第75話
「ところでお前、何故こんな場所にいる?」
「あ?」
俺はまともな返答を期待せずに質問する。
クレイヤがこんな場所に現れたなんて展開は原作のどこにもない。
最近は
『俺がやってたゲーム君LOVEじゃないんじゃね?』
と考えるようになった今日この頃だが、ヒロインが可愛いことを取れば圧倒的にどうでもいいことなので、気にしない。
「クレイヤ様は自由なんだ。何者にも縛られず、何者も縛る。それがこのクレイヤ様だ!!」
「あっそ」
やっぱり返答はバカみたいな理由だった。
「結局お前は自分が何してるか分かってないだけだろ?ほら言ってみろよ。お前何がしたいんだ?」
「クレイヤ様は……クレイヤ様は……」
「ざっこ。今時こんな質問3歳児ですら答えられるぜ?お前のオツムはどうやら保育園児以下のようだな。オムツでも履いて胎児からやり直せカス」
「ヒャッハー。最近お前にソックリな連中がいる場所を見つけたんだ。養豚場って言ってな?お前の大好物が食い放題だぜ?」
「醜い争いですね」
「お?」
クレイヤがソフィアに目を向ける。
「ヒャッハー!!とんだ上玉じゃねぇか!!このクレイヤ様にピッタリだ。意識が無くなるまで使ってやるよ」
「アクト、あなた並みに気持ち悪いです」
「おい!!」
いや待てよ
それってアクトとしてちゃんと出来てる証拠だな。
「どうして気持ち悪いと言われてニヤけるんですか?」
「そんなキモい奴よりクレイヤ様の方がいいぜ?」
「はぁ?俺様の方がいいに決まってんだろ!!」
「どっちもお断りします」
俺とクレイヤは目が合う。
「どうやら」
「決まったようだな」
俺とクレイヤは剣を抜く。
「いやどっちが勝ってもどっちのものにもなりませんから」
「女をかけて戦う。クレイヤ様はこういう状況が一番大好きなんだ」
「珍しく意見が合ったな。圧倒的力で敵を捩じ伏せ、この世の女という女を貪り食らう。まさに俺様らしい生き方だ」
「うわぁ」
ソフィアは普通に引いた。
「だがお前、残念だったな。相手がこのクレイヤ様ってのはこの世の不幸だ」
「あ?何勝った気になってんだ?」
「後ろを見ただろ?このクレイヤ様はあのアホ面共の攻撃を受けてもダメージゼロだ。この意味が分かるか?」
「三文字以内で説明しろ」
「ヒャッハー!!」
「五文字だろアホが」
俺は走り出す。
「ヒャッハー!!」
交差する剣。
「お前弱すぎね?」
「お前にだけは言われたくないな!!」
押し負け、剣が弾かれる。
ガラ空きになった俺の体に奴の剣が
「あ?」
「バーカ」
闇魔法で防いだ俺は逆にカウンターを決め、クレイヤの首を刎ねる。
「だから効かねぇんだって」
首なしの剣が俺の頬を擦り、血が垂れる。
「闇魔法をその精度で使えるたぁ、クレイヤ様の次に闇魔法が上手いと言っても過言じゃない。が、結局無理なんだよ、このクレイヤ様に勝とうなんて」
首を拾い、ミチミチと音を立てながら元に戻る。
その隙に俺はクレイヤをまっ二つにする。
「だからなぁ」
切れた瞬間に元に戻る。
「効かねぇって」
「ルシフェル」
闇魔法の結界を張る。
これは少し次元がバグっているため、闇魔法と物理では絶対ぬ出れない。
「無理無理、クレイヤ様は自由なんだ。だから縛られない」
まるで何もないようにぬるりと出てくる。
「ヒャッハー、それじゃあそろそろクレイヤの靴を舐めさせながら首を綺麗に分断してやるぜ」
と言ってる隙にバラバラにする。
「ふぅ、スッキリした」
クズが死ぬのは何度見ても気持ちいな。
「終わらせるか」
俺は剣を地面に刺し、地面に一つの図を書く。
「何やってるのですか?」
「プレゼン」
「ヒャッハハハハハ、急にお絵描きとはお前にピッタリだな!!」
「笑い方ダサ」
俺は一つの丸を書く。
「試合終了だ」
「何言ってんだ?」
俺は丸を見せる。
「これは世界だ、分かるか?惑星って」
「バカにしてんのか?クレイヤ様は何でも知ってんだよ!!」
「そうか。じゃあ、お前はこの世界の一部にいる」
「だからどうした」
「なぁ、お前って」
不自由だな
「は?」
「だってこの惑星の外には広大な宇宙が広がってる。想像してみな」
「宇宙……」
「この惑星がお前から見たアリンコ並みに小さい、宇宙はそれだけデカい」
「デカい……」
「狭くないか?」
クレイヤの体がブレる。
「待て!!」
「この世界はお前を捕らえてないか?」
「いない!!世界はクレイヤ様を閉じ込めてない!!」
「想像したな?」
「止めろ!!止めろ!!」
クレイヤの体が摩天楼のようにボヤける。
「なるほど。何者にも縛られない、故に世界から囚われてると感じれば」
「勝手に宇宙空間にさよならグッバイだ」
「ああ、ダメだ。クレイヤ様は自由なのに、自由なのに!!」
最早クレイヤの体は半分も残っていない。
「さて、これで終わるか?」
「凄まじいフラグですね」
「これで終わった試しがないんだよ」
案の定
「消えた」
「消えましたね」
は起きなかった。
「アッサリ……だな」
「ええ。ですが、この攻略法を思いつくのに何人の人が犠牲になるかは分かりません。誇っていいことかと」
「チッ!!腑に落ちん」
「もう少し素直になっては?」
「違う。邪神教幹部がそう簡単にくたばるか?」
「少し、私も周りの状況を確認します」
「ああ」
俺は考える。
この考え自体がきっと大きな杞憂なのだろう。
後ろを見ると、警戒を解いていないアーサーの姿。
「ゲームを思い出せ」
確かゲームではエリカがいない状況では、クレイヤの言葉からヒントを見出し、最終的に先程のように謎を暴いて終わった。
その過程を全て吹っ飛ばした俺だが
「そもそも何故クレイヤはここに?」
何かヒントがあったんじゃないか?
思考する。
「……ソフィア」
「はい、何でしょうか」
「何故、お前は邪神教がここにいると知った」
「ですからそれは独自の調査と」
「詳しく言え」
「しょうがないですね。私は……私……」
ソフィアの言葉が止まる。
「誘い込まれたか」
ソフィアの調査はおそらくアイツの元に渡った。
「愛憎か」
俺は犯人を理解し、肩を落とす。
「帰るぞ、終わりだ」
「え?は、はい」
ソフィアは自身の記憶の混濁に迷いながらこちらに駆け寄ってくる。
「教えてはくれませんか?」
「ダメだ」
俺はアーサーの前に立つ。
「終わった。倒したのはお前の手柄にしろ」
「何故だ?」
「俺様のような天才をお前如きが理解できると思うな」
「……分かった。恩人に仇を返すわけにはいかん」
「そうしろ」
俺は騎士団とペンドラゴ家の間を威風堂々と通る。
「クレイヤは死んだのですか?」
「あいつは死なん。体がないからだ」
「どういうことですか?」
「あいつは自身の全て、つまりは体を全部捧げて闇魔法を使った。すると偶然才能があったらしく、あいつは感覚器官のある人間もような何かになった」
「その結果が不自由、ですか」
「まぁな」
ソフィアは考える。
俺はもう考えるのは疲れた。
「不自由、偽の体……」
ソフィアは一つの答えに気付く。
「なるほど」
天才と呼ばれる少女は
「降ろす」
神の領域に踏み込む。
◇◆◇◆
『ソフィアの物語って少し人気がないですよね?』
『何でだろうね?』
『どう考えても胸糞だからじゃないんですか?』
『え?逆に聞くけど胸糞じゃない終わりがあったかい?』
『本当に性格が悪いですね』
『ま、言わんとしてることは分かる。恋愛ゲームと称しておきながら、その恋が、愛が、牙を向ける。実に皮肉的で実に面白い』
『いやいや、子供が買ったら泣きますよ?』
『この世の辛さを知ってもらうのもまた一興だよ』
『あなたこそ知るべきですね。はぁ、マーリン家は色々闇深いですね』
『三代貴族なんてどこも同じだよ』
『それはペンドラゴ家もですか?』
『うーん、ペンドラゴは少し違うかな。あれは一括りにするには恐ろし過ぎる』
『そろそろこれ、公開しませんか?』
男は一つの紙を指す。
『お楽しみってやつだよ』
『ユーザーが逃げないといいですが』
『大丈夫大丈夫。そのための今までなんだから』
ゲームが起動する。
◇◆◇◆
「ところでアクト」
「なんだ」
「エリカ様とはどのような関係で?」
「他人」
「桃井さんは?」
「他人」
「私は?」
「他人」
町が見えてくる。
「質問はここまでにします」
「何様だ?」
「マーリン家ですが?」
「チッ」
悪態をつく俺に反して、ソフィアは少し楽しそうに歩く。
「人生が変わるのは一瞬です」
「そうか」
「なら、今を楽しむべきだという簡単な答えに辿り着きました」
「そうか」
「楽しくいきましょう」
目が合う。
「勝負といきませんか?」
「勝負?」
「私があなたを解き明かすのが先か、あなたが変わるのが先か」
「意味が分からん」
「勝った方は負けた方に何でも言うことを聞かせられる、でどうです?」
「あぁ、はいはい、分かったわかった」
歩く。
「楽しくなりそうですね」
「どこがだ?」
俺は鼻で笑った。
ソフィアも笑顔を見せた。
救済√6
ソフィアマーリン
未完
「席は空いた」
次回
邪神教編
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