第52話

「こんな人気のないところに連れて来て、やっぱり私のこと好きなの?」

「……(はいそうです)」

「冗談はやめろって?」

「ん?そうだ」



 間違えて好きであると言ってしまった。



「で?話って何?」



 リーファはあくまでいつも通りの態度をとる。



「そうだな、意味深に言うのであれば最近変わったことはないか?」



 リーファの整った眉がピクリと動く。



「どうしたの?詐欺師や占い師でも始める気?」

「俺様にそんな趣味はちょっとしかない」

「ちょっとはあるんだ」



 少し気まずい空気が流れる。



「その髪飾り、趣味悪いな」

「急にディス?最低、女の子には取り敢えず似合ってるねと可愛いねだけ言ってればいいんだよ」

「そうか、勉強になるな。じゃあ言わせてもらう。似合わないな、お前が選ぶにしては」



 リーファの顔が歪む。



「あなたが私の何を知ってるって言うの?」

「さぁな」

「バカにしてる?」



 怒りが見える。



「私を貶すだけならもう帰るね」



 背を向けるリーファ。



「お前は願ったんじゃないか?」

「だから占いも詐欺もーー」

「家族が欲しいと」



 リーファの歩みが止まる。



「そりゃそうだよな。小さな体で頼るものも無し。何かに縋りたくなるのが普通だ」

「どこまで知って」



 リーファが恐怖を露わにする。



「クックック、何も知らないし、何もかも知ってるのかもなぁ」

「あなたって何者?」

「フッ、教えてやろう。俺様の名前はアーー」

「おいアクト!!なんでそんな悪役みたいなことをするんだ!!」



 服を掴まれブンブンと揺さぶられる。



「目を覚ませ!!アクト!!」

「いや覚めてるから。お前ホントに邪神やめろ」

「急に何」



 リーファの警戒は解けていない。



「クックック、もう一度だけ教えーー」

「どうしてそんなダサい笑い方をするんだ!!我はグヘヘと笑ってるアクトをもう一度見たいぞ」

「いやしないから俺。グヘヘなんてしないから普通」

「何をふざけてるの!!」

「ゴ、ゴホン。茶番もここまでだな」



 遂に本題に入ろうとした時



「その隣の子は誰なのか早く教えてよ!!」

「は?」



 急に何を



「お、おいアクト。我見られてる気がする」

「何言ってるの?普通に見えるに決まってるよ」



 声まで……



「どうなってる」

「ホントになんなの?」



 リーファにはルシフェルの姿が見えている。



 だがやはりおかしい。



「ルシフェルは二日前からずっと一緒にいた」



 にも関わらず今日、いや今、突然リーファはルシフェルを認識した。



「それにしても顔がよく見えないけど、認識阻害の魔法でも使ってるの?」



 どうやら正確には見えていないらしい。



 さて、どう言い訳したものか。



 ここは本題よりも邪神だとバレないようにする必要がある。



 ルシフェルにアイコンタクトを送れば、ルシフェルが頷いた。



 どうやら俺とルシフェルは以心伝心のようだ。



「コイツは俺様の親せkーー」

「ガールフレンドだ!!」



 ドヤ顔でルシフェルが答える。



 絶望する俺。



「こんな少女を!!」



 ドン引きするリーファ。



「おもろ」



 影から話を聞いていたサム。



「寝取られた!!」



 何故か直感で目を覚ますアルス。



「僕やっぱり才能あるかも」



 そしてまたしても何も知らない真。



 ◇◆◇◆



「お前のせいで全部台無しだよ」

「ごめんなさい」



 ルシフェルが素直に謝る。



 珍しく素朴な態度に俺もそこまで高くない怒りを鎮める。



「だけどもしかしたらと思っていたが」



 やはり



「リーファは何かしら神と関わりがあるのかもな」



 ルシフェルが見えたことがその証明だ。



「だけど、どうして突然見えたんだ?」



 そこだけが疑問だ。



「ところでアクト、謎は全て解けたのか?」

「これが推理ゲームならそうかもだが、最高ながらこれは恋愛ゲームだ。もちろん解けていない」

「無能(ボソ)」

「が、まぁ、ほぼほぼ分かったな」

「さすがアクト!!天才だな!!」

「そう褒めるなって」



 例の防音室でお喋りをする。



「ただレオが戻れるかどうかだけは分からん。それこそリーファ次第だ」

「……まぁ今回の件は解決したも同然ということだな?」

「ん?そうだな。ハハ、そう言って成功した試しがないんだけどな」

「じゃあもう今日は好きに過ごさないか?せっかく店に来てるんだ。美味しいケーキを勝手に作って食べるぞ!!」

「初めて邪神っぽくなったな。初邪神ポイントがケーキのつまみ食いとは如何とは思うが」



 だけど



「悪いな。この時間は彼女達と接触を図る必要のない時間だ。なら俺は大人しくここで過ごす。帰りにケーキを食えないほど買ってやるから我慢してくれ」

「違う!!そうじゃなくて、アクトが楽しまないと……せっかく大好きな世界に来たのに、楽しまないなんて……」

「十分楽しんでるよ。リアルヒロインをこの目に焼き付けただけで幸せハッピーだ。それ以上求めたら死んだ時に地獄に行っちまう」

「アクトはそんなの信じてるのか?」

「今までは信じてなかったが、神様がいるならきっとあるだろ」



 知らんけど。



「なら死ななければいいではないか」

「え?」



 沈黙が走る。



 理由は分からないがどうにか機嫌を直してもらおうと話題を考えていると、ルシフェルが急に明るい顔になる。



「なぁ知ってるか?アクト。防音と言っても少しは音は漏れるんだ」

「そりゃ完全無音なんて出来たらそれこそ驚きだ」

「耳を澄ませばってやつだぞ」

「それ絶対ちがーー」



 ガチャ



「ハッピーバースデーアクト」



 ケーキを持ちながら現れる桜と、とっても下手くそなのに一生懸命歌うアルス。



「うわぁ(かわいすぎ)」



 そして俺の前に二つのケーキが置かれる。



「アクトが何やってるか知らないけど、今は暇なんでしょ?ならこれでも食べてよ」

「アクトハピバ」



 今日は全然俺の誕生日じゃないが、涙が出るほど嬉しい。



「ま、まあ礼だけ言っておく」

「素直じゃない」

「嬉しいくせに」



 徒党を組んでるとしか思えない二人に真意を見抜かれる。



「ほら、食べてみて」



 片方は素人が作ったとは思えないほど綺麗なケーキ。



 きっと桜が作ったのだろう。



 もう片方はぐちゃぐちゃのケーキ。



 アルスが作った(断定)。



「私のから食べてくれると嬉しいわ」



 恥ずかしそうにアルスが言う。



「ど、どうしてだ(震え声)?」

「下手くそで……上手に出来なくて……」



 いじらしく顔を背けるアルス。



「あれ?ケーキは?」

「悪くなかった」



 瞬きする間もなく食べ終わる。



 俺の体は既に先程のケーキを食べることを義務付けられてしまった。



「あ、私も用意したんだ。多分美味しくできてると思う」

「はぁ、俺様は甘いものが苦手なんだよ」

「じゃあその手を止めたらどう?」



 ふむ



 どうやら無意識に食べていたようだ。



「美味しかった?」

「悪……」



 ドクン



「……どっちも美味かったな」

「そう」



 桜がニッコリと笑う。



「じゃあ今度また作ってあげるね」



 そう言って桜が出て行く。



「楽しい思い出になった?」



 アルスが問う。



「まぁまぁだな」

「そう」



 アルスも同じように笑い、部屋を出て行った。



「ん?」



 そして扉の向こうに何かが見えた。



「ケーキ?」



 扉の前にはもう一つの何の変哲もないケーキが置いてあった。



 ◇◆◇◆



「今まで本当にありがとうございました!!」

「「ました!!」」

「いやいや、こんなお店に来てくれただけでも嬉しいものだよ」

「それに桜と真はまだ続けるんでしょ?」

「そうだね」

「A君もまた来てくれる?」

「は、はい!!もちろんです!!」



 いつの間にか一般人Aは元のAに戻っていた。



 それまでの記憶を問えば



『ひぃ、ふ、普通にみんなと一緒にいたじゃないですかー』



 と記憶が補完されていた。



「体験してみてどうだったかい?」

「そうですね」



 そこから涙なしでは語れぬ内容がツラツラと語られるが、このシーンは何百回と見ているので流石に動揺しない。



「桜ちゃんはどうだった?」

「そうですね、私はーー」



 それからは桜はここでの思い出を語った。



「本当に楽しい場所でした」

「そうかい、それはよかったよ」



 お婆ちゃんと桜はまた会うはずなのにハグを交わす。



「ひぐっ、うぐっ」

「アクト、目立ってるから泣き止め」



 そして



「A君はどうだったかね」

「は、はい!!僕は」

「うるさい黙れ」

「はいぃいいいいいいいいい」



 一般人Aに時間を使われるのは何故か知らんが癪に触る。



 サムと重ねてしまってるのだろうか。



「アルスちゃんはどうだった?」

「私はーー」



 アルスはどこかに視線を向ける。



「楽しかった」



 アルスとリーファの目が合う。



「素敵な場所だってわかったわ」

「そうかい」



 お婆ちゃんは満足そうに笑う。



「アクト様」

「何だ」

「ありがとうございます」

「何がだ」

「ただお礼を言いたかっただけですので」

「気持ち悪い奴だな」



 最後に



「リーファはどうだったかい?」

「私はーー」



 リーファは深呼吸し



「私は!!」

「ぶえぇええええええええんんんんん」



 俺は泣き出してしまう。



 この先の言葉を既に知っている俺の涙腺は耐えきれなくなった。



「急にどうしたのよ!!」



 これにはリーファもビックリ。



「おでざばにがばうな、づづげろ」

「何言ってるか分かんないから!!」



 そうして職場体験は平和に幕を閉じた。



 ◇◆◇◆



「進行だ」



 ある団体は勢力を上げ、自身の信じる正義によって悪を潰そうと動き出す。



「加護持ち♪加護持ち♪」



 ある団体が勢力を上げ、自身の好奇心によって神の寵愛を受けた者を捕らえようと動き出す。



「この日か」



 ある団体は勢力を上げ、自身の野望のために約束を遂げようと動き出す。



「平和だなぁ」



 俺は雲一つない空を見上げた。



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