番外編3

「ん?」



 目を覚ます。



「もう夜か」



 随分と眠ってしまったようだ。



 大きな欠伸をする。



「お目覚めですか?」

「誰だ」



 警戒態勢を取る。



「あ、その、大丈夫です。危害を加えるつもりはありませんので」

「……」



 声からして女だろうが、どこか乱れ、顔もボヤけている。



「認識阻害か?」

「あ、はい!!まだアクト様とぼ……私が知り合うタイミングではないので」

「タイミング?」



 なんだそれ。



 それに何だか私と言い慣れてない様子だな。



「それで?お前は何をしている」

「は、はい。アクト様がお腹を空かせているかもと思い、勝手ながらシチューを」

「ふぅん」



 確かにこのいい匂いはシチューのそれだ。



「ところで」



 俺は空を見上げる。



 そこには満点の星空。



「ここまで俺様を運んだのはお前か?」

「ぶ、無礼でしたでしょうか?」



 少し怖がる様子。



「いや、別に構わん」

「あ、ありがとうございます」



 精一杯頭を下げる女。



 なんだろう、どこかで見覚えがある。



「お前、俺様にバレないよいに色々細工してるな?」

「さ、さすがアクト様。その通りです」



 感心の拍手をお見舞いされる。



「どうやらお前はそこらのゴミ共と違い、しっかりと俺様の偉大さが分かってるらしい」

「は、はい!!アクト様の素晴らしさはまだ未熟ではありますが、よきゅ理解しているつもりです」



 ふんすと鼻息を立てる女。



「ならば俺様の命令が聞けるな?」

「も、もちろんです!!この命だろうとなんだろうとーー」

「顔を見せろ」

「……」



 女は顔を背ける。



「ごめんなさい、それだけは出来ません」

「何故だ」

「理由は……まだお話出来ません」

「それは俺様の為か?」

「はい」



 強い意志を感じた。



「チッ!!ならいい」

「お許しいただけるのですか?」

「ここまで俺様を運んだことでチャラだ」

「あ、ありがとうございます!!」



 何度も何度も頭を下げる女。



 どこかその姿が愛おしい。



(愛おしい?)



 俺が?



 ヒロイン以外に?



「……」

「さすがアクト様。このまま一緒にいれば、ぼ……私の正体にすぐ気付くのでしょう」



 どうやらここから立ち去るようだ。



「すみません。アクト様にご奉仕も出来ずに去る形になりまして」

「元々俺様がお前を呼んだ覚えなんてないんだがな」

「その通りです。ただの私の我儘ですから」



 女は見えない顔でも分かるほどに微笑み



「それでは、また近い未来で」



 姿を消した。



「誰だったんだ」

「ふわぁ」



 そしてルシフェルが目を覚ます。



「お!!アクト、我をここまで運んでくれたのか?」

「……まぁな」



 謎の見栄を張る。



「確かに綺麗だぞ」

「そうだな」



 謎の女によって忘れていたが、当初の目的を思い出す。



 空には一面の星。



 普段と違い、障害物の一切がないここでは、それがより際立つ。



「知ってるか、星って爆発した惑星なんだ」

「え!!そうなのか!!」



 ルシフェルが驚く。



「何だか我、少し星が嫌いになったぞ」

「どうしてだ?」

「うーん」



 少し考えた後



「確かに散り際が美しいというのはよく分かる。だが、我はずっと美しい物の方が好きだぞ」

「そうか」



 ずっとね



「けど、散らなきゃこうして美しくなれない」

「見えてないだけだぞ」



 ルシフェルは手を伸ばす。



「ちゃんと気付く人間は気付く、その美しさに」

「ルシフェル」



 お前……



「そんな詩的なこと言えたんだな」

「バカにし過ぎだぞ!!」



 全然痛くないパンチを何度も連打される。



「悪かったって、ほら。シチューあるから」

「わぁ」



 すぐに食い意地に入るあたり、さすがルシフェルといえよう。



「大丈夫かな?」

「何がだ?」

「いや」



 毒とか警戒した方がいいか。



 いや、それなら殺そうと思えばいつでも殺せたはず。



 俺は持ってきた皿にシチューを移し、口に入れる



「これは!!」

「なんと!!」



 俺とルシフェルはすぐに次を足す。



「ア、アクトにこんな才能があったなんて知らなかったぞ」

「そりゃそうだ」



 俺が作ってないからな。



 それから黙々とシチューを食い続ける。



 鍋一杯丸々食べてしまう。



「もう食べられないぞ」

「俺もだ」



 二人で倒れる。



 ある意味俺らを殺す気だったのかもしれないな。



「それで?ストレス発散はできたのか?」

「まぁ」



 空を見る。



「そうだな」



 確かにヒロイン大好きだが、その分体がいつも緊張してしまったのだろう。



 こうして自然の中にいると、体が休まるのを感じる。



「風が気持ちいな」

「うむ」



 二人で寝転がる。



 きっと明日からはまた、ヒロインの為に行動するのだろう。



 そこに嫌な気持ちは一つもない。



 だが



「今日くらいはただ」



 ルシフェルと共にこの星空の下で



「さてお兄様」

「んん?」



 え?



「私は考えました。お兄様の為のお菓子を買おうと致しましたが、どうにも私にはお金がありません」



 リアは語り出す。



「これではお兄様のお役に立てないと。そこで私は考えました」

「何を?」



 いや、もうその後ろの物で察した



「ベットです」



 この子俺らが必死こいて登った山をベット片手に登ってきやがった。



「お兄様に相応しいよう、私のベットを持ってきました」

「え!!!!」



 リアのベットだと!!



「それからこれを」



 アロマキャンドルらしきもの



「あとこちらを」



 タオル



「それと」



 謎の箱



「最後に」



 リアはベットに潜る。



「私です」



 全く



「俺様の妹は天才だな」



 俺に需要を完全に把握してやがる。



 だから



「ルシフェル」

「うむ」

「逃げるぞ」



 俺はダッシュで下山する。



「あの子ヤバいって!!」



 何外でトチ狂ったことしようとしてんだ!!



「あ!!お兄様ぁあああああああああ」



 リアの叫び声が聞こえる。



「はぁ、せっかくの休暇だったのにな」



 これじゃあ逆に疲れるのではないか?



「でもアクト笑ってるぞ」

「あ?」



 自身の口元に触れる。



「ヤバいのは俺も同じか」



 行きと違い楽に足が回る。



 こうして俺の休暇は終わるを告げた。



 物語も中盤となり、これから新たな強敵達、襲い来る災害、世界の混乱。



 様々な苦難が俺達を襲ってくるだろう。



 でもきっと、俺とルシフェル、そしてヒロイン達なら乗り切れられる。



 だって



「俺が目指すのは真のハッピーエンドだから」



 もう二度と、彼女達を不幸にしない。



 それが俺、アクトの役目なのだから。



「ルシフェル、夜明けだ」

「綺麗だぞ」



 俺達の戦いはこれからだ。



「お兄様はまだ帰って来てないのですか?」

「はい」



 次の日捜索願いが出され、俺たちは無事に保護された。



 ◇◆◇◆



「本日はどちらに?」

「あ?」

「失礼しました。ですがあなた様は我々にとって大切な存在。何卒、お命を大切に」

「お前らがそれを言うか」



 彼女は怒りを露わにしながら自身の部屋に戻る。



「あぁ、アクト様ぁ」



 壁一面に貼られたアクトの写真。



「いつか必ず」



 ウットリと蕩ける少女の名前はネメシス。



「世界を壊しましょう」



 邪神教幹部の一人である。






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