第95話

「これはシウス様、本日はどのようなご用件で」

「そりゃお前、俺がここに来る理由なんて分かってるだろ?」

「……申し訳ありません。いくらシウス様といえど今の王宮内に人を入れるわけにはーー」

「これでもか」

「これは!!」



 現場がたちまちパニックとなる。



「す、すぐに連絡を」

「就寝中の聖女様にもか?」

「は?俺は嫌だ!!何故わざわざ嫌われに行かないといけないんだ!!」



 パニックというか暴動が起きそうである。



「とにかく、これで入る理由になるだろ?」

「も、もちろんです。王命ですから」

「そりゃどうも。おら、さっさと歩け」



 もう少し丁寧に扱えよ。



「こっちの方が罪人っぽいだろ?」



 サディストめ。



「本当マジでお前に全部かかってるからな?」

「任せろ。これでも実力だけで王の首元に潜り込み馬鹿集団の創設者になった男だぜ?」

「逆に不安だよ」



 ゾウの通り道かと思わせるような橋を渡り、大きな門の前に立つ。



「お前の死に様楽しみにしてるぜ」

「俺様の無実証明も努力しろよ」

「はいよ」



 地震でも起きたかのような揺れと共に、門が大きな口を開く。



「さて、お初にお目に掛ろうか」



 遂に俺は彼女に出会う。



 ◇◆◇◆



 <side???>



「今日もお綺麗ですね。湖に咲く一輪の花ですら嫉妬してしまう美しさです」

「あ、ありがとうございます〜」



 めんどくさい。



「その瞳はどのような宝石と比べようとも一段と輝いているでしょう」

「そんなぁ」



 人の目を物なんかと比べんなアホ。



「成長した姿が楽しみですなぁ」

「おほほほ、そうですねぇ」



 誰の体が発展途上じゃ!!



「皆様方、姫様は少々お疲れのようですので」

「これは失敬、家臣として失格ですな」



 そうだよ!!



 やめちまえお前なんか!!



 私の体ばっかりジロジロ見やがって!!



「そ、それでは失礼しますぅ」



 逃げるように私は会場を後にした。



「無理!!死ぬ!!てか殺すぅ」

「姫様落ち着いてください」

「これが落ち着いてられ」



 バチン



「……へ?」

「落ち着きましたか?」

「た、確かに落ち着いたけど……え?今叩いた?」

「落ち着いたなら何よりです」

「え?叩いたよね?私これでも王女ぞ?この国のトップぞ?」

「姫様は今日も冗談がお上手ですね」

「今姫って言ったじゃん!!どう考えも冗談じゃないじゃん!!」

「姫様、今はふざけている場合じゃありません」

「ふざけ始めたのサヤだよね?私ずっと真面目だよ。これでもかってくらい真面目だよ」

「これを」

「何これ」



 サヤが何かを手渡してくれる。



「なんか触ったらドッキリ箱とかいうオチじゃない?」

「それは昨日ので最後です。私は同じネタを二度も擦るような底辺芸人と同じにしないでください」

「めちゃくちゃ失礼だよ!!謝ってきて!!」

「アクトグレイスが捕縛されました」

「話を逸ら……ホント?」

「はい」

「遂に捕まったんだ」



 そっか



「捕まったんだ」



 別に悲しいというわけではない。



 彼とは昔からの付き合いではあったけど、性格悪いし。



 捕まって当然のことをしたと思うけど



「なーんか、気に食わないんだよねぇ」



 この事件。



 何か裏があるようにしか思えない。



「秘密裏に調べることは致しましたが、やはり人数的にも厳しいものがあり」

「分かってる。サヤは何も悪くないよ」



 そう、ただ単にこれは私の気まぐれ。



「でも……なんていうのかな。魚の骨が引っ掛かる感じ?」

「姫様お魚食べないじゃないですか」

「だってあれなんかキモいんだもん」

「お肉も同じでは?」

「見た目が普通ならセーフ」



 食べ物なんて見た目が結局ミソである。



 今度学会に発表しようかな?



「申し訳ありません」

「だーかーらー、サヤは悪くないって」

「では誰が悪いのですか?」

「そりゃ……まぁこの事件の真犯人?」

「それが姫様の勘違いであったなら?」

「そうなると……私……かな?」

「安心しました」

「勝手に安心しないで!!私も悪くないから!!絶対私は悪くないから!!」

「どうやらシウス様が捕縛されたそうです。さすがですね」

「げぇ」



 シウスかぁ



「私あの人嫌ーい。いっつも私のこといじめてくるし」

「それは姫様が舐められ……コホン。愛くるしいからですよ」

「そんな古典的な方法じゃ誤魔化せないよ?」

「失敬」

「ホントにね!!」



 うーん、でもやっぱりなー



「私、一回会ってくる」

「危険では?」

「どうせめちゃくちゃ拘束されてるなら大丈夫でしょ」



 サヤを連れて無駄に長い廊下を歩く。



「気をつけて下さい。奴の噂を聞く限り、きっと姫様に欲情し、あらゆるセクハラの数々で姫様の痴態を拝もうとするでしょう」

「実はそれをサヤにもされていることをご存知?」

「姫様が悪いんですよ!!」

「なんか追い詰められたストーカーみたいなこと言い出したんだけど」



 廊下を歩いていると



「こ、これは姫様!!本日はどのようなご用件で」



 王宮内に召集された騎士と出会う。



「いえ、実は大悪人、アクトグレイスに会いたくてですね」



 何気ない一言だった。



「へぇ」

「姫様お下がり下さい」



 一瞬でサヤが私の前に出る。



「おっと、そんな警戒しないでくれよ」

「何者だ!!」



 サヤがこんなに殺気立ってるのを初めて見る。



 それだけ、今の状況の危険性を指していた。



「安心しなよ姫さん。僕はただ頼み事をされたついでのお使い中だ。こうして姫様が来たなら僕の仕事は全て納め終わり。いや、帰ってジュースでも飲みたいねぇ」



 騎士と思っていた男の顔が変わる。



「聖女の力がなければこの国なんてこんなもんさ。いや、奴らがみんな化け物過ぎるだけかもだけどね」



 何かをブツブツと喋る未知。



「さて、君達の会いたい人物はこの奥にいる。凄いくらいに拘束してるけど、化け物をそんなオモチャで閉じ込められるはずないんだけどね」



 笑いながら



「安心してよ。姫さんの考えは間違いじゃない」



 そして別人へと変わった何かはどこかに歩いていった。



「はい、邪神教。さっき牢に送った?ですがこちらにも……はい。お願いします」



 サヤが報告を終える。



「行きます」

「な!!危険です。罠が」

「サヤ、今私を守れた?」

「……」

「大丈夫。いつだって何とかなってきたんだから」



 私はどうやら相当な闇の中に足を踏み入れたようだ。



「アクトグレイス」



 一体何を隠しているの?



 ◇◆◇◆



「どうして誰もいないの?」

「これも奴の仕業というわけでしょうか」



 薄暗い部屋。



 先程の煌びやかな部屋と違い、まるで世界が変わったかのような場所。



 周りが石で囲まれており、どこか清潔感がない。



「ここは牢獄なんかめじゃない程の凶悪犯が捉えられる場所です。王宮こそが最も安全で、奴らからすれば最も硬い牢ですから」

「分かってるよそのくらい」



 歩く。



「今は、アクトグレイス以外はいないの?」

「10年ぶりですね」

「そっか」



 それほどなのか。



「グレイス家の管理しているものはどれも一級品の危険性を持っています。それを持ち出したとなれば、世界レベルで大きな混乱が起きるのは必然」

「でも、彼がそれ程のことを起こせるとは思えないんだよ」

「同じ意見です。ですが、僅かながら一つの可能性がなくもありません」



 サヤは静かに



「生まれてから今まで、常に自身を偽り続けているとしたら」

「それは確かに人間じゃないね」



 何かが見えてくる。



「ご対面か」



 心臓が恐ろしい速度で波打つ。



 恐怖というものに疎いだけかもしれないが



「サヤ?」

「申し訳ありません。少し体が動かなくて」



 きっとこれは共通していることなのだろう。



 暗闇の中で、僅かにそれが輪郭を帯びる。



「来たか」



 声



 もっと凶悪な声かと思っていたが、むしろどこか優しさを感じた。



「待ちくたびれたぜ」



 笑い声が響く。



 その言葉はまるで、自身の行動が全て読まれているかのようでゾッとした。



「あなたが……アクトグレイスですか?」

「俺様のことを忘れるとは教育がなってないなぁ」



 そして距離は次第に縮まり、その顔を確認する。



 そして彼と私は同時に



「可愛よ」

「あ、以外とイケメン」



 それが私が彼と真の意味で出会った日である。

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