第64話
マーリン家
グレイス、ペンドラゴに続く三代貴族の最後。
ペンドラゴが武力を重んじるのなら、マーリン家は知識を重んずる。
故にユーリと同じような流れで物語は進む。
と、最初は皆が考えた。
だが蓋を開けて見ると
「何でこんなところにかの有名なアクトグレイス様がいるんですか?」
「何でこんなところにかの有名なソフィアマーリンがいるんだ」
ソフィア。
茶色の髪をした天才美少女。
その名はマーリン家でも稀代の天才と謳われ、魔法界に多くの業績をもたらした。
だが、それは未来のお話。
今はしがないマーリン家の一人娘である。
「ほお、畜生程の知能しかないと言われたあなたがオウム程度の能力があるとは驚きです」
「殺されたいのか?」
ソフィアは怖い怖いと自信を抱き締める。
すると彼女の腕に、何かが主張するように乗っかる。
そうすれば、その巨大な何かとも言えない何かに当然目が奪われる。
「所詮男なんてそんなものですか」
つまらなそうにソフィアは歩みを進める。
「俺様をそこらの男と一緒にするな」
「みんなそう言って、みんな同じなんですよ、結局」
私も含めて
そう言い残し、ソフィアは人混みに消えていった。
◇◆◇◆
夏休みに突入した。
これからどうするかだが、真目線で物語をメタ読みする。
夏休みの真の行動としては選んだルートによって異なるが、共通している道もある。
そして今の真が出来るルートは合計三つだろう。
まずはバイトをすることだ。
リーファとバイトをし、ここでお金を稼いだり、好感度を盛ることが多い。
それから戦闘面を強化することもある。
ユーリやアルスルートなどでは強制的のこの道となり、ダンジョンに行き、レベルや素材を集める。
まぁ戦いが本分じゃない俺からしたら、今までダンジョンに関わることが少なかったが、もし真がダンジョンに赴くのであれば俺もある程度潜る必要が出てくるかもしれない。
それから勉強。
これが今回重要になってくる。
基本的にヒロインは皆勉強ができる。
もちろん真を含めてだ。
だがその中でもソフィアは頭一つ抜きん出ており、主人公が見向きされるのは彼女に知識で打ち勝った時だ。
今の真は勉強も戦闘も平均的にしており、このままで大丈夫か?といいたくなるが、まぁそこは気にしなくていいだろう。
それより問題は
「どうにかしてソフィアの鼻っ柱をへし折らないとな」
ソフィアは天才だ。
故に対等な存在がいない。
人の感情や考えに機敏に感づき、それに合わせた行動を取る。
皆が自分のことを偶像化し、褒め称えられる。
人は自分を利用するかのみを考えている。
小さな時からそれに気付いた彼女は絶望した。
この世界は何と退屈であると。
その結果、最後に彼女が選んだ選択は
「この話はどうせなくなるんだ。必要のないことだな」
どうせみんな助けるならその後の話なんて意味ないんだから。
「さて、今回はどうやって解決するかな」
この時の俺は知ることもなかった。
今の今までなんだかんだ成功していたことにより伸びていたこと鼻っ柱が壊されることに。
◇◆◇◆
知は力のちと呼ばれており(ません)、俺は以前のように図書館に通うようになっていた。
「やっぱり神か。桜の時のように設定に書かれていない謎が多く存在するのは確かだ」
俺は神話系のコーナーで本を探っている。
すると背伸びをして本を取ろうとする女の子。
「これか」
「あ、どうもありがとうございまーー」
「あ」
「あ」
俺は大きな失敗を犯す。
一つはアクトとして間違った行動を取ってしまったこと。
もう一つは
「また会いましたね」
「そうだな」
相手がとんでもねぇ別嬪さんだったこと。
「感謝します。優しさをドブに捨て、その水で意地汚さを育て上げたアクト様がこのような行動をとるなんて」
「殺すぞ」
ひぃ、と小さな悲鳴を上げながら小動物のように縮こまる。
すると彼女の肘が俺はよく知らない何かに押し潰し、その圧倒的柔さを露わにする。
「私が言うのもなんですが、逆によくそんなマジマジと凝視できますね」
「言っただろ」
俺はカッコつけながら
「この俺様を他の男と同じにするな」
「素晴らしい犯罪者予備軍宣言ですね、軽蔑します」
ソフィアはそう言い残し
「あの目線、どこかで……」
去っていった。
「あれ?アクト?」
「あん?」
その反対側から俺のよく知る美人さんがひょっこり顔を出す。
「誰かと話してたの?」
「別に」
リーファは分厚い本を幾つも抱えていた。
「この前もアクトが図書館にいるの見たけど、勉強?」
「俺様は天才だ。勉強なんてする必要がない」
「相変わらず癪に触る話し方だね」
リーファは諦めたようにため息を吐く。
「じゃあ調べもの?手伝ってあげてもいいけど。と、友達だし?」
恥ずかしそうに提案するリーファは、それはそれは大変可愛いらしいものであった。
「いらん。邪魔だ」
「酷い!!」
少し涙目になる。
「フン。いいもん。次困ってても絶対助けないから。引き止めるならこれが最後だから」
テンプレツンデレみたいな発言をするが、リーファをそんな安い言葉で飾らないで欲しい(厄介)。
二人の間に沈黙が生じる。
数秒が経過した
「本当に最後だから!!」
数十秒経過した
「本当の本当に最後だよ?大丈夫?人手が多いといいことあるよ?」
およそ1分経過したくらいで
「バカ!!」
そう言ってリーファは去っていった。
「涙が……止まらねぇ」
可愛さの結晶が俺の目から溢れた。
◇◆◇◆
夏休みに入って数日が経った。
その間語ることは……まぁありはするが、今は置いておこう。
それより
「真は今日もダンジョンか」
あまりの暑さにアロハシャツを着ている俺は、数日前からある程度真の行動を監視している。
真は物語のキーパーソン。
あいつの動き一つで物語は大きな変化を見せる。
ならばアイツの行動を見守ることは大事だと気付いていた。
そう、そんなの初日から気付いていた。
だけど正直男の行動なんて見ても楽しくもなんともないため、心の底からやる気が出ない。
だが物語はそろそろ中盤。
疎かにして痛い目を見るのはヒロインだ。
「なぁアクト。何であんぱんを食べているんだ?」
「覚えおけルシフェル。人を監視する時はあんぱんと牛乳しか飲んではいけないんだ」
「そうなのか!!」
ルシフェルは舐めていた飴をガリガリと噛む。
そしてその後にあんぱんを食べる。
「合わないぞ」
「容疑者Mが出た」
俺は電柱に身を潜める。
「おいルシフェル」
「何だアクト」
ルシフェルは小声で喋る。
「お前は隠れる必要ないだろ」
「それなんだが」
近くに犬が通りかかる。
その目の先はなんだか
「我が少しずつ認知されてきている気がする」
「何?」
それは
「急にどうして」
「力が増してきている。少しずつ先取りした魔力が満たされてきたのだろう」
「だけどお前は言ってしまえば魔力の塊だろ?見られるとしてもおかしい(聖女)奴かおかしい(アルス)奴が違和感を感じるくらいだろ」
「わ、我も分からん。可能性があるとすればーー」
「しっ」
話を中断する。
「真が動いた」
俺はバックにパンパンに詰まったあんぱんを揺らしながら追跡を開始する。
「まずは武器屋か」
久しぶりに見たな。
魔獣暴走の時に買った爆弾以来訪れたことがなかったからな。
「これとこれ、あとこれを」
「はいよ。それにしてもあんた最近毎日のように来るけど大丈夫なのかい?」
「問題ありません」
生気の抜けたような瞳で真は答えた。
「まぁうちとしては素材もお金もくれるからありがたいんだけどね」
真は戦闘に必要なものを整え店を後にした。
「今日も買ったのは同じものか」
「ふぁふふぁふふふぁ」
「ルシフェル、言いたいことは食った後に言え」
ルシフェルは牛乳であんぱんを流し込み
「もう一つ!!」
元気よく叫んだ。
◇◆◇◆
「あ!!エ、エリナさん!!」
「こんにちは、真さん」
道の途中でエリカに遭遇する真。
さっきは生気がないとか言ったが、今は生気しか感じない。
やっぱり男なんて単純なものである。
「お散歩ですか?」
「そのようなものです。こうして歩いていたら素敵な出会いがあるかも知れませんから。今のように」
真の顔がブワッと赤くなる。
「なんだろう。ゲームだと真視点だから気づかなかったが、実際ああなってると思うと恥ずかしくて仕方ないな」
真史上最大の発見である。
「お一人ですか?」
「はい!!エリナさんもお一人で?」
「そうですね。よければ一緒にどうです?」
真は口角が天に届きそうな程上がるが、すぐに真剣な顔に戻り
「すみません。これから用事がありますので」
「そうですか。それは残念です」
あまり良くない空気が流れる。
「あ!!でもまた今度遊びに行きませんか?」
「もちろんです。私も時間があれば連絡しますね」
「ありがとうございます」
綺麗な90度だった。
「それでは頑張って下さいね」
「はい!!」
そう言って二人は別れた。
「対象Mが移動した。行くぞルシフェル……ルシフェル?」
「アクトさんも頑張って下さいね」
「へ?」
クスクスと笑いながらエリカは歩いて行った。
◇◆◇◆
ダンジョンとは。
凄まじい魔力の影響により、謎の力を持ったモンスターやアイテムを生み出す特殊な空間である。
ダンジョンの敵を倒せば当然レベルが上がるし、強力なアイテムがあれば格上にすら勝ちうる可能性すらある。
つまり強さを求める全ての者はダンジョンにたどり着くようになっているのだ。
そして今日もまた、一人の男がダンジョンへと足を運んだ。
「今日はここか」
森の奥に似つかわしくない高い高いビル。
だが何には大量の魔獣や光り輝く鉱石。
おそらく魔力を大量にもった素材のせいで、このビルはダンジョンと化してしまったのだろうな。
「今日はここまでだな」
皆のように生み出すのではなく、貸し借りの魔力を使う俺は持続戦が得意ではない。
だからダンジョンに行くならそれなりの準備が必要となるのだ。
そんなわけで残念ながら中の様子を知ることは叶わないが、予想は出来る。
「真は強くなろうとしてるのか」
やはりその理由と言えば
「……まぁいい。今日は帰るか」
俺は木々の生い茂る方に向き直す。
「うお」
「あ、すみません」
木の影から人が現れ、ぶつかりそうになる。
「「は?」」
そこにはまたしても茶色い天才少女がいたのだった。
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