第60話

 <sideリーファ>



「ありがとう」

「もうリーファ。お礼を言うには私達の方なのに」

「そ、そうですよ!!マロさんにもリーファさんにも大変お世話になりました!!」

「本当に色々なことを教わりました」

「ん」



 職場体験は終わりを告げる。



 この数日は本当に私の人生が大きく変わった時間であった。



「ほらリーファ泣かない。私と真はまた会えるんだから」

「ぼ、僕もまた来ます」

「ん」



 また会えるはずだけど、もしかしたらこの幸せが消えると思うと



「ねぇリーファ」



 ぬるりと桜が前に出る。



「今日一緒に帰ろ」

「え?」



 家……



「でも私の家は……」



 あまり見せられるものでは



「大丈夫」



 桜は親指を立て



「今日はお泊まりだから!!」

「え?」



 生まれて初めて言われた言葉だった。



「でも私この服以外で外に着けれるものはーー」

「大丈夫」



 桜は袋を取り出す。



 この前の髭といいどこから出してるのか。



「リーファの服は買っておいた!!」

「え?」



 怒涛の展開について行けない。



「そ、そんな高価なもの着れないよ!!」

「大丈夫」



 何が大丈夫なのか私には分からなくなった。



「アルスの分も買ってある!!」

「誰か助けてぇ」



 アルスが親指を縦に上げる。



 どうやら三人でお泊まりの予定(強制)らしい。



「どうしてここまで」



 多分桜は気付いてる。



 私の今の気持ちを。



「半分はお願いされたから」



 お願い?



「そしてもう半分は」



 手に温もり



「私がリーファともっと仲良くなりたいから」

「!!!!」



 また涙が溢れる。



 だけどさっきとは違う涙。



「ありがとう、桜」

「うん、そっちの言葉の方が聞きたいかな」



 桜は笑顔でもう一度強く、私の手を握りしめた。



「ねぇA君。僕達この前から蚊帳の外過ぎない?」

「ど、どうでしょうか」



 ◇◆◇◆



 アルスは一度豪華な車に乗ってどこかに行った。



 車に乗る時アルスは



「アイルビーバック」



 と言っていたが、多分私以外誰も聞いてなかった。



「桜と真さんは幼馴染なの?」

「そうだね」

「最早家族だよ。真は私にとっての弟みたいなものだよ」

「いやいや、僕が桜のお兄ちゃんだよ」

「いやいや、私がお姉ちゃんだね」

「いやいや」

「いやいや」



 本当に仲がいいんだな。



 だけど思っていたより話は白熱する。



「それにあんなこと言っておいて家族とかーー」



 真さんが咄嗟に口を抑える。



 その目には動揺が見えた。



「ごめん」

「ううん」



 なんだか触れてはいけないものの気がした。



「正直に言うね真」



 桜は息を吸い込む



「あれは気の迷い!!」

「えぇ」



 真さんが変な声を漏らす。



「あれ以降一切真のことそういう風に見えなくなったんだよね」

「……そっか」

「あの時は冷めただけって思ってたけど、なんか違う。なんだろう、逆に熱くさせられてた?」



 私にはよく分からない話だ。



「……」

「はいはい、この話やめ!!ごめんねリーファ。何言ってるのか分かんないよね」

「そうだね」



 でも



「やっぱり二人は家族なんじゃないかな?」



 そう……家族



「うん」

「そうだね」



 それからは穏やかに空気が流れていく。


 

 二人の過去の話や、私の店への思いなどを様々なことを喋った。



 時に目を丸くするような内容だったけど、私にはみんなにとって普通のことですら新鮮で面白く思えた。



 そしてこんな幸せな時間というのは、いつも直ぐに終わりを迎えるのだ。



「ん?」



 耳がピクリと動く。



「何だか騒がしい気がする」

「どうしたのリーファ?」



 かなり遠くから何かが聞こえてくる。



 これって……



「戦い?」



 剣と剣がぶつかり、魔法と魔法が飛び交う音。



 そして、その中からいくつもの悲鳴が聞こえる。



 不審に思う私の思考をかき消すように



「助けに行こう」



 真さんが迷うことなくそう言った。



「どうするの?」



 桜が尋ねる。



 その目は私に全てを委ねるような目だった。



 多分だけど、ここで私が行かないと言っても桜は笑顔で肯定するのだと確信できた。



「……」



 今でも人は怖い。



 いつも私のことを虐げてくるし、今の今まで私を助けてくれる人なんて殆どいなかった。



 だけど、じゃあ助けないかと言われたら



「行こう」



 私はあいつらと違うと否定したくなるのだ。



「そ」



 桜は知っていたかのように口ずさむ。



「じゃあパパッと解決しちゃおっか」



 三人で音のする方へと走り出した。



 ◇◆◇◆



「あれは」

「どうしたの?」



 私は目がいい。



 だからかなり先まで見ることができる。



「ううん、何でもない」

「ふ〜ん」



 何かが崖の上にいる気がするけど、そんなことを気にする程甘い場所でないことは察せられる。



「これは……酷い」



 たどり着く。



 そこはまさに地獄だった。



 血の匂いが充満し、命が消耗品のように消え去る。



 人は嫌いだけど、こんなことが見たいわけではなかった。



「どうして」



 真さんが震える。



「どうして……こんな酷いことを……」



 真さんの目に涙が浮かぶと同時に



「何これ」



 天から光が差し、真さんを照らすように降り注ぐ。



 ズズ



 私はその景色を



 ズズズズ



 どこかで



「助けに来た!!」



 !!!!



 そうだ、考え事をしている暇なんてない。



 私は今死地にいるのだ、油断したら死んでしまう。



 真さんが指示を出し、戦う意志のない人を逃がそうとする。



 だけどその人々は私を忌み嫌う者達。



 なら私は役に徹する。



 ただ敵を寄せ付けず、道を切り開く。



 真さんと桜に対応は任せる。



 変に私が関わり、事態がややこしくなることだけは避けなければ。



 それから黙々と時間が過ぎていく。



 ひたすら魔法を撃ち、敵を吹き飛ばし続けるだけ。



 不気味な程に順調にことは進んでいった。



「あなた」

「え?」



 今日は驚かされることが多い。



 私に話しかけたのは例の集団にいた一人の女性だったのだ。



「私達はあなたにあんなに酷いことをしたのに、どうして助けてくれるの?」

「……」



 何故かと問われれば



「どうしてだろう」



 多分答えることは出来たのだろう。



 あなた達と一緒は嫌だからとか、人が死ぬのは目覚めが悪いとか、これを機に差別はやめて欲しいだとか。



 でもどれも適切とはいえなかった。



 強いて言うのであれば、私の経験した全て。



 それらが今、私をここに立たせている理由なのだ。



 だから答えは出さなかった。



「恨んでないの?」



 女性は続ける。



 どこかこの人は周りに人は雰囲気が違う。



「恨んでます」



 でも



「助けます」



 は変われる生き物だから。



「そうですか」



 女性は納得したようにボソリと呟く。



「いいんですか?私と一緒にいて」



 主に周りの目を考えて。



「いえ、むしろこれがいいんです。あなたと友好的な態度を取ることがぼ……私の役目ですから」

「そうーー」



 一瞬、女性の姿が例の



「A……さん?」

「……やはり」



 女性は歪んだように笑い



「アクト様にみそめられた人間とはなんて面白い」



 私のことを人間?



「何者?」

「シー。安心して。僕は味方だ」



 女性らしき人はそう言い残し



「君の人生は大きく変化した。君が今後どうなるか、その結末は神のみぞ知るところだろうさ」



 去っていった。



 ◇◆◇◆



 集団は内部分裂を起こしていた。



 先ほどの女性が誘導するように中から亀裂を発生させた。



 今では私に対して声をかける者まで現れる。



「ごめんなさい」

「勘違いしてた」

「許してくれ」



 贖罪のように口々に言葉を述べる人々。



 まだ私のことを良い目で見てない人も多いが、それは以前よりも弱々しいものであった。



 だけど私の心は違うところに向いていた。



「どうしてあそこでアクトの名前が?」



 彼が裏で何か糸をひいてる?



 さっきの女性の手によって私の評価が一変している。



「                      

         」



 そんなことない。



 私は本当に何も知らない。



 私の知らないところで多分大きなことが動いている。



 多分だけど、彼が、私の代わりにそれを担ってくれている?



 それが何だか悔しくて、嬉しかった。



「次会った時はちゃんと話さないと」

「                      」



 よく分からないけど、それは言う必要ある?



 ん?



「私……何を」



 それから桜と真さんは強そうな敵に絡まれる。



 だけどなんとか私は皆を安全圏まで運びきることが出来た。



 その時



「ありがとう」



 誰かが言った。



 信じてよかったと思えた。



 黒尽くめの邪神教に向き合う。



「そこを退け」

「退いたらどうするの?」

「殺す」

「じゃあ退かない」



 男は同情するように



「お前は人間が羨ましいか?」

「……また差別?」

「そうだな、差別だ。俺は人間よりもあんたの方が遂行な者だと思う」

「どういう意味?」

「人間は最も愚かな生き物だ」

「え?」



 後頭部に痛み。



 徐々に熱くなる。



「ホントだ」



 信頼は赤い液体と共に流れていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る