第120話
悲鳴が聞こえてくる。
「誰か止めろ!!」
「暴れるな!!」
グレイス家とマーリン家総出でも手に負えない程の凶暴性か。
「クソ!!ただでさえ魔力がヤバいってのに」
全身から魔力を放出することで、記憶に干渉してくる魔法を防いでいるせいか、俺の方も魔力がヤバい。
その上でリア達も実験で魔力はカツカツ。
そんな中で神の力を受け継いだ魔獣の相手なんて荷が重いな。
「なんで急にこんな怪物が現れるんだよ!!」
「何か探してるのか!?」
声が近くなる。
壊れかけの扉に手をかけ
「食らえ!!」
先手必勝。
俺はルシフェルから貰えるギリギリの魔力を全て放つ。
これで倒せるとはもちろん思ってない。
魔法を放って速攻で俺は剣を抜こうとするが
パンッ
魔法が弾かれる。
「な!?」
魔法がモヤのように広がり、敵の姿が見えない。
「まずったな。まさかここまで強いとは」
敵は動かない。
姿は見えないのに、まるで俺の奥底を見透かされるような視線だけが常に突き刺さる。
「来るならこい!!」
こいつを野放しにするわけにはいかない。
ここで
「仕留める」
俺は一歩踏み出
「グフッ」
目にも止まらぬ速さで突進される。
ルシフェルのガードが間に合わなかった?
それともルシフェルも既に魔力が
壁をぶち破り、かなり後方に吹っ飛ばされる。
だが腹の痛みに対し、壁との衝突ではダメージを感じない。
いや違う。
一箇所だけ妙に大きな激痛が走っている。
これは……心臓?
「何してんだアルス」
「チャオ」
真顔でピースサインをするアルスが現れた。
◇◆◇◆
「なんとなく予想してるが、あそこにいた魔獣は?」
「チャオしたわ」
「そうか」
万能だなその言葉。
「それにしても何でここにいる」
「アクトに会いに来たと言ったら?」
「そんなわけない……と最早言えねぇな」
俺にとっての一番の苦難は彼女達を救うことと考えていたが、まさか好感度とかいうギャルゲーみたいな要素に一番振り回されるなんてな。
いやこれギャルゲーだったわ。
「けど残念ね。私の目的はアクトが9割しかないわ」
「大半じゃねーか」
「けど残念。その一割もどこかに行ったわ」
「……まさかと思うが」
「気にしないで。小さな、本当に些細な問題」
「いやそれは全然些細じゃ」
「私にとっては」
真剣な瞳で
「もう些細な問題なの」
「……」
「大切な友人が、旦那様が出来た。それだけで私は十分」
「なんで……いちいちボケるんだ……」
「歳を取れば盲目になる。それは恋愛と同じよ」
「確かに歳とったらボケるが、恋愛はボケ関係ないだろ」
それもそうねとアルスは俺の腰に回した力を強める。
「それにしてもこれは何があったの?」
「知らないで来たのか」
「ええ。私って一つの物に集中するタイプだから」
「それで周りが見えないのが悪い癖だろ」
「そうね。お陰で悪いものも見えなくなったわ」
「そりゃよかったな」
とりあえず俺は大雑把に今の状況を説明した。
「亜人……それって私でも可能なの?」
「さぁな。お前は色んな意味で特殊だからな」
アルスという存在は全くもって未知だ。
魔力が多過ぎるが故、体がそれに対応する様に変化するもののことを亜人という。
亜人は主にカーラのような吸血鬼や、リーファといった空想上の生き物に変化する。
多分理由はゲームだからで済む話だが、ソフィア達は一生懸命その理由を探り続けているのだろう。
だがアルスは違う。
魔力が多すぎる故、体が病弱に変化した。
だが姿は一切変わっておらず、彼女は外見的特徴で差別されることはなかった。
だが、何故アルスだけはその外見が変化しないのは未だに誰も知らない。
知っているとすればきっと
「……とりあえず実験は終わった。イレギュラーも発生したが、どっかの誰かさんのせいでそれも解決した」
「そう、それは良かったわね」
「だからお前はもう帰れ。用事は片付いたんだろ?」
「そうね。でもそうやって邪険にされると少し傷つくわ」
やめてくれ!!
そんな悲しそうな顔されたら優しくしちゃいだろ!!
「とりあえず俺様はもう行く。帰りは迎えでも呼んどけ」
「ええ、また遊びましょ」
俺はヒラヒラと手を振る彼女に何度か目を奪われながら、とりあえず施設に戻るのであった。
◇◆◇◆
そして事件は起きた。
いや、最初から起きていたの間違いだろうな。
「実験は成功だ。イレギュラーについては今後も調査を続けるとして、とりあえず報告だ」
「「「「「ハッ!!」」」」」
エムリルの言葉と共に、片付けを始める一向。
「おい」
「なんだ、お前か」
俺はマーリンに話しかけてやる。
「ソフィアはどこだ」
「あの子はもう帰らせた。あんな化け物が暴れたんだ。当然だろ」
「……それで?結局またマーリン家の実績として公表する気か?」
「……言った筈だ。あまり妙な気は起こすなと」
マーリンはそのまま淡々と作業に戻るのであった。
「……」
やはり難しい問題だな。
「リアを連れて帰るか」
その日はそれ以上のことは起きず、綽々と時間は流れていった。
そして後日、魔獣に関する情報が国中に響き渡った。
マーリンはこれを
『魔獣を殲滅する大きな一歩』
と表し、人々は大いに盛り上がった。
そしてこの結果を導いたのは紛れもなく
「マーリン家はさすがだな!!」
道端で誰かがそう言った。
ニュースや何やらで取り上げられる内容にはマーリンの文字でいっぱいだったが、その中には
「ソフィア様」
「!!」
「最近見ないな」
「毎日はまるで何かを探すようにここを歩いてたのに」
彼女の名前はどこにも載っていなかった。
そこに俺が抱いた感情としては
「何とも言えないな」
「だろうな」
何故なら俺にとってその気持ちが分かってしまうのが大きい。
愛が大きいことは必ずしもプラスに働くわけではない。
ストーカー、毒親、そんな言葉は皆愛しているからこそ生まれた言葉だ。
そして俺も例に漏れず、彼女達を愛し、身勝手に彼女達の幸せを決め助ける。
だからこそ、俺には憤慨する資格も、否定する気持ちもないわけだ。
だからこそこれは
「意地と意地のぶつかり合いだ」
「意地張っても無駄だ、諦めろ」
「すまないアクト。お父様がどうしてもと言うのでな。……それに、私もアクトと入れて嬉しい」
「……オッフ」
だからこそ俺は奴との決着をつけようと考えているわけだが、どうすればいいか分からず途方に暮れていた。
もしかしたらソフィアに会えるかもと外をウロウロしていると
「あ、見つけた」
「へ?」
道端でユーリに出会った。
そして
「さぁアクト!!問答無用で来てもうぞ!!」
突然現れたアーサーに無理矢理捕まえられ
「で、俺様はどこに連れて行かれてるんだ?」
道を引きずられながらどこかも分からない場所に向かって進んでいく。
予想は立ってるが
「そりゃ勿論俺の愛しの存在である」
「私のお母様に元にだ「
「何で俺様が行かなくちゃいけないんだ」
「んなもん結婚の挨拶だよ」
「お、お父様気が早いですよ!!」
「始まってすらいねぇよ!!」
「そ、そんなぁ〜」
明らかに凹むユーリ。
心苦しいが、あまり執着されるわけにはいかないだよ!!
「……」
「何だよその目は」
「いや、相変わらずだなと思ってな」
「はぁ?」
「昔の俺を思い出すぜ」
「昔のお父様ですか?」
「ああ。気になるなら今度教えてやる」
「どうでもいい」
「是非!!」
「ついでに小さな頃のユーリについても」
「まぁ後学の為に聞いておいてやる」
そしてズルズルと地面に跡をつけながら進んでいく。
そんなバカみたいな光景を見たユーリは笑い
「楽しみだね、アクト君」
「……そうだな」
救済√3.5
ユーリ ペンドラゴ
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