第108話

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「どうしたのですか?少し焦っているように見えますが?」

「はん。そりゃこんな楽しい戦いが終わりそうで残念だからだよ」

「おぉ!!まさか同じ気持ちを抱いてるなんて、実に喜ばしいことです」



 ペインの攻撃を躱し、その顔に一撃をお見舞いしようとする女帝。



「危ないですね」



 それを見えない剣で防ぐ。



「ホントに笑えない呪いだな」



 その熱量により全ての武器を無力化し、自身は高熱の剣を携える。



 触れただけでダメージを受け続けるそれは



「邪神教らしく陰湿な野郎だ」

「お褒めに預かり光栄です」



 そして何より厄介なのは



「これはほんのお礼です」



 女帝の首が飛ぶ。



(速すぎて見えなかった)



 5



「どこまで舐めプすれば気が済む」

「舐めプとは失敬ですね。力を見せるのは即ち相手に情報を渡すこと。それは戦争において最も阻止すべき行為。ですがご安心を」



 ペインは少し笑い



「あなたを殺すのにはこの程度でこ十分です」

「それを」



 拳を握りなおし



「舐めプって言うんだよ!!」



 女帝の直線的な動きに



「あなたこそ私を……」



 だが



「申し訳ありませんね」



 ペインはすぐに後ろから飛んできた魔法を弾く。



「気を抜いていたのは私の方でした」



 周りは帝国の兵に囲まれている。



「ですが不思議ですね。最初は退避させていた兵士に攻撃されたのはどのような意図が?自分の命惜しさにやけになった?」

「余所見とは余裕だな」

「いえそんな」



 ペインは後ろを振り向かずに女帝の攻撃を受け止める。



「あなたを評価してる故ですよ」



 そしてペインの向いている方向から



「頭まで回るときたか」



 巨大な魔法が飛んでくる。



 皇帝を囮にするという前代未聞の攻撃。



 だが悲しいことに



「足りませんね」



 ペインは一撃でその魔法を打ち消す。



 そして



「あなたはあと何回殺せば死ぬのですか?」



 4



「さぁな」

「先程の作戦実に素晴らしいです。ですがあの程度の魔法で私を殺すどころか大したダメージにもなりませんよ?」

「そんなの」



 また真っ直ぐ



「やってみなきゃ分からんだろ?」

「意図が読めませんねぇ」



 何度も馬鹿正直に正面突破してくる女帝にペインは疑問が尽きない。



 3



「少しあなたを過大評価し過ぎだようです」



 2



「あなたの戦い方は強者の特権。それはあまりに愚策」



 1



「ですが」



 女帝の攻撃が最後に命中する。



 ペインの思考が一瞬ブレる。



「やれ」



 一斉に大量の魔法が飛び交う。



「……」

「一緒に死のうか?」

「この程度の魔法で私に傷がつくと?」



 二人を巻き込み、千を超える魔法が降り注ぐ。



 巨大なクレーターは更にその深さと広さを増し、そして



「ゲームオーバーだ」

「……これは」



 ペインの体に大きな穴が空く。



「あれらの魔法は目眩しですか……」

「とっておきをぶち込む時の鉄則だろ?」



 0



「あぁ、あの少女ですか」

「……見えるのか?」

「言ったでしょう?これでも私は身体能力だけで邪神教に入団しているんです」



 人が決して動けない筈の致命傷を負ったペインはゆっくりと歩き出す。



「お前……人間か?」

「もちろんです。それを言うならあなたのそも不死性こそ人間なんですか?」

「冥土の土産に教えてやる。これは私の力ではない。あの子の力によって命を永らえさせてるだけだ」

「なるほど」



 ペインはどこか満足したように



「それで、今のあなたが最後の命ということですか」

「何故それを……」

「耳もいいんですよ?コソコソ話だっていくらでも聞けます」



 女帝は不思議に思う。



 こいつは自身のことを簡単に殺せると言った。



 当然のようにそれを疑い、今も警戒を緩めないからこそ気付けなかった。



「なぁ、お前が死んだらその呪いはどうなる」



 ペインの顔が



「聡いですね」



 大きく歪む。



「そう、私には特殊な能力はありません。ですが、前の俺は違います。俺が持っていた能力は先程から見せている透明の剣」



 ドロリと体が溶け始める。



「その前の僕は強力な聴力」



 そして女帝は気付く。



 自身の体にあった燃えるような痛みが徐々に顔に集中していく。



「俺様は嫌なんですよ」



 一瞬巨大な魔力が発生する。



「顔が残ってると、あなたになった時顔が痛むんですよね」



 ◇◆◇◆



「ちゃんと当てたか?」

「当たり前でしょ!!私を何だと思ってるの!!」



 帝国の兵が一人の少女に尋ねる。



「あれは硬いとか弾くとかそういう概念じゃ無理だから。確実にあいつの腹に風穴を開けた」

「そこまで言うなら大丈夫か」



 未だに巨大な穴からモクモクと煙が漏れ出す。



 すると



「おい!!出てきたぞ!!」



 砂埃の中からゆらゆらと揺れる影。



「あの装備……陛下だ!!皆陛下が帰還されたぞ!!」



 側近だった男が嬉しそうに走り出す。



「待って!!」



 違和感に気付いた少女は叫ぶ。



 だが



「おや」



 男は既に体を横半分に分割されていた。



「申し訳ありません。襲ってきたのかとつい反射的に切ってしまいました」



 体は女帝だが、その顔は酷く爛れた何かが現れる。



「ば、化け……」

「失礼、ロイ君にまた包帯を貰わないとですね」

「全員攻撃!!」



 少女は涙を浮かべながら叫ぶ。



「陛下が死んだ!!あれは多分、さっきの邪神教!!」

「う、嘘つくなよ」



 一人が笑った。



「た、確かに顔は変だが、あの格好、それに声もどう聞いても……」

「私は嘘をつくのが苦手なのですよ。だって嘘をついてしまうと本当の自分がわからなくなりそうで」



 綺麗なお辞儀をし



「もう一度改めて」



 顔の爛れた女は笑い



「邪神教幹部第3席」



 ペイン



 ◇◆◇◆



 遥か遠く。



 一人の邪神教は国で最も高い塔の上に立っていた。



「あ、あの、どうして私はここに?」

「なんとなくだ」



 その男は幹部と呼ばれる座についていた。



「何か……見てるんです?」

「……」

「見てるの?」

「戦いだ」

「また……戦争が始まるの?」

「どうだろうな」



 一人の少女は不安そうな顔をする。



「まぁ少なくともお前が死ぬことはないな」

「そ、そうですか」



 だが少女の顔は晴れない。



「でも……妹は……」

「分かってる」



 邪神教は目を細めた。



◇◆◇◆



「私があいつに直接触れれば勝ち目はある」

「だがどうやって!!既に仲間が何人もやられてる」

「分かってる!!だから今から作戦をーー」



 大きな炸裂音。



「随分と陣形が乱れてきましたね。やはり集団は指揮系統を失うと弱いですね」



 見えない剣を振り回し暴れるペイン。



「あんな化け物にどうやって」

「肉壁にでもなってよ」

「無茶言うな。俺だって家族が待ってる」

「もういい年したオッサンでしょ?少し早死にするくらい変わんない」

「変わるわ!!」



 少女は特徴的なツインテールを何度も揺らし



「思いついた」

「本当か!!」



 少女は立ち上がり、そして



「天に任せる」

「は?」



 走る



「おや?」



 ペインは気付く。



「あれは先ほどの少女。おそらく切り札だと思うのですが、まさか特攻?」



 疑問に感じる。



「ありえませんね。となれば何か罠が?」



 そしてペインは答えを見つける。



「なるほど」

「おりゃあああああああああああああああああ死ねぇえええええええええええええええ」



 少女はあまり賢くないため、馬鹿正直に叫ぶ。



「愚かですね。そんな見え見えの罠に引っ掛かると?」



 ペインは少女と反対の方を向き



「あなたが本命ですね」



 見えない剣を突き刺す。



「ガハ!!」



 ツインテールを踊らせた少女は口から血を吐き出す。



「幻影でしょうか?シンプルですが非常に良い手です。来世ではしっかりとその教訓を活かしましょう」

「そうさせてもらうよ」

「その声……」



 少女の姿が徐々に変化する。



「ヤッホー、ペイン」

「サム君!!どうしてここに」

「あれ?言ってなかった?僕の人形って近くにいないと発動出来ないんだ」

「いえ、それは知っていますが……」



 ペインの腕が固定される。



「僕言ったよね?あの店には行くなって」

「……」

「僕のことを探るのはご法度だよ?」

「とりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 そして少女がペインに触れる。



『分離』



 あまりにも呆気なく



「だから言っただろうに」



 ペインは消滅した。


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