第66話

「確かに俺様の高貴さを考えれば人間かどうか疑ってしまうのも無理はないな」

「いえ、そういうアホみたいな理由ではなく」



 ソフィアは動きを止め



「あなたの魔力はゴミです」

「言葉は慎重に選べ」

「分かりました。あなたの魔力はカスです」

「おけ、喧嘩なら俺様が高値で買ってやる」

「今はふざけてる場合ではないですよ?」



 矛先を硬い盾でなく、柔らかいスライムのように弾く。



「あなたの皮膚や臓器、ましてや感覚器官の全てにほんの少し魔力があります」

「あん?それが普通だろ?」

「すみません。言い方がよくありませんでした。正確には魔力で出来ているんです」



 それはつまり



「俺様自身が魔力になっている?」

「その通りです」



 それはおそらくルシフェルやおそらくレオと同じような状態になっているということか。



「何故だ」

「私にも分かりません。もう少し原因を探ってみます」



 それから深い森の中、二人の男女が無言で機械を弄る奇妙な光景が続いた。



「調べれば調べるほど謎が浮き出てきます。おそらく、最近起きていた私とあなたの接触もあなたが何かしらの原因を抱えているのは確実かと」

「お前の可能性は考慮しないのか」

「確かに迂闊でしたね」



 そう言い、ソフィアは上の服を脱ぐ。



「……」

「すみません。故障だと思うのですが、脳波と心音が停止したのですが」

「……」

「返事がないですね」



 死んだんですか?と微かに呼びかける声がする。



 俺がなんとか天国に行こうとする自身の魂を回収しようと躍起になっていると、更に事件は迷宮と化す



「何を!!」



 ダンジョンに潜る予定だった真が現れる。



 今の真の視点で物事を考えると、半裸になった男女が、様々な機器に囲まれ、ダンジョンの前に座っているという怪奇極まりない状態であった。



「どなたか知りませんが、私達のことはお気になさらず、どうぞダンジョンに向かってください」

「無理だよ!!これを無視できる人間はメンタル強者か狂人のどちらかだよ!?」

「あぁ、なるほど」



 ソフィアは自身のそれを少し持ち上げ



「一回ならいいですよ?」

「け、結構です!!」



 顔を真っ赤にした真は急いでダンジョンに走っていく。



「私は思ったより魅力がないのでしょうか?」

「人は完成されたものを見ると逆に萎縮しちまう」

「おや、目を覚まされたのですか?」

「まぁな」

「それにしても、何故彼が来た時に顔を隠したのですか?」

「事情だ」

「そうですか」



 半裸の二人が真面目なトーンで話す。



「お前はとりあえず服を着ろ」

「そうなるとーー」

「なんとなく分かった」

「……詳しく」

「服を着たら教えてやる」



 少し不機嫌な様子で服を着直すソフィア。



 その姿をずっは凝視していたが、特に何も言われなかった。



「よかったです。今までは主観的でしか見れませんでしたが、自身が魅力的な人間であると分かりました」

「……なあ、一つ聞きたいんだが」

「先に私からです」



 そこには硬い意志があった。



「はぁ。まず初めに、お前は多量の魔力を帯びた素材を持ってるな」

「どうしてそれを」



 警戒度が急激に上昇する。



「理由は説明する義理も人情も俺様は持ち合わせちゃいない」

「無理やり吐かせることもできるんですよ」



 俺に襲われそうな時ですら戦闘の意思を見せなかったソフィアが、ここに来て初めて臨戦態勢をとる。



 俺はそんなソフィアを気にも止めず、話を続ける。



「お前が何故それを知ったかは不明だが、おそらくお前は魔獣の作り方を調べてるんだろ?」

「……はい」



 一度俺の話を聞いてから行動の指針を決めようとする態度となる。



 ここで俺はゲーム知識と、今日まで知った新たな知識の総合わせで結論を導く。



「人の魔力を他の動物に注げば、それは魔獣となり、自然発生した魔力を持つ人間は亜人となる」

「そんな話一体どこで」

「どこかと言われれば、この世界を作った存在だろうな」

「あなたは……」

「続ける。だがその自然発生した魔力ってのは、どこから生まれた?」

「そんなの、宇宙がいつ生まれたか問うようなものです」

「ま、その通りだ」



 俺の回答にソフィアは頭を悩ませる。



「あなたは何が言いたいのです?」

「ここでもう一つ補足をつける」



 情報を先出ししないのは俺の悪い癖だ。



「器、知ってるか?」

「……一応」



 凄いな。



 俺もルシフェルに聞くまでは分からなかったのに



「俺様はある仮説を立てている。それは器の種類や大きさが魔力の属性と収められる量を決めてると」

「根拠は?」

「だから言っただろ、仮説だって」

「確証するものすらないものを仮説とは言いませんよ」



 これ以上この世界の常識を逸脱した回答をすれば、魔女裁判行きだろう。



「信じなくてもいい。だが聞いておく価値はあるだろ」

「いいでしょう。続けてください」

「人間は器を冠して魔力を制御している。だから溢れることはない。だが、侵入されることはある」

「おおよそ予想がつきました。あなたはこの魔力を帯びた素材達が水が上流から下流に流れるように、器の空っぽなあなたに流れようとしていると、そう言いたいのですか?」

「ビンゴ」



 ソフィアは大きなため息を吐き。



「その話に一切の証拠はなく、それまでの経緯ですら怪しいものが多々です」



 ですがと



「面白いです」



 ギラギラと目を光らせる。



「訂正させて下さい」

「何をだ?」

「最初、あなたにそこらの男と同じと言いましたが」



 ソフィアは笑い



「少なくとも、良い意味でも悪い身でも常軌を逸しています」

「もう一度言うぜ」



 同じく笑い



「俺様をそこらの男と一緒にするんじゃねぇ」



 この時の俺は凄くテンションが高くて気付いてなかったが、後にこれは大きな失敗であると気付く。



「それでは明日、私の家に来て下さい」

「へ?」



(数秒)後であった。



 ◇◆◇◆



「正直来ると思っていませんでした」

「お前如きが俺様を測れると思うな」

「昨日、私があなたの質問を反故にしたまま帰宅したからですか?」

「……」

「どうぞ、ある程度おもてなしはするので」

「チッ」



 苛立ちげにマーリン家に入る。



「ようこそアクト様」



 多くの使用人がVIPを扱うようにレッドカーペットの横にずらりと並んでいる。



 まぁアクトの評判を聞けば妥当な扱いだろうが、俺からしてみれば非常に居心地が悪い。



「あまり嬉しそうじゃないですね」

「慣れただけだ」

「そうですか」



 ズンズンと綺麗に清掃された廊下を進む。



「ところでアクト」

「普段敬語だから違和感しかないな」

「ではアクトさんと?」

「めんどくせぇ。会話は短い方がいい」

「同感です」



 少し沈黙



「私が敬語を使う理由はお聞きしないのですか?」

「無駄な時間だ」

「……なるほど、そうですか」

「チッ」



 これだけの情報だけで真実に辿り着けるとは思えないが、そのもしかしたをするのがソフィアだ。



「前回の話の続きですが、あなたは何故人間が他の動物に対して魔力を送れるか知っていますか?」

「知らん。だが、人間の方が上だからじゃないか?」

「それは食物連鎖の観点ですか?」

「それは違うだろ。元々人間はむしろ食われる側だ。だが文化が発達して逆転しただけ。あのピラミッドはそういう前提があってのものだ」

「では?」

「上位存在だ」

「なるほど」

「人間が他の生き物より上の存在だとするのは傲慢か?」

「いえ、どんな言葉で取り繕おうとも、現在のこの世界を支配しているのは人間です」

「そうだな。じゃあ人間に魔力を送れる存在ってのは人間より上位の存在だ」

「……その説だと」



 ソフィアは石を取り出す。



「これはダンジョンが形成されそうになっていた際に最も魔力を帯びていた石です」



 すると石は本当に少しだが、俺に近付いていく。



「あなたの仮説は内容は不明ですが、確かにあなたに吸い寄せられてるという結果は合っているようです」

「それで?」

「この石は、我々人類よりも上位の存在だと?」

「そうなるな」

「理由は?」

「ふむ」



 どう説明するか



「めんどくせぇ」



 俺は諦め



「この世界に神が現れ、世界を滅ぼそうとすればどうなると思う?」

「確実にこの世界は終わりを迎えるでしょう」

「正解は否だ」



 ソフィアの眉がピクリと動く。



「何故?」

「世界が抑止力を用意するからだ」

「…………続けて下さい」

「抑止力さんは世界の意志で生まれ、それは所詮カケラだが、分類上の神に対抗する力を持ってる」

「その抑止力を生み出せる世界、それを構成するこの石ころは、我々より上位の存在だと?」

「そうなるな」

「相変わらず根拠は」

「ないな」

「そうですか」



 しばしの沈黙。



「ああ、なるほど」



 ソフィアは簡単に



「別世界」



 真実に到達する。



「聞いても?」

「俺様は答えない」

「そうですか」



 アッサリと引き下がる。



 多分自分でもありえない結論と投げ捨てたのだろう。



 そしてある部屋に到着する。



「ここは?」

「ただの客間です」



 中はかなり広い。



「どうぞ座って下さい」

「俺様に指図するな」



 俺は雑に椅子に座る。



「私に聞きたいことがあるのでしょう?」

「ああ」



 たかが廊下を歩いただけでこれ程までに濃密な時間を過ごした後で拍子抜けだが



「どうして昨日、というより俺様とあの男にあんな態度を取った」

「そうですね」



 質問の内容は既に予想していたようで、ソフィアは真っ直ぐ俺の目を見る。



「その前にまず」

「あん?」



 なんだ?



「私の昔話をしても?」

「ダメだ」



 俺は焦りで立ち上がる。



「何故?」

「い、いいからダメだ」



 突然の過去話。



 それは至って普通?なことかもしれないが、この世界は恋愛ゲームだ。



 ヒロインの過去話なんて大それた理由がある。



「すみません、非常につまらない話ですが」

「ダメだから!!頼むからつまった話をしてくれ!!」

「それでは」



 ソフィアの過去話。



 それは、ソフィアの好感度がMAXの状態で発生する特殊イベント



「これは私の幼少の話です」



 どうやら俺は大失敗を犯したらしい。





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