第121話

「森?」



 ズルズルと地面を引きずられている俺は、地面に落ちた足跡と周りの背景に目が奪われる。



「アルグルの森なんかと一緒にするなよ。ここはフォーレスの森。何もないが平和な場所だ」

「こんだけ堂々と歩いて何も出ないならそうだろうな」



 街から大分離れ、いわば誰の手も施されていない土地だからだろうか、どこか閑散とした雰囲気で落ち着く。



「気に入ったか?」

「虫が多そうだ」

「安心しろアクト。痒み止めは持って来てる」



 ついでにと色々と準備しているユーリの浮かれた姿に俺も微笑ましい気持ちになる。



「俺の娘は可愛いだろ!!」

「ケッ。いくら可愛がろうとペンドラゴとしてふさわしく無ければ追い出そうとしてた奴の言う台詞かよ」



 先程まで元気だった二人が口を閉じる。



 失言だったのは認めるが、俺を連れてきたということはそういうことだと自覚してもらおう。



「その通りだな。どれだけ愛してると、大事にしてると口ずさみながらも、結局それは上っ面の言葉でしかないのかもしれない」



 ズキッ



 ???????



「そ、そんな!!お父様はただ当主としてーー」

「それでも、俺は彼女を家から出したのは事実だ」



 うーむ。



 俺の本来の意味はユーリを追い出したことにあるのだが、その前に謎のペンドラゴ事件が起きたせいで有耶無耶になったのか。



「あいつは優しかった。強く、美しい。だからこそ、俺という小さな器に収まるべきではなかった」

「強い?ならペンドラゴから追い出されるなんてことはなかっただろ」

「だから言っただろ」



 アーサーは嬉しそうに、そして悲しそうに



「優しすぎたんだ」



 事情は分からないが、それ以上は聞かないことにした。



「それにしても何故わざわざ俺様を連れて行く。お前のことなんてどうでもいいが、少なくとも親子再会の場を汚すような奴だと思ってなかったんだがな」

「それなら俺のことを高く見過ぎだな。感動シーンを面白おかしく笑える場に変えるのが俺のモットーだ」

「お父様なりの気遣いなのだろう」

「……チッ!!」



 あくまで真実は言わない気か。



「娘は頼んだぜ」



 アーサーは笑顔で俺にそう言った。



 ◇◆◇◆



 奥に進めば進む程、何故か木々が整いまるでそういう施設に来たようだ。



「そろそろだ」



 アーサーの言葉に同調するように、どこかから小鳥の鳴き声が聞こえる。



 そして



「ん?どうやら留守のようだな」

「これがお母様の住んでいる?」

「ああ」



 そこにはポツンと小さな家が建っていた。



 ゲームなら確実に重要そうなアイテムが落ちてそうな雰囲気だが



「絶対何かあるな」



 運良くこの世界はゲームだった。



 ゲームでこんな場所は登場しなかったが、それでも隠された裏設定やボツになった案などがあるはず。



 そう思わせる程に、ここには何かがあると確信出来た。



「帰って来るまで待つのもいいが、立ってるのも忍びない。中に入るか」

「いいんでしょうか?」

「これでも家族だ。例え離れ離れになっても、俺達の間に遠慮や我慢なんて必要ないんだ」

「お父様……」

「いや俺様は家族じゃないけど」

「そうですね、家に帰るのに遠慮する必要なんてありませんね」

「その通りだ」

「俺様家族じゃないですけど!!」



 なんでちょっと感動的な雰囲気出してんだよ!!



 俺場違いなの気付け!!



 アーサーは軽くコンコンと扉を叩き



「入るぞー」



 傷一つないドアを開けた。



「わぁ」

「相変わらず綺麗にしてるな」



 中は西洋よりの世界観に反し、どこか和風な趣で

あった。



 例えるとするならば旅館とかだろうか。



「素敵な部屋ですね」

「ああ。彼女の希望で作った家なんだ」



 玄関で靴を脱ぎ



「アクトの靴何だか安物だな」

「いいだろ別に」

「……昔のアクトでは考えられないと思ってな」



 正確には靴を脱がされ、家の中だというのにまだ引き摺られている。



「そろそろ離せ」

「そうすると逃げるだろ?」

「さすがにここまで来たら帰るのがめんどくせぇよ。それに」

「それに何だ」

「……少し気になったことがある」

「よく分からんが、そこまで言うなら離してやる」



 誘拐犯のくせになんで上から目線なんだよ。



 やっと解放される。



 引き摺られてる最中は地面に薄く魔法を展開していた為汚れてはいない。



 つくづく魔法というものの便利さを痛感するな。



「だがこんな場所で生活出来てるのか?」

「別に彼女は街に出ないわけじゃない。とある場所に買った食材を彼女が持っていくんだ。後は水魔法や火魔法で生活してるらしい」



 なんか動物達が運んでくれるみたいなメルヘンなものと思っていたが、意外と現実的な回答だったな。



「まぁどうでもいいか。他にはなんかないのか?ペンドラゴ家の秘宝とか、見たこともないような遺物だったるとか」

「あるわけないだろ。ここは場所以外は何の変哲もない家だ」



 どうやらNPC(アーサー)からは何の情報もないらしい。



「じゃあ勝手に物色するわ」

「こいつ肝っ玉の大きさ凄いな」

「なんか如何わしい感じの言い方やめろ」



 だがアーサーは結局止めず、俺の行動を許した。



「あ、私もついて行く」



 ユーリも俺に続くように後ろについてきた。



 なんとなく気になった部屋があり、中に入る。



「思ったよりも広いな」

「そう?普通くらいじゃない?」



 ここでユーリがお嬢様であることを思い出す。



「リーファがここで暮らせるって言われたら泡吹いて倒れるぞ」

「そうなの?リーファの誕生日は家でも上げようかな?」

「やめとけ」



 さすが対人能力雑魚四天王の一人だ。



 ちなみに残りはリーファとアルス。



 そして最後の一人に



「見て!!アクト君!!」

「あん?」



 ユーリがぴょんぴょんと跳ねながら手招きしている。



「これは」



 そこにあったのはアルバムであった。



 中には嬉しそうにユーリを抱えるアーサーや、ペンドラゴの連中と遊んでるユーリ、それに



「私達小さな頃から会ってたんだね」

「そうだったんだな」



 俺とユーリが一緒に写った写真もあった。



 同じ三代貴族だったから交流もあったのだろう。



「これも運命だね!!」

「違うだろ」



 いつに間にか俺の手はペラペラとアルバムを捲り、小さな頃のユーリの姿を目の中に焼き入れる。



「そ、そこまで見られると恥ずかしいよ」

「ないな」

「え?」



 内容としてはユーリが可愛いということが99%を占めていたが、残り1%でとある疑念を抱く。



「お前の母親の姿が一度も載っていない」

「言われてみればそうだね。写真を撮るのが好きだったのかな?それとも私とお父様の姿だけをアルバムにしたのかも」

「どちらにせよ変わった奴なのには違いないな」

「む、さすがのアクト君でもお母様の悪口は許さないよ」

「お前の方がおかしいか」

「酷い!!」



 普段は鉄仮面をつけているユーリは、こうして素の自分を出すと表情豊かになるんだよな。



「坊や。もしそれが何か意図的なものだとしたら、何だと思う?」

「……そうだな。可能性としては無限に等しいものだが、俺様の知能が導き出したのは」



 この世界に自分の存在を認知させない



「とかか?」

「素晴らしいですね」

「で、お前は誰だ?」



 後ろを振り向くと、青髪の美女が立っていた。



「いらっしゃい、アクト君にユーリ」

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