番外編2

 お察しして頂けると助かります。



 それでは













 果てなき財宝、未知の力、国中に知れ渡る程の知名度。



 この世の全てを手に入れた男、アクトグレイス。



 彼は今、悩んでいた。



「平穏が欲しい」



 元はただの一般人であった彼にとって、ゲームの世界というのはあまりにも過酷。



 アクトは安安と命をかけるが、決して死にたいわけではない。



 彼の第二の幸せとは、嫌々働き、疲れた体でお菓子を食べ、ゲームに耽る。



 そんな日々は彼にとっての幸せの形の一つであった。



 そこでアクトは思った



「星が見たい」



 空一面に光る星。



 ただ大自然と一体になりたいと。



 思い立ったが吉日とばかりに、アクトは準備を始めた。



「明日はキャンプだな」



 こうして、どうせもっと疲れる山登りが始まった。



 ◇◆◇◆



「ルシフェル、起きろ」

「むにゃ〜、もう食べられないぞ」

「……。いや、起こすか。おい!!」

「は!!」



 ルシフェルは急に起き上がり



「まさかドーナツの穴にあんな秘密があったなんて」

「どんな夢みてんだ。さっさと家出るぞ」

「ん?今日は何かあったか?」

「昨日話しただろ。キャンプだキャンプ」

「めんどくさいぞ。我はパス」

「ダメだ。夜の外で一人はちょっと怖い」

「じゃあ行くな!!」

「ウルセェ!!お前は俺の相棒だろ!!」

「ま、まぁ我は相棒だからな。相棒の我儘くらい聞いてやらんでもない」

「行くぞ、愛しの相棒」

「我行く〜」



 こうしてルシフェルを連れ、家を出た。



「じゃあ早速」



 俺は周囲を確認する。



 何故かって?



「あ!!お兄様」



 こういうパターンがあるからだ。



「何だ、リア」

「今日はキャンプに行かれるのですよね?」



 もうここで何で知ってるなんて言うのは野暮だ。



 喉が渇けば水を飲むように、息が苦しければ息を吸うように、リアが俺の予定を知ってるのも当たり前なのだ。



「確かにキャンプに行く予定だったが、実はやめたんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。俺様が外で寝泊まりするなんて性に合わない。そうだろ?」

「その通りです。お兄様はいつでも最高級のベットと、それに見合う家で睡眠を取られるのが最もお似合いです」

「分かってるじゃないか。だから俺様はただの用事で出掛ける」

「では不躾ながらご一緒にーー」

「待てリア。お前には頼みがある」

「はい!!何でしょう!!」

「お菓子を、俺様という高貴な存在に合ったお菓子を、買い込んでおけ」

「分かりました!!このリア、精一杯お兄様のお口に合うお菓子を買ってきます!!」



 そしてリアは軽くスキップしながら家の中に入っていった。



「リアお金どうするんだろ」

「アクトと同じで金持ちじゃないのか?」

「リアは必要最低限で十分って言って貰ってない。あのクソに貸しを作りたくないんだろ」

「うむ、よく分からんがキャンプは止めるんだな?」

「あんなの嘘に決まってるだろ」

「そうなのか!!」

「ルシフェル、よくよく考えろ。あの日の夜、俺はヘリの音があと数秒遅ければ、自害を選んでいた」

「我の寝ている隙にされたら流石に無理だぞ」

「てなわけで、俺はお前以外を連れて行けない。行ったら死ぬ」

「ぬ、じゃあ急がねばな」

「ああ。行くぞ」



 俺は急ぎ足で山に向かった。



 ◇◆◇◆



「事前に調べたら、ここは魔獣が出ない比較的安全な場所らしい。それに、何でか知らんがここを利用する人は少ないらしい。まさにうってつけだな」

「それはいいと思うが」



 ルシフェルは山を見上げる。



「高すぎないか?」

「だからこそ星が綺麗に見えるだろ?」

「何メートルあるんだ?」

「行くぞルシフェル。時間は有限だ」

「おい!!アクト!!我の質問に答えろ!!」



 俺たちは楽しい楽しい一歩踏み出した。



「あっつ」

「我溶けるぞ」



 そういえば真夏だった、今。



「こう考えると、何でみんなこんな暑い日にキャンプなんてしたがるんだ?」

「アクトみたいにバカだからじゃないか?」

「どういう意味だ、このちびっ子」

「我はチビではない!!本当の姿はボンキュッボンだぞ」

「知りませーん。お前が実際どうであろうと今はちびっ子なのは変わりませーん」

「ムッキー!!」



 俺とルシフェルは仲良く山を登る。



「何だこれ?」



 歩いてる途中、平凡な木にドデカイ実がなっていた。



「へー、ゲームでも見たことないな。効果は何だ?回復?攻撃バフ?それとも混乱するとかか?」

「我はただの旨いか不味いのどっちかだと思うぞ」

「あー、ゲームじゃ……ないか」



 俺はその実を見つめ



「一口食うか」

「な!!毒かもしれないんだぞ!!」

「大丈夫だろ。一口で死ぬような実なんて聞いたことない」

「アクトはバカだから知らないだけだぞ!!」



 俺は一口食べる。



 これは!!



「まっっっっっっず!!!!」

「やっぱりバカだぞ」



 口から吐き出す。



「とても食えたもんじゃない。砂利でも食った方がマシだ」

「そこまで言われると逆に食べたくなるぞ」

「やめとけ。先進むぞ」

「うむ」



 俺とルシフェルは黙々と山を登る。



「……なぁルシフェル」

「何だ?」

「何も……起きないな」

「うむ」

「あり得るのか?」

「我に聞くな!!」

「だっておかしいだろ!!転生してからここまで、俺が何かすれば絶対に悪いことか、最悪なことのどっちかが起きる。にも関わらず、こんな平和に進んでいいのか!!」

「お前は何の為に来たんだぞ!!」

「いや、そうだけどなぁ」



 俺はトボトボと歩く。



「正直に言おう。俺はもしかしたらヒロインに会えると期待してた」

「ぶっちゃけたな」

「リアの前であたかも興味ない態度を取ったが、なんだかんだで後から俺に絡んでくれるんじゃないかと思ってた」

「本当にぶっちゃけるな!!」



 俺は歩みを止める。



「正直……あの日の、海での夜をもう一回体験したかった!!」

「アクト……」



 ルシフェルはゴミを見る目で俺を見る。



「だって!!好きな女の子と会えるのって嬉しいじゃん!!しかもお泊まりとかできたら最高じゃん!!」

「だがいつもアクトの妹がいるではないか」

「不可抗力で!!俺はそんな気ないけど、あっちがーみたいな免罪符が欲しかった!!」

「バカだな」



 だって!!



 俺がアクトというキャラを崩せばもう歯止めが効かない。



 なら、アクトであることを保ちつつ、合法的に色々するには、こうするしかないじゃん!!



「辛いよルシフェル」

「こんな茶番に付き合わされる我が一番辛いぞ」



 何故俺は誰も得しない世界を生み出してしまったのか。



「登ろう、ルシフェル。俺たちはもう進むしかない」

「今何時だ?」

「針は先んじて峠を超えてる」

「行くか」

「ああ」



 俺とルシフェルは登る。



 目的はない。



 星なんて見ても正直全然面白くないし。



 だけど、俺たちは登る。



 そうしなきゃ、今までの時間が無駄になってしまうから。



「意外と、運動もいいかもな」

「我も少しずつ楽しくなってきたぞ」



 一度立ち止まり、街を見る。



「おお!!」

「綺麗だぞ」

「風も気持ちいな」



 これ程の高さから見れば、街すらも小さく見える。



「上まで行ったら、どうなるかな」

「楽しみが出来たぞ」

「そうだな」



 こうして無邪気に笑えた時はよかった。



 ◇◆◇◆



「オエッ」

「無理……だ……ぞ」



 二人でばたりと倒れる。



「高すぎる」

「自堕落がここで響くなんて」



 俺たちは体力が無かった。



「悪い、ルシフェル。俺はもうダメみたいだ」

「諦めるなアクト!!我はまだ、アクトに生きて……」

「ルシフェル?おい!!ルシフェル!!返事しろ!!」



 風の声。



「そんな……」



 まさかルシフェルが……



「俺だって……お前に!!」



 虚しく俺の声だけが響く。



 それと、隣からイビキも聞こえる。



「俺も寝るか」



 俺は重い瞼を閉じた。



 ◇◆◇◆



「さて」



 一人の少女が物陰から現れる。



「やりますか!!」




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