第138話

 また新たな扉を閉じた。



 男は右も左も、前かも後ろかも分からない道を進む。



 男には地図も、道を指し示す術もない。



 それでも迷いなく進む。



 道は見えていなくとも、目的は見えているから。



 すると自ずと扉が見えてくる。



 男は自身がゴールに近付いていると確信し、また歩みを進めた。



 神々は言う



 それは当然のことだと



 この場所に道など存在しない



 ただ、男が歩いた後ろに道が出来ているだけなのだと



 物語を紡ぐ者



 例え天変地異の力を持とうと、例えあらゆる万物を生み出す力があろうと、その者の歩みを止めることは出来ない。



 だが男は言う



 それは間違っていると



 物語の主役は自分ではないと



 主役でなくとも物語を書き記すことが出来ると



 そして男は言葉を付け加える。



 例え自身がどんな存在であろうと、例え敵がどれだけ巨大なものであろうと



 自身の大切なものを傷つけるものは



「俺様が全部壊してやんよ」



 扉をぶち破る。



 攫われたヒロインを助ける仕事は本来ヒーローの役目の筈だが、奴らは遅れて登場しないと気がすまないらしい。



 だからこうして敵陣に突っ込み暴れることの出来るのは



「悪役の役目だよなぁ!!」

「違うと思います」



 ……え?



「今時のヒーローならそういった方もいるのでは?」

「おいソフィア。今空気読みの時間だから。大事な場面でマジレスしないでくれる?」

「我もそう思うな。お主の中でそう言ったイメージがあるのかもしれないが、今時の悪役やヒーローの多様性は広いものだ」

「同意見です。見方を変えればあらゆる物事が正義にも悪にも変わります。誰かを助けるシーンには胸が打たれますが、それによってより多くの人間が傷つくのなら、はたしてそれは正義と言えるのでしょうか?」

「だから人は折り合いをつける。自身の価値観と他人の基準を物差しにし、それ以外は悪と断ずる。それが簡単であり、そして正義であると信じて疑わないから」

「それではアクト」

「お主は本当に」

「「悪と言えるのか(でしょうか)」」



 なんか部屋に入ると突然謎の自論を語られた。



 その場のノリでなんとなく登場しただけなんだけどな。



 てか



「今そう言う展開じゃないよな?」



 おかしい。



 俺ってソフィアを助けに来たんだよな?



 なんでどうでもいい部分で責められないといけないんだ?



「ふん、私は助けてくれなんて一度も頼んでませんからね」



 そして追い討ちとばかりに何故か似合わないツンデレを発揮し出すソフィア。



「でも嬉しいのは本当なんですから勘違いしないで下さい」

「そうだ人間。神であろうと人間だろうと女心は難しいものだ」

「知らねぇよ」



 なんでこいつら仲良さげなんだ。



 俺が場違いみたいじゃないか。



「それではアクト、用が済んだなら帰って下さい」

「はぁ、帰るならお前も連れてだソフィア。拘束でもされてると思ってたが、自由そうだしこのまま帰るぞ」

「いいえ、それは出来ません」



 ソフィアは断固として拒否する。



「……随分とそいつに入れ込んでいるようだが、なんだ惚れたか?ガフッ!!」

「何故あれは血を吐いたんだ?」

「アクトはいつもああですよ。……残念ながら、既に私には心に決めた人がいるのでそれは違います」

「ガフッ!!!!」

「何してもダメージ食らってるが大丈夫か?」

「問題ありません愛嬌です。可愛いですよね」

「お主らの関係がよく分からん」



 なんか楽しそうにゴチャゴチャと話しているところ申し訳ないが



「悪いがお前らがどんな事情を抱えているが知らんがソフィアは連れ帰らせてもらう」

「独占欲の強い男は嫌われますよ?ちなみに私は好きです」

「なら問題ないな」

「しまった!!」

「人間は愚かだな」



 俺が剣を抜けば、神もまた構える。



 そして



「ソフィア、何故俺様に剣を向ける」

「事情はお話出来ませんが、アクトお願いです。手を引いて下さい」



 さて、ある意味予想通りの展開だな。



「ソフィア、お前はそいつに唆されているだけだ。正気に戻れ」

「いいえ、私は私自身の判断でこうすべきと思っています」



 クソ!!



「ソフィアに何をしたテメェ!!」

「何もしていない。我はただ真実のみを伝えた。我らはお主に敵対したくはない。だからこそ、彼女には知識以外の一切を伝えていないことを魂に誓おう」

「そんなもの信じられるわけ」

「アクト、多分本当だぞ」

「な!!ルシフェルお前まで!!」

「アクト、最後にもう一度お願いします。私のことは諦めて下さい」



 ……ふぅ



 落ち着け。



 そうだ、冷静になれ。



 少し考えれば分かるはずだ。



「仮にだが、神、お前の言ってることが真実だとしよう」

「我は嘘を語らない」

「そうか。なら一つだけ答えろ」



 俺はもう一度剣に手をかけ



「お前らの計画にソフィアが傷つく可能性は0か?」

「……限りなく、低いが0ではーー」

「なら」



 俺の答えは決まっている。



「そこを退け、神」

「悪いが死んでくれ、人間」



 そして最終決戦が始まった。



 ◇◆◇◆



 <sideソフィア>



 入り込む隙なんてありませんでした。



 ただでさえ戦闘能力の低い私ですが、それでも三代貴族の一員。



 後方支援の分野で言えばそれなりの活躍を出来ると踏んでいましたが



「どうした人間、我らを倒すのではなかったのか」

「チッ、調子乗んなよ」



 右、かと思えばいつの間にか左に、視線を向けると直ぐに見失ってしまう。



 ただでさえ地面すら認識出来ないこの空間で何故二人は自由に動けるのでしょうか。



 ですが運の良いことに、プロパンさんの戦闘力はあのアーサーペンドラゴ以上。



 これならば



「さっさと死ねよオラ!!」

「……」

「あ?お前もしかして」

「戦いに集中せねば死ぬのはお主だぞ、人間」

「……あぁ、そうだな」



 一度アクトの剣がプロパンさんを貫きましたが、直ぐに再生した。



 それ以上アクトは先程から何度も攻撃を食らっていますが傷は見当たらない。



 不死身VS不死身



 そう思えてしまう光景がそこにはあった。



 永遠と続く



 そう思った次の瞬間



「プロパンさん!!」

「……さすがだな」

「ハァハァ、立てよ。テメェがその程度じゃないことは知ってんだよ」

「いや、我の力はもう殆ど残っていない」



 プロパンさんは座る。



 それは諦めであり、そして大きな決断だった。



「我はお主の記憶を操作する為に多大な魔力を消費した。まぁ、結局無駄だったようだが」

「……その魔力でソフィアの記憶を消せばよかったんじゃないか?」

「無理な話だ。彼女の能力は話すことでより理解した。彼女なら記憶を消したところでまた真実に辿り着く。そして二度とその領域にたどり着けないまで彼女を操作すれば、結局我らはお主に滅ぼされる」

「だから消去法で俺様ってわけか」

「ああ。お主は自身のことに関しては無関心……というより向き合っていないからな。だからこそ、その唯一とも言える弱点を突いた」

「……ま、どうでもいいことだ。お前を殺せば俺様の問題は全部解決だ。なら」



 アクトがプロパンさんの首に剣をかける。



 神は魔力体でここに来ていると言っていた。



 だからプロパンさんもこれで死ぬわけじゃ



「死ね」



 わけじゃ……



「ダメ!!」



 私の首に冷たい感触が伝わる。



「何してるソフィア!!危ないだろ!!」

「アクト、やり過ぎです」

「……お前が言うならそれでいい。だが、結果は変わらないぞ」

「分かってます。それでも、それは違うと思います」



 アクトは少し迷いながら、その優しい手を後ろに下げた。



 自分一人で全てを抱え込もうとする彼の重石を、ほんの少しだけ背負い込むことが出来た。



「……プロパンさん。何故最初から言ってくれなかったんですか?」

「やはり賢いな。だが、賢すぎるのは見え過ぎてしまう。きっと今までも辛い体験を数多くして来たのだろう」



 プロパンさんの姿が薄くなり始める。



 終わりが近いのだ。



「我は魔力を使い過ぎた。だからこうして本体で無理矢理この世界に来たわけだが、すり減る命がこうして何か役に立ったことが誇らしく思う」

「……プロパンさんは本当に立派でした。全ての神に、娘さんに、そして元凶である私の為にも……短い間でしたが、ありがとうございました」



 涙は出ませんでした。



 プロパンさんは良い神でしたが、長い付き合いがあったわけではない。



 ですが



「悲しいですね」

「また会える。我らの魂が消えぬ限り」



 そしてプロパンさんの姿は透明になっていき、そして



「はい出来ましたぁあああああああああああああ」

「「!!!!」」



 だ、誰!!



「誰だお前は!!」

「むむ、その姿は抑止力さんじゃありませんか!!どうもこれはこれは、これつまらないものですが」



 突然現れた女性?は何かをアクトに渡し、こちらに歩いて来る。



「初めまして、ソフィアで合ってる?」

「あ、はい。そうですが……あなたは?」

「ん?私が誰か?しょうがない答えてあげましょうか!!」



 女性は謎の決めポーズをし



「我が名はソピアー、自称天才の神様とは私のことだぜ!!」

「そして……我の娘だ」



 こうしてドヤ顔で自己紹介をした神様は



「では早速、世界の法則を塗り替えますか」



 色んな意味で衝撃的であった。

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