第91話
「起きた?」
「ああ」
外はかなり暗くなっている。
「はいこれ」
リーファが俺の前に皿を置く。
「お腹空いてない?」
「いや」
俺は手を合わせる。
「食ってやる」
無言で食事に貪りつく。
「……」
幸せと同時に重い罪悪感がのしかかる。
きっとリアは一人で空虚なご飯を食べているのかと思うと
「早くどうにかしないと」
また以前のような楽しい生活にもどるために
「それで?説明してくれるよね?」
リーファは俺の座っているソファーの前に座り、同じく食事を始める。
「そうだな」
俺は今まで起きた出来事をまとめた。
「ふ〜ん」
リーファは思っていたよりも淡白な返答をする。
「ねぇアクト」
「何だ」
リーファはフォークを料理に突き刺し
「私が人を殺したいって言ったら、どうする?」
肉を口に放り込む。
「好きにすればいいだろ」
俺は心からの答えを出す。
「止めないの?」
「どうして俺様が止める必要がある」
俺はリーファを不幸から救うが、君達を縛るつもりはない。
リーファが人を助けようとするなら人を助け、リーファが世界を滅ぼすというなら同じく滅ぼそう。
「俺様からすれば」
リーファは
「どうでもいいからな」
それらを上回る程の存在なのだから。
「そっか」
リーファは表情を見せずに水を飲み。
「グレイスねぇ」
リーファは昔を思い出すように天を見上げる。
そこにある思いを俺は知っている。
「復讐するなら手伝ってやってもいい」
「……」
利害の一致という名目があれば、俺は面と向かってリーファを助けてあげられる。
「ううん」
だが否定する。
「もうそういうのはいいかな」
どうやらリーファが既に満たされているらしい。
「前まではただただ恨んでいたけど、今の生活は楽しい」
リーファは食事を片付け始める。
「そういう泥臭いのもいいけど、私は今の生活を守る方が大事かも」
「そうか」
「だけどね」
彼女は振り向き
「今の生活を壊すって言うなら容赦はしない」
そこに強い意志を感じた。
「アクトは隠し事は多いと思う。桜とかアルスとかユーリみたいに私はあなたのことを知らない」
彼女はもう一度椅子に座る。
「でもさ、時々勝手に思うんだ。アクトはもしかしたら誰かのために頑張ってるんじゃないかって」
リーファは少し躊躇いながら
「もしそれがさ、桜達だったらきっと、こう思ってるはずだよ」
好きに暴れろ
「って」
「好きに暴れろか」
「多分アクトはいつも後先ばっかり考えてると思うんだ。だから周りくどくて、大変な茨の道を進む」
「そんなんじゃない」
今までも色んな最善の道があっただろうし、もっとやりようはあった。
「俺様は好きに動いてる」
「本当に?」
リーファの緑の瞳がまるで俺の心を透き通すように覗き込む。
「……」
一瞬、見惚れてしまう。
「アクトは不自由だと私は思うな」
「俺様が?」
「うん」
リーファは少し下を向いた後
「一つだけ……友達としてお願いあるの」
それは
「もし、奴にギャフンって言わせるならさ」
笑い
「派手にやちゃって」
俺の枷を外す言葉だった。
◇◆◇◆
「おやすみ」
リーファはそのまま眠りについた。
目の前に覗き魔がいるにも関わらず、警戒心の薄い子だ。
「全く」
俺は以前見つけた毛布を勝手に取り出し、リーファに被せる。
そして
「ご対面か」
俺は目的地に向かう。
とある扉の前
「どうぞ」
先に声を出される。
「どうしたんだい?アクト様」
楽しそうに出迎えるマロ。
「別に」
俺は傲岸不遜な態度で座る。
「お茶をいれますね」
マロは慣れた手つきでお茶を入れ始める。
「お前か?」
「なんのことでしょう」
「ヒント」
俺は頭の整理も含めて話す。
「最初は偶然だと思ってたんだ。前の世界線でも、今の世界線でも、真がここを選んだ理由は」
「世界線?」
マロは俺の前にお茶を置く。
その所作はどこか気品溢れるものであった。
「でももしそれが何かに導かれた……いや、何かに引き寄せられていたとしたら?」
俺は手探りが如くピースを埋めていく。
「原作に置いて、お前の登場シーンは限りなく少ないが、それでもやはりリーファの存在を語る上でお前は幾たびか登場した」
これはむしろ独り言に近い。
「そしてその時感じた違和感があるんだ」
当然ではないが、おかしな光景
「お前が人と話しているところを見たことがない」
「こうして私はアクト様と話ているよ?」
「そうだな」
そう、これまで話した相手は
「皆がメインキャラクター」
ゲームでモブとマロが喋ったところを見たことがない。
それはゲームの都合で出ていないだけかと考えたが
「もし、違ったら?」
もし彼らがマロを認識できていなかったら?
「チッ!!サムの野郎」
もしこの考えが正解だとすれば、Aはずっとサムのままだったということだ。
あいつは俺を騙す形で何かを図っていたという事実がそこに現れる。
「偶々だよ」
「そうか、だからリーファがデモ集団に追い詰められている時、偶然買い出しに行っていたのか」
「ええ」
そう、ここまではただのこじ付け。
「そしてここからが本題だ」
過去を遡る。
「知っての通り、リーファには弟レオが存在した。そしてレオは最近消えた。何故だと思う?」
「……」
「そう、邪神教の手によって消されたから……じゃないよな」
そう、違った。
「リーファが満たされるからだ」
何故原作で登場したレオが消えたのか
「真という存在とより親密になるためには、リーファはレオという存在から解放される必要があった」
サムは言った。
奴は人間の範疇を超えているが、神には届き得ないと。
それが意味するのはつまり、神の作り出したレオがそいつの力で消せるとは考えにくい。
「だから自然に、俺みたいな覚える奴が勘違いする様にしたんだ。邪神教の手によって消されたと」
マロは喋らない。
「さて問題だ。何故神はそんなお粗末な行動を取ったのか」
お粗末という言葉に反応する。
「俺と同じだからだ」
無理やり他人に幸せを押し付ける。
全く持って俺と同じ思想をした。
「現実を楽しいと思って欲しかった。素敵な出会いをして欲しかった。娘を大切にする母親のように、リーファの幸せを願った結果だ」
リーファの魔力によって目覚めた奴は、レオという弟を与え、そして
「お店という彼女の居場所を与えた」
答えはもう目の前
「そしてこの結論に至った最後の答えだ」
最初はグレイス繋がりでここに飛ばされたと考えたが
「ザンサは言った。奴に対になる存在がいると」
そして奴は言った。
最近になって力が活性化したと
「思い当たる節がある」
真が加護をもらい、俺と戦った際、真の力を利用してレオは俺に話しかけた。
それがターニングポイントだとすれば
「養子であるリアにそれがいるとすれば、実子であるリーファに何かが憑いててもおかしくないんじゃないか?」
俺が飛ばされた先はリーファではなく
「お前だろ?」
「一つだけ」
姿が変わる。
「間違いがある」
皺だらけの肌はみるみる潤いを増し、折れた腰がまっすぐに立ち、髪はリーファのような綺麗な緑色に変わっていく。
ヒロイン以外眼中にない俺が、少し鼓動が速くなる程度の美貌がそこにあった。
「私が求めたのは真君ではなく、アクト、君だよ」
うちの神様と違い、神聖な空気を纏う。
「初めまして、未知の存在よ」
貴族のような挨拶と共に
「私の名前はマンユ。愛称でマユと呼んでくれ」
親しげに接する彼女に俺は
「え、嫌だ」
同じく親しげに返答するのであった。
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