第69話
<sideソフィア>
「そうですね、どこから話しましょうか」
エリカ様は楽しそうに悩む。
先ほどの柊さんとは真反対の反応でした。
「彼との出会いはそうですね。二月前程でしょうか?」
そこから語られたのは
「最初に彼はなんと結婚したいと言ったんです。彼の噂は色々聞いていましたが、まさか初対面の行動があれなんて思いもしませんでした」
「はぁ」
「それから彼、黙っちゃったんです。可愛いですよね。嘘がバレないように必死に我慢してる様子が本当に面白くて」
「可愛い……面白い……」
「それからですね、詳しくは話せないのですが、私を助けてくれたこともあって」
「へ、へぇ。凄いですねー」
なんでしょう。
何故私は惚気話を聞かされているのでしょうか。
「あ、あのー」
「はい、何でしょう?」
少し呼吸が荒く、汗が出ているエリカ様。
こんな姿のエリカ様を今まで見たことがありません。
「私から頼んでおいて何ですが、なんかこう、事件の根幹に関わりそうなこととか、何かを隠しているとか、そのような要所だけで十分ですので」
「そうですか」
表情は笑顔のままだが、私にはわかる。
エリカ様が少し残念そうなのを。
「そうですね」
エリカ様は呼吸を整え
「今回の件、おそらく黒幕は彼でしょう」
「……詳しく」
想像よりも大きな答えが返ってきました。
「彼の目的は私にも分かりません。ただ一つ分かるのは、彼が行動を起こすたび、周りに女の子が増えます」
一瞬ふざけてるのかと思ったが、違うのでしょう。
その女の子達に秘密があるのでしょうか
「その中にエリカ様も含まれていると?」
「どうでしょうか。ただ彼は私を避けようとしているのは紛れもない事実かと」
「エリカ様を避ける、ですか。あなた様との関係は皆が喉から手が出るほど欲しいもの。それをみすみす見逃すなんて」
「面白い人ですよね」
「まぁ、気になる存在であるのは確かですね」
話を聞くたびに謎が深まる。
「何故この事件に彼が関わってると?騎士団に調査された際に何故話さなかったのですか?」
「そうですね、端的に言えば、庇いたかったからでしょうか」
「え」
私の聞き間違いでしょうか。
人々に平等に愛を与えると言われる彼女が、一個人を庇った?
「そうです、私もまた一人の人間なんです」
「顔に……出ていましたか?」
「ええ、とっても。可愛いお顔でしたよ」
「そうですか」
羞恥を感じる余裕すらありませんでした。
「彼が私を迎えに来た時、彼は焦っていました。普段は必死に己を隠し、本音を閉じ込め、ただ目的のために走り続ける彼が、私の前で初めて見せた本当の顔でした」
「それ程までに彼は何を焦っていたのでしょうか」
「女の子のためでしょう。彼は可愛い女の子が大好きですから」
「まぁ、一般的男性の特徴ではありますね」
「少し違うと思いますよ、彼の愛は重たいですから」
「重たい?束縛などをするのですか?」
「それで済めばいいんですが、彼の場合は命の天秤が壊れていますので」
詩的な表現で誤魔化しているが、その言葉はつまり、常軌を逸してることを表していました。
「ですがここで面白いポイントがあるんですよ」
「面白いポイント?」
この流れで面白いところがあるのでしょうか?
「彼は自分の全てを投げ打ってでも誰かのために行動しました。そこまで尽くされた子達は、一体どうなってしまうのでしょう」
「その話が本当だとすれば、考えるだけでも恐ろしい結果が待っていそうですね」
「そうですね。報いは返ってくるものですから」
本当に楽しそうに喋る。
「私が現場に辿り着いた時、彼は言いました。『頼む』と」
「何を託されたのですか?」
「リーファさんをご存知でしょうか?」
「はい。無理矢理知らされました」
「そ、そうですか」
エリカ様が珍しく困惑する。
「リーファさんはかなりの重傷でした。ですが、怪我をしてからそれ程時間は経っていませんでしたので、命を助けることに成功しました」
「それはよかったですね」
「ええ。その後、私は一度戦場に足を踏み入れました。いくら罪人といえど、命あってこそ償えます。加護持ちも闇魔法も私には運よく対抗する手段がありますので、敵は撤退していきました」
「エリカ様はこの国、いや、世界の宝です。危険なことはなるべく」
「すみません。気をつけます」
エリカ様も自身の重大性を知っている。
動きたいのに動けないとはきっと、想像以上の苦しみがあるのでしょう。
「と言っても、私結構やらかしてますけどね」
いや、この方結構自由なのかもしれないです。
「その後でした。光と共に、とてつもない魔力を感じ、私は光の差す方に向かいました」
「それは例の?」
「おそらく。そして私が着いた時には、真さんが倒れていました」
「柊さんが?」
「はい。正直に言うと、リーファさんよりも重傷でした。骨が折れ、内臓もかなりダメージがあり、生きてるのがやっとといったところでした」
「それは酷いですね」
「ですが何より酷かったのは、彼の魔力が不安定なところでした」
「魔力が……不安定?」
「はい。私はある程度人の魔力を読み取ることができますが、あの時の真さんの魔力は、まるで無理矢理異物を入れられたようにグチャグチャでした」
神による魔力……
「治療の後、なんとか魔力も安定していましたが、彼は前とほんの少しですが変わった気がします」
「気になりますね」
「ええ」
この話も大いに興味はありますが
「それで、何故彼が黒幕だと?」
「ああ、それは簡単ですよ。彼ならそうすると思ったからです」
理由になっていませんでした。
「他にも理由はありますよ!!どうして事件を知っていたのかなど、掘り下げればいくつか出てくると思います」
ですがと
「私には彼が亜人を、リーファさんを迫害する人達を野放しにするとは思えません」
「危険では?」
「確かに危ういと、私も思います。ですが」
振り返るように
「事件での死者は、実は邪神教のみだったのです」
「そんなことが?」
「私も同じように思います。ですが、私が死者に不思議な魔力を感じ、光魔法で解除してみると、人の姿が変わったのです」
「……邪神教による学園への侵入」
「あの時と同じ現象ですね」
「やはり邪神教は奥が知れません」
「そうですね。警戒し過ぎても損はない相手かと」
邪神教の危険性、魔力によって発生する数々の謎、そして
「アクトグレイス」
この全てに通ずる男に
「気になりますね」
興味を抱かない方が難しかった。
◇◆◇◆
と言っても直ぐに彼に会いには行きませんでした。
ただの興味で会いたいなどおかしな話。
それに、優先順位というわけではありませんが、例の魔獣化現象。
その研究を先に進めたい。
「ありませんか」
「はいー、やはりダンジョンに行けるほどの方々はお忙しいですからー」
ちょうどいいと、魔力問題に関してはグレイス家と後に共同研究することが決まった。
それまでに自身の力で試したいことがあります。
そのために魔力を大量に帯びた素材が欲しいが、中々見つかりません。
ダンジョンは言ってしまえば宝の山だ。
だがその中は猛獣達の巣窟。
並の人間ではどんな場所かも認識する前に殺される。
そのため、常にダンジョンの素材は不足していました。
「しょうがありませんね」
こうなっては
「私の手でダンジョンに潜りますか」
私は三代貴族と言ってもマーリン家。
戦力で言えば他の家、特にペンドラゴ家に比べれば天と地程の差がある。
ですが、それでも三代貴族の端くれであるのなら
「行きますか」
全身をフル装備にし、閃光玉、爆薬、毒、銃火器、ビーム、核などなどを詰め込む。
「三代貴族の力を見せつけてやります」
私は家を出る。
◇◆◇◆
「ん?」
とあるダンジョンにて
「あの人確か」
柊さん?
「酷い顔ですね」
私は復讐に走る人なんて者は見たことないですが、それに近い何かを感じる。
「そういえば最近、ダンジョンの素材が増えてきたと聞きますが」
柊さんでしょうか?
「……まぁ、これで私の目的に近付けるのであれば問題ありませんね」
彼に関わって互いに時間を無理に消費する必要はない。
「頑張って下さい。主に私のために」
私はダンジョンに足を踏み入れた。
◇◆◇◆
「今日は収穫でしたね」
今回のダンジョンはかなりの素材が集まった。
「下手すれば私の家にダンジョンができるかもしれませんね」
そんな考え事をしていたせいでしょうか
「あ、すみません」
肩がぶつかる。
「悪い」
男性の声。
この声どこかで……
顔を確認する
「「あ」」
それがお姉様私と彼の最初の出会いだった。
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