ラスボス転生〜愛するヒロイン達に嫌われたい〜

第81話

「ルシフェル？」

　俺はルシフェルを見る。

「お前いつの間にあんな奴と」

「な！！我はあんな人間知らないぞ！！それに、我はあんな人間よりもアクトの方が好みと言うか何と言うか……」

　最後の方は難聴のため上手く聞こえなかったが、俺もルシフェルと両思いだと思う。

「とんだ勘違い野郎もいたもんだな」

「あ？」

「邪神はお前みたいな小物に興味がねぇよ」

「俺が小物？」

　突然男の周りから謎のオーラが放たれる。

　全身から変な汗が湧き出る。

「どうした？小物相手にビビりすぎじゃないか？」

「大便を我慢してんだよ」

「は、漏らすなよ」

　男が一歩近づくだけで、身の毛がよだつ。

　この男は確実に俺らよりも格上だ。

「まぁ言いたいことも分かる。俺も以前までは正真正銘小物だったんだろう」

「何だ？」

　さっきまでの自信とは正反対だな。

「だが彼女のお陰で変わった。俺には彼女を復活させてあげる器があると、そのための力もあると、教えてくれた」

　邪神さん今俺の横で寝てるよ？

　だがそれより気になるのは

「器」

　こいつはもしかして

「もしかしてこの魔法、お前邪神に願ったんじゃないか？」

「よく分かったな」

　これだけの人間の負の感情と、奴を依代として邪神を呼び出し、契約したのだろう。

　それならルシフェルに記憶がないのも納得できる。

「何て願ったんだ？」

「どうしてそれを言う必要がある」

　ここで情報を聞き出したい。

　奴の今までの性格からして

「もしかしてお前の言う彼女は幻だったんじゃないか？」

「な！！彼女は本当にいる。俺が世界平和を望めば、彼女は願いを叶えてくれようとしてくれている」

「ふ〜ん」

　世界平和を望んだ結果、人が消えるか。

　まさに原作通りの曲解した叶え方だな。

「だが、不十分だったか」

「素材が少なかったんだ」

　世界平和を望むくせに、悪人の命はただの物か。

　意外と仲良くなれるかもな。

　ま

「俺様のヒロインに手を出した時点で死刑だがな」

　勝てないからって挑まない道理はない。

「俺に勝てると？」

「お前こそ、俺様に勝てると？」

「力の差は見せたつもりだったがな」

　俺が突撃する。

　奴はそんな俺に黒い衝撃波を放ち、俺の右腕が吹き飛ぶ。

「どうだ！！もう一度右腕が飛ぶ……感覚……どういうことだ」

「こういうことだ」

　切られた腕が直る。

　治るではなく、直る。

「さて問題です」

「チッ！！」

　俺の剣を男がナイフで受け止める。

　だがリーチ差で俺が若干押し始める。

「体は何で出来てるでしょうか」

「何を」

　怒涛の攻撃ラッシュ。

　敵の闇魔法を同じく闇魔法で相殺する。

　力は奴の方が上だが、瞬時に魔法を展開する技術はうちのルシフェルに勝てる奴はいない。

「正解は物質だ」

　だから腕は切られたら当然無くなる。

「さて、そんな中で物質と魔力の半分で何故か形成されいる俺様の体は、物質である腕が切れた時どうなるでしょうか」

「クソが！！」

　男はナイフを振りかざす。

　それが俺の腕に当たるが、切れてもすぐにくっつく。

「魔力が続けば腕は無限に生えるぜ」

「化け物が」

　本当に化け物になってきたな、俺。

　それに

「何故俺様はこんなに動けてるんだろうな」

「は？」

　今の俺は魔力による強化をされていない。

　つまりは素のアクト。

　にも関わらず、何故か俺は軽やかに動いている。

「さて、そんなわけでそろそろタイムリミットだ」

「何言ってんだよ！！」

　と言っても当然魔力を借りている時より大幅に弱いため、男は冷静さを取り戻し、俺は一瞬で追い詰められる。

　戦った感じ、こいつは戦闘慣れしてないな。

「何がタイムリミットだ。それはこっちのセリフだろ？」

　男は魔法を展開する。

「首が飛べば死ぬだろ？」

「そりゃ当然」

　男が魔法を放つ。

　そして

「全て外れだったのじゃ」

　カーラは欠伸一つで魔法をかき消す。

「は？」

「こいつを殺せばいいのか？」

「ああ」

　カーラが指を立てると、男の首が飛ぶ。

「首が飛べば死ぬじゃろ？」

　男は何が起こったのかも理解できず、頭が地面に落ちる。

「アホ面だな。お似合いだ」

「全く、首が飛べば大抵の人間は動揺するはずなんじゃがな」

「俺様は他とは違ぇんだよ。何回も言わせんな。で、魔法は切れたか？」

「どうじゃろな」

「変な魔力は無くなったぞ」

「そうか」

　どうやら一件落着のようだな。

　と思われたが

「ふざけるな！！何だお前！！」

　生首が喋り出す。

「妾せっかくカッコつけたのに」

「何で生きてんだテメェ」

「チッ！！」

　男の首と体が黒い何かによりくっつく。

　これってどこかで

「アジダハーカ」

　あの時と同じ

「クソ！！覚えてろよ！！」

　男の後ろにワープホールみたいなのが開く。

「追撃するか」

　だが抑止の手

「やめておけ、あれは妾でもちと厳しい」

「んだよそれ」

「お前の名前は何だ！！」

「吸血鬼に名前を聞くならまずは自身から名乗らんとのー」

「チッ！！俺はビクティだ」

「妾はカーラじゃ」

「絶対にお前ら殺してやるからな」

　そう言って男は消えていった。

「名前を名乗るなんて馬鹿じゃの」

　カーラは指先から血を出し、魔法陣を描く。

　そして真ん中に人形を乗せ

「ビクティ」

　そして踏み潰す。

「死んだかの？」

「さぁ」

　やっぱりチートキャラだな。

「さて、名前は……アクトだったかの？」

「そうだ」

「お主は面白い。興が乗ればまた遊ぼうではないか」

「嫌だ」

「クックック、いいのう。妾はとりあえず美味そうな血を探すのじゃ。それじゃあの」

　カーラは消える。

「全く」

　奴が消えたと同時に景色が変化し始める。

「帰るぞ、ルシフェル」

「うむ」

　ルシフェルは少し悩む様子を見せるが、杞憂だとばかりに首を振った。

　◇◆◇◆

「あれを殺せば、ルシフェルは俺がいない後でも現世留まり続けられる、か」

　俺は歩く。

　目的地は

「謎の大穴」

　カーラの描いた地図にあった謎の場所。

　カーラですら近寄りたがらなかった場所に俺程度どどうにかなるとは思えないが、脅威を事前に排除するのが俺の使命だ。

「ここを曲がった先か」

　周りの景色は言ったて平凡。

　少しずつ人が現れて始め、徐々に世界はいつもの平穏を映し出す。

　この先に本当に何かがあるとは到底思えなかった。

　そして

「何だあれ」

　目的地には

「空間がねじ曲がってるぞ」

「なんだそりゃ」

　空間に大きな亀裂とまるで宇宙空間のような色合いをした穴。

「侵略者でも来るのか？」

　そんなことを考えた矢先

「え？」

　侵略者ならぬ

「あ、アクト」

　俺の心の奪還者が現れる。

「アルス、お前何やってんだ」

「ちょっと黒幕追いかけてた」

　本当に何やってんだ。

「これ、お前がやったのか？」

「ん」

「どうやって」

「なんかいい感じに殴ったわ」

「どういう感じだよ」

　この子は凄すぎるよホントに。

「アクトが解決したの？」

「当たり前だろ？」

「そっか」

　アルスは笑う。

「まただね」

「何がだ？」

「ううん」

　まぁ俺がいなくてもカーラが勝手に解決してただろうけどな。

「アクト」

「何だよ」

　抱きしめられる。

「？？？？？？？？？？？？？？？」

「大丈夫」

　アルスは優しく

「大丈夫だから」

「……」

「あとはよろしく」

　そしてアルスは後ろに倒れる。

「危な！！」

　俺はギリギリで支える。

　どうやら限界が来たようだ。

　アルスはスヤスヤと可愛い寝息を立てる。

「ホントに」

　さっきまでの気持ちがサッパリ無くなる。

「帰るか」

　俺はアルスをお姫様抱っこし、歩く。

　周りから見たら誘拐に見られるのだろう。

「これで明日からいつもの日常に」

　電話が鳴る。

「ごっめーん。なんか電話着てたけど気付かなかった」

　軽薄そうな声

「いや、明日からも非日常だな」

「何の話？」

「サム、顔が戻った。変えろ」

「もう？了解。それじゃあまた」

　電話が切れる。

「また邪神教ライフの始まりだな」

　狸寝入りしているアルスは密かに笑うのであった。