第79話

「もうか」



 顔が溶け始め、みるみる形が変わる。



 髪の毛が紫色となり、度し難い程の悪人面が鏡の前に映る。



「久しぶりだな、クソ野郎」



 俺は鏡を殴りつける。



 サムの魔力が切たのか、俺はグレイムからアクトへと戻った。



 グレイムとしての仕事は一応ひと段落ついたとはいえ、不測の事態に備えていたいが、サムとの連絡がつくまでは暫く休憩だ。



「久々に家に帰るか」



 家を出る時



『俺様夜の街に君臨するぜ』



 と言って家を出たが、さすがにこれ以上家に帰らなければ、俺の捜索が始まる可能性がある。



「ん?」



 それにしても



「人が少ないな」



 道を歩く。



「俺が今アクトだからか?」



 感覚が狂ってしまったのだろうか?



 だけどやはり



「少ないな」



 道を通る人が少な過ぎる。



 1分当たりに一人すれ違う程度。



 しかも、俺を前にしても反応を示さない。



「何が起きているんだ?」



 少し駆け足気味に家へと帰宅した。



 ◇◆◇◆



「おい、俺様が帰った」



 家の扉を開けるも



「おい!!」



 返事はない。



「誰かいないのか!!」



 返事はない。



「明らかに異常だな」


 

 最近は予想外の展開が多すぎて、最早慣れた。



「ルシフェル」



 とりあえずルシフェルにも聞いておくか。



「ル、ルシフェル?」



 返事がない。



「ルシフェル!!」



 ……



「ルシーー」

「じゃじゃーん」



 ルービックのキューブを一面だけ揃えたルシフェルが現れる。



「我凄くない?」

「おうおう、凄い凄い、天才だー」

「うむ!!」



 いつものドヤ顔に安心する。



「うむ?」



 なんとなく、頭を撫でる。



「ルシフェル、町の様子がおかしい。何か知らないか?」

「うーむ、確かに僅かに不思議な魔力を感じるが、我もよく分からんな」

「不思議な魔力ねぇ」



 ほぼ情報はゼロだが、今の状況が何かしらの事態により発生していることが判明する。



「状況整理だ。お菓子とジュースを用意するぞ」

「我の行動は光よりも速いぞ」



 ここで俺の連絡先がサムといつの間にか入っていた桜とリア、アルスしかないのが考えものだな。



「俺がヒロインに連絡するなんて一生来ないと思っていたが、致し方ないな」



 だが



「でないな」



 次



「でない」



 次



「でない」



 次



「でーー」

「アクト?」



 アルスが電話に出る。



「愛の告白?」

「なわけないだろ」



 変わった様子はない。



 いや、最初からアルスは変わっている。



「おい、今の状態はどうなってる」

「アクトも気付いたの?」

「気付いた?」



 どういう意味だ?



「どんどん強くなってる。私はまだまだ大丈夫だけど、みんなが心配」

「待てアルス、話が一切見えてこない」

「ごめん、もうすぐ切れちゃう」

「な、今お前はどこにいるんだ!!」

「私は今tーー」



 プツン



「わけ分からん」



 携帯を放り投げる。



「どうした?アクト」

「いや」



 ルシフェルと共にテレビをつける。



「いるな、人」

「うむ」



 人は映ってる。



「生放送」



 チャンネルを切り替えると



「いるな」



 人がいないのはここらだけ?



「……」



 まだ大丈夫ね



「魔力か」



 道端で歩いていた人間はおそらく他の人よりも僅かに魔力が多かったのだろう。



「そして強くなっているということは」



 俺は家を出る。



「昨日、までは問題なかった。これが発生したのは今日で間違いないだろう」

「我も朝起きた時にちょっと変だと思ったぞ」

「そしてこれが人為的なものか、はたまた何かしらの現象なのか」



 疑問は尽きないが、目的地に辿り着く。



「いるか」

「アクト……さん?」



 エリカが涙を流している。



「無事だったのですか!!」

「お前こそな」



 エリカが駆け足でこちらに走ってくる。



「待て!!」



 なんかダメな気がする。



 今のエリカはどう考えても精神的に弱ってる。



 そこに生存者が現れれば



「アクトさん……」



 抱きつかれる3秒前



 俺の脳は回転する



 アクトとして躱すべきか



 それとも甘んじて受け入れるべきなのか



 前者が正解だと脳が教えてくれる。



 だが



(体が動かない)



 欲望という枷により、俺の身動きは封じられる。



 そして



「無事で……よかったです」

「ふっ」



 幸せと絶望のダブルパンチにより、感情が破壊される。



 だが共通の認識として、もう死んでもいいという答えだけは一致した。



「ひゃ、ひゃなれろ」

「す、すみません」



 恥ずかしそうに距離を置くエリカ。



 可愛い!!



「俺様が来た理由は分かるな」

「もちろんです」



 エリカは赤い目のまま答える。



「今朝より、謎の魔力の波長を感じました。おそらく闇魔法によるものかと」

「非常識なことばかりだな、この魔法は」

「おそらくこれだけの規模となると、かなりの……」



 何百人だろうな



「効果は魔力の低い者から順に、消すみたいな能力か?」

「少し違います。今は皆の存在が徐々に気薄になってるだけかと」

「完全に消える前に元に戻せばいいってことか」

「はい」



 やはりエリカは頼りになる。



 今ので多くの情報を得られた。



 だが一つだけ



「何故俺様がまだいる」

「それは私も驚きました」



 アルスを消すだけの魔法なんてこの世に存在できず、エリカは聖女のため、能力が効かなかったのだろう。



 だが、魔力ほぼゼロの俺がまだこの世界にいるのはおかしな話だ。



(ルシフェルか)



「あいつは来てないのか?」

「あいつとは?」

「柊真」

「いえ、見ていませんが。私が今日初めてお会いしたのはアクトさんです」

「そうか」



 まぁ主人公なら既に敵の本拠地でも見つけて特攻してるのかもな。



「あらかた情報はつかめたな」



 俺が教会から出ようとすると



「あの」



 袖を掴まれる。



「アクトさんは、消えたりしませんよね?」



 圧倒的破壊力の上目遣い。



 舌を噛みちぎってなんとか堪える。



「俺様が消えるだと?そんなの天変地異が起きようとありえねぇ」

「そう……ですか」



 エリカは笑い



「待ってます」

「(必ず帰ってくるとか言いてぇ!!)知るか」

「嘘、ですね」



 エリカは舌をだし、教会の奥に走っていった。



「よかった、心臓を潰してなきゃ危なかった」



 俺は血を吐きながら教会を出た。



 ◇◆◇◆



「規模は狭いが強力な魔法。まるで邪神でも復活したみたいだな」

「我ならもういるぞ」

「例えだ」



 教会を出ると、もう道を歩いている人はいない。



「犯人は邪神教だー、といいたいが」



 こんな能力を使う幹部を俺は知らない。



 新しい能力に目覚めた可能性もあるが、さすがにそれはあまり現実的ではない。



「この状況で現実的かどうかもおかしな話だ」



 つまりは手掛かりなし。



「リーファの時みたいだな」



 確かにこの現象はどこかレオが消えた時と似ている。



 記憶から消えていないが、もしかしたら次第に消えていくのかも知れない。



「おっと、話が見えてきたな」



 レオを消したのはロイだが、ロイは邪神教の頂点に君臨する謎の人物によって命令された。



 そしてそいつは人間を超えたような力を操る。



「まだ夏なのに裏ボス戦とかマジか」



 ラスボスすら倒されてないぞ?



「さて、俺のヒロインが消える前にちゃちゃっと解決するか」



 一見お気楽に見えるが、内心焦っている。



「まずはアータムにどうにか接触し、裏の支配者と会わせてもらえないかな」



 サムと連絡がつかない今、どうするべきか考えていると



「ん?」



 影



「空から美少女って、それなんて恋愛ゲーム?」



 降って来た女の子をどうにかキャッチするが、ひ弱なアクトでは当然潰れる。



「ふわぁ、よく寝た」

「おいお前、誰の許可を得て俺様の上に乗ってやがる」

「なんじゃ、まだ人間がいたのか」



 黒い翼を羽ばたかせ、大きな欠伸と共に、鋭い牙が見える。



「ここの人間はあの娘以外いないと思ったんじゃがな」

「俺様をお前の尺度で測るな、吸血鬼」

「妾のことを知っておるのか?」

「知ってるに決まってるだろ」



 邪神教幹部第二席



「面白い人間じゃのう」



 妖艶に笑う彼女の名前は



「カーラ」

「ほう、良くぞ妾の名前を知っておったな」

「当然だろ」



 だって



「俺様はアクトグレイスだからな」



 大好きですから

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