第88話

 大量に押し寄せてくる魔獣達。



「やってくれたか、真」



 きっと今頃街中では真がヒロインと心臓バクバクイベントが引き起こされているのだろう。



「やってくれたな真!!」



 怒りが込み上げてくる。



 自分でやっといて何だが、まるでヒロインが真にNTRた感覚になる。



「ユーリ」

「なんだ」

「この魔獣の混乱に乗じて俺は街に侵入する」

「それを私が許すと?」



 当然だな。



 このカスゴミアクトが人に信用されるなどあってはならない。



 だけどこの場合は話が変わってくる。



「私が感情だけで動く愚かな人間だと?」

「いや、だからこそ」



 俺は彼女を見る。



「お前が俺様を監視しろ」

「それは」



 ユーリは真面目な顔で



「婚姻を結ぶということか?」

「違う」

「違うか……」



 分かってたみたいな顔してるけど、そもそも考える方がおかしいからね?



「それともお前は俺様一人抑えられない程落ちぶれたのか?」



 あえて煽る。



「見え見えの挑発だが、面白い」



 笑う



「いいだろう。私がおはようからおやすみまで監視してやる」

「あ、いや、それはちょっと……」



 そんなことしたら俺の理性が持たない。



「この群れは騎士に任せる」

「ああ」



 ユーリが先んじて街に向かい



「魔獣の群れだ!!総員、戦闘に入れ!!」

「「「「「「は!!」」」」」」

「ユーリ様ぁ」



 騎士達が同時に魔獣に向かって突撃する。



 その隙に



「行くぞ」

「ああ」



 俺はユーリと共にコッソリと街に侵入した。



 ◇◆◇◆



「なるほど」



 邪神教の活動でよく使用していた宿に泊まる。



 ここは高い金さえ払えば色々黙認してくれるため、ある意味最もやばい施設である。



 だがこの宿のおかけでかなり経済が潤っているため、国も下手に動けないところがまた面白いところだ。



「リアは大丈夫そうか?」

「分からん。記憶が戻るかも分からないし、ましてやあの部屋、確実に何か他にもヤバいことが起きてるのは確かだ」

「エリカ様がいてくれたらな」

「ダメだ」



 ここでエリカに協力を頼めば、彼女はきっと助けてくれるかもしれない。



 だが、これが公になった場合



「忘れてくれ……」

「ああ」



 さて、切り替えよう。



 リアの問題やらも元凶に聞き出せば速い話。



「それで?どうするつもりだ?」



 ユーリの質問には、『私達は協力出来ないが』というニュアンスが含まれてるのは明白だ。



「俺様はグレイスの人間。なら、それなりに奴の隠してるあれやこれやはある程度知ってる」

「なるほど」

「だが、それはもちろん」

「物的証拠が必要か」

「ああ」



 そのためにはもう一度、例の本館に行く必要がある。



「私も行こうか?」

「迷惑かけるぞ」

「お父様ならきっと私を切り捨てられる」

「……」



 ゲームの記憶が蘇る。



 確かにアーサーはユーリを家から追い出した。



 だが、あの時とは違い今は



「ユーリを、ただの女の子にしたかっただけかもな」



 アーサーはそういう男だ。



 家も、娘も、みんなを守ろうとする。



 だからこそ



「いらん。俺様一人で十分だ」

「そうか」

「だが、一つだけ手伝わせてやる」



 なんとも傲慢な言葉だな



「明日、俺様を街に入れろ」

「どういうことだ?何故わざわざ街を出る」

「街での目的は元々俺様がすぐに街に侵入できるパイプを作ることだ」

「何か起こすということか」

「ああ」



 ユーリは少し考え



「分かった。明日の正午と共に、門の騎士を下がらせよう」



 なんとも心強い子が味方になってくれたもんだ。



 初めて少なくない好意を抱かれたことを感謝した。



「それで?このまま街を出るのか?」

「いや、もう少し散策する」



 騎士の配置や敵や味方の判別もしなきゃだしな。



「ふむ、それでは」



 なんだろう



「目眩しが必要だね!!」



 嫌な予感がする



「私と一緒に歩けば疑われないよ、アクト君」



 ◇◆◇◆



「♪♪」

「……」



 隣で楽しそうに鼻歌を歌う彼女は、俺の腕に柔らかな腕を絡ませる。



「クッ!!殺せ!!」

「それってどちらかというと私の台詞じゃない?」



 確かにユーリの見た目は完全に姫騎士だな。



「あれ?アクト君鍛えてる?」

「あん?俺様は自堕落の王だぞ?」

「そうだよね」



 そうだけどそうだよね?



「何だか前より腕が太くなってるよ」

「はぁ」



 なんで以前の俺の腕の太さ覚えてるのかな?



「それに、今右から来た騎士に反応してたよね?」

「まぁ騎士の配置は頭に入れたいからな。それなりに集中してる」

「ううん。前までのアクト君なら気付けなかったよ。前は私が同じような角度で覗いてた時も気付かなかったし」



 え?



 俺覗かれてたの?



「ちなみにいつも先にリアが先にいたよ」



 うちの家に住んでる子ヤバイ子しかいねぇ。



「それで?目的地は?」

「協力者がいそうな場所」

「そんな人いるの?正直今のアクト君の味方をしてくれる子なんて桜かアルスかリーファくらいだよ?」

「結構いるな」



 いやホントに結構いる。



 正直彼女達を巻き込みたくないが



「今回ばかりはな」



 特に



「リーファ」



 彼女には参加する資格も理由もある。



「だがまずは」



 最も信用できず、そして今の状況では



「最も頼りになる男の元に行く」

「アクト君」



 俺のキメ顔に、ユーリがトロンとした表情になる。



「すみません」

「え?あ、はい」

「ユーリ様でよろしいでしょうか?」

「ああ」



 一瞬で顔を戻すユーリ。



「えっと、隣を歩いている方は?」

「そうだな」



 友人とでも答えてーー



「彼氏だ」

「え!!」

「え!!!!!!!!!!!!!!」



 え!?



「違いーー」

「あまり邪魔は騎士としてどうかな?」

「も、申し訳ございません!!」



 男はいそいそと帰る。



「おい」

「どうしたの?」

「今のは必要だったか?」

「こっちの方が時短でしょ?」

「確かにそうだが」



 そうだけどねぇ



「それともアクト君は、私に彼氏って言われてドキドキしちゃってるのかな?」

「ちちちちちち違うし、俺様女慣れしてるから余裕だし!!」

「そっか……」



 なんでそっちも悲しそうな顔するの?



 今の会話誰も幸せになってないよ?



「ああ、もう、着いたぞ」

「ここ?」



 着いた場所は



「喫茶店?」

「一応飲食店だ」



 俺は店の扉を開ける。



「アクト様!!」



 マスターことゼタ。



 そして



「やぁ、アクト様」



 信用ならない男は相変わらず軽薄そうな笑顔を浮かべる。



「お前は!!」



 ユーリが警戒する。



「おや、久しぶりだね。ペンドラゴの娘」



 二人は面識があるのか?



「さて、ここはお店。こんな場所で戦闘できるのかい?」

「舐めるな」



 ユーリは剣を抜く。



「お前が少しでも怪しい動きをすれば、私はここから斬れる」

「成長速度がおかしいね」



 二人が睨み合う。



「マスター、とりあえずコーヒー」

「え?アクト様よくこの状況で平然としてるね」

「まぁどうせ死ぬのはサムだし、いいかなと思ってな」

「酷くないアクト様。僕これでも結構アクト様のお手伝い頑張ったよね!?」

「俺様を助けるのは人類の義務だ」

「うわぁ、さすが過ぎる」

「なんか私より当たりがキツいな」



 そして



「アクト様は無実ということですか?」

「俺様がそんな小物みたいなことするか」

「で、ここに来たということは」

「僕の力が必要になったというわけだね」



 サムは不敵に笑う。



「いや別に」

「あれ?」



 サムはらしくない素の表情を見せるのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る