第65話

「ストーカーですか?」

「どう考えても俺様の方が先にいただろ。むしろお前の方がストーカーなんじゃないか?」

「そんなのこの道に来れば目的地は簡単に分かります。先回りなど容易でしょう」

「はん、自惚れも大概にしろ。所詮お前は顔がよくて、細身なのに胸が大きくて、綺麗な髪をしたただの天才だろ」

「ボケてるんですか?どちらにせよよりストーカー度が増したのは事実ですね」



 どういうことだ?



 あの天才ソフィアなら俺の無実などすぐに気付くはずなのに。




 こうなったら俺がどれだけ本気が訴えねばならんな。



「おい!!ちゃんと俺様の言うことを信じろ!!」



 俺は少し興奮気味に鼻息をたてながら信じてもらうよう訴える。



「さ、さすがに違うと思っていましたが、まさか嘘が真になるとは」



 一歩後ろに下がるソフィア。



 まずいな。



 アクトはクズ野郎だがストーカーをするような男ではない。



 このままストーカーとして扱われるのはアクトの沽券にかかわる。


 

 アクトにそんなものがあるかは知らんが。



 どちらにせよ、誤解を解かねば。



 一歩踏み出し



「おい、俺様はちとお前に話があるんだ。ちとあそこで話し合いでもしようじゃねーか」



 俺は薄暗い森の奥を指す。



「すみません。私これから用事がありまして」



 また一歩後退する。



「ならわざわざ俺様に突っかかってる時間なんてないはずだ。賢いお前が目的を見間違うはずがない」



 ジリジリとまた一歩追い詰める。



「本当に誰ですかあなた。無駄に聡いし、無駄に私のことを知ってるのがより信憑性が出て恐ろしいです」



 ソフィアは木にぶつかり歩みを止める。



「追い詰めたぞ!!」



 客観的に見たら今の状況は、少し涙目になってるいる少女の前に、目をギラギラさせた男が両手をワキワキさせながら立っている構図だが、まぁ俺がソフィアを傷つけることなんてないから安心だろう。



「私の純潔はここで散るんですね」

「あ?この世界はそんなのが散る前に命が散るような世界だぞ?」

「加虐趣味でしたか」



 覚悟を決めたソフィアは目を閉じる。



 本来なら俺より強いのに、反撃を見せないのは彼女にそこまでこの世に縛られる必要性を感じていないからだ。



「チッ」



 俺はやらかしたルシフェルを扱うようにソフィアにデコピンする。



「痛いです」

「俺様は偶然ここに居ただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。いいな」

「まぁこの状況で襲わないのなら概ねそうなのでしょう」



 ソフィアは少し息を整える。



「勘違いしてすみませんでした」



 頭を下げる。



「はん。もう少し頭が回るようになってから出直せ」



 俺は暗い茂みの方に進む。



「挑むのか?」

「え?」



 突然の俺の質問にキョトンとした顔をするソフィア。



「そうですね、ここにはダンジョンくらいしかありませんから」

「いざとなったら大声で叫べ。世界の救世主様が先陣を切ってる。運が良ければ命くらいなら助かるだろ」

「何故そのようなことを」



 心から不思議そうに尋ねてくる。



「気分だ。俺様は何をしても許されるが、無実の衣を被せられるのは癪だからな」



 そう言って場を後にした。



 ◇◆◇◆



「そもそも何でソフィアはダンジョンに?」



 森を抜けながら疑問を口にする。



「ふぁふぁりふぁふぇふぁふぁいふぁ」

「だから食ってから喋れって」



 ルシフェルは飽きを知らないように口に詰めてるあんぱんを飲み込み。



「やはりあれじゃないか」

「あれ?」



 ルシフェルは自信満々に



「綺麗な宝石さんが見たかったんだ」

「どうした?あんぱん食い過ぎてIQ下がったか?」

「我は超絶天才だが?」



 一部の疑いもなく答えるルシフェルは、確かに天才なのかもしれない。



「それと、これは多分間違ってると思うが」

「一応言ってみろよ」

「うむ。奴の周りから様々な魔力を感じた。おそらく、多量の魔力を含んだ物だと思うぞ。それらを複数集めればダンジョンすらできる代物だったが、それを集めに行ったのではないか?」

「やべー。さっきより全然説得力ある」

「やはり答えは宝石だと我は思うがな」



 ソフィアが魔力を帯びた素材を集めている。



 何故だ?



 理由は?



 記憶の中のソフィアから答えを導く。



 もちろんこんな話は原作にない、ということは俺が関係した非常事態に密接した何かがあるはず。



 魔力



 素材



 魔獣?



「ロイの魔獣を生み出す装置か」



 学園を襲い、真という巨大戦力の身動きを完全に封じたあれ。



 おそらくあれの研究をしているのか?



 だが何故そのことを知ってる。



 学園の件は原作で戦闘で気付いていないと記載があった。



 もう片方の例の事件drは、関わった人間はごく僅か、情報を確保するのは難しいはず。



「どう考えも不正解だが、なんか引っかかるな」



 一抹の不安を抱いた。



 ◇◆◇◆



 それから、というより以前から



「「あ」」



 道端



「「あ」」



 図書館



「またか」

「どうも」



 店の前



「あん?髪切ったのか?」

「暑いので」



 美容院の前



「ダンジョンに?」

「別に。ただ気になっただけだ」



 武器屋の前



 背後から密かにヒロインズを見守る守護悪魔で有名な俺だが、まるで運命の悪戯かのようにソフィアと出会い、最早ぶつかった人物はソフィアだと分かってしまうレベルで遭遇する。



「あなたがストーカーならこの現象も納得できるのですが、もしそうでない場合にこの不可思議な現象を解き明かす必要があります」

「俺様は万が一も億が一もストーカーしたことなんてないが、こればかりは俺様も気になる」



 夏休みの初日からソフィアに会わない日がない程の確率。



 俺も人のこと言えないが、こんな毎日が暑い中でよく外に出られるな。



 ソフィアは滲み出す汗を拭き取る。



 彼女ははどちらかというとインドア派であり、あまり外に出ないためか、かなり暑そうである。



 俺はルシフェルと半分こにする予定だったアイスを手渡す。



「ここで倒られたらめんどうだ。これでも食ってろ」

「あ、どうも」



 素直に受け取ったソフィアはぺろぺろといつもの警戒したような姿を少し緩め、美味しそうに食べる。



「は!!」



 漫画のように驚いた表現だな



「コホン。それで、この現象についてですが、色々調べたいので明日準備しておきます。例のダンジョンの前に訪ねてください」

「そこで襲われるとは考えないのか?」

「それならあの時、既に私の色んな初めてをあなたに奪われているはずです」

「そうかよ」

「それでは失礼します」

「またダンジョンか?」

「はい」

「目的はなんだ」



 少し声を低くして聞く。



「話す義務はありません。それでは」



 気にする様子もなくソフィアは去っていった。



 ◇◆◇◆



「これって実質デートじゃないか?」

「ポジティブの塊だな」



 次の日、言われた通り例のダンジョンに向かう。



 よくよく考えると指定時間を言われてないため、とりあえず俺は朝の6時に家を出た。



 いくらアクトといえど、ヒロインを待たせるなど俺の心が許せない。



『俺様より遅いなんてどういう教育されてんだ?常識を一から学び直せよ』



 といくらでも言い訳はたつだろう。



 茂みをかき分け、行く道も曖昧なまま先に進む。



 天を抜くような高さのビルを見上げていると



「「アイテ」」



 ぶつかる。



「ソフィア」

「アクト」



 お互いに相手は分かり切っていた。



「ふん。俺様と同じ時間とはよい心掛けだ」

「いえ、時間を指定しなかったことには私に落ち度がありますから。呼びかけた身である私が、残念な客人を待たせては私の名誉に関わりますので」



 だとしても6時はさすがに早すぎないか(ブーメラン)?



「ところで何故様付けをやめた」

「いちいち拘らないで下さい。そもそも、あなたと私の格は同じ。様付けしてただけでも重畳では?」

「チッ、まぁいい」



 それがソフィアの処世術なのは知ってるからな。



 ん?



 じゃあ様付けをやめた理由って



「ある程度ですが、あなたが信用に足る人物と分かったからです」



 心を読まれるように、先んじて答えを言い放つソフィア。



「そうかよ」

「では検証を開始しますね」



 ソフィアは数多くの機械を取り出し、俺の体を調べ上げる。



「上脱いで下さい」

「ああ」



 躊躇いなく上裸になる。



「なんですかあなた。魔力が本当にないじゃないですか」

「あん?そんな有名な話も知らないとかお前知恵おーー」

「この解明方法を見つけたら面白そうですね」



 珍しく、少し無邪気に笑ったソフィア。



 それからも黙々と時間は進んでいく。



「ん?」



 するとソフィアの様子が変わる。



「急になんだ」

「あなた」



 ソフィアは懐疑的な目をしながら



「本当に人間ですか?」





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