第111話

「クレイヤに続きペインが消息を絶った」



 アータムは声をトーンを少し下げ話始める。



「あまり詳しくないが軽く調べた結果、ペインは帝国軍との接敵し、敗北したと予想されたらしい。ペインは昔から王国に拘っていたことと関係ありそうだが」



 アータムは資料を前に出し



「個人の感想としてだが、罠である可能性が極めて高い」



 するといくつかの目線が俺に突き刺さる。



 だがそこに負の感情は含まれていない。



 仲間意識のない奴らからすれば



『お前がやったの?』



 くらいの疑問なのだろう。



 だから俺は真面目に



「ふーん」



 適切な態度をとった。



「……まぁペインが死んだことで人手が足りなくなったのは事実だ。だが不思議だな。あの門がある王国に何故帝国は攻めこもうとしたのか」



 アータムは間接的に情報を求めた。



 事情を知ってる俺とサムは沈黙を貫く。



「誰もいない……か」



 アータムはいつものことだと次の話に進める。



「ペインがいなくなった分、王国での活動をサム以外のメンバーを追加したいのだが」

「ワタクシはパス。今すっごく可愛いワンちゃんのお世話で忙しいの」

「ワタシも今はとある研究で手が離せないので」

「フシュー」

「……」



 さすが邪神教、一致団結の『い』の字もないな。



 もう少しで帝国にも行きたい俺だが、今は王国で活動を優先したい。



 ならば、ここは俺が立候補してアータムのストレスを減らしてあげよう。



「おーー」

「妾が行こう」



 !!!!



 What?



 き、聞き間違いか?



「す、すまないカーラ。私も歳でな。もう一回言ってくれるか?」



 アータムも動揺が隠せないのか目をパシパシさせながら聞き直す。



「だから妾が行くと言ってるじゃろ。というか歳で言うなら妾の方が上」

「カーラ。それはつまり城を出るということか?」

「何度も言わすな」



 アータムは考え始める。



「私としてはカーラが活動してくれることは非常に助かるが、そうなると」



 目が合う。



 まさかカーラが動くなんて予想外だったが、彼女が気紛れであることに変わりない。



 ここは保険として俺も王国に送り込んだ方がいいはず。



 アータムと俺は今心の中で手を結ぶ。



 よし



「おーー」

「……」

「何!!」



 い、一体どうなってる。



「何故ハルも」

「……」

「いや確かにそれはそうだけど」

「……」

「え?いやそりゃだってね」



 好きな人が何言ってるか見逃さないのが真の恋心である。



「……」

「そりゃまた嬉しい限りだけど、ここは俺に譲ってくれないか?」

「……」

「もちろんいいよ」



 なんとか話は折り合いがつき



「アータム」

「そういうことなら頼む」



 この中で俺以外に唯一、あの子の話を聞き取れるアータムは承諾する。



「今何が起きたの?」

「フシュー」

「あなたも何言ってるか分かんないのよ!!」



 なんとか俺が王国の担当になることが出来た。



 アクトとしてとグレイムとして、その両方を果たすにはやはり難点が目立つな。



「空席については今後考えるとして」



 空気が変わる。



「邪神様の依代候補はどうなった」



 大雑把な場所と名前だけが書かれた紙。



 未だに俺としても謎の多いこれは、邪神教にとって重要なアイテムである。



「80と208、それから483は外れだった」

「フシュー」

「あ、僕もこの前見つけたよ。9番9番。一桁なんて珍しいよね」



 こんな感じで徐々に名前が消されていく。



 普段は不真面目なこいつらが、今はただ数字を連呼する機械のように粛々と進んで行く。



「なぁ一つ聞いていいか」



 俺は自身の数字を言い終わった後、質問に入る。



「この候補者はどうやって特定してるんだ?」



 ゲーマー魂が知識を求める。



「これはな」



 アータムがアッサリとその答えを教える。



「とある占い師が作ったものだ」



 そして俺は答えに辿り着く。



 なるほど、だから公式は答えを言わなかったのか。



 プレイヤーに考察の隙を与えるなんてやっぱり最高だな。



「満足する答えだったかな?」

「まぁな」

「それにしてもあなた、クレイヤの後釜なのに随分と理知的ね」



 オーロラから声を掛けられる。



「別にクレイヤは関係ないだろ。もしかしたら俺の席は5番目かもだったんだぞ?」

「冗談が上手いのね」



 オーロラはニコニコしているが、ちょっと癪に触ったのだろう。



 少し化粧に澱みが見られる。



「一つだけお聞かせください。あなたの目的は一体何で?」



 ロイも俺に興味を示し質問を投げかける。



「邪神教に入る理由なんて一つだろ?」

「おや、珍しいですね。別に邪神教と言えどもワタシのように都合が良かったり、アホ女のようなアホみたいな理由もあるんですよ?」

「誰がアホ女よ!!殺すわよ!!」



 体感気温が十度くらい下がる。



「ごめんハル。またお茶取ってくれる?寒くてね」

「……」

「ありがと。ところでやっぱり君って喋ってるの?」

「……」

「うーん。何でアータムもグレイムも分かるんだろ」

「……」

「まぁいいか。君のことは分からないけど、お陰で怪物のことを徐々に知れてきたからね」

「……」

「あ!!今のは僕でも分かったよ!!でもそれは秘密」

「オーロラ」



 さっきまで眠っていたカーラが起きる。



「寒い寝にくい」

「あら、すみません」



 先程まで怒りで髪が逆立っていたオーロラは、その熱を冷ます。



「命拾いしたわね、ロイ」

「そちらこそ。それで?」



 ロイは話は終わってないと俺に視線を向ける。



 奴の知識欲だけは間違いなく本物だな。



「俺が邪神教に入った理由ね」



 正確に言えばお前らの動向を探って殺してやるー、なんだけど、言えるはずないし。



 だけどもし、この世界が全てが終わった後だったなら。



「全てぶち壊すためだな」

「やはり正解だったな」



 アータムは再確認する様に笑った。



「面白くない答えですね」

「邪神教の目的として間違ってないだろ」



 もうこいつら邪神教じゃなくて自由人の集いとかに改名しろよ。



 それから話は続く。



 次の候補者についてや、それぞれの担当の状況など、邪神教は思ってるよりも知的なのかもしてない。



「だーかーらー、ワタクシの顔が世界で一番美しいでしょ?」

「あなた如きの顔よりもワタシの作ったこの戦闘型ホムンクルスの方が美しいですよ」

「いや僕が一番可愛いよ」

「フシュー」

「あなたは何言ってるか分からないって言ってるでしょ!!」



 何やってんだろあいつら。



 話がひと段落終わったと思ったら、急に自分趣味について話し出し、すぐに喧嘩になる一同。



 ある意味邪神教らしい。



「なぁお主」



 そんな光景を他人事で見ていた俺の元にカーラが声をかける。



「えっと……俺?」

「お主以外誰がい……ん?本当にいるではないか」



 ……ん?



「なんじゃ。やはりお主あの時の面白い人間ではないか」

「い、いや違うぞ」

「妾が間違ってると?」



 やはり凄まじい迫力。



 先程まで喧嘩してた連中が黙るくらいにはその迫力は本物である。



 アクト状態の俺なら耐えられただろうが、今の俺は



「可愛い」

「は?」

「あ」



 そんなものどうでもいいくらいに彼女に釘付けになる。



「クックック。やはり面白いな」



 彼女の目が獲物を捉えるものに変わる。



 まずい!!



 状況的にヤバいはずなのに頭が可愛いで埋め尽くされてる!!



 もう何がヤバいのか分かんないや!!



「王国で楽しみにしてんじゃぞ?」



 幼い見た目に反して気品のある様子で部屋を出ていった。



「あぁサム。すまないが報告をして欲しい」



 アータムがサムを呼び出す。



「あぁ、あれか」



 そうしてサムは



「アクト様についてね」



 全てを嘘で語った。

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