第90話

 まさかもう帰ってくるなんてな。



「愚息かと思っていたが、まさか蛇だとは思ってもいなかった」

「そりゃどうも。俺もお前の無駄な優秀さをスッカリと忘れていたよ」



 軽い挨拶を交わす。



「いつの間に奴らと……いや、何故俺様が奴らと関わっているのを知っていた」

「おいおい、息子のことを今まで見向きもしてなかったのによくそんな台詞が吐けたな。親が思ってるよりも子供ってのはその汚ねぇ背中見てるんだぜ?」

「そうか……」



 ザンサは少し悲しそうな顔をする。



 あーあ



「これだから」



 コイツは嫌いだ。



「利用価値を見出せなかった俺様の落ち度か」



 どこまでいっても自分ばかりだ。



「アクト、お前にもう一度だーー」

「断る」



 言葉に耳を傾ける必要はない。



 俺が奴に籠絡されるとは思えないが、奴の手腕を舐めればいつか刺される。



「どうした、前みたいに俺様に頼れ」

「はぁ」



 気持ち悪ぃ。



「いいだろう。俺様の質問に答えたらもう一度前のように従順な息子に戻ってやる」

「何だ、言ってみろ」

「この部屋はなんだ」

「……」



 ザンサは熟考する。



 それは解答の仕方について考えているのでなく



「リアか」



 俺への弱点を炙り出すための行為だ。



「いいだろう」



 甘んじて受け入れてやると奴は言った気がした。



「この部屋は見ての通りあるものを封印していた」



 いた……か



「誰かさんのせいで封印が剥がれたと?」

「そうだ。お陰で全ての罪をお前に擦りつけるしかなかった俺様の気持ちを考えろ」

「そりゃどうも、おかげで人生最高潮の人気者だ」



 俺の皮肉にも奴は反応しない。



 何故なら奴からすれば悪いのは完全に俺であり、自身のが悪事を働いたという認識がないからだ。



「元々は俺様達グレイス家が封印していた」

「……」



 初めて聞く話だ。



 何故ゲームで登場しなかった。



「今までは対処可能なレベルだったが、チッ!!片方が活性化しやがったせいで力を取り戻して来やがった」

「??」



 マジで分からん。



 あえて言葉を避けてるだけだと思うが、それはそれで説明下手だなコイツ。



「つまり何だ?何かのきっかけでヤバイのが活性化し、それを」

「リアに封じ込めていた」



 やっば。



 そんなヤバイの娘に封印するとかイカれてるのか?



「何故リアを?」

「色々都合が良かったんでな。高い魔力、奴を抑えつける精神力、何より」



 ザンサは飽きられたように



「俺様を裏切ったからな」

「やっぱり」



 リアの状態はグレイス家のイベントを終わらせた後の全てが吹っ切れた姿。



 つまり今までのグレイス呪縛から解き放たれた彼女は、当然のように牙を向いた。



「惜しいな、俺様をあそこまで追い詰める存在が敵に周るなんてな」

「ふん」



 当然だろ。



 リアは可愛くて天才なんだからな。



 お前みたいな共感性無知とは違うんだよ。



「なら何故ここからあの時の嫌な気配がまだ漂っている」

「封印は途中だった。リアの体に半分が入り、もう半分は逃げ出した。餌を用意して半分はここにもう一度封印しているが、触媒がなければすぐに出てくるだろう」



 ほんっと、こういうみんなの為ですよ出すのはうまいよな。



「お前がリアを気にしているのは分かった。安心しろ、俺様がお前を今まで通り好きにさせ、リアももう少し時間を置けば解放してやる」



 だからと



「俺様の元にーー」

「嫌だね」



 だって



「嘘だろ、それ」

「……」



 全く、感情が気薄のくせに人の感情を手球に取るもは上手いなホント。



「アクト。分かってるのか?お前の選択は自身もリアも失ってしまうことだ。俺様一人ならリアを犠牲にするしかなかったが、力を合わせれば前のような生活に戻れるかもしれないんだ」



 もうこいつ無理ぃ。



 マジで邪悪だよ。



 これで最初みんな甘い言葉に騙されてついて行ったら毎回毎回



「はぁ、お前の虚言は聞き飽きたよ」



 アクトが純粋な邪悪だとすれば、コイツは善の皮を被った邪悪だ。



「おい、どうやったらリアからそのヤバイもんを引き剥がせる。それだけ教えろ」

「何を言ってる。それを言ってしまえばお前は戻ってこないだろ?」

「当然だろ」



 お互い何かを察す。



「お前が闇魔法を何故か使えるようになった情報は聞いてる。だからこそ、全てにおいて今のお前に勝ち目はない」



 複数の魔法を同時に展開するザンサ。



「エリカよ、もう少し手加減できないだろうか」



 俺がこの場で使えるのは魔法一回分くらいだろう。



 それで三代貴族の長であるザンサにタイマンを挑む?



「無理だね」



 絶対勝てない。



 つまり今の俺の状態は



「詰みだ」



 ザンサが代弁してくれる。



「降伏しろ。何、悪いようにはしない」



 はいダウト。



 リアみたいに記憶を消して調教するのかな?



 人殺しを悪だと思ってない奴の言葉なんて信じませーん。



 まぁ大口叩いたところで、ここからの打開策なんて結局一つしか思い浮かばない。



「……やめておけ」

「俺様もそう思うな」



 俺は扉に手をかける。



「お前が開けるよりも速く、俺様をお前を殺せる」

「だけどその速度と火力を打ち出せば当然、この封印もただじゃおかないだろ」

「死ぬのが怖くないのか?」

「怖いか」



 死か



 そういえば死ぬのって怖いよな。



 う〜ん、でも彼女達のために死ねるなら本望だし、前世だと自殺しようとしたこともあるし



 ……



 まぁいっか。



「お前がこのまま俺様を逃すって言うなら、全員が幸せになれるぜ」

「いや、あり得ない。誰もが死に怯える。そこに例外はーー」

「絶対なんて絶対ないんだよ」



 開ける時に気付く。



 ヤッベ、これでヒロインの誰かが怪我したらどうしよ!!



 だが全て後の祭り。



 死者は死者らしく、生きている人間に託そう。



 未来を紡ぐのは俺みたいな異物ではなく、本来存在するみんななのだから。



 俺はザンサ殺せたらそれでいいや



「……」

「……」



 目が合う。



 どうやら俺は奇跡的に天国に来れたようだ。



 そういえば以前もこういうことがあったな。



 そうそう、武闘大会で真の控え室と思ったら中にソフィアがいた時だ。



 いやはや、ソフィアはどうやら覚えていなかった様子で助かったな。



 いやー、それにしても



「眼福眼福」



 俺はありがたやと手のひらを重ねる。



「こ」

「こ?」

「この変態めぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」



 着替え中だったリーファの綺麗な平手打ちをくらい、俺はここがどこだか気付く。



「やっぱり天国か」



 部屋から追い出される俺。



 ふむ



「天国如きが彼女達の存在する世界より幸せなはずないか」



 俺はここが現実だと気付く。



「ここは」



 周りを見渡す。



 多くの甘味に少し古くさいが味のある雰囲気。



「ランボルギーニ」



 クソダサ名の店だった。



「何故ここに?」



 もしかしてあの部屋はワープポイントか何かだったのだろうか。



「……」



 顔を真っ赤にしながら以前と違い、可愛らしい私服に身を包んだリーファが扉から出てくる。



「私の家に勝手に入った上に、今度は着替え中に入ってくるなんて正気じゃないよ!!」

「俺様は正気だ」



 そもそも男なら女の子の着替えは覗くだろ普通。



 真だって原作で何回もハプニングにあってたぞ?(ゲーム脳)



「さて、Cカッ……リーファよ」

「何で私のサイズ知って!!」

「ここはランボルギーニで間違いないな」

「この後すぐに二重の罪で牢獄に送られるアクトさん。正解ですね」

「何故俺様はここにいる」

「逮捕される為でしょ?大丈夫。私がちゃんとアクトの全ての罪を白状するから」

「待て、俺様は何もしてない。これはザンサに仕組まれたことなんだ」

「うん。私も今まではそう思ってた。そして今、私の正義の心があなたを捕らえろって警報を鳴らしてるの」

「そうか」



 そこまでの覚悟なら仕方ない。



「最期にもう一回だけ見せてくれない?」

「死ね!!」



 リーファの綺麗な正拳突きを喰らいながら思う。



 あの扉のヒントは必ずここにあると。



「マロさん、お店ちょっと借りるね」



 意識を失う最中に、俺の中で一つの答えが見つかった。


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