第68話
<sideソフィア>
「彼氏……について話す必要があるんですか?」
「うん。彼氏と言っても未来形だけどね」
この時、私は思いました。
この人は危ない人だと。
「まぁまぁ、落ち着いて。例えば、同棲して三年目、財産もお互いに共有しているカップルがいたら、最早それは結婚してると言ってもいいよね?」
「人によると思いますが、私も同じ意見ではあります」
多分そこまでいって結婚しないというのは何かしらの問題がある気もしますが
「なら、私と彼が付き合ってると言っても過言じゃないね」
「そ、そうですか」
相手のことは知らないが、多分暴論である。
「とまぁ、冗談はここまでにして」
スイッチが切り替わった音が聞こえる。
「あの時の状況は私も詳しくは知らないけど、ある程度私個人の意見や考えを組み込んでこんもいいかな?」
「ええ、構いません。それが真実かどうか判断するのは桃井さんでも私でもありませんから」
「そ、なら話すね」
やはりこの人はなかなか
「ごめんね、最後に一つだけいい?」
「何でしょう?」
「ソフィアは亜人に偏見がある?」
蛇に睨まれた蛙。
回答によっては私の命に危険が迫る。
そんな気がした。
「いえ、私はこれでも一研究者。亜人による危険性のなさを証明したのも世間ではマーリン家となっていますが、実際は私が突き止めたものです」
「ええ!!」
桃井さんが驚きを露わにする。
「私と同い年だよね?すごー」
それは純粋な賛美であった。
「あ!!ごめんね。ありがとう。その答えを聞けて安心したよ」
一転してニッコリとした笑顔が返ってくる。
「遅れてごめんね。それじゃあお話させてもらうよ」
そこから語られた内容は、実に興味深いものが多かった。
「邪神教と幸福教、それと巻き込まれた人がいたんだけど、その人達は全員亜人差別者の団体だったんだ」
偶然だろうか。
確かインタビューでも偶然通りかかった時に抗争に巻き込まれたと被害者の一人が供述していた。
「でもね、私はあの戦いが勢力争いとは思ってないんだ」
「それは何故でしょう?」
「幸福教は装備も戦力も整っていた。でも、邪神教は一人のヤバそうな奴を除いて何だか下っ端って言うのかな?準備中に襲われたって戦力だったね」
「なるほど」
つまりあれは幸福教が邪神教に攻め入ったということか?
「邪神教の潜伏地に幸福教が攻め入り、それと全く同じ時間にデモ団体が通りかかる。偶然にしては」
「出来過ぎだねー」
桃井さんは軽く答えた。
「何か知ってるんですか?」
「さぁ?」
その隠す気のない様子は、まるで私を敢えて怒らせるようであり
「続けて下さい」
「うん」
飲み込まれるわけにはいきません。
人はどれだけ賢かろうと、感情に支配されれば皆同じ。
なればこそ、話し合いはより冷静になれ。
それが、真実への最短ルートですから。
「私と真、それとリーファと一緒に救出したんだけど」
「待ってください。リーファとはどなたですか?」
「ん?私の友達」
「いえ、そういうことでは……」
情報では、今回関わった人物は桃井さん、それと一人の男性、最後に聖女。
その他の情報はなかったはず。
「リーファはエルフだよ」
「なるほど」
騎士団が秘匿した、もしくは上の誰かが揉み消したか。
「助けた方々は差別主義者ですよね?この発言は少々不謹慎ではありますが、義理はないかと考えます」
私なら、私を迫害する者達を助けようと思いません。
むしろ……
「簡単だよ。リーファが優しい子だから」
簡単に言えることでしょうか?
「そう、簡単に出来ることじゃない」
「!!!!」
心を読まれた?
否
私はちょうど今の言葉と同じ台詞は言おうと
「でも出来た。そこがリーファの凄いところで」
遠くを見る
「彼に好かれる理由の一つなのかもね」
「はぁ」
彼?
例の柊さんでしょうか?
「リーファの話はまた今度じっくり話そうか」
「あ、いえ結構です」
「そう?」
「それより一つお伺いしても?」
「急に改まってどうしたの?」
私はある疑問を抱く
「桃井さんは、この事件が誰かに意図的にされたと考えていますか?」
「ふーん」
笑う。
「そうだね」
あっさりと認めた。
「そしてその人物について明確に示してはいませんが、敢えて辿り着かせようとしているように感じます」
つまり私は、目的は何だと述べる。
「大したことじゃないよ」
桃井さんは笑い
「泥棒されるのを気をつけただけ」
その謎の答えの後、結局桃井さんは私の言葉をはぐらかし、話は終わった。
◇◆◇◆
「状況自体は何となく分かりました。次は」
柊真さん。
先ほど話に出ていた人。
この扉の向こうにいるらしい。
「入っても?」
「はい」
扉を開ける。
「今日はよろしくお願いします」
最初の印象は、ただの青年といったものでした。
「少状況は桃井さんから聞いていますが、柊さんの視点でもお聞かせ下さい」
「分かりました」
話を聞く限り、桃井さんと遜色ないものばかり。
だが
「邪神教の者と戦いました」
その内容は、私の中で最も知りたかった
「奴は魔獣を生み出していました」
予想は確信となった。
「奴が言うには、人が人に魔力を与えられないが、人から動物に魔力を送れると。そうすれば動物は魔獣になる、そう言っていました」
それは世紀の大発見でした。
「ですが今までそれで成功した記録は……」
「確か大量の魔力が必要だと。それと、神から人へと魔力を送るとどうなるかとか言ってたような」
もしそれが本当だとすれば
「ありがとうございます。この情報は非常に貴重なものです」
「そ、そうなんですか?」
柊さんはよく分かっていなそうに首を傾げる。
「加護、親和性、動物と人間にも魔力の波長が?」
新たな情報に、脳が高速で稼働するのが実感できる。
だが、今は考えるよりも
「すみません、続きを」
より新たな発見を
「続……き」
急に柊さんの言葉が途切れる。
「どうかされたんですか?」
「アクト」
アクト?
悪逆の数々で有名なアクトグレイスが何故ここで
「彼が一体?」
「あいつは……あいつは一体何がしたい!!」
怒りを見せる。
「落ち着いてください!!」
「落ち着いていられるか!!」
怒鳴る。
完全に冷静さを失っていますね。
「どうして簡単に人を殺そうとする。僕に分かる言葉で話せよ。助けたのか?それとも殺したのか?何が何だかもう……」
混乱。
おそらく言葉を交わすことは困難だろう。
「今日はありがとうございました」
◇◆◇◆
最後の相手は今までと毛色が違います。
私達三代貴族と同等、下手したらそれ以上の力を個人で保持している方。
「本日はお越し下さり感謝します。エリカ様」
「私の方こそ、こうしてあなたとお話し出来る機会を下さり感謝しています」
正面に立つとより実感できる。
この世の美の全てを詰め込んだような姿は、やはりこの方が聖女だという紛れもない事実を写していました。
「ふふ、そうかたくならないで下さい。今日は紅茶を用意したので、ゆっくりお話ししませんか?」
「ご厚意感謝します」
席に座り、落ち着いて会話を切り出そうとするが
「すみません。私も出来ることならソフィアさんに出来るだけ多くのものを与えたいのですが、私の着いた頃には既に事態は収束していまして」
エリカ様は申し訳なさそうに話す。
「いえそんな、ただ私は出来るだけ情報が欲しいだけで、エリカ様に現場がどのような状態だったかを聞かせて下さるだけで十分です」
「そう言っていただけると少し楽になりますね」
エリカ様は一口紅茶に口をつける。
その所作の一つに高貴さが滲み出ており、一つの芸術となっていた。
「ふふ、そう見られると緊張してしまいます」
「あ、すみません。エリカ様があまりに綺麗でしたので」
「お世辞がお上手ですね」
お世辞はこれまでの人生で幾度となく繰り返してきたが、彼女の前ではお世辞を吐く必要が一切なくて楽だと。
「先程も言った通り、私が到着した時には既に事態は終わりに向かっていました。ただ、光魔法が終焉のきっかけとなったのは紛れもない事実かと」
それは自分を棚に上げるとかではなく、ただ事実を淡々と述べていた。
「その時既に巻き込まれた方々は御三方の活躍により成功し、私は怪我をしていた方々の手当てをしました」
ここまでは既に私も知っています。
重要なのはそこではない。
「エリカ様はこの事件に気付いていましたか?」
エリカ様は歯痒そうに
「私は気付くことが出来ませんでした。本当に聖女失格ですね」
純白の服がぐしゃりとシワを見せる。
エリカ様も人間だ。
不可能なことなんて多々あるというのに……
ですが、ここでの私の仕事はエリカ様へのフォローじゃない。
「お聞きします。何故、エリカ様は事件に駆けつけることが出来たのですか?」
そして放たれた理由は
予想外であり、ある意味予想通りであった
「アクトグレイス。彼の行動によって知りました」
やはりこの事件のキーパーソンは
「彼について詳しく、お聞かせ願えますか?」
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