第58話
<sideリーファ>
「どうして泣いているんだい?」
お店に着くと、すぐに帰宅するよう言われた。
見ての通り大丈夫だとアピールするが、このまま私が居ても皆に迷惑をかけるだけと思い、お店を後にした。
「うー、ダメだー、なんか死にたーい」
定期的に起きる謎鬱モードに入ってしまった私はトボトボと家に帰る。
家に帰ってもすることないし、お金もないから遊ぶことも出来ない。
私の楽しみは、お店で働いてる時間と、家で……家で……
「家に帰るのって楽しみだった気がするのに」
今は家に帰ることに何の魅力も感じない。
「寝よ。惰眠を貪り食って、次の日馬車馬のように働いてやる!!」
だらけ宣言からの社畜宣言である。
いつも通り朝方にも関わらず薄暗い路地裏にボロボロな家が見える。
「あれ?」
すると我が家に人影が見える。
「空き巣!!」
私の家を漁ったところで何もないのに。
いや、問題はそこじゃない
「結界は!!」
まさか破られた?
それに気付かなかった?
「いや」
結界が壊れたのは昨日。
何故そのことを忘れていたのか。
「まぁいい。とっ捕まえてお金の足しにしてやる!!」
蹴破るように玄関のドアを開ける。
そこにはダラーンと地面に座っているアクト。
「何してるのかな?」
お店の手伝いもせず、何故か私の部屋に侵入し、勝手に我が家のようにだらけている。
冷静さを保とうとするが、口がヒクヒクと勝手に動く。
彼は驚いた顔をした後
「ふっ」
まるで仲間を逃すために自ら犠牲となった人間のように笑い
「もちろん答えは1だ!!」
逃げた。
そんなカッコつけた感じで
「逃げんな」
私は身体強化と足裏に風魔法を起こし、瞬時に距離を詰める。
私からしてみれば止まって見えるような速度だったが、もしかして逃げる気はなかったのか?
「で?どういうわけかな?」
とりあえず一発ぶん殴ろうと思った。
「秘密基地かなって思って」
「殺すぞ」
殺そうと思った。
だけど
「はぁ」
昨日、アクトには助けてもらった。
恩返しとは言えないけど、これで私の中でチャラにしておこう。
多分彼もそういうのは望んでないと思ったから。
私は棚からお布団を取り出す。
宣言通りさっきぶりに溜まったストレスを発散するためだ。
「あんたも早く向こう行きなさいよ。てか早く出てけよ変態」
「誰が変態だ!!」
逆に女の子の部屋に勝手に入って変態じゃなかったら何なのだろうか?
他の選択肢は異常者、狂人、もしくはイカれ野郎かな?
「しょうがねぇ。出てってやるよ」
「どうやったらそんな上から目線でいられるの?」
どうやら答えは化け物のようだ。
「ねぇ」
素直に家から出ようとする彼を呼び止める。
「アルスちゃんの言ってたことでどういうことだと思う?」
『本当に大切なものを見失ってはダメ』
その言葉が胸に引っ掛かる。
私は既に取り返しがつかないところに来てるのではないかと。
彼は真剣な顔のまま
「さぁな」
それは興味がないというより
「ただアイツの勘は良く当たる」
「なにそれ」
信頼の証のような気がした。
アルスのことをぞんざいに扱うように見えて、その実はしっかりとお互いを見てるのだろう。
なんだか少し羨ましい。
前までこんな感情抱いたこともないのに。
「大切なもの、何かあった気がするのにな」
空いた穴は、少しずつ見えなくなっていく。
◇◆◇◆
「眠れない」
昨日寝た時間は定かではないが、体は万全。
ましてやまだ明朝。
眠れないことはむしろストレスな気がしてきた。
「外に出よう」
私は学園どころか教育を受けたことがない。
精々マロさんから常識などを教わったくらいである。
そのため、私は時々図書館に訪れる。
そこで知識を深める。
それにここは低価で本が借りれるため
ため
「ため……」
……
「そういえばこの前借りた本返したっけ?」
借りた本の履歴を見る。
「私ってあんまり利用してなかったっけ?」
数々の空欄。
だけどおかしい。
借りた本の次には空欄があり、少し先にまた借りた本が見受けられる。
「機械壊れちゃってるのかな?」
まぁ大丈夫でしょ。
私はいつも通り魔法について調べようとすると
「え」
すぐさま身を隠す。
そこには真面目に本を熟読するアクトの姿。
「ちゃんと出来るんだ」
彼のイメージは私の中で不真面目で傲慢。
だけどどこか謎に包まれている存在。
もしかしたら見間違いかもと思い、目を擦りもう一度見ると
「え!?」
一瞬目を離しただけなのに、なぜか彼の隣にアルスが座っていた。
アルスは歩くのすらおぼつかないはずなのに。
やはり私は幻覚を見てるのかもしれない。
二人が仲良さげに話す。
「お邪魔虫だね」
私は図書館を後にした。
◇◆◇◆
それからフラフラと街を歩く。
正直普段は街を歩けば奇怪な目で見られるが、あまりにもすることがなさ過ぎてそれすらも気にならない。
すると一つの雑貨店を見つけた。
(何だか気になる)
そんな直感ともいえない感情によって導かれる。
中は古っぽいが、数多くの品々が揃ってる。
何だかマロさんのお店のようで少し落ち着く。
だけど商品に関しては特に欲しいと思えるのはなかった。
だけど自然とオモチャを手に取ったり、私よりも小さい食器を買いたくなってしまう。
(無駄遣いはいけない)
そっと元の棚に戻す。
(何だかここに居たらダメな気がする)
主にお財布的な意味で
外に出ようとすると
(これ)
目に入った髪留め。
幼少の女の子が付けてそうな本当に可愛らしいもの。
決して私に似合わないのに、大切なものな気がした。
(買わなきゃ)
ポッカリと空いた穴にほんの少し、何かが埋もれた気がした。
「安くて助かったー」
外に出る。
すると
「ん?」
チラリと紫色が見え、その横を
「女の子?」
白髪の少女が歩いて行った。
◇◆◇◆
それからは本当に無心で歩いていた。
「ここの公園いつも人がいないな」
なんの変哲もない公園だが、子供の姿どころか人の姿一つない。
だけど今日は違った。
「アルス?」
ベンチの日陰でボーっと座っているアルス。
「どうしたのアルス?もしかしてサボり?」
「私もなんだか居心地が悪くなったから」
「そっか」
アルスの隣に座る。
暖かい風が私の頬を撫でる。
「ねぇアルス」
「なに?」
「図書館でアクトと何の本を読んでいたの?」
雑談のつもりで聞いただけだったが
「さぁ?私に難しいことは分からないわ」
「そうなの?」
アルスはパッと見、お嬢様のようで賢そうに見える。
「だけど、アクトは今も誰かのために頑張ってる」
「へぇ」
彼のあの真剣な様子は誰かのためなんだ。
「やっぱり以外といい人?」
「気付かないのは無理ね。でも、出来るだけ私はアクトの魅力を隠したいと思ってる」
アルスは一瞬見えた太陽の眩しさに目を薄める。
「本当は私とずっと一緒にいて欲しいけど、それは叶わない」
アルスは少し悲しそうに言う。
「けど必ず、私達と一緒にいてくれるように頑張る」
正直何だか言ってるか分からなかった。
けれど
そこには覚悟が見えた。
「私にはアクトはかなりアルスのこと、好いてるように見えるけど」
「当然」
誇らしげに胸を張る。
けど表情は変わってないのが少し面白い。
「アクトは私のこと大好き。でも、それは私だけじゃない」
近くに落ちていたタンポポをアルスは一生懸命引き抜こうとする。
「ありがとう」
「どういたしまして」
渡したタンポポにアルスが息を吹きかけ、その種が飛ぶ。
「この前話したこと覚えてる?」
「大切なもの?」
「ええ」
風が種を、葉を、砂を、運んでいく。
小さな蟻が隠れるように巣に戻っていった。
「一度失ったものは戻らない」
茎を大切そうに握るアルス。
「けれど」
その種は
「次に繋げることは出来るわ」
アルスは胸に手を当て
「空いた穴は他で埋めるのも一つの道」
アルスは同情ではなく、導くように
「いつか見つけられるいいわね」
「そう……だね」
巣の中に、違う色をした蟻が入っていった。
「ん?」
するとアルスの様子が少し変わる。
「勝手なお手伝い」
アルスはそう言って天へと飛んでいく。
動けないはずじゃ……
そんなことを考えた数秒後にアルスは戻ってくる。
「何したの?」
「牽制」
「なにそれ」
それから夜遅い時間までアルスと話、私は久しぶりに年甲斐もなく大声で笑った。
◇◆◇◆
次の日
お店で皆に心配されるが、さすがに二日連続で休むのはダメだ。
それに
「むしろ一人でいる方が辛いから」
アルスを見やる。
家に居ると何だか気分が滅入る。
「とりあえず仕事しよ」
◇◆◇◆
それから仕事は順調だった。
時間が経つにつれて何だか気分が晴れやかになる。
けどそれは大事なものを忘れた結果な気がした。
すると
「真君に桜ちゃん、この前言ってたバイトの話だけど、是非ともよろしく頼むよ」
「え?」
おそらく私がいない昨日に話したことなのだろう。
一瞬パニックになるが、一緒に働ける友達がいると分かるとつい嬉し涙が溢れる。
その涙はどこかに溜まる。
「よろしくね、リーファ」
普段よりも近くに寄って桜が嬉しそうに気持ちを伝えてくれる。
「うん!!」
私もそれが嬉しかった。
「一応僕も居るんだけどね」
真さんは気まずそうにそう言った。
◇◆◇◆
晴れやかな気分で外の空気を吸う。
「おいしー」
空気に味なんてないけど、何だかそんな気がした。
そんな気分を壊すように
「おい」
低い声。
振り返る。
「黙ってついて来い」
下卑た笑み、されど裏がある顔のアクトが立っていた。
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