第114話
「まずいって」
何か入ってみたら案外警備が手薄でヌルヌルと奥に侵入出来た。
特に人がいない場所を進んでいくと、そこにはアーサーとユーリがお喋りしていた。
別に気になったわけじゃないが、俺はユーリとアーサーが二人の時にどんな話をするのか知らない。
原作では俺たちプレイヤーはアーサーと敵対することはあっても、味方になることがなかったからだ。
そんなわけで聞き耳をたてていると
『アクトも連れて』
アーサーがおかしなことを言い始めた。
いや何で俺だよ。
大前提として俺が行く意味分からんし、その上感動の再会に俺が居合わせるってどういう状況だよ気まずいわ。
頭沸いてんのか?あいつ。
「どうすっかな」
天井裏で考え込む。
気分は忍者だが、縁者になる気なんてない俺は、どうにかならないかと考える。
「へくち」
するとルシフェルがくしゃみをする。
「曲者か!!」
下から剣が突き刺さり、俺の顔の真横を通る。
「ひぇええ」
「外したか」
さすがに天井裏は視界も悪いため、俺は下にある天井を突き破り降りる。
「ふん、バレてしまっては仕方ないな」
「なんか上から落ちてくるの懐かしいな」
ユーリは警戒心マックスであり、反してアーサーは余裕そうな感じだ。
「それにしてもユーリよく気付いたな」
「あんなに可愛らしいくしゃみをしたら当然ですよ」
「そうか?」
状況がドンドン悪くなるな。
アクトもピンチかと思えばグレイムもヤバいとか、俺運なさすぐだろ。
「それにしても俺らの場所に乗り込むなんて世間知らずだな」
「だが分かる。お前、戦いなれてるな」
「あ、当たり前だろ」
確かにきの世界に来てからはアホみたいにバトってるけど、俺戦闘ど素人だぜ?
だけどなんか勝手に体が動きやすいファインティングポーズを取るんだよな。
前世で読んだバトル漫画が功を奏したか。
「てか貴様、噂の邪神教じゃねーか」
「き、貴様はあの時の」
そういえば以前、依代を調べる時にユーリと会ったんだったな。
あの時の記憶がライを半殺しにしたこと以外忘れてた。
「確かに奴は邪悪だったが、それでも殺す必要はなかった」
「そいつは詭弁だな。復讐は何も生まないというが、確かにその通りだ。再犯というものを未然に防ぐ最も合理的手段だからだ。お前がどう感じようと、攫われた子供の気持ちがお前に分かるのか?」
「そちらこそ詭弁だな。合理だけで人の気持ちが表せられると?」
「意見の相違だな」
「ああ」
あーもうアクトの癖で悪い感じになっちまう。
ユーリ剣抜き始めたしどうしよマジで。
ユーリはヒロインの中で飛び抜けて人の命を大切にするきらいがある。
邪神教として人質を取れれば逃げ果せることが出来るが、場所が完全にアウトだ。
諦めて捕まるか?
それとも不可能に近いが逃げる?
一体どうすれば……と考えるのも束の間
「ん?」
いつだって俺の元には
「なー、俺達の家の天井って呪われてんのか?」
大きな音を共に空から女の子が落ちてきた。
案の定というべきか、それとも予想外というべきか
「待って〜妾のごはーん」
豪快な寝言を口ずさむカーラ。
空から落ちて来たこと、にも関わらず寝ていること
どう考えても普通じゃないと分かるが、それでもカーラは初見で見ればただの可愛い少女。
なら
「近付くな」
寝ているカーラを割れ物よりも丁寧の抱き寄せる。
すると薔薇のような香りが俺の鼻を擦る。
「このいい匂いがどうなってもいいのか!!」
「やめろ!!その子を離せ!!」
「誰が離すか!!一生離さないかんな!!」
俺はカーラの首元にナイフを当てる。
「それ以上(アーサーは)近寄るな」
「ク!!卑怯者が」
「クックック。俺は邪神教なもんでな。卑怯、外道、カッコいいイケメンは褒め言葉なんだ」
ゆっくりと後ろに……後ろ……
「何故逃げないんだ?」
「きっと私達を煽っているんですよお父様」
え?
待って
逃げるということは、俺はカーラを抱き上げるということか?
落ち着け。
思い出せ、俺はよくアルスを背負うではないか。
そうだ、あれに比べれば
「……」
体が……動かない……
助けてアクト。
俺、お前がいなきゃ何も出来ないお子ちゃまになっちまった。
「俺がナイフを動かすより先に仕留める、合わせろ」
「はい、お父様」
なんか向こうもガチの雰囲気出し始めちゃってるじゃん。
「なんじゃ」
すると急にカーラは背中から翼を出し
「空に生き血が浮かんでおる」
寝たまま空を飛んだ。
「あびゃびゃびゃびゃびゃ」
カーラに掴まった俺はそのまま天空へと飛ぶ。
「速、速い!!」
周りの景色が一瞬で入れ替わり、徐々に地上が遠くなる。
人が、建物が、街が小さくなり、周りが白一面に覆われる。
そのまま上が黒くなり始めた頃、すぐにまた下降し水蒸気の塊を突き抜ける。
全身に痛みが走り、熱さと寒さが同時に襲いかかる。
耳の奥からキーンという音が鳴り響き、嘔吐感が絶え間なく襲う。
そして
「ふわぁ、よく寝た」
およそ一分の間に起きた事象の後、カーラは目を覚ます。
「なんじゃ、随分と騒がしい目覚ましがあると思ったらお主か人間」
「オロロロロロロロロ」
「なんじゃ、酒でも飲んだか?」
どこかも分からない場所に不時着したカーラの横で、俺は豪快に吐瀉物を吐き出す。
「ほれほれ、さすってやる」
あ、優し(原因)。
そのまま暫くし、胃の中が空っぽになる。
「ふむ。面白い。魔力と物質の両方で出来たそれが、主人を離れたせいか、はたまた供給源がないためか、霧散し物質として保てなくなるか」
カーラは何か俺の嘔吐シーンを見ながら考え事にふけ込む。
「やはり普通じゃないのじゃな」
そして何か結論を出したのか、改めて俺の前に向き直す。
「さて、人間。いや、アクトと呼ぶべきか?」
「気付いていたのか」
カーラの力を持ってすれば容易か。
今まで気にしないで済んでくれただけましか。
「そうだ。俺様が名高きアクトグレイスだ」
カチリと俺の中のスイッチが切り替わる。
「クックック。面白いなアクト」
俺の偽物の笑い方じゃなくて本物だ。
さすが聖女なしでは突破不可能と言われたカーラさんだ。
ラスボスの俺より格があるな。
「お主が邪神教に入ってることは黙っておく。じゃが条件がある」
「なんだ」
血の取引というわけか。
彼女になら俺の血を全部吸ってもらっても結構だが、果たして何がくるのか。
「そう警戒するでない。妾が邪神教に入っておるのはただの暇つぶし。奴らのように悪事を働く気はそれ程ない」
でもあなた美味しそうな人いたら襲いますよね?
「なんじゃその目は。まさか妾が嘘をついておると言いたいのか?」
「別に。一般的な感覚で言えば人を襲うのはダメだろ?」
「確かにそうじゃの。じゃが、お主はその程度の些細な問題にケチをつけるような男ではなかろう?」
「さぁな。俺様が気に入らなければ殺し、楽しませるなら置いておく。それがルールだ」
「よい教訓じゃ」
「で?さっさと目的を言えよ」
「そう急かすでない。妾もお主も、生き急いだところで損するだけじゃ」
「カーラ……」
彼女のバックストーリーを思い出す。
やばい、涙でそ。
「さて、なら教えてやろう。条件とは」
ゴクリ
俺は自然と生唾を飲む。
「条件とは!!」
なんで焦らすんだよ!!
「妾を居候させてくれ」
呆気なく爆弾は落とされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます