第73話

 最も奥、序列最上位の男は頭を悩ませた。



「皆、確かに我々に団結力などは求めていないのは確かだ。だが、時と場所、ましてや我々は同じ志を持つもの。リーダーは誰でもいいから話合いをだな」

「フシュー」

「ありがとう、ベル。皆もベルにならって」

「ごめんあそばせ、ワタクシちょっとお肌のスキンケアを」



 オーロラはどでかいバックを取り出す。



「お!!ちょうどいい。僕の新たな技の実験台になってよオーロラ。今より美しくなれるよ」

「まぁサム。あなたみたいなクズにしては気がききますわね」

「でしょー」

「サム、オーロラ、今は話し合いをだなーー」

「ねぇ」



 男の袖を誰かがひく。



「妾お腹すいた」

「カーラか。少し待ってくれ。話合いが終わればーー」

「やだ!!妾ご飯はお腹すいた時に食べたい!!」

「そ、そうか。3分、3分以内に家で食ってこい」

「うむ!!」



 目にも止まらぬ速さでカーラは部屋から出る。



「すまないペイン。少し手伝ってくれないだろうか」

「承知しました」



 男は安心した。



 ペインは見た目こそ恐ろしいが、中身は誠実。



 きっとペインなら綺麗に場を収めるだろうと信じた。



「皆さん、お静かにしなければ皆様の綺麗なお顔を剥がしたくなります」

「あぁ別に構いませんよ。顔なんてただの仮面ですから」

「僕も、顔なんていくらでも作れるし」

「ワタシはダメですから!!ワタシの綺麗な顔に傷でもつけたらただじゃおきませんよ!!」

「ぷっ、これが綺麗な顔?」

「へ?」



 オーロラは取り出した手鏡を見る。



「な!!何このブサイク!!」

「アハハハハ、どうだい?君の性格に合わせた顔だよ」

「殺す!!」

「落ち着け!!」



 男は机を叩く。



「サム、オーロラの顔を戻してやれ。オーロラも許してやってくれ。ペイン、我々は仲間だ。傷つけるのは無しだ」

「まぁ」

「分かりましたわ」

「冗談です」



 男は自身の頭がズキズキ痛むのを自覚した。



「カーラは……」

「戻った」

「10分だ」

「誤差じゃろ」

「はぁ」



 カーラが椅子に座る。



「どうせ皆じっと出来ないなら、本題だけ話す。クレイヤが消えた。誰か心当たりのあるものは?」



 静寂。



「あ、ネイルが」

「おっと危ない、もう少しで辺り一面吹き飛ぶところでした」

「妾そろそろティータイムしたいな」

「剣は素晴らしいですね。綺麗に剥げる」

「フシュー」

「あ、ハル。ちょっとお茶取ってくれる?」

「……」

「ありがと」

「ところで彼女は来てないの?」

「……」

「そっか。何言ってるか分かんないや」



 邪神教に話を聞く者などいなかった。



「クレイヤなら大丈夫だと信じたいが……クレイヤだしなぁ」



 最も強き男。



 その男、真面目で勇敢、そして苦労人であり



「どうせ皆死ぬのだから問題ないか」



 最もこの世を憎む者。



 ◇◆◇◆



「なぁソフィア」

「何でしょう」

「何故俺様とお前が会うのか理解したか?」

「はい。魔力によって引き合ってる、そうですね」

「ああ。なら」



 道のど真ん中。



「この偶然の出会いに違和感を感じるのは俺様だけか?」

「はい、アクトの勘違いです」

「よし、万歳しろ」

「変態。セクハラ、訴えますよ?」



 破廉恥ポーズをしたソフィアのポケットから、何かが落ちる。



「……」

「なんだろうな。俺様にはこれが魔力を帯びてるようにしか見えないのは何故だ?」

「気のせいです。これは何の変哲もないただの石です」



 俺はルシフェルに目を合わせる。



「うむ、メチャクチャ魔力が込められてるぞ。お前の言って通りだとしたら、かなりの引力でアクトとこの石は運命的に引かれるだろうな」

「そうか」



 俺は石を拾う。



「ただの石なんだろ?じゃあ俺様が捨ててくるな」

「待って下さい。その石は祖父の形見。困ります」

「孫に石あげるなんて頭イカれてるんじゃないのか?」

「分かりました、認めます。確かにその石は魔力を帯びています。ですがこれは研究の為であり、決してこれを持ってたらアクトに会えるなぁ、なんて考えていません」

「ふ〜ん」



 俺は石を見つめる。



「まぁいいや。実は俺様、この引力の対処法を見つけた。だからお前がいくら持ってようとどうでもいい。それじゃーー」

「待ってください」



 捕まる。



「私は研究者です。その方法を教えて下さい」

「今度の共同研究の時でも教えてやる」

「ダメです。今じゃないと」

「何故だ?」

「困ります」

「何に?」

「あの……色々と……」

「答えないなら俺様も答える義理はないな」



 歩こうとするが、捕まった腕の圧力は一向に下がらない。



「逃がしません。せめて、この後一緒ご飯でも」

「何もせめんわ。俺様は用事がある」

「例の邪神教ですか?」

「何故今までの会話にその明晰を使えない」

「私テンパるとあまり使えないタイプの人間ですので」

「確かに、堂々とさっき焦ってたと曝露したからな」

「さすが、ご理解が早いですね」

「ああ」



 リアといいソフィアといい、天才とバカは紙一重なのかもしれない。



 そこが可愛い!!



「邪神教は騎士団とペンドラゴ家総出です。特にアーサーさん一人で余裕でしょう」

「いや、無理だな」

「……何故?」

「相性が最悪だ。俺様アーサーの実力を今まで見誤ってたのは確かだが、どう足掻いても奴はパワー系、言ってしまえば圧倒的力でねじ伏せるスタイルだ」

「まさにペンドラゴですね。単純、故に最強ですから」

「誰のことを指してる」

「さぁ。三代魔獣をワンパンできる少女とかじゃないですか?」

「話を戻す。クレイヤはバカ、だから皆もパワータイプと勘違いしやすい。だが、奴の力の正体は邪神教でもトップクラスに難解だ」

「おかしな話ですね。バカであるなら、それ程複雑な魔法を使用できるとは考えられません」

「言っただろ。バカと天才は紙一重だ。あいつはバカ故に、頭の悪い結論を出した」



 奴は闇魔法の代償に



『このクレイヤ様の全てを上げてやる。だからこのクレイヤ様を最強にしろ』



 この意味の分からない条件の結果



「本当に強くなっちまった」



 だがこれは諸刃の剣。



 ルシフェルの願いがずれる様に、同じ条件でも効果はバラバラなのが闇魔法の恐ろしいところ。



「すぐに騎士団に連絡をとりますか?」

「いや、俺様が解決する」

「あなたが……ですか?」

「ああ」

「言いにくいですが、あなたも実力は正直……」

「どうせこのままだと騎士団もペンドラゴも全員死に……はせんか。まぁ怪我はするだろうからな」

「分かりました。私もお供します」

「はぁ?無理、邪魔、消えろ」

「いえ、行きます」

「ダメだ」

「行きます」

「ダメ!!」

「行きます!!」

「邪魔なんだよ!!」

「じゃあ隅っこで見てます!!」



 譲らない。



 あんまり邪神教に関わって欲しくないんだよな、特にクレイヤは。



 怪我の可能性とかもあるしな。



「分かった。だが深く干渉するな。それだけが条件だ」

「分かりました」



 渋々承諾する。



 パパッとあいつをぶっ殺して家のベットにダイブしたい。



「行くぞ」

「はい」



 それに丁度いいな。



「お前には不釣り合いな席、貰うぞクレイヤ」



 ◇◆◇◆



「親分!!敵です!!」

「クレイヤ様に喧嘩を売るバカがまだこの世界にいるなんてな!!」



 邪神教とは思えないほどの治安の悪さを見せる一行。



「ヒャッハー。いつもお高く止まってる奴らに、世界の残酷さを見せてやろうぜ!!野郎ども!!」



 部下と同じ様に小物感を漂わせるクレイヤ



 の首が



「お?」



 はねた。



「一番弱そうなのにあたったな」

「さすがです、アーサー様」

「お父様」

「ユーリ、お前はまだいい。命を奪うことは時に必要だが、無理に覚える必要はない。大事なものを守る、その時だけに躊躇いなく力を振るえるようになれ」

「はい」



 ペンドラゴ家、騎士団による遠距離からの爆撃により、邪神教は壊滅する。



「なんだ、残党か何かか?」

「邪神教にしては呆気ないですね」

「アーサー様、一人生き残りがいるそうです」

「タフな奴がいるな。リーダー格か。近付いて何されるか分からん。もう一度だ」



 雨のような数々の魔法がたった一人に命中する。



「あれは俺でも死ぬわ」

「アーサー様が死ぬところなど想像できませんが」

「え?俺お前らに殺されそうだったけど?」

「大変申し訳ございません」

「気にすんな。過ぎた話だ」

「アーサー様、まだです」

「何?」



 アーサーが目を疑う。



「何者だ?あれ」



 砂煙の中、ゆらりと影が動く。



「ヒャッハー!!皆殺しだぜ!!」



 クレイヤは、傷一つない体で走り出した。

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