第89話

「お前の魔法は対策されてる」

「んーそうだねー」



 サムの魔法はどう考えてもぶっ壊れだ。



 体を根本的に作り替え、好きな顔や体つきに変わることができる。



 だが



「街中どっかのウザっこい聖ーー」

「おい」



 自分でも驚く程冷たい声が出る。



「可愛いウルトラハイスペック可愛い女の子によるものだ」

「あ、はい」



 つまり欠点とも言えない欠点。



 聖女による光魔法で街は完全に包み込まれてい

る。



「アクト様のせいだよ?あんなに暴れるから」

「うるさい」



 だがエリカといえど、街全体を覆う魔法などいつまで持つか分からない。



 逆に言えば、そんな不明瞭なもののために時間を使うなど不可能。



「お前への仕事はただ、俺様の言葉を邪神教に伝えればいい」

「ふ〜ん」



 サムは怪しい笑みを浮かべる。



「で?ペンドラゴの娘。アクト様は僕みたいな邪神教とこうして密会してるわけだけど、なんとも思わないの?」

「なんだ、よく喋る舌を斬れという相談か?」

「怖!!」



 ユーリは既に剣をしまい、優雅に俺と同じコーヒーを飲んでる。



「私は私なりの信念がある。邪神教はすべからく私が裁く。だが、お前達がただの罪人か、それとも同情すべき罪人かの区別くらい出来る」

「へー」



 サムは上機嫌にジュースを飲み



「やっぱりアクト様は面白いなぁ」



 小さく呟く。



「それで?僕は何を伝えればいいの?」

「ん」



 俺は紙を渡す。



 内容は正直こんな易々と渡せるものでもない。



「わお」



 サムは小さく、されど彼の内心が大きく揺れ動いたのは明白だった。



「承った。報酬はアクト様自身で払ってもらうよ」

「お前らそういう関係か!!」

「アハハ、アクト様となら面白いかもね」



 急にサムが気持ち悪いことを言い出す。



「おい男色。さっさと動け」

「僕は一応ノーマルだけどね」



 サムはジュースを置く。



「ゼタさんご馳走様。これ、いつもの」

「誰か料理を頼んで欲しいものだね」



 サムはお金を置いて店を出る。



 きっちりとした値段と、それが霞んで見える程の大きな袋。



「全く、本当に彼は」



 マスターは静かに笑う。



「あ!!えっと、初めましてユーリ様。コーヒーと一緒にスコーンなどいかがですか?」

「ん?いや、遠慮しておこう」

「そ、そうですか」



 トボトボと店の物の手入れを始めるマスター。




「また、何か首を突っ込んでるのか?」

「俺様はいつだって自分のためにしか動かん」

「そうか」



 同時にコーヒーを飲む。



「これでアクトの目的は終了か?」

「そうだな」



 一応な。



「明日街に入り、本格的に動く」

「お別れ、というわけか」

「そうだな」



 俺が金を払おうとすれば、ユーリは先んじて料金を払う。



「これくらいさせてくれ」

「そうか」

「コーヒーしか頼んでないけどね」



 俺は店を出る。



 ここは侵入するのは難しいが、実は脱出自体は簡単である。



「おいお前、怪しいな」



 案の定騎士に止められる。



「そうか、俺様は怪しいか」

「俺……様?」



 俺は走る



「な!!おい!!」



 騎士が応援を呼ぶ。



 周りから騎士がゾロゾロと現れる。



「貴様、アクトグレイスだな」

「どうだかな」



 俺はフードの下で笑う。



「観念しろ」

「そうだなぁ、観念するか」



 俺はポケットからあるものを取り出す。



「爆薬?」



 使い道の無くなった爆薬。



「それで我々にダメージを与えられるとでも?」

「まさか」



 この世界の頑丈さは知っている。



「だが、こういう使い道は知らないだろ」



 地面に置いたそれを着火し



「バァイ」



 俺は吹き飛ぶ。



 流石にこの世界でも空を飛べる人間は少ない。



 他界他界された俺は、街の外に追い出される。



「さて、エリカの範囲外に入ったか」



 こうなれば魔法は使い放題。



 こちらに向かって放たれる大量の魔法を全て躱す。



「やっぱりおかしいよな」



 俺の身体能力が上がっている。



「……ルシフェル、着地任せた」

「うむ」



 こうして俺は一度街から脱出した。



 ◇◆◇◆



「これでいいな」



 俺は明日のための準備を終える。



 これでかなりの時間を稼げるはず。



「戻るか」



 リアのいる小屋に帰る。



 隠し部屋の如く地下への階段を開き、降りる。



「悪い、遅れた」

「よかった」



 それから俺は明日のことを考え、あまりリアのことを見ることが出来なかった。



 それが後にあんな結果を生むとは思ってもいなかった。



 ◇◆◇◆



「行ってくる」



 約束の時間までに小屋を出る。



「アクトが何をしたいのか全く分からないぞ」

「ん?まぁ当然だな」



 まぁ未来予知みたいなもんだしな。



「とりあえず任しとけ」



 俺は門の近くに立つ。



「そろそろ日が昇るか」



 太陽が南中した頃



「おい、そろそろユーリ様が言ってた時間だ」

「交代か」



 ゾロゾロと一気に騎士達が門の前からいなくなる。



「よし」



 どうやらユーリは言った通りにやってくれたようだな。



「行くぞ」



 俺は走り、堂々と犯罪者が街に入り込む。



「どこに向かってるんだ?」

「グレイス家だ」

「危険じゃないか?」

「いや、むしろ今しかない」



 俺は全力で街を駆け出す。



「見えた」



 グレイスの本館。



「……」



 相変わらず立っているウラ。



「ありがとう……ございます……」



 彼女は涙を流す。



「開けろ」

「直ちに」



 グレイス家で最も強固と言われる扉がアッサリと開く。



 賭けだが、ある意味最も確実な方法で俺は侵入する。



「あれ?」



 ルシフェルが気付く



「どうして誰もいないんだぞ?」

「さぁ、なんでだろうな」



 俺は真っ直ぐ隠されたザンサの部屋に向かう。



「どんな気分だろうな、数々の防衛が簡単に攻略される気分は」



 久しぶりに知識チートをしている気分だ。



 書籍の本から鍵を取り出し、それを隣の部屋の置物に差せば



「ほら」



 隠し部屋の登場。



「さてさて、世界一汚い宝探しの時間だ」



 ウキウキ気分で侵入する。



 ◇◆◇◆



 中は思ってるよりも質素だった。



「俺が読んでも分からんものばっかだな」



 なんか怪しい文章やら、使い所の分からない道具、それからおそらく



「人さんだぁ」



 語るには少しグロすぎるな。



「さて、とりあえずここら辺を一旦持ち出しますか」



 謎にいっぱい入るバックに詰め込む。



「ん?」



 そんな中で一つ気になるものを見つける



「封印?」



 封印かぁ



 リアのあの部屋を思い出す。



 明らからにヤバい雰囲気が漂った部屋、そしてリアが出てきたと同時に消える嫌悪感。



 もしかしたらあの謎を教えてくれるかもしれない。



「あ?」



 だが



「落書きか?」



 主題だけが日本語で書かれており、後は白紙であった。



 最初はあのゴミも厨二病みたいな落書きをするんだと考えたが



「あいつなら」



 俺は知っている。



 あのクズならこういう時、絶対に何かを隠していると。



 嫌いだからこそ、その狡猾さは身に染みている。



「もう一度」



 これはただの思い違いかもしれない。



 もしかしたらグレイス家の人間が戻ってくるかもしれない。



 だが



「行ってみるか」



 ここで引けば取り返しのつかないことになる気がした。



 ◇◆◇◆



 地下



 俺はもう一度あの部屋に向かう。



「なんだ?」



 近付くと前のような寒気が襲ってくる。



「……」



 前に立つ。



 扉は閉まっていた。



「札が」



 俺がちぎり捨てた札がもう一度貼られて入る。



 まるで



「まだいるのか」



 リアが出てきた時に消えたはずの何か



「……」



 扉を開けてはいけない気がした。



「……」



 開けるな



「え?」



 声



「誰だ!!」



 咄嗟に構えをとる。



 そして気付く



「どうしてお前がここにいる」



 俺は正面に立つ男に目をやる。



「そんなことも分からないのか?」



 全ての元凶は



「俺様がお前の親だからだ」



 傲慢に立っていた。






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