第98話
ジメジメとした石造りの空間に、不釣り合いな程の美貌と装飾品を引き下げる女。
「陰気臭いな」
覇気を放ち、歩く姿は正に皇であろう。
だが相手が悪い、というより相対するのは相手ではなかった。
「無欲な賢王よりも、貪欲な囚人の方がやはり沸き立つな」
「お褒め下さり感謝だ。俺様のペットのドブネズミにそいつは食わせておくぜ」
「そうかそうか、気に入って腹を壊してくれてると助かるな」
見下ろす者と見上げてやる者。
「どうして私を呼んだ」
皇は問う。
「お前の国は色々と厄介なもんでな。今の内から手を打っておかないと後々面倒なんだ」
アクトは答える。
「そうか、それは実に面白い話だが、残念。奴はおそらく私の提案を蹴るよ」
「そうだろうな。あいつはラッキーなことにあの子の優しさで体の大半が出来ている」
親から子ではなく、ヒロインから他所に変換するのがアクト流である。
「だが、あいつは器じゃない」
「ここに囚われてるだけあって過激な思考だな」
「だから」
アクトは提案する
「奴を引きずり下ろすのに協力してやる」
頼むのではなく頼ませる。
「随分と肝が据わり、傲慢だな」
女皇は指で銃の形を作る。
「もう少し謙虚になったらどうだ?お前の命はお前が思ってるよりも儚い」
「そーー」
アクトの肩が貫かれる。
「すまない、手が滑った」
「そりゃどうも」
アクトが痛みのあまり大量の汗を流す。
「だが時に、その傲慢さが何かを成すのであろうな」
女皇は座る。
一人の人間以上の価値を叩き出すそれらを、惜しげなく腐った地面につける。
「さぁ、私の心を躍らせれみろ」
「どっちが傲慢だよ」
アクトは痛みを面に出さずに笑う。
「いいぜ、皆が叫ぶくらいとびっきりの地獄への招待券をプレゼントしてやる」
◇◆◇◆
<side???>
私の目の前には今
「姫、今は邪神教がまだ王宮に潜伏している可能性があります。自由に動き回るのはお止め下さい」
「それはそうですが……」
グレイスが立っている。
「ご安心下さいグレイス様。私が姫様を命に換えてもお守りしまず」
「サヤ」
この言葉は私の行動を進める為と分かっていても、サヤから大切にされていると思えるだけで嬉しく感じた。
だが
「そうか」
相手は三代貴族
「!!!!」
「これで姫を守るなど言語道断だな」
サヤの胸の近くに氷柱がその鋭利な先端を差し向けていた。
「お前の命をかけるなんて当たり前の話だ。姫の命はお前何人分だと思っている」
「……申し訳ありません」
サヤが悔しそうに歯を食いしばる。
それと同時に、私も歯痒い思いをする。
「はぁ、仕方ありません。俺さ……私と共に行動するのであれば許可します」
「それは……」
今からお前の悪事を暴くんだよ!!
なんて言えるはずないしなぁ。
「そ、それではーー」
「それじゃあ俺が案内しようか」
「え?」
ぬるりと現れる。
「どういうつもりだ、シウス」
腹黒の体現者のような男が現れる。
「なに、実力という点で見れば俺だって問題はないだろ?」
確かにシウスはお父さんの側近だ。
それはそれだけの実力を身に宿している証明であり
「信頼という点でも、俺は十分だろ?」
「……」
「安心しろグレイス。俺とお前は協力関係だ。裏切ったりしねぇよ」
二人がコソコソと何かを喋っている。
そう、コソコソと
「姫様」
「分かってる」
私もそれなりに学を嗜んでいる。
シウスの手の動きを見逃さないようにする。
「それより、例の邪神教を早く捕らえろ」
「分かってる」
話がついたのか、シウスとグレイスは別れる。
「さぁ姫様にサヤ。俺と一緒に楽しくお散歩でもするか」
「はい、そうですね」
「ところで何でこんな危ない中で散策なんてしてんだ?」
「ずっと部屋にいても疲れますし、それに私は気になることは自分の目で見るまでは信用出来ないので」
「おっと、手厳しい言葉だな」
サヤが一歩後ろに下がり、私とシウスが隣り合わせで歩く。
「ところで私を案内してくれると言いましたが、一旦どんな素敵な場所に案内してくれるですか?」
「そりゃ姫様、いつだって素敵な場所には同じく素敵な人物が溢れてるもんだ」
そろそろ城の外に出る。
「少し……お聞きしてもいいですか?」
「なんだ?」
「あなたは何を目的に動いてるんですか?」
「目的?」
シウスは少し意外そうな顔をした。
「あぁ、そういうことか」
何かに納得する。
「悪いけど姫様の求めてるような答えは出せないな」
「それは……」
「必ずしも、生きてる人間が何か大きな名分を持ってるわけじゃない。大切な人の為とか、多くの人を救いたいやら、そんな大層なものはない」
シウスは答える。
「ただ生きる。俺は美味い物を食うために人を引きずり下ろし、面白い動画を見るために強い奴の元につく。それが俺だ」
普通を求め、普通じゃない道を選ぶ。
「だから俺はこの普通の為に、姫様達のような普通じゃない奴らどうしでで殺し合って欲しいんだ」
「やはりあなたは」
そして私は一枚の紙を渡される。
「そろそろ動き出す準備をしろ。お前は次の俺が使える人かもだからな」
目を通し
「なるほど」
納得する。
「いいでしょう」
私が王になるために
「全てを利用し、そして最高の王になる」
そのためなら
「王国くらい崩せなくては」
◇◆◇◆
「さて、そろそろですね」
「ソフィア、さすがにあの手紙を信用してよかったのか?」
「分かりませんが、現状今の状態を打ち砕くにはあれを信用せざるを得ません」
ソフィアとユーリは門の前に立つ。
見張りはいないが、それはむしろ最も侵入を阻んだ答えと言っていいだろう。
「見張りがいればユーリさんのハニートラップでいけたのですが」
「その話はもうなしってことになっただろ」
二人はただ時を待った。
そして
「さて、どう見ても罠ですね」
「都合が良すぎるな」
絶対の防御を持つ門が開かれる。
二人にとってそれは、大きな化け物の口が大きく開いた瞬間であった。
「どうやら胃の中には金銀財宝があるらしいですよ、ユーリさん」
「それはいいことだ。是非ともお持ち帰りし、ちゃんと私の物になってもらわないとだな」
「いやそれはダメです」
「ソフィア……」
二人は息を殺し、王宮へと侵入した。
それと同時に
「計画通りですね」
一人の男が当然のように門の中に入っていった。
◇◆◇◆
「お客さんが多くて困るな。俺様は暇じゃないんだけどな」
アクトは悪態をつく。
「そうか、俺様はお前以上に忙しいのだがな」
ザンサは同じく悪びれた態度で返す。
親子の目が合う。
だが片方はその目に息子はいなく、もう片方の目には今でも走り回る女の子達の姿しか映っていない。
「言っておくが、リアの居場所はこれ以上何をされようと吐くつもりはない」
「そんなもの分かっている。お前の拷問をしたのは俺様なのだからな」
そして
「だからこそ、お前には心に訴えかけるのが最も効率的だと判断した」
「おいおい、もう少し言葉に責任を持とうぜ。今の言葉は矛盾だらけだぞ?」
「昔話をしよう」
ザンサは語り始める
「俺様がお前達をどれだけ大切にしてたかを」
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