第96話

 <side???>



 確かにちょっとだけ私好みのイケメンであったことには変わりないけど



「姫様」



 目の前にいる男は身体中を最硬の金属で縛られた上に、ダンジョンで生まれたという魔法の発動を防ぐ手錠で縛られている。



 つまり目の前の彼は赤子よりも貧弱。



 だが、私とサヤの体の震えは止まらない。



 まるであの日のよう。



「まぁなんだ、座れよ。汚い場所だがな」



 アクトはまるで我が物顔で指し示す。



 それは傲慢というより、むしろ自身にはここがお似合いだと言わんばかりの態度だった。



「こんな場所汚くて座れるはずないでしょ」



 私は上ずった声で答える。



「それもそうだな」



 あっさりと



「それで?聞きたいことがあるんだろ?」

「……」



 アクトのニヤついた顔が、まさに悪魔との取引のように思えた。



「私は……」



 私は思ってしまった。



 この男なら、確かにあの大罪を犯したのだと。



 そう思わせてしまう程に、目の前の男は邪悪そのものであった。



 だが



「私は、あなたが罪を犯したとは考えていません」



 断言する。



 何故なら



「そう、私が考えたから」



 王は国民を束ねる者。



 その娘である私が、目の前の男如きに意見を変えるなどあってはならない。



「さすがだな」



 彼は小さく何かを呟く。



 すると何故か周りに霧散していた強張りが消える。



「何を……したの?」



 魔法は使えないはずなのに。



「ただ威圧しただけだ。俺様レベルともなればそのくらい余裕なんだよ」



 なんともふざけた理由である。



 それでも今感じたそれは、確かにそんなふざけたものでないと説明がつかない。



「何があったか教えて」



 あくまで私は強気の姿勢を緩めない。



「話してやってもいい。だが、今すぐ会話を録音出来るものを出せ」

「それはどうしてですか?」



 サヤが聞く。



「他者に漏れるのを防ぐため。それだけだ。それが守れないなら話すのは無しだ」



 私はサヤと顔を見合わせる。



「お願い」

「分かりました」



 とりあえず私はポケットからそれらしい物を全部出す。



 すると



「え!!」



 サヤが急に服を脱ぎ始める。



「な、何してるの!!」

「彼に私が何も持っていないのを示すためです」

「な、何もそこまで!!そ、それに」



 私は彼を見る。



「え?」



 彼は淡々とその光景を見ていた。



 そこに私の体をジロジロ見てくる貴族共と違い、そこにはただ目的を成そうとする意志だけが感じとれた。



 サヤは美人だ。



 私の護衛となれば、強く、賢く、美しい。



 これらの条件は必要最低限となる。



 そんなサヤの裸体を目にしても、彼の動揺はまるで感じられない。



「……」



 信用には誠意を



 どうやら私も覚悟を決める必要があるようだ。



 私は自身のドレスに手をかけ、服を



「ちょ!!ま、待ちなんし!!」



 アクトは遊女のような言葉遣いと共に、静止を呼びかける。



「な、なによ!!私はもう覚悟を決めたのよ!!」

「いや!!いいから!!別に脱がなくていいから!!」



 初めて彼が動揺を見せた。



「何故私の時には一切口を挟まなかったのですか?」



 既に手ぶらであることを証明したサヤは、乱れなく服を着直していた。



「え、だってお前に興味な……ゴホン。純粋に何かを仕掛けるならお前だけだと思っていたからだ。わざわざ小動物を警戒する人間なんていないだろ」

「わ、私が小動物って!!」



 それって



「それだけ可愛いってこと!!」

「姫様……」



 サヤが呆れた目で私を見てくる。



「ふざけるな!!」

「ひ!!」



 声を荒げるアクト。



「そんなもんと一緒にすんじゃねぇ!!」



 何にキレてるのか分からないけど、何か彼の逆鱗に触れたらしい。



「小動物如きがふざけるな。誰様の許可を得てヒロインと同等の立場に並ぼうとしてやがる。ポメラニアン?チワワ?んだよ人語も理解できねぇ畜生じゃねぇか。まぁ確かに可愛いよ?でもさぁ、相手が悪かったていうか、次元が違うというか?しょうがないよーー」



 一人でに何か喋った後



「さて、話を戻そうか」



 何も話は進んでいないが



「語ってやるよ。この国の闇を」



 それから彼の語る内容はどれも奇想天外なものであった。



 ◇◆◇◆



「そんな出鱈目な話が!!」

「サヤ、少し静かに」



 思考する。



「一つ質問を」

「気の利いたものなら答えてやる」

「どうしてあなたはそれを知っているのですか?」

「偶然」

「答える気はないか」



 サヤはあまりにも莫大過ぎる情報を整理し切れず、未だに混乱している。



 実際私も辛うじて冷静でいられるだけ。



「では、リアさんは今その小屋の中にいると?」

「そうだ」

「それを他のものには?」

「ほれ」



 彼は少し服の下を見せる。



「!!!!」



 痛々しい傷。



「お前らは所詮予備だ。俺様が失敗した時の一つの保険だ」

「まさか、この状況でまだ何かをしようとしてるの?」

「さてな」



 彼の今の言葉通り受け取るのであれば、私達に対する彼の思考は



「あなたが死んだ場合、私がリアさんを守れと?」



 そう言いたいのだろう。



「正解っちゃ正解だが、少し違うな」



 彼はその先を言わなかった。



「王に……報告すべきでは?」



 少し落ち着いたサヤが助言する。



「意味ないよ。だってこれが罠である可能性があるのだから」

「そ、そうです!!聖女様に真意をーー」

「おい」



 来た時以上の悪寒



「侍女如きがあまり口を出すな」



 殺すぞ



「サヤ……」



 サヤが膝から崩れ落ちる。



「これはお前ら王国側の問題だろ?それをただ一生懸命生きているだけの彼女に責任も、力も、頼り押し付ける。惨めて虚しくないのか?」

「それは……」



 確かに私達の国では聖女に頼りっきりである。



 彼女の嘘を見破る力、あらゆる怪我や病気を一瞬で治療し、未知の闇魔法に対して圧倒的力を誇る。



 にも関わらず、上の連中は優しい彼女を利用し、金は自分達で独占する連中ばかり。



「だけど、これが事実だと分かれば私達もあなたも目的を達せられる」



 彼は少し沈黙した後



「足りない」



 彼は言う



「さっきも話した通り、グレイスの陰謀の数々は既にシウスの手に渡ってる。にも関わらず、俺様が釈放されないのは当然奴が関与しているからだ」

「あ」



 気付く



「そして王以上に聖女という存在は価値がある。であれば、聖女の護衛も奴が担当するだろう。そんな中でお前が聖女を貸してくれてと言ったところで奴が頷くとは思えない」

「そう……だ」



 少し考えれば分かるはずだった。



 今の私はこの情報を、自ら晒しに行くような行為だった。



「なら私は一体どうすれば」



 この大きな爆弾をどう扱えばいい。



「さて、問題だ」



 彼は今までと違い、少年のような笑みを浮かべる。



「今のお前には力も、知識も、仲間もいない」

「言い過ぎ!!」

「だが、残念なことにお前は良心という重荷を持っている」



 なんとも度し難い言葉だ。



「そんな矮小で、惨めで、脆く可愛いお前に」



 悪魔は囁く。



「力を」



 吸い寄せられる



「知識を」



 魅せられる



「めちゃんこプリティーでロックンロールな仲間を」



 気のせいだったかも



「くれてやる」



 白い、白い手がスッと私の前に現れる。



「何を見ている?」



 彼が不思議な表情をする。



(見えてない?)



「まぁいい」



 そして



「それらが欲しければここで宣言しろ」



 彼は紫色の瞳を輝かせ



「王になると」



 それは



「願ったり叶ったり」



 私は魔に魅せられる。



 それと同時に



「やはりアクトの選ぶ人間は変わってるな」



 声と共に理解する



「いいよ」



 私は天使と契約する。



「全て手に入れる。それが王の器だから」

「さすがだ」



 アクトは微笑み



「俺が出来るのは道を示すこと。手に入れるのはいつだって君達だ」



 何重にも陰謀が絡まり合う。



「久しぶりだな、マーリン」

「そっちこそな、ペンドラゴ」



 会合する巨頭



「ただいまサム君帰還しましたぁ」

「さすがサム君。それでは詳細を」



 企む邪悪



「よぉグレイス。その面二度と見たくなかったぜ」

「俺様もだよ、ゲス」



 憎しみ合う二人



「相変わらずだらしない体だな」

「お主は変わらんな」



 二国の王。



 そんな中



「お!!帰ってきた」



 空から輝く光と共に、小さな人影が上陸する。



「お帰り」



 桜は嬉しそうに抱きしめる。



「ただいま」



 そして破壊神が帰還した。

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