第76話

 邪神教とは



 邪神ルシフェルの復活を企てる犯罪集団。



 だが、奴らが一枚岩かと問われれば皆が



「そもそも岩なの?」



 と答える変人集団。



 そんな中に今



「行くか」

「はいよ」



 一人の変人が入り込もうとしていた。



 ◇◆◇◆



「お前か、サムが推薦する新しい幹部は」

「ああ」



 今の俺はサムによって顔を変えられている。



 現在、俺がアクトグレイスと知ってるのはこの世で三人だけ。



「俺はクレイヤを倒した。この意味が分かるか、アータム」



 アータムはサムに目を向ける。



 サムは笑顔で首を振った。



「いいだろう。認めてやる」

「そうーー」

「が、最後に私の問いに答えてもらう」



 アータムは目を広げる。



「世界を憎むか?」



 この男の前で虚偽の憎しみなど簡単にバレるであろう。



 ならば



「ああ」



 俺はヒロイン達の不幸に結末を、頭で何度も、何度も繰り返し思い浮かべる。



「俺はこの世界を壊す」



 だから変える。



 アクトの周りに黒い何かが溢れ出る。



「そうか」



 アータムは目を閉じる。



「歓迎しよう、名は?」

「グレイムだ」

「そうか、歓迎しようグレイム。お前の席は七席だ」



 あっさり、俺の邪神教入りが決定する。



「私も多忙の身でな、これで失礼する」



 どこかも分からない廃墟で、アータムは霧のように消えていった。



「ヒュー、さすがアクト様。簡単に入り込んだね」

「当然だ。俺様はアクトグレイスだぞ?」

「それで?アクト様の目的は何なの?」

「俺様は邪神教だぜ、分かってるだろそれくらい」

「愚問だったね」



 俺は邪神教に入った理由は多くある。



 まずは純粋に俺が邪神教であることで、皆の好感度を著しく下げようとする魂胆だ。



 脚本としては



 アホ『ワーワー、俺がみんな殺しちゃうぞー』

 ヒロインズ『させないよー』

 アホ『へっへっへ、実は正体俺様でしたー』

 ヒロインズ『ガーン、失望したー、嫌いになってやるー』



「完璧だな」



 思い浮かべたイメージが本格的なあまり、成功を実感して笑みが溢れる。



「それに、邪神教の情報も集めやすい」



 邪神教は危険だ。



 ここで滅ぼす必要がある。



 そのためにサムから情報を抜き取ってもいいが



「……」

「ん?そんなにジロジロ見ても僕がイケメンであることに変わりないよ?」

「キモ」



 サムはやはり信用ならない。



 サムは俺タイプ。



 大切なもののためなら何でも出来る男だ。



 いつ俺を裏切るかも分からん。



「最後の会談はいつだ」

「会談のことまで知ってるの?本当に怖いね。会談があったのはつい数日前、しばらくはないかな」

「タイミング的にはどっちつかずだな」



 会いたい子と会いたくない野郎がいっぱいいるのが邪神教。



「まずは部下を持つことから始めるか」

「僕の部下は何人だと思う?そうだよね、気になるよね、実は僕の部下の数はななななんとーー」

「ゼロだ。黙れ」

「やっぱり知ってるんだ」



 あっけらかんとするサム。



「まさに邪神教らしい人材だよね、アクト様って」

「俺様は完璧だからな」



 邪神教の部下というのは様々な形で存在する。



 邪神教に入りたいと思えば、アータムが確認し、邪神教に加入する。



 基本的に皆がアータムの指揮下に入るが、自信が気に入った幹部、もしくは個人で動きたいとなればその限りではなくなる。



「そろそろか」



 俺とサムの元に、幾人かの黒い衣装を纏った人間。



「初めまして、グレイム様、サム様。アータム様の命により、あなた様と行動を共にさせて頂きます」

「ああ」



 これは二つの意味がある。



 部下を持った幹部は色々と行動の幅が広がる。



 そのため、近頃邪神教に入ったような連中はどこかの幹部の元で少し行動し、そこで色々と学ぶ。



 そしてもう一つが監視。



 まだ信用したわけじゃないという意味だ。



「いいだろう。俺がお前らを立派なゴミ人間に育て上てやる」

「感謝します」

「来い」

「楽しみだねー」

「お前は帰れサム」

「えー」



 ◇◆◇◆



「グレイム様、ここは一体?」

「ゲーセンだ」



 アクトは邪神教を連れてゲーセンに来た。



「何故ゲーセンに?」



 先頭に立つ女は、今は少し顔を隠す以外は普通の女性といった格好をしている。



「きっと何か目的があるんだ」

「そ、そうか」



 もう一人の男が小声で女と話す。



「行くぞ」

「「は!!」」



 一向はUFOキャッチーの前に立つ。



「あの、これは?」

「UFOキャッチーだ」

「それは存じていますが」

「これだ」



 アクトは一つの人形を指差す。



「これを百個だ」

「は?」

「全員で集めろ。時間は有限だ」

「わ、分かりました」



 アクトが金を出し、邪神教が必死にUFOキャッチーをする。



「おもろ」



 アクトは笑いを堪えながら、同じようにウサギのぬいぐるみを取り続ける。



「これに一体何の意味が……」



 女は疑問を抱く。



 この男は一体何を考え、私達は世界を滅ぼす礎になれるのかと。



 それから数十分が経過する。



「全部でちょうど百個です」

「そうか」



 アクトは人形をバックに詰め、次に向かう。



「次はあれで大量のお菓子をゲットしろ」

「何故お菓子を?」

「あ?」

「……承知しました」



 邪神教はお菓子を叩き落とし、大量に仕入れる。



「幹部は狂った人ばかりだと聞いたが、本当に何を考えているのやら」

「さぁな。俺はいくら狂ってようと何でもいい。ただこの腐った世の中を壊したい。それだけだ」

「私もよ。でも、これがそれに繋がるとは到底思えない」

「もう少し様子を見て判断しよう」

「ええ」



 邪神教がお菓子を袋一杯に詰め、アクトは快く満足する。



「いい働きっぷりだな」

「質問があります」

「何だ」

「この行動の意味は何でしょうか」

「ただ菓子を取る。それ以外の目的なんてあるはずないだろ」

「なら私達は一体何を?」

「俺の奉仕活動だ」

「俺達はそんなことの為に邪神教に入ったわけではありません」

「私もです。私の父と母は冤罪によって処刑されました。そして周りの人間は真実も知らずに、私の両親をまるで人の恥かのように嘲笑います。そんな世界を私は許せません」



 邪神教は怒りを露わにする。



 それをきいたアクトは



「だからどうした」

「……え?」

「お前の両親が冤罪になった?それで俺はどうすればいい。同情でもすればいいのか?それとも大丈夫かって慰めればいいのか?」

「な!!」

「どうでもいい。俺からしたらお前のような不幸話なんて聞き飽きたんだよ。お前程度が霞むくらい、悲劇の、真のヒロインってのが存在する」



 アクトはため息を吐く。



「あそこに歩いている女がいるな」

「え?」



 アクトが指差す方には子供を連れた女性。



「殺せ」

「は?」

「聞こえなかったのか?何でもやるんだろ?ならあいつを殺せ」



 女は理解できなかった。



 イカれてる、邪神教の連中は今まで総じてイカれた連中ばかりだったが、目の前のこのグレイムという男は群を抜いておかしい。



「理由がありません。ここで目立つのは邪神教としてデメリットとしかーー」

「お前、邪神教向いてねぇよ」



 アクトはゆっくりと立ち上がる。



「お前はやれるか?」

「はい」

「ほう?お前、名前は」

「ラトです」

「そうか、じゃあ殺れ」

「は」

「ちょっと待って」



 ラトを止める女、いや



「何だ、ナナ」



 ナナはラトの腕を掴む。



「あの人は何もしてないんだよ?何の罪も犯してない。それなのに殺すなんて」

「そんな覚悟で世界を滅ぼすことなんて出来るはずないだろ。俺は、その為に邪神教に入った。お前は違うのか?」

「そう……だね。私も同じ」



 ナナはゆっくりと手を離す。



「ここでこの人の本質を見極めよう」



 ラトはそう言い残し、走る。



 そして剣を抜き、女性を刺す。



「キャ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



 それに気付いた人が悲鳴を上げる。



 それからの光景は阿鼻叫喚。



 少し前までは笑顔の絶えなかった場所が、今では人っ子一人いなくなってしまう。



「ブラボー」



 アクトは拍手する。



「初めて人を殺しました」

「どうだった?」

「胸糞悪いです」

「そうか、それはよかったな」

「ふざけないで下さい!!」



 ナナは声を上げる。



「あなたは確かに世界を滅ぼす才能があるのかもしれません。ですが、私はついて行けません!!」

「そうか」

「私はアータム様の元に戻ります」

「好きにしろ」



 ナナがこの場を去ろうとしたと同時に



「お兄ちゃん」



 子供の声



「ありがとう」

「え?」



 それは先程の女性と一緒にいた子供。



「これは一体どういうことですか?」



 ラトは疑問を口にする。



「その女の財布から名前を確認しろ。それとリストを取り出せ」

「まさか!!これは!!」

「依代候補の誘拐犯のクズだ。連れ去った子供を我が物顔で連れ回し、飽きたら殺す」

「知っていたのですか?」

「知るかボケ」



 ナナは驚愕した。



 明らかに次元が違う。



「ルシフェル、どうだ」

「ーーーーーーー」

「そうか」



 アクトは何かを確認した後



「これを連れて撤退だ」



 アクトは子供の頭を撫でる。



「安心しろ、もうすぐ騎士団が来る。そのアホどもに保護してもらえ」



 アクトはライと共にこの場を去ろうとする。



「待って下さい」

「あん?」

「もう一度、私にチャンスをくれませんか?」

「チャンス?」

「次は、必ず命令を遂行します。ですから、あなた様の部下にどうか」



 ナナは頭を下げる。



「俺はお前らが思ってるような奴じゃないぞ」



 アクトは口を開く。



「俺の邪神教としての理念は同じ、世界を滅ぼす。だが、その後に俺の、俺のためだけの世界を作り上げる。それでも着いてくるか?」

「はい」

「そうか、お前は」

「俺も同じく」

「そうか。いいだろう、お前らを部下にする。俺が死ねと言えば死ね、俺が生きろといえば生きろ、分かったな」

「「は!!」」

「さっさとずらかるぞ。騎士団が来たら面倒だ」



 ナナは確信した。



 この人について行けば世界は変わると。



 そう、確信できた。



「待て!!」



 女性の声



「逃がさんぞ、邪神教!!」

「あれはまさか!!」



 フリフリした服に、可愛らしい人形を大量に抱えた女。



「ユーリペンドラゴ!!」



 ナナは声を上げる。



 ペンドラゴきっての才能の持ち主と謳われる才女。



 今はまだ未熟ではあるが、将来はあのアーサーペンドラゴを超える化け物。



「逃げましょう、私達では……」



 ここでナナは気付く。



 今、自身の隣に入る人物は名だたる幹部の七席。



「いや」



 勝てるか勝てないじゃない、ここで彼を失うわけにはいかない。



「ここは私がーー」

「俺が時間を稼ぎます。グレイム様はお逃げ下さい」

「待て!!」



 アクトの言葉を聞かずにラトは飛び出す。



「来い!!」



 ユーリは剣を抜こうとする。



 だがユーリはアホの子のため



「人形が!!」



 手に持つ人形を離すのを忘れ、剣を抜くのが遅れてしまう。



 その結果、腕にかすかに傷を負う。



「やりきれないか」

「今は油断したが、二度と同じことが起きると思うな」



 ユーリは剣を抜く。



 そのプレッシャーにより、ライは後退りをする。



「死んだな」



 ライは自身の死期を悟る。



 だが



「おい」



 その死期は



「誰に傷を付けてる」

「へ?」



 ライは吹き飛ぶ。



「テメェ!!誰に傷負わせてるんだって言ってんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」



 アクトは馬乗りになってライを殴り続ける。



「仲間割れか?」



 動揺するユーリ



「……」



 既に気を失ったラト



「お前マジで!!ホントに死ね!!ほんま死ねカス!!バーカ!!」



 殴り続けるアクト



「邪神教やめよっかな」



 ナナはこれからの未来を想像し、少し絶望した。

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