」

「……まさか、まだ決着はついていないと?」

「だからこその取引だ。我も娘の命が掛かっているのでな。どうにかお願い出来ないだろうか」

「拳銃突きつけながらお願いなんて随分なご挨拶だな」

「でもそうしないと抑止力さん絶対私のこと受け入れてくれないじゃないですか」

「だってお前うざいし」

「あぁひっど〜、女の子に対する言葉じゃないですよ〜。ね、ソフィア」

「男性に対しても同じでは?」

「言われてみれば確かに。ソフィアやっぱ天才だね!!」

「ありがとうございます」



 ソフィアと会話しながらソピアーがアイコンタクトを取ってくる。



 このまま私を殺せばソフィアが悲しむぞと。



「……チッ、しゃあねぇ。だがソフィアに危険が及ぶと分かった瞬間、直ぐに殺すからな」

「さすが抑止力さん!!目の前にあるもの全部救っちゃうんですから」



 謎のダンスで喜びを表現するソピアー。



「感謝する、人間」

「俺様は俺様のためにやったんだ。お前ら神どもの事情なんて汲んでねぇよ」

「だが結果的に全てが上手く解決出来た。それだけで我らは十分なのだ」

「そうか」



 こうしてソフィア救出作戦は無事成功した。



 なんともハッピーな終わり方のようだが



「さて、それで世界が許してくれるのだろうかな」



 ◇◆◇◆



「なんだ!!めちゃくちゃ力が湧いてくる!!あの女につけられた傷もみるみる回復していく!!」



 白い髪の男は自身の傷が癒えたことに感激する。



「そ、そうか。君の力が増したから俺の体も。ありがとうルシフェル」



 男は嬉しそうに笑いかけた。

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