第63話
凄まじい猛暑日。
そろそろ学園も夏休みに入る。
当然ながら夏休みに恋愛ゲームが合わされば、様々なイベントの目白押しだ。
海やら、夏祭りやら、勉強会やら……
「ん?」
よく分からないが、すでに俺ってかなり経験してないか?
「気のせいか」
正直これほど真のことを羨ましいと思うこともないが、俺はヒロインを守る男だ。
遠くから眺めることで手を打ってあげようと思う。
そんな素晴ーーしょうもないことを考えながら、教師の話を右から左に聞き流す。
「えー皆さん。夏休みは休息する時間ではありますが、夏休み明けは最も実力に差がつきやすい時間でもあります。自分を律することを忘れないで下さい」
窓際の席であることを恨みつつ、学園は一旦の終わりを迎えた。
◇◆◇◆
「マスター、いつもの」
「アクト様、一応ここは喫茶店じゃなくて飲食店ですよ」
「客がいなけりゃただのコーヒーの出る店だ」
俺はある店に訪れていた。
店主の名前はゼタ。
一人の子供がいるただのおじさんだ。
ちなみにここではある程度自分を曝け出している。
理由としては、まぁどうせヒロインと関わることなんてないからだ。
「それにしてもアクト様が最初訪れた際は驚きましたよ」
「いつの話をしてる」
「まだ二ヶ月前程ですが……」
こうして軽口を叩けるくらいの仲にはなっている。
「あの子は元気か?」
「はい。アクト様が多くの支援をして下さり、あの子も益々元気になっています」
「あれ以上元気になられたら困るんだがな」
ゼタは困った顔をしながら新しいコーヒーを出す。
「あの子もアクト様に会いたがってますよ」
「また今度でいい。俺様は近々忙しくなるからな」
「いつも暇を持て余してるアクト様が!!」
「おい!!そろそろ不敬罪で打首にするからな!!」
「勘弁してください!!」
コーヒーを一口飲む。
「相変わらず普通だな」
「ですからここはコーヒーの店ではないので」
「だがまぁ」
一口
「こういうのが一番いいんだよ」
「貧乏人みたいな感想ですね」
「貧乏店にだけは言われたくないな」
◇◆◇◆
「お帰りなさいませ」
家に帰ると、いつものように使用人が立っている。
「……はぁ」
最初の頃は様々な罵詈雑言の数々を浴びせたが、こんな暑い上に、毎日のように怒鳴る体力は俺にはなかった。
「ユーリは?」
「はい」
ユーリはペンドラゴ家に戻った。
元々本館が直るまでの間の居候。
本音を言えばここにいつまでも居てほしかったが、ここで距離を取ることが正解である。
「……」
部屋に戻る。
以前のように煌びやかな物はなく、素朴とは断じて言えないが、まだ理解の範疇に収まる部屋。
そこにアクトがいた面影はなく、それは俺の部屋になっていた。
「ふー」
ソファーに倒れ込む。
「ゲームでもするか」
◇◆◇◆
徹夜でやったゲームは面白いともつまらないとも言えない、至って普通だったという感想だ。
一般的な恋愛ゲームであり、君LOVEと違いバトル要素なんてなかった。
むしろ恋愛ゲームにバトル要素がある方がおかしいんだが
おかしいはずなんだが、やっぱり魅力を感じなかった。
どの作品も可愛くて、優しくて、色んな性格のヒロイン達。
でも、やっぱりどこか魅力を感じない。
それは一体どうしてなのか。
俺は深く、深く考えた結果、多分
「どれが似合う?」
目を覚ますと俺は何故かファッション会場に居た。
何を言ってるのかだって?
俺が知るはずないだろ!!
ちなみに堂々と色んな服を着て回ってるのは桜。
おそらく犯人はユーリ。
俺の部屋に侵入出来、昨日から今日にかけて犯行時刻にアリバイがないのはユーリのみ。
てか容疑者がユーリかリアしかいない時点で二択だ。
「どう?」
「可愛知らん」
「カワシラン?」
現在地は桜家。
桜の部屋に拘束された俺は、どうにか自身の興奮を悟られないようにしなければならない。
「なんかアクト今日鼻息凄いね」
「花粉症なんだ」
「初めて聞いた」
気にすることなく、桜は謎のファッションショーを続ける。
俺的にはご褒美以外の何者でもないが、目的が分からないとどこか不安になってしまう。
「どれが良かった?」
「(最初のいつも通りの格好も良かったが、二つ目のフリフリした服も魅力的だった。だけど三つ目は少し肌が出過ぎて周りの男が襲ってこないか心配だ。他のも良いものばかりだったが、俺としては)何でもいい」
「さすがアクト。残念イケメンだね」
桜はやれやれとポーズを取る。
「ところでユーリはどこだ」
「あれ?知ってたの?」
「リアは今本館に行ってる。合法的に俺様の部屋に侵入できる人間はリアとユーリ、あとはアイツくらいだ。消去法的に考えればユーリ以外ありえん」
「そりゃそうか」
あっさりと共犯者を晒す桜。
「ユーリは今洋服を購入中。今まで服を意識したことなんてなかったらしくて、今になって女子力が爆発してるみたい」
「……まぁ何でもいい。早く拘束を解け」
「ダメだよ。今からユーリの分もやって、それからスペシャルゲストもいるから」
「(どんなご褒美だよ)どんな拷問だ?」
「というわけでスペシャルゲストの登場です」
パチパチと桜が手を叩く。
「うぅーーーーー」
奥から登場したのは
「あkhすいあbsj」
「何て言った?」
どうやら興奮して噛んでしまったようだ。
「やっぱり私には似合わないよ」
「そんなことないよ!!今のリーファとっても可愛いよ」
そう、登場したのはリーファ。
おそらく桜に買ってもらった白色のワンピースを着ている。
あれから二人はかなり仲良しになったようだ。
それは大変素晴らしい。
いや本当に素晴らしいことだが、何故その幸せ空間に俺ことアクトが居合わせている。
「これいくらなの?」
「うーん、3万くらいかな?」
「え」
リーファは絶望した顔をする。
「弁償……するから……」
「何で!!」
リーファは未だに自己肯定感が少し低いようだ。
これに関してはある意味原作通りであるが、どうしてだろうか、原作通りの結果を見ると違和感を覚えてしまう。
「そもそも何でアクトがいるの?聞いてないよ」
「だって言ってないから」
「何で言わないの!!」
ふむ。
こうして見ると桜は可愛い系、リーファは美人系と容姿は大きく異なるが、性格は思ったよりも似ているのかもしれない。
「何故アクトを呼んだのか。結論から言いますと、リーファとアクトがどんな関係か気になったというのが本音であります」
「それでどうして俺様を拘束する理由になんるんだ?」
「だってアクトはこうでもしないと逃げるでしょ?」
まぁ逃げるかな。
「じゃあ桜、このファッションショーには何の意味が?」
「え?ただの趣味」
なるほど。
さすがは桜だな(全肯定BOT)
「というわけで本題」
すると何故かリーファを外に出す。
そして真剣な眼差し。
俺を連れて来た理由か。
「あの子はどうなったの」
桜は重い口調で話を切り出す。
「……」
もう名前も覚えていないのであろう。
だけど、確かにレオを覚えてる人間はまだ存在した。
「さぁな。もしかしたらそこら辺にでもいるんじゃないか?」
レオはいない。
その事実は変わりなく、解決するのは俺の手でだ。
わざと怒られるようにふざけた口調で返す。
「そっか」
だが桜は優しい笑顔で返す。
「それが聞きたかったのか?」
「ううん。これは私の個人的な用件」
桜は静かにそう答えた。
「そうか」
そう……
ん?
「個人的?」
桜の目がキラリと光った気がした。
「拷問の時間です」
タンスの扉が開く。
「アルス!!」
ずっといたのか!!
「暑かった」
「バカか!?」
そしてアルスが外の扉を開けると、俺と同じく拘束されたリーファ。
「さてアクト。リーファとはどこまでいったのかな?」
「どこにもいってねーよ!!」
「嘘。アクトが女の子に手を出さないはずがない」
「お前らにも手を出したことないが!!」
桜とアルスはただ楽しんでいるのだろう。
「二人には真実を喋ってもらうわ」
「リーファにはこちょこちょの刑。アクトは素直に爪を剥がします」
「落差!!」
ここで俺よりも刑罰の軽いリーファが先に口を割る。
「私は別に二人と違ってアクトのこと好きじゃないから!!ただの友達だから!!」
ちょっとショックなのは内緒だ。
「私、恋愛漫画でそう言った二人がカップルにならないのを見たことない」
「信用出来ないわ」
「人を信じて!!」
この前の真面目なリーファはどこへやら、完全にオモチャにされている。
「拷問を開始する」
「じゃあ私はリーファの担当するね」
「私はアクト」
俺の前にアルスが迫る。
「二人っきりね」
「違うから!!」
それからユーリが帰ってくるまで拷問という名のご褒美は続いた。
リーファは純粋に辛かったようで、最後にピクピクしながら
『やっぱり嫌い』
と何故か俺に八つ当たりされた。
◇◆◇◆
「ありがとうユーリ」
「いや、私も二人の手伝いができて嬉しいよ」
ユーリは大量の荷物を抱えて訪れる。
「ああ、初めましてだね。私の名前はユーリペンドラゴ。よろしく」
「あ、よろしくお願いします、ユーリさん」
「ユーリでいいよ、リーファ」
ユーリが背筋を正したまま手を差し出し、リーファが遠慮するようにその手を取る。
こうして見るとユーリは
「ユーリって家と違いすぎない?」
「おい。どうしてユーリが家と外で違うと知ってる」
「アクト、女の子の秘密に触れるのはNGなんだよ」
「さっきリーファから秘密を暴き出そうとしてなかったか?」
「二人とも仲良くなれるといいね!!」
桜は逃げた。
「リーファは今までどうしてあの家に住み続けたの?」
桜がリーファに尋ねる。
「あそこには結界があったから。一番安全な場所に、一番大切なものを置いてたはずなんだけど、確かに今にして思えばどうしてあそこに居続けたんだろ」
桜と俺は少し気まずくなってしまう。
「分かるわ」
そんな中でアルスは
「高いステーキよりも焼肉食べ放題の方が美味しいわ」
空気が読めない。
「分かるな。私も家の品格を落とさないようにある程度高級品を嗜んでいるが、やはりありふれたものが一番良かったりする」
ユーリは友達がいなかった。
「桜」
「何?」
「帰っていいか?」
「うん。これから四人で遊ぶからバイバイ」
こうして俺は勝手に拉致され、邪魔者のように解放された。
「何がしたかったんだ本当に」
俺はボトボトと帰る。
正直に言うと、少し、いやかなり疲れた。
だが
「やっぱり楽しいんだよな」
彼女達の魅力が詰まった日だった。
話を戻そう。
何故俺は他のキャラクター達に何も感じなかったのか。
それはきっと、他にはない魅力を彼女達が持っているからに違いないだろう。
そしてそれは、みんなが笑顔で一緒にいる程より良いのだ。
「リアも一緒にいたらな」
夏休みが終われば例のイベントもある。
その時、あのクソッタレとも決着をつけるだろう。
「気合入れるか」
どうしてだろうか。
こうして気合を入れるといつも
ドン
「悪い」
「すみません」
肩がぶつかる。
「「あ」」
救済√6
ソフィアマーリン
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