第92話
バチン
「は?」
何故かビンタされた。
「初めまして、未知の存在よ」
あれ?
「私の名前はマンユ。愛称でマユと呼んでくれ」
「え、いーー」
バチン
「初めまして、未知の存在よ」
「これRPGのはいって答えるまで進めないやつか」
俺は観念し
「で?マユ。お前はどこまで、何を知ってる」
「何を知るかと問われたら、何も知らないかな?」
「は?」
「今の私はまだまだ未熟だ。魔力も十全ではなく、存在もおぼつかない。だから記憶すらも曖昧なものになっている」
「つまり?」
「君が何者かやら、神々についての問いに対してきちんとした答えは望めないということだ」
マユは髪を払い、優雅に茶を飲む。
「あー、安心してくれ、君の聞きたいことの答えはしっかりと持っている」
「それが聞ければ十分だ」
俺は同じく啜り
「お前と対を成すって奴はなんなんだ?」
「そうだな」
テーブルにお茶を置くことで、金属音が鳴る。
「簡単に言えば手のかかる妹みたいな奴だ」
「妹?」
「彼女は純粋で、モノの判別がまだつかないんだ。人を殺すことに躊躇いはなく、言ってしまえばオモチャで遊ぶ感覚なのだろう」
「なら、対をなすお前は違うのか?」
「答えは否だよ」
マユの雰囲気が少し変わる。
「君達の尺度で測れる程神は安くない。ただ偶然、私は君達に恩恵のある性格で有り、彼女は君達に害をもたらす存在だった。時期が違えば私と彼女は逆の立場、もしくは同じ存在として扱われていただろう」
ま、そんなことはどうでもいい。
神がなんだろうが、俺にとっては些細なことだ。
「それで?そいつを追い払えるのか?」
「難しいね、まぁ当然だ。彼女の力は絶大だ。だって神なのだから」
「おいおい、神様がそんな自由に闊歩してていいのか?」
「いいわけなかろう。だからいるんだろ?」
指を差される。
「君みたいな抑止力が」
「は?」
何言ってんだ?
「それは真だろ?」
「私も最初は真君と思ったさ。君より爽やかだし、魔法が使えるし、何より誠実だ」
「おい」
それだとまるで俺が色んな女の子に手を出す節操なしみたいではないか。
「だが、結果的にあの子は君を選んだ。私からすればもう少しいい男の方がいいと思うがな」
「初めて意見が一致したな」
アクトを選ぶなんて有り得ないだろ。
「英雄色を好むというように、これまで多くの抑止力が世界に現れた。どいつもこいつも真っ直ぐで、鈍感で、優しく甘く、そして強かった」
「どう考えても俺様に該当しないな」
「そうだな。私もきっと信じていなかっただろう。だがな」
目線の先
「初めてだ。そんな怪物と一緒にいる人間は」
「え?我?」
さすが神というべきか、同じ神であるルシフェルを認知している。
「最初君が店に訪れた時はどうやって逃げようか考えたよ。だけど、どうやら力がかなり、いやほぼ全て削がれているようだ」
俺はいつの間にかルシフェルを連れて逃げようとする。
「安心しろ、殺すなら今までに何回も出来たし、そもそも私では君に勝てない」
「いや神に勝てるはずないだろ」
「そうだな。私もそう思う。だが、その不可能を可能にする現象を私は知っている」
俺は瞬時に思い浮かべる。
「ご都合主義」
神の加護。
「愛の女神に目をつけられた存在は、否が応でも世界に変革をもたらす」
まさか
「桜を助けた時」
あの時俺に愛の女神の加護がついた?
「だが、君はどうやら運命に嫌われている……いや、奴の性格を考えればとびっきり好かれいるのか」
何を言ってるんだ?
「愛の女神は成長をもたらす。だが残念なことに、君の体は成長できない。まるでそうあるべきと生まれたように」
「まさか」
考える
「ゲームのシステム上、アクトは弱くある必要がある。だからアクトは生まれつき魔力が無く、体が強くなれなかった?」
メタ的考えだが、納得はいく。
「だが、どうやらその怪物の影響か、君は少しずつ世界という絶対的理に反しようとしている」
「なんのことだ?」
「そいつの力を借りるたび、君は少しずつ人間をやめている」
ルシフェルと目が合う。
「わ、我はそんなつもりじゃ……」
動揺している。
「体が魔力で出来ていたり、体が自然と発達していたのもこれが理由か」
「違うんだアクト」
ルシフェルは泣きそうな目でこちらを見る。
「我はアクトのためと思って」
さっきから何言ってんだろこいつ
「何でわざわざパワーアップを嘆いてるだ?」
ルシフェルは呆けた顔をする。
「だ、だって、神になれば人間に戻れないんだぞ?下手に止まれば新しく現れた抑止力の手によって消されることだってーー」
「どうでもいいな」
そいつが現れるまでに全てを終わらせればいいだけの話だろ?
「面白いじゃないか。俺様は一度神になったらしたいことがあったんだ」
「したいこと?」
そう
「覗きだ」
神は魔力の塊だ。
つまり人間から目視されなくなく。
つまり
「ヒロインのムフフな姿を見放題だ。ラッキーだな」
「アクト……」
ルシフェルがこの世のゴミを見るような目でこちらを見る。
だが俺にそんなものは効かん。
「おい、話が脱線し過ぎだ。早くリアからそれを剥がす方法を教えろ」
「うーん」
マユは少し悩み
「剥がす必要があるのかい?」
「は?」
何言ってんだ?
「だって危険なんだろ?」
「まぁ確かに危険だ。きっと真君が抑止力なら完全に敵対してただろうね」
だが違うと
「今回の主役は彼じゃない、君だ」
それはまるで悪魔の囁きであった。
「君は全てにおいて未知だ。謎の知識、不可思議な体、過去と一致しない性格に私すらも恐れる怪物と共にいる。さて」
徐々に姿がいつもの老人へと変わっていく。
「彼女は人類の敵になる可能性は極めて高いだろう。だが、君の味方にならないかは別の話だ」
そして姿はいつものマロの姿になり
「これは実は私のエゴでもあるんだ」
そして口調は優しいものに変わり
「リーファは私にとって娘みたいなものですが、彼女は先程言った通り妹みたいなものなのです」
だから
「どうか、よろしくお願いします」
そしてドアの向こうへと向かった。
「はぁ」
別に俺がヒロイン以外のお願いを聞く必要なんてないんだが
「リーファの恩は俺も背負うべきだ」
自己勝手を極めた俺は
「いいだろう」
神を救ってあげることにした。
◇◆◇◆
俺は日が顔を見せる数分前に店を後にする。
一応リーファに置き手紙をした。
内容は
『寝てる間に色々しておいた』
といった感じで、リーファの心配を晴らす上に嫌われるという完璧な作戦だ。
「さて」
フードを深く被る。
今日のミッションは先日回収したヤバヤバの機密文書を王側に提出することだ。
その伝手というか、最も近い男こと
「シウスに会う」
これが今日の目標だ。
奴は幸福教のトップで有りながら、王の側近という完全に終わってる奴だが、利害さえ一致すれば協力してくれる。
そしてシウスとザンサは昔から犬猿の仲だ。
お互い見られたくない腹を持つ者同士、同族嫌悪でも発揮されているのだろう。
つまりこれを渡せば晴れてリアは奴らの追っ手から解放される。
「普段なら会いたくないクズだが、いざ会うとなると中々会えないあたりやっぱりクソだな」
今回ばかりは骨が折れそうな案件だ。
だが、これまで数々のヒロインを救い、沢山の人間に不幸と幸せをばら撒いた俺ならきっとなんとかなるだろう。
「よしルシフェル、気合を入れていーー」
「あ」
まるで何か探し物を見つけたような声がする。
「誰dーー」
「よし」
いつの間にか俺は何かにグルグル巻きにされる。
「は?」
「じゃあ」
百満点の笑顔を
「行こっか」
桜は見せた。
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