第87話

 数日前

 


 可愛い妹を残し、ノコノコと外に出た俺は



「お前、ちょっといいか」

「なんだ」



 街に入ろうとすると検問にかかる。



「フードをどけて顔を見せろ」

「悪いが都合で顔は見せれない。顔を見せなければ通れないというなら一度帰らせてもらう」

「いや、一度顔を見せろ。これはグレイス家の意向だ」

「チッ」



 いつの間にか周りを囲まれる。



「騎士ともあろうものがこの体たらくか?」

「何の話だ。我々はアクトグレイスという凶悪な犯罪者を追ってるだけだ」

「そうか」



 改めて俺はしっかりと切り捨てられたか。



「なら伝えておけ、お前らが手にするのは俺様の首じゃなく、お前自身の罪だってな」

「……捕らえよ」



 一斉に騎士達が襲ってくる。



 だが



「消えた?」

「いや、違う」



 騎士の一人がコートを拾う。



 そこには充電の切れた携帯電話。



「切れてる。魔力で繋げていたか」

「捜索範囲を広めろ」



 木陰から状況を見ていた俺は一度森に戻る。



「警備はガチガチだな。怪しい奴は問答無用感も否めないし」



 かなりの警戒具合だ。



「何故だ?アクト如きにそこまで警戒する必要は」



 いや



「リアか」



 あの部屋



「何か仕掛けたな」



 めんどくせぇ。



 どこまで彼女の人生を縛れば気が済むんだ。



「で、どうするんだ?」

「とりあえず街にはどうにか侵入する。奴を追い詰めるにはどう足掻いても近付く必要がある」



 街に行けば奴を殺すにしろ、誰かに助けを求めるにしろ、いくつかの筋道ができる。



「携帯はバレそうだから使えないしな」



 とりあえず先程の影武者で捨てた。



「アクト、あそこ」

「ああ、わかった」



 俺は森を安全に進む。



 アルグルの森は魔獣が蔓延る場所。



 そんな場所で今も俺が安全に闊歩できてるのはルシフェルのおかげだ。



「どうするかな」



 考える。



「ん?」



 そういえば



「ダンジョンに行くぞ」

「どうしてだ?」



 いや



 こういう時



「大体の出来事は主人公を中心に回ってるんだ」



 ◇◆◇◆



「昨日より体が動く。確実に僕は成長してる」



 とあるダンジョンから真が出てくる。



「どんだけレベル上げんだよ」



 俺は遠くからその姿を眺める。



 ここで



『よっすー』



 と言える程今の俺と真の仲はよろしくない。



「ある意味バッチリな関係ではあるか」



 なんてったって主人公とラスボスなんだからな。



「それで?あの人間をどうして見つけたんだ?」

「簡単だ」



 特殊イベント。



 それは一定の条件を満たした時に起きるイベントのことだ。



 時間やレベル、アイテムなど複数の条件が必要なものもあれば



「こういう風に条件が緩いのもある」



 俺は一つのアイテムを取り出す。



「それはなんだ?」

「これは『縁結びのリボン』というアイテムだ」



 実はこのアイテムは例の小屋の中で見つけた。



 このアイテムは恋愛ゲームらしいかつ、君LOVEらしい性能をしている。



 これを使えば、主人公の元に何故かヒロインがランダムで現れ、何かドキドキハプニングが起きる。



 そして後に



「大量の魔獣が押し寄せてくる」

「何故!!」

「分からん。なんとそこでヒロインを守れなければ死、守れれば好感度が上がるという謎システムだ」



 とりあえずどんなイベントでもヒロインを不幸にさせないと気が済まないらしい。



「これを真が街に帰る時に発動する」

「アクトが使うのか?」

「これはゲームだと主人公しか使ってなかったが、発動条件はリボンを手に結ぶだ。真みたいな好青年は頼めば結ばせてくれるだろ」

「うむ、確かにそうかもな」



 俺は真の後をつけた。



 ◇◆◇◆



 前には騎士達が検問している門が見える。



「何だか久しぶりに帰った気がする。エリナさんと会えないかな?」



 真が淡い期待を抱く。



「さすが主人公、この俺がそんな願いを叶えてやろうじゃないか」



 俺はポケットからリボンを取ろうとする。



「ん?あれ?」



 手に絡まる。



「ルシフェルちょっと手伝ってくれ」



 そして直ぐに後悔する。



「お、おい!!そんなことしたら逆に絡まるだろ!!」

「わ、我には分からないぞ」



 ヤバい、このままだと真が街に戻ってしまう。



「よ、よし!!取れた!!」



 これで



「お、お疲れ様です!!ユーリ様!!」

「ああ、皆お疲れ様」

「な!!ユーリ!!」



 何故こんなところに!!



「おや、真じゃないか。またダンジョンか?」

「あ、ユーリ。うん、僕もかなり強くなれたよ」

「さすがだな。私も最近は少し鍛錬が疎かだからな。少しは見習わないと」

「そんな、ユーリ様がまだまだなら我々は」

「いい」

「そうだね。どちらかと言うと最近のユーリは前より可愛くなったかな?」



 さすが主人公。



 サラッとそういう台詞が吐ける。



「そうか?世辞だと思うが、ありがたく受け取らせてもらおう」



 だがユーリはさらりと返す。



「ゲームだと照れて『そ、そんなことないから!!』ってめっちゃ可愛いシーンが見れたのに」



 少し残念だ。



「それで、アクトグレイスは見つかったか」

「!!!!」

「い、いえ。まだ発見出来ておりません」

「そうか。見つけたら最初に私の元に連行しろ。いいな、他を差し置いてでも連れてこい」

「は、はい!!」



 ユーリがこれまでにないほど激しいプレッシャーを放つ。



「カッコいい。惚れそう。あ、惚れてた」



 俺も感動に震える。



 だが



「ユーリ」



 主人公は同じくらい強く



「奴は危険だ。あまり、甘い考えはやめた方がいい」



 真があれ程の表情を出すなんてな。



「……分かってる」

「分かってるならいいんだ」



 真がユーリの横を通り過ぎる。



「真」



 足を止める。



「もう少し、足元を見た方がいい」

「いつの間に」



 真は赤いリボンを拾い上げる。



「そうやって突っ走るのは貴様の美徳ではあるが、時には立ち止まらなければ大事なものを見落とす」

「肝に……命じておくよ」



 真はリボンを握りしめ、街に戻っていった。



「これで運良く真が腕に巻き付けてくれたらな」



 俺は天に祈る。



「それじゃあ私は戻らせてもらう」

「はい!!ユーリ様」



 ユーリもどうやら帰るようだ。



 だが



「そこを退いてくれ!!自分のことを猫と勘違いした馬がマタタビに興奮しちまった!!」

「なんだそのツッコミ所しかない現象は」



 そして運悪く騎士達の方を向いてたユーリは



「きゃ!!」



 可愛らしい悲鳴と共に正面衝突する。



 そして



「え?え?え?」



 何故か綺麗に俺の場所に飛んできて



「最近よく美少女が空から落ちてくるな」



 綺麗に激突した。



「う〜、痛いよ〜」



 少し涙目になるユーリ。



「こっちの台詞だ」

「え?」



 砂埃が上がり、二人の状況が露わになる。



 それと同時に俺の心臓が高鳴る。



「え!!ア、アクト君!!ごめんね。こんなはしたい格好で」

「いやそんなことより」



 首元に赤い液体



「剣、どけてくれる?」

「あ!!ご、ごめんね」



 目の前の馬に気付き、一瞬で抜刀した彼女はさすがとしか言いようがない。



 だが、お陰で俺は死にかけた。



「ユーリ様大丈夫ですか!!」



 近付いてくる騎士達。



「来るな!!」



 あれ?



 さっきまでの甘い声はどこに行ったのかな?



「ここから先はアルグルの森。私なら即座に反応出来るが、貴様にはまだ早い。安心しろ、もう不覚はとらん」

「さ、さすがユーリ様」



 やっべぇええええええええええええええ



 こんな近くでユーリのイケメンボイスが聞けるなんてサイコー!!



「さすが俺様と同じ三代貴族だ。中々様になってるじゃないか」

「え?そうかなぁ?えへへ、嬉しい」

「ですがユーリ様、御身に何かしらの危険があるのであれば、我々は命に変えても貴方様を守る所存です!!」

「いらん!!足手まといであることに気付け!!」

「お前にしては珍しいな。そんな強い言葉を使うなんて」

「そう?まぁ大事な人のためなら?私だってこれくらい出来るんだよ?」

「なら……どうすれば僕は貴方様の力に……」

「案ずるな。言っただろ、貴様はまだ若い。これから成長し、いつか私を支える騎士になってくれ」

「さすがーー」

「ユーリ様です!!」

「えへへ、そうでしょ?」

「え?」

「え?」

「え?」



 空気が固まる。



「ユーリ……様?」

「いや!!今のはーー」

「可愛い」

「へ?」

「実は僕、ずっと隠していたことがあるんです」



 草を掻き分ける音。



 騎士の男が近付いて来ている。



「ペンドラゴにいた頃から、ずっと、ずっとあなた様を愛してーー」

「おい」



 ユーリが剣を突きつける。



「目を瞑って後ろを向け。そして何も考えず、走り去れ」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいい」



 騎士の男は泣きながら走って行った。



「ふ、不憫すぎる」



 久しぶりに人に同情した。



「二人っきりだね」

「二人っきりにさせたの間違いだろ」



 今までの抑制の反発か、ユーリは意外と大胆な子である。



 可愛い。



「それで、アクト」



 声が低くなる。



「ことの詳細を聞かせてもらおうか」

「ああ」



 座る。



「これから先の話を聞けば、もう戻れないぞ」



 ユーリは目を閉じ



「私が」



 開く



「そんな弱い女だと?」

「いや」



 俺のヒロインはみんな



「可愛くて強いんだよ」

「え!!」



 ユーリは驚き



「可愛いなんて、そ、そんなことないから!!」



 俺は血反吐を吐く。



 このまま死んでもいいと思ったが



「話は」

「また後で、だな」



 黄金の剣が光を放った。


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