第113話
「好きです」
「おいおい」
大胆な告白は女の子の特権なのを知らないのか?
それより、この流れは果たしてこの世界にどんな影響を与えるのだろうか。
「それは……」
「返事は、もう少し待ってくれないか」
「どうしてでしょうか」
「あ、別に振られるからとかじゃないよ。それこそ最初から、叶わないと思っていたから」
「……」
「でも、これは僕なりの気持ちの整理なんだ」
「乱暴なやり方ですね」
「そうだね。あまりにも身勝手で、それでいて君に大きな傷を残してしまうかもしれない」
それでも
「僕は動き出さないとダメな気がするんだ。もしこのままエリナさんのことを考えていたら、きっと僕は目的を達せられない」
「その決意に敬意を表します。それに私は気にしてませんから」
「あはは、僕なりに必死の告白だったんだけど、そっか」
「あ、いえ、そういうつもりでは」
「ハハ」
真は笑う。
「今の僕は本当の僕じゃない。自分でも分からないこの胸のモヤモヤが晴れた時、改めてあなたの前に立たせて下さい」
「……分かりました。お待ちしています」
「ありがとうエリナさん」
「いいえ」
フードを外す。
「エリカとお呼び下さい」
「……そっか。うん。ありがとう、エリカ」
真は腰に刺さった剣を掴み、どこかに歩いていった。
やはりという事わけではないが、この世界には何かしらゲーム通りに進めてくれるような気質がある。
俺という存在によってゲームとはかけ離れた現状が出来ているわけだが、それでもイベントはしっかり起きるし、何かしらの事件が穴埋めするように発生する。
桜やリアのルートに入っていなくとも、二人の個別ルートのイベントに近しいものが発生したのがその証拠と言えるかもしれない。
つまり、ヒロインの中でも特殊な分類にあるエリカはおそらく
「俺という存在が倒される時」
その時に初めて真と見事に結ばれる。
メタ的思考になるかもしれないが、仮の結末を立てるとすれば
「俺は器となり、ルシフェルは世界を滅ぼす為に動く」
「……」
この結末が変わらないという答えが導き出せる。
俺のこれまでの計画は無駄ではなかったわけだ。
「ところでそこのあなた」
エリカはこちらを向かずに声を掛ける。
「誰かは分かりませんが、聞き耳なんて趣味が悪いですね」
「盗聴盗撮窃盗が趣味でな。友人にもよく褒められるよ」
「……そうですか」
エリカは明らからに警戒している。
「俺もとんだゲス外道の自覚はあるが、さっきの男も随分と捻くれたやつだな」
「そうでしょうか?自分の行いが間違いであると分かっていても、それでも貫き通す。ある意味誠実で、私は好きですが」
「ふん。綺麗事だな」
やっぱりエリカはそうなのか。
知ってはいたことだが、なんか辛いな。
「綺麗事で結構です。偽善と言われようと何だろうと、私は私の信じた道を歩きます」
「それはもしかしたら茨の道かも知れないぞ」
「でしたら火炎放射器でも用意しますので」
「あ、そですか」
強いな……色んな意味で。
「じゃあな。精々がんじがらめにならないよう気をつけな」
「ご忠告ありがとうございます」
エリカは最後まで隙を見せなかった。
別に俺は命を狙うし刺客でもなければ強姦者でもないが、彼女が身の安全に気をつけているならそれで十分。
それにエリカには女神像の件で嫌われてるだろうし、ここでことを起こす気もないしな。
それにしても
◇◆◇◆
「次はリアか」
ぶっちゃけ桜もリアも好感度高過ぎてなんというか無理な気がマックスである。
だが諦めてはないない。
万が一、いや、億が一の可能性でも残っているなら、俺は全てを投げ捨ててでも嫌われよう。
なんか悲しくなった来たな。
「よし、リアだ」
運良く帰宅中のリアを発見した。
最近のリアは俺といると顔が溶けたように笑顔だが、普段は凛としていて正に才色兼備が服を着て歩いているようである。
さて、どうやって嫌われようか。
そんなことを考えていると
「なぁあれって」
「グレイス家の」
「あの子は被害者だって話だけど、父親が父親だから子供の方だって」
雑音が耳に入る。
こう言った陰口はアクトで何度も経験しているが
「なぁ俺も話に混ぜてもらっていいか?」
「え、誰……邪!!」
「おっと、そう騒ぐな。今はことを大きくするつもりはないんだ」
既にグレイムとして国中に知れ渡ってる俺は絶賛指名手配中なわけだが、今目立つことはあまり芳しくない。
「いい子だな。そうそう、人を見ていきなり叫ぶような品のない連中はいないよな」
魔法で口を塞いでいるため何を言ってるか分からないが、涙をポロポロ垂らしながら何かを懇願している。
一見助けてくれと言っていそうだが、きっと俺と会えて嬉し泣きしているのだろう。
「さて諸君。俺は邪神教ではあるんだが、とっても優しいんだ。だからそうやって他人の悪口ばっかり言ってると」
俺は優しい笑顔で
「殺しちゃうぞ」
あ、大の大人が漏らしちゃった。
根性ないくせに調子乗るからだぞ。
「あ、あと俺のこと喋っても殺すから。もちろん家族諸共ね」
俺は拘束を解く。
皆が震えながらも叫ばずに一心不乱に逃げていった。
「バイバーイ」
ふむ。
やはり誰かのためとはいえ、邪神教として活動するのは大変だなー(棒読み)。
そしてリアと目が合う。
距離はかなりあるが、それでも彼女の知能と能力なら状況的判断が可能であろう。
「行くぞルシフェル」
「うむ」
そのままリアは追いかけることなく、俺を見送った。
◇◆◇◆
そして次の相手はユーリだ。
そういえばだが、既にユーリの個人ルートの話は終わっているのか。
ペンドラゴ家に乗り込むという選択を序盤にやってしまった今、おそらくこれ以上ユーリの好感度は上がらないだろう。
となれば、今までの二人とは違い中々効果はあるのかもしれない。
そんなわけで突然隣の晩御飯とばかりにペンドラゴ家の近くに待機する。
何だかここに来るのも久しぶりだ。
ぶっ壊されたため壁は新品で綺麗だが、前までのどこか漂う風流は削がれた気がする(犯人譚)。
「おっと」
当主が当主だが、腐っても貴族。
周りは巡回する人間がかなり見える。
だが、前とは違い今の俺は
「ん?」
「どうした」
「いや、なんかいた気がして」
「気のせいだろ」
奴らがこちらを見る前に姿を隠すことも出来るようになった。
筋力や動体視力などが分かりやすく向上している。
「そろそろグッパイ人間かな」
さすがに侵入すれば外よりも強力な人間がゴロゴロといるためバレると思うが、ユーリが出てくる、もしくは帰る時に仕掛けるか。
するとまたしても巡回するペンドラゴの連中。
「それにしても今日はアーサー様とユーリお嬢様の姿を一回も見ないな」
「俺もだ。あの方達は仲良しだからな。きっと二人で稽古でもしてるんだろ」
「違いないな」
姿を見てないということは家から出ていないということか?
そうなると日を改めて……いや、明日には顔が戻ってるのか。
うーむ、どうしたものか。
ユーリの好感度を下げておきたい気持ちと、危険は起こさない方がいいという自分がいる。
「行けるとこまで行ったらどうだ?」
ルシフェルのそんな安い提案を受け入れ
「じゃあ行くか」
◇◆◇◆
「つまりお母様は今はそこに?」
「ああ。周りは自然だらけで普通の生活じゃないと思うが、それでも不自由な生活は送ってない。魔獣も今まで一度も観測されたことのない場所だ」
「そうですか」
「会いたいか?」
「本音を言えば会いたいです」
「なら行くか」
「え!!」
「少し長旅になるが、来週末向かおうじゃないか」
「はい!!」
「もちろん」
アクトも連れてだ。
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