第53話

 ここで俺の計画の一つを話しておこう。



 桜の件でシウスとした取引について。



 俺は今日、幸福教ある一点に集める。



 もちろんシウスからしたら罠があるかもと思い当然完全武装で行くのだろう。



 さてそこにお互いにいがみ合っている邪神教と対峙したとしたら



「あの餓鬼、とんでもないものを用意してくれたな」

「アクト様はどこでしょうか?」



 当然臨戦態勢に入る。



「だがラッキーだな。常々邪神教はうざいと思ってたんだ」

「おやおやこれはこれは、幸福教などというあの雑魚神を信仰してる猿どもではありませんか。あなた達には沢山の実験材料をくれて感謝していますよ」

「それは俺が丹精に育てた家畜のことか?」



 ここでクズVSクズの戦いが起きようとしていた。



 だが俺にも予想外のことが起きた



「どうしてここに!!」



 そう、デモ集団がその争いの現場に居合わせたことだ。



 秘密主義の凶悪宗教団体は目撃者を消す必要が出てくる。



「いやぁ、ホントに偶然だなぁ」

「白々しいと思うぞアクト」



 正直に言おう。



 俺はクズだがクズが嫌いだ。



 リーファのことを殺せ殺せと言っておいていざ俺が前に出れば怯み、後ろ盾を持って安全圏からの攻撃。



 そんな連中は反吐が出るほど嫌いだ。



「あまり人死には見たくないんだが」



 だがそれはルシフェルのための行動。



「ちょっとお灸を据えるくらいいいだろ」

「その対価が命とは重すぎないか?」



 ルシフェルが心配そうにオロオロする。



「確か最初にアクトはこの問題は暴力やらで解決できないとか言ってたぞ」

「ああ言ってたな」



 悪いなルシフェル



「あれは嘘だ」



 暴力は全てを解決するんだ。



 と言ったが、この戦いはリーファの件とは関係ない。



 ただ事前に不安の種を消しておきたい俺の我儘による虐殺。



「アクトが悪い子になっちゃったぞ」

「元々俺はラスボスだ」



 何もデモ集団は一方的に殺されるわけではない。



 戦いの出来るバカや、勉強の出来るバカもいる。



「おい!!突っ込むな!!無闇に巻き込まれたら死んでしまう!!」



 例の俺にいつも突っかかる男が指揮をし、なんとか自分達の身を守っている。



「それにしてもどうしてここに邪神教がいると分かったんだ?」

「元々ここは邪神教の隠れ家だった。近いイベントでここから奇襲を仕掛けられるんだが、幸福教を利用して先に潰そうと考えたんだ」



 だが運が良いのか悪いのか、レオの件で近くにロイが来た。



 ならばいっそ幹部さんも参戦してもらおうと思った。



「面白いこと思いつくな、アクト様は」



 俺に変わっていたサムが声をかけてくる。



「自称世界一の頭脳だが知らないけど、所詮データだけで人を見る奴が僕を見破れるはずないんだよ」



 俺(偽)にひょいひょいと騙されたロイは見事にバッタリとシウス達と対峙した。



「圧倒的だね」



 人知れず行われている戦争は実に単純で合った。



 デモ団体は必死に逃げようとするも、連中の激しい戦いに巻き込まれて中々逃げ出せない。



 邪神教と幸福教は後者が一方的に押し続けている。



 それもそうだろう。



 幸福教は元々一番大きかった宗教団体。



 その全勢力と数少ない邪神教では部が悪いにも程がある。



「だけどあいつが本気を出せばそれも分からない」



 俺は包帯をした男に目をやる。



「あぁ、アクト様はどこでしょう。巻き込まれて死なれてしまっては記憶を読み取るのが大変なんです」

「死ねぇええええええええええええ」



 幸福教の一人がロイに突撃する。



 だがロイに近付くにつれ、徐々に体が鈍くなり、溶け始めた。



「おやおや?もしかしてこれは加護持ちですか?雑魚神の加護は調べ尽くして何も得られませんが、まぁサンプルだけ取っておきましょうか」



 死体を弄り始めるロイ。



「相変わらずキモいなぁ」



 サムが顔を顰める。



「巻き込まれた人かわいそー」

「まぁ幸福教の連中なんてどれもこれも人を何人も殺してきたクズばかりだから何とも言えんがな」



 デモ集団に目をやる。



「なんとか安全は確保できたようだが、同じく危険だな」



 奴らは岩の壁を背にし、死体の山を使い安全に籠っている。



 だがいつそれが崩れるかもわからない。



「アクト様って思ってたよりクズじゃないなーって思ってたけど、案の定クズだね。こりゃ依代ピッタリだよ」



 サムは冗談混じりにそう言う。



「なぁサム」

「なんだい?」

「英雄になる条件を知ってるか?」

「ん?沢山国のために貢献した人とか」

「そうだな。じゃあ戦争時の英雄ってのはなんだ」

「うーん、そりゃ」



 沢山人を殺した人かな



「分かったなら喋るな邪神教」

「……そうだね」



 誰かのために誰かを殺すことを厭わない男は口を閉じた。



 俺は崖の上から戦況を観察する。



「動いたな」

「さすがに死んでますか。ならせめて綺麗な状態で保存したいですね」



 ロイが服から水晶を取り出す。



 あれはエリカのフードのように魔法により作られており、中には見た目以上の質量の物が入っている。



「核……さすがにまずいですね。うーん、あ!!」



 ロイは一つの物体を取り出す。



「神経毒なら死体も綺麗でしょう」

「そうはさせるかよ」



 ロイが物凄いスピードで吹き飛ぶ。



「はぁ、やっぱりあの餓鬼はダメだな。俺の掌の上で踊らねぇ」



 シウスは握った拳を確認する。



「ワタシは魔法が苦手でしてね、こうやって補助がなければ有効なものが使えないのですよ」



 そこには爛れた手。



「俺の手が火傷しちまったじゃねーか」

「おや?童話に習って唐辛子の数千倍は痛くなるようにしたのですが、痛覚をワタシと同じで切っているのですか?」

「あ?こんなん我慢すりゃあいいだけだろ」



 俺は互いのボス同士の戦いを上から



「ワハハハハハ、見ろよ。馬鹿みたいに殺しあってるぜ」



 高みの見物をしていた。



「そうだよな、今まで俺は自分の命をアホみたいにベットしてきたが、こうするのが一番楽なんだよ」



 思わずグヘヘと笑いが溢れる。



「ま、まぁアクトが気持ち悪いのは置いて、これでどちらかが潰れるのか?」

「いや、そうしてくれると助かるが」



 戦場にもう一度目を向ける。



「そろそろワタシの道具がなくなってきましたよ。こんなことならもう少し準備しておけばよかったですね」

「俺もあのバカ王の前で怪我の言い訳するのだるいんだよな」



 お互いに察した。



 相手は自分を殺せるだけの武器をまだ隠していると。



「「やめだ(ですね)」」



 何もお互いに自分が死ににきたわけではない。



 それがエゴイスト、或いはクズと呼ばれる連中なのかもしれない。



「これで例のイベントが潰れる。後は幸福教の戦力もだいぶ削げたが、次にアイツらから手を借りるとしたらーー」



 同じく俺も次の計画に思考のソースをさく。



 おそらく戦いはこのまま幕を閉じるのであろう。



 だがそれは



「助けに来た!!」



 戦場に三人の人間によって大きく変わる。



「お前は!!」

「……」



 一人の男は叫んだ。



 そこには一人の現れた少女。



「エルフ」

「いいえ、私には」



 堂々と



「リーファという名前があります!!」



 一人の男は叫んだ。



「あの加護は」



 桃色の髪の少女の帯びるオーラに気付く。



「欲しい!!」



 一人の男は叫んだ。



「大丈夫ですか?」

「あ、は、はい」

「安心してください。僕が守りますから」

「あれは」



 天からの光。



「あぁ、あぁ、ワタシは運が良い」



 ニヘラと笑う。



「実験材料が転がりこんでくるなんて」



 その瞬間、戦いの炎は激しく燃えたぎった。

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