第94話
確かにシウスからの連絡には明日の時刻が書かれていた。
確かに俺の目的はシウスとの接触であり、迂闊に外を出歩く必要はなかった。
確かに俺はどちらかと言うとMだ。
だがしかし!!
「これは俺様が望んだものじゃない!!」
「はい、あーん」
監禁生活2時間目
俺は拷問を受けていた。
「自分の手で食うから!!」
「いやいや、ここは甘えようよ?」
「ならこの縄解け!!」
「それはむーり」
桜の目的は何なんだ?
「……」
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
何がついてるかと言われれば可愛い顔と答えるが
「ん?」
桜は不思議そうな顔を浮かべる。
「いいだろう、甘んじて受け入れてやる。だが!!いつか必ずこの借りは返してやる!!」
俺は桜の持っているスプーンに齧り付く。
「美味しい?」
「人生で一番な」
俺は黙々と食事にありつく。
その間、桜はただ笑って食事をくれた。
「美味かった」
「はい、お粗末様」
桜は食器を片付け始める。
奥から水の出る音。
食器でも洗っているのだろう。
それと同時に
「静かだな」
それ以外の音が一才聞こえない家。
「……」
桜は寂しいのかもしれない。
俺の件でユーリも忙しいだろうし、アルスもいない。
リーファも奴のことを考えれば少し元気がないのも検討がつく。
「はぁ」
だけど今はリアの件が優先だしな
「なぁルシフェル、少しーー」
目眩。
「お?」
徐々に世界が揺れる。
「な、なんだ?疲れてるのか?」
「あ、効いてきた」
桜が部屋に戻る。
「桜?これは一体」
「え?ただの睡眠薬」
「は?」
ナチュラルサイコパス?
「アクトさ、何日寝てない?」
「……」
「食事も久しぶりだったんじゃない?じゃなきゃアクトが素直に食べるとは思えないもん」
「……」
「リアちゃんのために頑張るのもいいけど、今は多分動く必要のない時間でしょ?」
「だが」
「分かるよー、ジッとしてられないんでしょ?」
その言葉はまるで俺の中を見通すようであった。
「大丈夫、安心して」
天使の姿をした悪魔は囁く
「これはしょうがないの。アクトが眠っちゃうのは私のせい」
「桜の……せい……」
「そう、しょうがない。大丈夫、アクトはちゃーんとリアちゃんの為に動いてるから」
「俺は……ちゃんと」
桜の慈愛の顔を最後に、俺の視界はブラックアウトした。
「だからこれも私のせい」
◇◆◇◆
チュンチュンチュンチュン
「朝?」
寝ぼけた目を擦る。
「あれ?」
手が動かせる。
「縄が解けたのか?」
てか俺はいつの間に寝てたんだ。
「記憶が……」
食事をしたことまでは覚えているが
「あれ?アクト起きてたの?」
同じく眠そうに目を擦る桜。
「ああ」
「どう?体は大丈夫?」
早速心配か。
なんて優しい子なんだ。
「問題ない。頭もどこか冴え渡っている」
「そっか、よかった」
よかったか。
「ところで桜」
「なぁに?」
「頭が冴え渡った俺様でも分からないことがあるんだ。聞いていいか?」
「私に答えられることから」
ベットから起き上がる拍子に桜の方から紐が下がり落ちる。
「何故……一緒ベットにいるんだ?」
桜はポカンとした顔をした後
「恥ずかしいこと言わせないでよ」
桜ははにかみ
「一緒に寝たからに決まってるじゃん」
◇◆◇◆
「本当に私は行かなくていいの?」
「シウスの目的は桜を懐柔することだ。お前が敵に周る方が後々厄介になる」
「そんなヘマをするつもりはないけど、アクトは心配性だから仕方ないね」
まるで通い妻のような雰囲気を醸し出している桜だが、俺らにそういう関係は一切なく、昨夜も特に何もなかった。
大賢者である俺には全て分かっている。
「行ってらっしゃい」
そんなラフな格好の寝ぼけた顔してたら俺勘違いしちゃうよ?
もう俺の中では夫の気分だけど大丈夫?
「大丈夫じゃないな」
気持ちを切り替える。
今は
「妹を優先する」
どちらにせよ俺は家族思いだと分かった。
目的地は桜を洗脳した例の廃墟。
だが少しおかしなことに気付く。
「騎士がいない?」
ここ最近街を歩いたおかげで騎士の徘徊ルートを知り、俺のいつの間にか鍛えられた隠密スキルで撒くことができていたが、今は
「本来ならここを歩いてるはずなんだけどな」
おかしいな。
「またあいつの仕業か?」
と思ったが
「美味いよ美味いよ!!今なら全て特売!!」
「今なら焼き鳥一本おまけで私が食べると!!今が買い時買い時」
普通に人は往来している。
「ユーリが何かしてくれたのか?」
まぁ勘繰ったところで今がかなり動きやすいことに変わりない。
「善は急げと言うが、悪党と暗躍する場合は急いでいいのか?」
変な疑問を抱きながら俺は走った。
◇◆◇◆
「やっと来たか」
地下の階段を降り、傲慢に座するシウス。
「桜がいないことには反応しないんだな」
「あの嬢ちゃんがそう安易と俺の話に乗ってきたらそれこそ何か裏を疑っちまう。それにそれだけの女なら俺が誘うわけないだろ」
「それもそうか」
クソ暑いフードを脱ぎ、置いてあるソファーに腰を下ろす。
「何だ?少し色っぽくなったか?」
「お前も男色か?」
「俺にそんな趣味はないが、雰囲気が変わったな」
マユの話を少し思い出す。
「俺様がどうだろうと関係ないだろ?」
「関係あるな。俺を呼んだ理由こそ、お前らグレイスに関わってることなんだからな」
「そりゃそうか」
どうやら犯罪者同士、話は早めに進むようだ。
「喜べ、前回の何千倍のお宝を用意してやった」
俺は例のヤバヤバ書類を大量に出す。
「……」
一枚を手に取り、シウスは目を通す。
そして
「こりゃ凄いな」
唸る
「これで奴を地の底に落とせ。代わりに俺様とリアの今後の生活を保障しろ」
「話は最後まで聞いた方がいい」
奴にとって最高の宝である紙を無造作に捨てる。
「確かに凄い。だがこれは数日前までの話だ」
「どういう意味だ」
「王宮の中に邪神教が侵入した」
嫌な予感がする。
「お、おい、分かってるのか?王宮といえば」
「そんなもん誰よりも俺が分かってる」
そう、そう言わしめる程の警備があそこにはある。
だからこそ、それを唯一可能にしてしまう
「賊は一応途中で捕まりはした。だが」
「侵入されただけでも大問題だ」
「ちなみに侵入した奴は誰だ」
シウスは面倒そうに
「奴は自身を邪神教幹部、サムと答えた」
頭を抱える。
「何やってるんだあいつ……」
やっぱりあいつの考えてることわかんねぇや。
「結果、今はグレイス家が警護に当たっている」
「待て、確かに武力面や捜査面で考えればグレイスが選ばれるのも納得だが、今は俺様という不安分子を出した家だぞ?」
「その時偶々王宮にいたのがペンドラゴとマーリンだったんだ」
「チッ!!」
最悪なタイミングだ。
「顔を変える人間がいると分かれば、信用のある俺ですらも王の近くに立てないのが今の現状だ」
「…まさか」
「俺は疑ってるな。そして確かにお前が以前話した通り、どうやら繋がっているようだな」
諦めたようにシウスは椅子に深く倒れる。
「三代貴族と邪神教か」
「隠す気がないのか」
ザンサと邪神教は実はとっても仲良しさんだ。
この前サムに伝えたのは、邪神教の誰かさんに
『ザンサ裏切ってますよー』
的な文章を一筆し、お怒りの邪神教とザンサを接触させた。
そして時間稼ぎというか、間に亀裂を入れるために集合場所と予想される場所に色々仕掛けたんだが
「上手く話し合ったようだな」
邪神教との仲を取り持ち、かつ俺がグレイス家に侵入していたのも見破られていた。
「厄介過ぎる」
さすが難易度最上級のリアルートの敵だ。
骨が折れるどころの話じゃないな。
「さてどうする?俺には今この状況を打破する方法が一つある」
シウスが笑う。
「……あり……かもな」
「正気か?」
シウスはこう言いたいんだ。
「俺様の命を持ってくと言うことだろう?」
グレイス家はマユと今リアの中にいる神を管理してきた。
このことはきっと王族側も知っている話であろう。
なら、そのリアの居場所を知る俺は喉から手が出るほど欲しい状況だ。
「俺様の命をお前に預けてやる、シウス」
「……」
「だが必ずだ」
俺の体から黒い何かが溢れる
「必ずリアを守れ。いいな」
「まずいな」
シウスは冷や汗を垂らす。
「餓鬼と思っていたが、まさか悪魔との契約だったなんてな」
それでもこの男は笑う。
それこそがこの男がシウスたる所以。
「いいだろう、お前の首と引き換えに」
シウスは立ち上がる。
「国をひっくり返そうじゃないか」
悪人とラスボスは握手を交わした。
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