第74話

「何だありゃ」



 アーサーは未知のものに視線が釘付けになる。



「お父様、一度後退を」

「敵を前に逃走たぁ、ペンドラゴの名折れだな、全く」



 アーサーは部隊を一度下げる。



「不死身か?」

「少なくとも無敵ではないかと」



 首が跳ね、腕が千切れ、内臓が飛び出し、人体以上の血液が流れ出ている。



 それでも奴は倒れない。



「ヒャッハー!!痛ぇ痛ぇ」

「もしかしてあれ感覚があるのか?」

「正気じゃありませんね」

「薬でもやってんじゃねーか?ウチみたいだな!!」

「お父様。そのネタは皆が傷つきますので」

「これで折れるアホはいねぇよ」



 絶えず攻撃をするが、クレイヤが止まる気配はない。



「唯一の救いは奴自体がそれ程強くない。それでも町に入ればありゃ災害だ」

「何かで閉じ込めるなどが有効なのでは?」

「一回地中の風呂にでも入ってもらうか」



 アーサーは多大な魔力を使い、魔法を打ち込む。



 クレイヤがチリとなり、そこには大きなクレーターができる。



「アッハッハ、見ろ見ろ、ありゃ化け物だ」

「お父様、笑ってる場合では」



 チリが集まり人の形を成そうとする。



「おーい、土魔法使える奴はそこらの砂利でも奴に食わせてやれ」



 濁流のような土の塊がクレイヤを襲い、大きな穴の中に埋められた。



「不死身を埋葬とはおかしな話だな」

「お父様」

「分かってる」



 地中からギリギリ視認出来るほどの小さな何かが溢れ出し、集まる。



「ユーリ、応援を呼べ」

「分かりました」



 ユーリは一部の人を連れ、撤退する。



「アーサー様」

「相性が悪いな。あんな倫理観ぶっ壊れなことはどうせ闇魔法だ。時々いるんだよな、物理ガン無視してくるアホが」

「12年前の魔女ですか」

「不死身、全ての魔法を無尽蔵の魔力で使う。世界の終わるかと思ったな」

「では今回はどのように?」

「俺らの今の役割は足止めだ。馬鹿みたいに魔法をぶち込んでおけ。それで少しは時間を稼げる」

「了解しました」



 ◇◆◇◆



「怖」



 俺は遠くの光景にビビる。



 おそらくただの平原だった場所であろう場所一帯が剥げ、まるで戦争かのように魔法が大地を侵食し続けている。



「さすが騎士団とペンドラゴ。あれだけで小国程度なら木端微塵でしょう」

「それを一人で受けてるあいつは狂ってるな」

「それ程の相手なのですか?」

「いや、ハッキリ言ってそこまで強くない」

「あの戦力を相手出来る何かを私は強くないと評することができませんね」

「あのゴミは不死身だからな」

「不死身、ですか?」

「しかも完全なタイプだ。外傷がもちろん、どんなものに閉じ込めようとも必ず外に出る。仮に文字通り隙間がない空間に閉じ込められようと、物理法則を無視して出てくる」

「恐ろしいですね」

「だが、弱点もある」

「それは?」

「それはーー」



 俺は歩みを止める。



「……」

「危なかったですね」



 俺の目の前に大きな穴が開く。



 流れ弾か。



「やはり一度合流した方が良いのでは?」

「いや、ダメだ」



 ここであの人に会いたくない。



 だってあの人に会ったら絶対……



「行くぞ」

「分かりました」



 進む。



「それで?どのようにして倒すのですか?」

「ゲームの攻略法ってのは一つとは限らない。オーソドックス、というより初見だと聖女の力で闇魔法を弱らせるのが得策だな」

「ゲーム?」

「こっちの話だ。だが、聖女の力が借りれない状況ってのは多々ある。なら、他にも方法はある」



 俺は自身の喉の調子と確かめる。



 叫ぶ時に喉が枯れたら洒落にならん。



「ヒントは相手がバカ、それと基本的に敵の能力ってのは弱点があるだ」

「少し、考えさせて下さい」



 おそらく俺はクイズ好きなのだろう。



 ルシフェルにもいつもヒントを小出しにするのが何だか面白いんだよな。



 あと考えてるソフィアが可愛いのもある。



「そこ、危ないですよ」



 ソフィアが指差す方に魔法が落ちる。



「……」

「受け取っておきます」

「何も言ってないが!!」

「目がありがとうと言っていましたので」

「そそそそんなことあるし」

「面白い人ですね」



 微笑むソフィア。



 俺が心臓のスペアを用意していなければ確実に死んでいたが、それよりも



「ここまでだ」

「それはどうしてですか?」

「深く干渉しない。それが条件だっただろ」

「まだその時ではないのでは?それに、先程も私の言葉がなければ死んでいましたよ?」

「だからどうした」

「私もあなたが不死身なら何もいいません。ですが、あなたは死ぬんですよ?」

「俺様が死のうが生きようが俺様の勝手だ。お前に命令される権利はない」

「確かにそうですね」



 以外とアッサリだったな。



「では、私がついて行くのも私の勝手ですね」

「人の揚げ足を取るのは面白いか?」

「面白いですね。我儘放題はあなたの特権ではないのですよ?」

「チッ、マーリンは育て方を間違えたな」

「その通りかと」



 ここで俺が彼女に口喧嘩で勝てるとは思えない。



 最初に契約でも結ぶべきだったな。



「チッ!!一度ペンドラゴと合流する」

「それは何故?」

「知るか」

「ありがとうございます」

「何の話だ」

「私の安全の為、とは言えませんから」

「一生口を開けないようにしてやろうか?」

「自動で私の意志を喋る機械など面白そうですね」

「はぁ」



 俺は進む軌道を変える。



「いいか、設定を言う」

「どうぞ」

「俺様とお前は結婚を前提に付き合ってる、いいな?」

「まだ早い気がしますが、何が起きるか分からないのが人生。了承しました」

「いいか!!フリだからな!!」

「はい、ところでそれはフリですか?」

「違ぇ!!」

「言葉遊びですか?」

「言葉通りだ!!」



 俺は息を荒立てる。



 この女!!



 可愛くて賢くて可愛いとか最強かよ!!



 好き!!



 だけど今は嫌いよりの好きだなホントに。



「意味は察せ。お前なら出来るだろ」

「過剰評価では?」

「俺様はお前よりお前に詳しいんだよ」

「今のは普通に気持ち悪いですから」



 ◇◆◇◆



「誰だ」

「俺様だ」

「お!!あの時の!!」



 アーサーが笑顔で近付いて来たと思えば、すぐに顔を顰める。



「おい貴様、俺の娘がいながら何他の女とお手て繋ぎながら来てる」

「誰がお前の娘の彼氏になった」

「彼氏じゃない!!許嫁だ!!」

「何トチ狂ったこと言ってんだバカが!!」



 ことの発端はユーリが我が家から帰る時



 ◇◆◇◆



『リア、さようなら』

『またいつでも来て下さい』

『もちろん』



 熱い抱擁を交わす。



 ユーリがチラチラと俺を見ていたが、気にしない。



『行きましょう、お父様』

『まぁ待て、ユーリ。ここでお礼の一つも言えないで当主が務まるか』



 アーサーは一歩前に出て、俺の肩を掴む。



『おいテメェ!!何俺様に触って』

『いい女だろ?』

『は?それは(当たり前すぎて)今話すことか?』



 何かを手渡たされる。



『三代貴族同士の結婚は色々手続きが大変でな。あとはお前のサインだけだ』

『は?』



 紙は文字通り



『狂ってんのか?』

『よっしゃ!!ユーリ!!今日は赤飯だ!!』

『はい!!お父様!!』



 仲良さげに二人は家を後にする。



『あ、お兄様』



 リアが何かを手渡す。



『私はこれから勉強の時間ですので、失礼します』



 俺の手元に同じ物が二つ乗っていた。



 ◇◆◇◆



「ところで紙はどうした?」

「国一硬い金庫に入れた。ちなみに俺様も暗号は分からん」

「燃やすのは躊躇ったか」



 アーサーは笑顔を止め、前を向く。



「グレイスの息子。あれの倒し方知ってんのか」

「俺様を誰だと?」

「相変わらずよくわかんねぇ餓鬼だ」



 アーサーが手を挙げると、周りの魔法が一斉に止む。



「行ってこい。成功すればその子のこと許してやる。ん?貴様まさかマーリンとこの娘か?」

「はい、ご無沙汰しております。アクトと結婚を前提にお付き合いしています」

「そうか。まぁ俺は気に食わんが、一夫多妻は英雄の器だ。頑張れよ」

「はい」

「おい、もう演技は無しだ」

「すみません聞こえませんでした。もう一回お願いします。彼ピッピ」

「……」

「見て下さい。彼ピッピに反応すれば演技が続くと考えて返事をしません」

「無駄に聡いな。女の前じゃいつもタジタジなのが女心を無駄に刺激してんのか?」

「うるせぇ!!来ないなら来んなカス!!」

「あ、行きます」



 ソフィアは俺の横に立つ。



 それと同時に、奥に見える影。



「攻撃が止んだが、ついにこのクレイヤ様の恐ろしさに気付いたか?」



 ダサい格好で現れる。



「はん、お前に恐ろしさを感じる奴なんてそこらの石ころにビビる奴だけだぜ」

「ヒャッハー!!いいね、お前みたい生意気な奴を痛ぶるのが大好きなんだ」

「奇遇だな。俺様もだよ」



 クズ対カスの戦いが幕を開けた。

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