第112話

「アクト様は相変わらず学園で威張って遊んでる。生半可な戦力だと痛い目見るかな。それに最近はまた聖女が付きっきりっぽいし」

「そうなるとカーラでも厳しそうだな」

「それから以前変わりなく、アルスノートに三代貴族は安定してるね。まぁアクト様の確保はまだまだ見送りかな」

「報告ありがとう。戻っていい」

「どもー」



 アッサリと話し合いは終わった。



 やはり俺が今まで安全だったのはアルスとエリカ、三代貴族の連中か。



「アクト様人気だねぇ」

「そうだな」



 男にモテるなんて全く遺憾ではあるが、未だに俺がモテモテであることは分かった。



「これならいけるな」



 邪神教の殲滅は計画通りに進んでいる。



 俺の計画なんて成功した試しがないが、そこは気にしないことにしている。



 それに女神像破壊の件はまだアータムには伝わっていないようだ。



 サムが口封じでもしているのだろう。



 とりあえずこれといった失敗は今のところはない為、久しぶりに自由に行動出来る時間が出来た。



 ◇◆◇◆



 ここに来たのは昼頃だったが、いつの間にか夜を過ぎ、日の光が登り始めていた。



 サムと別れ、俺は今一度邪神教としての活動に取り掛かる。



 忘れてもらっては困るが、俺が邪神教に入ったのは邪神教に忍び込むことと、俺が邪神教と公開することで好感度を一気に下げる為だ。



「もう誰も覚えてないと思うぞ」

「うるせ」



 だが既に邪神教として悪いことしちゃったしな。



 これ以上目立てば逆にノアに危険が及ぶ可能性がある。



「うーん、個人的に動くか」

「だが何をするんだ?アクトが暴れればそれこそ門が直るのが遅まると思うぞ」

「どうしたルシフェル。今日はやけに賢いな」

「我はいつも賢いぞ!!」



 ルシフェルがなんかキレてるが、無視して考える。



「むー、そうやっても誤魔化されないからな」



 よく考えれば俺が嫌われる対象は皆でなくヒロインのみ。



「んー」



 ならば、彼女達にだけバレるやり方で外道行為を行えば良いのではないか?



「あ」



 ルシフェルから手を離す。



「思いついたが吉日だ」



 とりあえず俺はノアの元に向かうことにした。



「あ、グレイムさん。今日はどういったーー」



 バチン



 開始早々ビンタをお見舞いする。



「え」



 何が起こったのか分からなそうに、口をポカンと開けるノア。



「急に……どうして……」



 ノアはまるで不審者を見るように



「自分を叩いたんですか?」

「気持ちいいからだ」



 ノアはしっかりと不審者だと認識し、一歩後ろに下がる。



「さて、お前にとある任務を与える」

「え、今のスルー何ですか」

「あん?」

「今のスルーなの」

「おかしなことを言うな。とりあえず邪神教の連中を集めるとナナとラトに伝えといてくれ」

「おかしなことをしてるのはグレイムさん何だけど、また何かするんですか?」

「一ヶ月後、拠点を帝国に変える」

「!!!!」



 ノアが明らかに動揺する。



「……」

「お前の言いたいことも分かる。自分らを戦争の駒のように扱うあそこに戻りたくないだろう」

「そ、そうです。だからそれは」

「俺の決定は絶対だ」

「ノアだけじゃ……ダメなんですか?」



 ノアは涙を零し。



「皆さんいつも言っています。家族が心配だとか、友人が心配だと。でも、帝国の話になる度にいつも震えていました」

「そうか。奴らの約束は守るが、俺は奴らの命や恐怖心まで背負い気はないぞ」

「だからノアが、皆さんの大切な人達を連れてきます」

「好きにすればいいさ。それでお前の妹を見殺しにしてもいいならな」

「グレイムさんは……どこまで……」

「決意は決めておけ。君の選択は妹を殺すか、仲間を殺すかのどっちかだ」

「……」



 そのまま俺はラトとナナと合流し、目的を告げアジトを後にした。



 本音を言えば別に誰も死なせる気はないが、これでノアは平穏に俺がいない場所でも生きていけるだろう。



 ◇◆◇◆



 次に向かったは桜の家。



 ここで俺は張り込み調査を行う。



「いいかルシフェル。桜は俺の本性を大分知っているが、それでもまだ手遅れじゃない。しっかりと俺という存在を嫌いになってもらうチャンスはいくらでもある」



 そもそも俺の本性はアクトよりはマシだが、普通にダメ人間であることに変わりない。



「そこで桜の前に姿を現し、最低な言動を行い逃げ去る。完璧な計画だろ?」

「そうだね。絶対にビックリさせよう」

「ああ」



 俺は三人で桜が出てくるの待つ。



「桜は家にいないのか?」

「うん。さっき買い物に行ってたからね」

「なるほどな」



 家の明かりが点いてないと思ったらそういうことか。



 貴重な情報だ。



「それにしても桜の食生活は大丈夫何だろうか?」



 桜は両親がいないため、小さな頃から働いている。



 この世界の文明レベルは高いが、民の生活が潤っているかと問われれば否と答える。



 だから国からの支援は少ない。



 つまり桜は必死にお金を稼ぎながら学園に通うという多忙な生活を送っている。



「最近はリーファの店が多いから結構楽だよ。それに魔法で色々チョロまかせるようになって楽になってきたから大丈夫だよ」

「それならよかった」



 あんぱんを食べながら桜の帰りを待つ。



「それにしても帰りが遅いな」

「心配?」

「そりゃまぁ。さすがに彼女の力なら大抵の敵は問題ないと思うが」

「安心してよ。実は最近リアちゃんと稽古してるから、結構強いんだよ」

「ふーむ。そうなってくるとレベルは60、70行っててもおかしくないな」

「レベル?」

「あぁ、レベルって言うのは」



 ん?



「……誰かいなかったか?」

「何のことだぞ」



 後ろを振り向くが、ルシフェル以外誰もいない。



「まぁいいや。いいかルシフェル。ここで俺は桜の前に姿を現し、最低な言動を行い逃げ去る。完璧な計画だろ?」

「お!!帰ってきたぞ」

「何!!」



 話をしていたら、丁度よく桜が帰ってくる。



 そこで俺は姿を現し



「やーい、お前の母ちゃんでーべそ」

「うわーん。最低最悪最愛の男が現れたよー」



 上手くいった。



 あまりの罵詈雑言に桜は涙を流しながら口を大きく開き、腹を抱えている。



「いいか覚えとけ。俺の名前はグレイムだ」

「うん。覚えとくね」



 そして俺は桜から見事に逃げ去り、次の相手へと向かうのであった。



 と思っていた道中



「ん?」



 一般的な道だが、あまり人を見ない場所に二つの影が見える。



「あれは」



 そこにいたのは



「ごめんね。そんな忙しい中エリナさんを連れ出してしまって」

「いえいえ、私も丁度暇していたので」



 そこにあったのは主人公とメインヒロインの姿。



 咄嗟に身を隠し、その光景を眺める。



「それにしても真さん凄いですね。体から溢れる魔力量、今ならアーサーさんにも勝てそうですよ?」

「そうかな?確かに最近は鍛えてばかりだけど、実感ないな」

「誇ることですよ。会う度にまるで物語の主人公のようにグングンと成長しています」

「そ、そうかな?」



 好きな人に褒められたからか真は照れ照れと頭を掻く。



 クソ!!羨ましい!!



「でもあまり無理はしないでくださいね」

「分かってます。それでも、僕は止めてないんです」

「そうですか」



 暫く二人は無言で遠くを見る。



「ところでエリナさん」

「はい、何でしょうか」



 真はその目を見て



「好きです」

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