第117話

「んあ?」



 目が覚めると、俺は森の中にいた。



 辺りは暗く、月明かりだけが唯一の光源。



 四方八方から蝉が鳴き、自然による反響が生まれていた。



「どこだここ?」

「起きたかアクト」

「ルシフェルか」



 横には俺と一緒になって寝ているルシフェル。



「なんで俺らここにいるんだ?」

「アクトが急にフラフラと知らない森の中に歩いて行ったからだぞ」

「そうだったのか」



 記憶がない。



 相当疲れてたんだな俺。



「お陰で体調はすこぶるいいんだよな」



 肩が外れるんじゃないかと思う程腕をブンブンと回す。



「顔戻ってるか?」

「いつもの似非イケメンじゃなくてちゃんとイケメンのアクトだぞ」

「趣味悪いな。アクトの顔が好みなんて」



 よっこいしょと立ち上がる。



「帰るか」



 そして俺はアクトとして、家に帰るのであった。



 ◇◆◇◆



「カーラさんこっちがババですか?」

「ち、違うのじゃ」

「そうですか」

「あ、あぁ!!」



 家に帰ると、そこには天国が広がっていた。



 なんの実用性もない謎の耳のついたフワフワの服を見に纏い、仲良くトランプに興じている。



 リアは既に上がったのか二人の様子を伺っており、ソフィアに敗北したカーラは悔しそうに頬を膨らませている。



「もう一回じゃ!!」

「勿論いいですよ」



 どうやら邪魔な俺は静かに去るべきようだな。



「お兄様も一緒に致しませんか!!」



 知ってた。



「俺様がするはずないだろ」

「びびってんですか?」

「負けるのが怖いんじゃ」

「あぁん!?俺様が負けるはずないだろ!?」



 完全にブチギレた俺はスキップしながら男子禁制の花園に入るのであった。



 ◇◆◇◆



「妾眠るのじゃ〜」

「私も一度就寝しますね」



 カーラとソフィアはそのままベットに眠りに行く。



 なんか防御力低くない?と思ったが、よく考えれば襲う=死の相手を襲うわけないか。



「だが俺様は違う」



 死を恐れない男が存在しないことを思いしれ。



「どうぞお兄様、私はウェルカムです」

「いやお前は」

「さぁどうぞ!!」

「圧が凄い!!」



 綺麗な花には棘があると言うが、どうやら花園の地面は沼で出来ていたらしい。



 俺がヒロインを見る時って多分こんな顔してるんだろうという顔でリアは少しずつ距離を詰めてくる。



「堪忍して下さいお兄様ぁ!!」

「きゃぁああああああああ襲われる〜」



 そして茶番を繰り広げ、俺とリアは部屋を出る。



「調子はどうだ」

「問題ありません」

「そうか」



 今のリアの状態は最早俺の知らない世界にまで進んでいる。



 リアはゲームでも真に惚れてからは今のような姿だが、グレイス家の当主になり、神をその身に宿すなど存在しなかった。



 それに



「リーファとはどうだった」

「はい。まさか私のお姉様があんなに綺麗な方と思っていませんでした。お兄様は意地悪です。どうしてあの時『普通』なんて言ったですか?」

「あ?普通(に可愛い)だろ」

「じゃあリアはどうです?」



 モジモジと上目遣いで聞いてくる小悪魔。



 可愛いは暴力と言うがそれは間違いだ。



 可愛いは兵器である。



「普通(に最高)だな」

「お兄様はいけずですね」

「おい何してる」



 いつの間にか抱きつかれる形になっている。



「お兄様は多忙ですので、こうしてお兄様成分を補給しているのです」

「忙しいのはお前の方だろ。それに漫画やアニメに登場する◯◯成分というのは何の根拠もない嘘っぱちだ。唯一妹成分だけは本物だがな」

「なら、是非とも世界で唯一の妹成分をお兄様にお渡ししますね」



 しまった。



 まさか揚げ足を取られるなんて。



「それで、あの子は何なのでしょうか。ずっとアンが危険アラームを鳴らしているのですが」

「……見ての通り、徹夜も出来ないような小さな……小さな女の子だ。仲良くしてやれ」

「もちろんです」

「それにしてもお前はソフィアと仲が良かったのか?」

「はい。今回の実験でマーリン家に訪れる機会が多かったのですが、その際に共通の話題で盛り上がりまして」



 二人とも賢いし、俺には分からない高尚な話で盛り上がったのだろう。



『ちなみにお兄様の腹筋は六枚に割れています!!』



 仲良きことは美しきかな。



「ですが、私と似てませんでした」

「そりゃそうだろ。姉妹と言っても血は繋がってないしな」

「それはお兄様もですよね。ですのでお兄様もお姉様と婚姻が結べますよ」

「あのな、お前」



 ん?



「……」

「ご安心下さいお兄様。昔はお兄様を取られるのかと嫉妬心を抱いていました」

「聞いてないけど?」

「ですが気付きました。私にとっての一番の幸せとは、お兄様が幸せになること」

「……」

「そしてその中に……私がいれば、それだけで」

「それは贅沢言い過ぎだ」



 そっと俺はリアを押し離す。



「そろそろ離れろ」

「お兄様はわがままですね」



 え?



 俺今わがまま要素あった?



「それにしてもアンの力は素晴らしいですね。以前のお兄様なら全力で逃げていたのですが」

「あ」



 どうりで感情の抑制が上手くいかないと思った。



「はぁ、厄介だな」

「私はそんなお兄様が大好きですよ」

「うるせぇ」



 一度突き放したリアがもう一度勢いよく抱きつく。



「愛しています、お兄様」



 そしてゆっくりと背を向け



「それでは私も就寝してまいりますね」



 綺麗な表情を見せ、リアは部屋に戻った。



 最初は暗い顔しか見せなかったリアが、ビフォーアフター……いや、最初から美しいのだから今の表現は間違いか。



 結局リアが可愛いことに変わりないとして、ああして笑っていられることに喜びを感じらざる得ない。



 着実に理想の世界は完成しつつある。



 もう少しだ。



 あともう少しで世界は



 ◇◆◇◆



「本日はお越し下さりありがとうございます」

「そう畏まるな。いくら同じ三代貴族の当主だとしても、君はまだ子供。大人に甘えるのが義務だ」

「そうでしょうか?年齢は確かな経験は積みますが、それはより常識という楔を強固にさせてしまうものですよ?」

「面白い見解だ。やはりグレイスのようなクズでなく君こそが当主に相応しいとより確信できたよ」

「さすがマーリン様。広い懐をお持ちのようです」



 グレイス家本館。



 リアを地下に閉じ込め、両親を精神的に監禁した場所に今、マーリン家とグレイス家の人間が集結していた。



「ところでリア君、一つ聞いていいか」

「何でしょうか?」



 エムリルは指差し



「何故こいつがいる」



 皆の目線の先には



「ただの冷やかし」



 俺がいた。



「そんなに暇なら家でゲームでもしてろ。お前のような得体の知れない奴にこの世紀の実験を邪魔されるわけにはいかない」

「へぇ、ほぉ、そんなこと言っちゃうんだ。いやいいですよ別に。でも〜、これって決定権はお前如きにあんのか雑魚」



 主役を出せと俺は挑発する。



「そんなことをしなくても」

「父さん」



 茶色の髪と大きな果物、そして



「アクトは必要です」

「すぴー」



 カーラを抱えたソフィアが現れた。

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