第72話

「以上です」

「……」



 知ってはいたんだけどな。



「何故……俺様に話した」

「何故と聞かれましたら、そうしたかったからでしょうか」

「そうか……」



 そうかー



「そうか」

「そんなに私の話は嫌でしたか?」



 少し気落ちしているソフィア。



 いやだって、嬉しくはあるよ?



 けどそれは俺が真だったらの話で、アクトだとダメなんだよ。



 好感度上げちゃダメなんだよ。



「気にするな。鬼は来年の話をしたら笑うように、過去に囚われない俺様は過去の話自体が苦手なんだ」

「珍しい、というより頭がおかしいですね」



 ソフィアが何か言ってるが、俺の頭は既にこんがらがっていた。



 何故ソフィアの好感度が上がってる?



 会えば会うほど好きになるとか恋愛ゲームかよ。



 これ恋愛ゲームだったわ。



「ま、まぁいい。例の件も解決した今、俺様とお前が関わることはもうないだろう」

「聞いてないんですか?二週間後、マーリン家とグレイス家での共同研究が行われますよ?」

「は?」

「それと、私夏休みが終わったらクラス編成でAクラスに上がるよう申請しますので」

「は?」

「あと、とりあえず明日遊びに行きましょう」

「いい……は?」

「最後にどうでもいい話ですが、邪神教の調査をしているとアルグルの森に邪神教が滞在していることが判明しました。近々軽い紛争が起きますね」

「へぇ、どうでも」



 よくないねぇ。



 サラッと凄いこと言っちゃったよこの子。



「あぁ、安心して下さい。騎士団とペンドラゴ家には報告しましたので」



 笑顔で答えるが、そうじゃない。



「……いやもういいや。邪神教の連中に特徴はあったか?」

「そうですね、まず最大の特徴として」

「として?」

「頭がトサカでした」

「……」

「皆がバイク、しかも旧世代に跨っており、服装は非常に奇抜。これまでの黒一辺倒だった邪神教とは大きく違うものでした」

「もう……」

「肩に謎の棘、それと丈が何故か引き裂かれたように千切れており」

「もう……いいよ……」

「心当たりが?」

「まぁ……な」



 アイツがいるのか。



 邪神教幹部第7席、クレイヤ。



 見た目は完全に世紀末のヒャッハー系。



 言動も何もかもが小物であり、初見は誰もが雑魚敵だと思った。



 だが、奴が幹部だと知った時には時既に遅し。



 ゲームの記憶が頭をよぎる。



 ◇◆◇◆



『ヒャッハー!!死ね!!』

『クソ!!◯◯を返せ!!』

『グヘヘへ、あの可愛こちゃんはこのクレイヤ様が後でたっぷり可愛がってやるぜ』

『ふざけるな!!◯◯をテメェみたいなキモい奴に好きなようにさせてたまるか!!』

『お前みたいな雑魚にクレイヤ様が負けるわけグハッ!!』

『待ってろ!!◯◯』



 ◇◆◇◆



 アイツが死んだ時はスカッとしたな。



 気分が良過ぎて何度も見たくらいだ。



「情報提供はしました。であれば、それなりの対価を頂いても?」

「はぁ?チッ、まぁいい。金でも何でも積んでやる」

「そうですか。なら、先程の条件を飲むという方向で。それでは次の話ですが」



 ん?



「今なーー」

「私はあなたを責める気も、断罪する気も一切ありません。先の事件、首謀者はあなたですか?」

「……ああ」

「そうですか」



 淡々と答えるソフィア。



「ああそれと……いえ、この話はまだですかね」

「お前の目的は何だ?俺様が邪神教に組みしていると疑ってるならそれはーー」

「あ、大丈夫です。あなたが邪神教である確率は極めて低いですから」

「なら一体何を」

「ただの雑談ですよ」

「は?」

「この会話に特に意味はありません。私はあなたのことをよく知りません。ですので、知ってることから会話を広げていこうかと」

「……お前が?無駄な会話を?」

「はい。何か問題でも?」

「いや……むしろ、問題が無くなったな」

「?そうですか」



 それからソフィアは俺に質問を続ける。



 好きな物、家で何をしてるか、何故りんごは美味しいのかなどなど。



「どのような女性がタイプですか?」

「ピンク色の髪の子の場合は明るくてポジティブ、周りの人を放っておけずに楽しく場を盛り上げてくれるが、いざとなると冷静に物事を見極めて正しい選択を取れるしっかりとしたところもあるような子。黒髪の子の場合は普段は真面目で冷徹、だけど自身の好きなものになると周りの目を気にせずに色々空回っちゃうような困ったちゃん。青髪の子の場合はーー」

「なるほど」



 小一時間語る。



「今度話す時は今の短縮バージョンを正規の時間で語ってやる」

「ありがとうございます」



 呼吸を整える。



「今、印鑑などをお持ちですか?」

「持ってるわけないだろ」

「実はですね、このようにマーリン家とグレイス家が対話をする場合、ある誓約書が必要なのです」



 ソフィアは一枚の紙を出す。



「これにグレイス家としての証拠が必要なのですが、印鑑がないのであれば血印で結構です」

「あ?俺様の血?」

「はい。あ、既に指は切っておきました」



 手を見る。



 親指からトロリと血が滲み出ている。



「……」

「内容は読んで頂いても構いません」

「めんどくせぇ。やるならさっさとする」



 俺は自身の血を髪につける。



「誓われますか?」

「は?」

「どうなんですか?」

「チッ!!誓う誓う。これでいいんだろ?」

「感謝します」



 俺は指を離



「待て」

「はい」

「わざわざ誓うと言ったのは何故だ」

「どう、と言われましてもより魂の結びつくが強くなり、契約内容が強固なものになるからです」

「そうか」



 嫌な予感がする。



 内容を読む。



 1、この会談は互いの秘密を厳守するものであり、他者に口外することの一切を禁じる。



 2、だが、命に関わること、または本人の意思が介入しない場合はその限りではない。



 ズラーっと読めば、確かに三代貴族としてやっておかなければならない内容だった。



 そう、途中まで



 49、ソフィアマーリン、アクトグレイスは三日に一度、必ず合計1時間以上の対話をしなければならない。



 んん?



 83、ソフィアマーリンがグレイス家分館、もしくはアクトグレイスの部屋に入ることを許可する。



 ふぁ?



 93、お泊まり会とかしたいです。



 願望じゃん。



 100、仲良くしてくれると嬉しいです。



 顔を上げる。



「あの……その……」



 照れた様子で



「よろしく……お願いします」



 俺がその後に死んだのは語るまでもない。



 ◇◆◇◆



「そろそろ呼吸をしたらどうだ」

「………………(大丈夫だ。俺はこのまま死んでも本望だ)」



 ルシフェルに腹を殴られ、強制的に呼吸させられる。



「ここまで俺の目標であるヒロインの救済、そして俺自身が嫌われるを両極端な結果を出せてるな」

「どういう意味だぞ?」

「ソフィアはあらかた大丈夫になった。あのイベントもスキップされるだろう」

「イベント?」

「気にすんな。勘違いと思惑が迷宮する君LOVEで最も難解で、そして後味の悪い話だ」

「よく分からないが、それはもう起きないんだろ?」

「ああ。ソフィアは夏休みが終わってから本格的に始める予定だったが、結果オーライだ」



 俺は夕焼けが照らす大地を進む。



「いや、結果オーライか?」



 そろそろ俺の好感度を見直す必要が出てきそうだ。



「は!!そうだ!!」



 多分いくら俺が変なことをしたところでヒロインも評価が変わる気がしない。



 だが、世間からの圧力がより強くなればどうだろうか?



 俺は携帯を取り出す。



「おい、俺様の電話は2コール以内に出ろ」

「ごめんごめん、今立て込んでてさ。で?どしたのアクト様」



 軽薄そうな声。



「俺様を」



 意気揚々と



「邪神教に入れろ」



 ◇◆◇◆



「ちょっと、何大事な会議中に抜け出すなんてどういうつもりですか?」



 オーロラは端正な顔を歪める。



「いやーごめんごめん。怒らせたらまずい相手がいてね」



 サムは椅子に座る。



「ワタシ達より厄介な相手がいると?」



 ロイは興味ありげに尋ねる。



「どうだろ?マッドサイエンティストに氷の女王。不死身の騎兵に何でも斬る奴。化け物だらけで僕には判別つかないね」

「皆、少し静かに」



 この場で最も強き男は喋る。



「これより、邪神会談を始める」



 こうしてまた一つの物語が動き出そうとしていた。



「ダサくね?」

「どういう権利があってワタクシ達に命令してるんですか?」

「お腹すいたー」

「ゲームしたい」

「そろそろワタシに体を調べさせてくれまんせかね?」

「……」



 いや、それはもう少し先の話だった気がする。


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