ヒロインの日常 桜編

 ピピピピ



「……むにゃ」



 ピピピピ ピピピピ



「もー、ちゃんと起きてるってばー」



 ピピピピ ピピ起きろや



「ふわぁ〜」



 目覚まし時計を止め、カーテンを開けると朝の日差しが部屋に行き届く。



「う〜ん、気持ち〜」



 ポカポカとした空気が部屋に満ちる。



「なわけあるかい!!」



 暑いわ!!



「うへぇ、夏ってなんでこんなに暑いんだろ」



 ベットから起き上がり一回に降りていく。



 とりあえず起きたら水を飲むようにしている。



 これで私も健康まっしぐらだ。



「美味し〜」



 夜寝ている間に抜けた水分が身体中に染み渡る。



「む、なんかオッサン臭いな私」



 ま、誰もいないからいっか。



 だけど天気がいいのは好都合である。



 朝ご飯の間に洗濯を終わらせ、ここぞとばかりに色んなものを外に干す。



「ふぅ」



 最近は早起きが得意になり始めたため、こうして一仕事終わると非常に晴れ晴れした気持ちになる。



「でも……どうしてだろ」



 昔はこうして朝から色々動けた。



 でも、いつから起きるのが苦手になったのだっけ。



 そう確か



「真が」



 ピコン



 携帯が鳴る。



「ん?誰だろ?」



 メッセージが届いていたため開いてみる。



「あ」



 そこには



『約束覚えてる?』



 私は一気に全てを思い出す。



「今日リーファと遊ぶ約束してたんだ!!」



 どうしよ!!



 ヤバい何も準備してない!!



「えーと、財布に携帯、あとはなんかドッキリグッズでも持っていって驚ろかせよ」



 急いでるというのに準備を怠らない私はさすがといえよう。



 自画自賛になってしまうのはお恥ずかしい限りである。



「よし、今日も私可愛い」



 鏡を向き、コーデを確認する。



「あ、そうだ。返信しないと」



 なんて送ろうかな。



 忘れてましたって言ったら絶対怒るだろうし



「そうだ!!」



 こういう時は大体



「邪神教と幸福教に記憶操作されてましたっと」



 う〜ん、これ逆に絶対心配させちゃうよな〜



「ま、いっか。送っちゃえ!!」



 ポチッと



「よし!!」



 何がよしなのか分からないが、とりあえず準備は整った。



 後は



「行ってきます、お父さん」



 私は写真に向かって一言加え、家を出た。



 ◇◆◇◆



「えっと、待ち合わせはここらだけど」



 う〜ん、見つからない。



 いたら絶対簡単に見つけられるはずなのに。



「まさかリーファが何かに巻き込まれたとか?」



 メッセージを開くと、見られてはいるが返事が来ていない。



 これは確実に勘違いさせちゃったな。



「冗談です、ごめんなさい。それと心配なので返事を頂けますか。あと、この間のビリビリペンの件も許して欲しいです」



 メッセージを送る。



「うーん、しばらく暇潰しだなこれ」



 さて、どこかで優雅に佇んでみようかしら。



 そんなことを考えていると



「ちょっと君、いいかな?」

「はい、何でしょう」



 いつものか。



「アイドルとかって」

「興味ないですね」

「そ、そう?なんだか手慣れてるね」

「慣れてますので」



 こう言ったスカウトにはよく合う。



 ま!!私可愛いからね!!



「それくらい君にはオーラがあるんだ。一度体験でもいいからどうだい?」

「ですから、そういうのいいんで」

「そっか。まぁ無理強いさせるわけにもいかないし、ごめんね時間取って」

「いえいえ、こちらこそすみません」



 スカウトマンがテクテクと去っていく。



 あそこで粘るようなら一発かましていたところだが、良い人そうでよかった。



「ちょっと君」

「めんどくさいなぁ」



 もしかしてわざとやってる?



「今一人?」

「二人だよ。こっちは相棒のボウ・レイちゃん。よろしくしてね」

「え、あ、おう」



 今度はナンパかー。



 最近は一緒にいた人達が強すぎてなかったんだけどなぁ。



『名前か?ユーリペンドラゴといえば分かるか?』

『すみません、私にはお兄様という婚約者がいまして』

『折るわ』



 よく考えると私の友達個性強いなぁ。



 いや、私も人のこと言えないか?



 もしくはみんなやっぱり彼に



「ちょいちょい、話聞いてる?」

「え?何?」



 なんでこの人達まだいるんだろ。



 ボウ・レイちゃんを使えば大抵みんな逃げていくんだけど



「その……何だっけ?ボン・クレ?も一緒でいいからさ、ちょっとお茶しない?」



 うわぁ



 めんどくさいタイプだこれ。



 今のでヤバい人認定してくれないってことは、こいつの目的なんて



「それにしても体ほっそー、モデルとかしてんの?」

「スカウトくらいなら」

「やっぱし!!いやマジでスタイルいいもん。顔も可愛いし、やっぱ彼氏とかいんの?」



 ジロジロと体を見てくる。



 気持ち悪い。



「あー、彼氏いるよー」

「そりゃそうか。やっぱりその胸も彼氏に揉んでもらって大きくなったのかな?」



 キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい



 鳥肌立ってきた。



 もうぶっ飛ばそうかな?



 ん?



 そしてとある光景を見て、私はこの男に感謝することになる。



「ちょっと君」

「ん?なんすか?もしかして俺にスカウト……」

「少し俺様とお話ししようか?」

「お、お前はアーー」



 ◇◆◇◆



「行っちゃった」



 ヒラヒラと手を振り彼らを見送る。



 果たして彼がどうなるのかは知らないが、多分



「好きぃ」



 そんなことどうでもいい話なのである。



「ご、ごめん桜!!」



 そして彼と一緒に現れたリーファと合流する。



「私こそごめんね。冗談のつもりだったんだけど」

「私も……冗談とか友達っぽいこと経験なくてつい……」



 しょんぼりとしているリーファだが、少し私よりも身長が高いため、俯いた顔が見える。



 長いまつ毛は本当におとぎ話の妖精のような出立だ。



 こんな可愛い子と友達だなんて



「そうだリーファ。仲直りの握手しよ」

「分かったけど、なんで仲直りの時って握手するんだろ?」

「そんなの」



 私はリーファの優しい手に触れる。



 あ〜この笑顔可愛いー



 そして手と手が触れ



「痛い!!」

「ビリビリペンです」



 私は仕込んで置いたビリビリする謎の道具を見せる。



「な、なんでそういうことするの!!」

「なんでだろ?リーファっていじめがいがあるんだよね」

「理由になってないよ!!」

「まぁまぁ落ち着いてリーファ。仲直りの握手しよ?」

「さすがに騙されないから!!」



 まだ会ったばかりなのにリーファは既にヘトヘトである。



 なんでだろ?



「桜のせいなんですけど」

「ありゃりゃ、これは失敬」



 さすがに調子に乗りすぎたので素直に謝る。



「でもリーファが本気で心配してくれたことは嬉しかったな」

「だって……桜は私の初めての友達だし……」

「リーファ……」



 あぁもう好き。



 どうしてこんなに愛おしい存在がいるんだろう。



 よし結婚しよう。



「結婚しようリーファ」

「何だか桜ってだんだんあいつに似てきてる気がする」

「そう?」



 そんなイメージは自分ではないが



「つい目で追っちゃうからかもね」

「桜といいアルスといい、なんかホントに……」

「でもさ、私を助けるために最初に頼ったのが彼なんだね」

「!!!!」




 リーファはあたふたと慌てる。



「だ、だって!!ユーリは忙しいし!!アルスもなんか用事があるってこの前言ってたし!!だから最終的に一人しかいないって言うか……頼りになるのは確かだし……」

「うんうん、そうだねそうだね」



 全く可愛いんだから。



「本当だからね!!」

「はいはい可愛い可愛い」

「桜!!」

「さてリーファ君」



 ポコポコと怒っているリーファはさておき



「今日のデートプラン忘れたわけではあるまいな?」

「忘れたのは桜じゃない?」

「テヘペロ」



 リーファはもうツッコまないぞとため息を吐く。



 でも嬉しそうなのをお姉ちゃんは知ってるんだぞ?(年下)



「じゃあ早速行こうか」

「そうだね」



 そうして私とリーファのデートが始まるのであった。


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