第51話

 ここで邪神教第九席、ロイについて説明しよう。



 簡単に一言でまとめればマッドサイエンティストと呼ぶのが正しいだろう。



 邪神教に入ったのも自身の研究をより遂行しやすいと考えたからだ。



「サムといい幹部は世界滅ぼす気あるのか?」



 まぁいい。



 ロイが第九席に位置するのは当然戦闘が強くないからである。



 だがそんなもの信用できるはずがない。



 マッドサイエンティストなんてどう考えても脳筋キャラより強いだろ。



(呼んだ?)



 どっかの脳筋アルスは例外にしても厄介極まりない相手だ。



 そんなロイがここの近くに点在しているというのはあまり好ましくない状況である。



『アイツはその少年を研究したがってたけど、例の邪神教の上で踏ん反りかえってるアイツが消すよう命じた』



 邪神教のトップをこれからはXさんと呼ぶ。



 Xさんはかなりの力があるようだが、神の作り出した存在であるレオを恐れたようだ。



『どれだけ強かろうと所詮人間の枠組みからは出られないんだね』



 サムはまるであっけらかんとそう言ったが、その目には強い怒りが見えた。



 やはりコイツは邪神教なんだなと今更ながらに認識した。



(呼んだ?)



 神にも届き得る存在アルスはもしかしたら人間じゃないのかもな。



 次々に真相が見えて来る。



 だがまだ何も進んでいない。



 とりあえず最初の一歩を踏み出そうか。



「おい」



 俺はデモ団体の前に立つ。



「俺様の道を塞ぐなんてどうゆう道理だ?」

「おぉ!!自身の道の理と道理をかけたのか!!」

「うるさいルシフェル」



 俺の前で団体は動きを止めた。



「これはこれはアクト様」



 前回と同じ男。



 少し違いがあるとすればそこに余裕が見られる。



「言葉が邪神教の連中とソックリなんだよカス」

「そ、それは流石に心外ですね」



 男の余裕が少し崩れた。



「まぁ結構です。アクト様には申し訳ありませんが、既に許可は取ってあります。アクト様と言えど私達を止める権利はありませんよ」

「あ?俺様がルールだ。俺様が邪魔だと言ったら退くのが常識だ。それとも、グレイス家に喧嘩を売ろうってのか?」



 俺の言葉に後ろの連中は怯む様子を見せるが



「お言葉ですが」



 男は違った。



「私共が誰から許可を取ったかお知りに?」

「何故俺様がお前らなんぞ底辺のことを知らなきゃーー」

「グレイス様です」

「……」

「此度の清き正義の行いにはあのグレイス様の賛成してくださいました。もう一度言いましょう。アクト様に止める権利はありません」

「……」

「皆さん行きましょう」

「ハハ」

「ん?」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「イかれたか?」



 笑いが止まらなかった。



 それは怒りからだろうか、それとも自分の思い通りになった故だろうか



「お前こそ聞いていたのか?」

「え?」

「もう一度言う。俺様は退けと言ったんだ」

「何を言おうとあなたの思う通りにーー」

「人の善意を無駄にするなよ」



 俺の目の前に一人の男が現れる。



「誰だ?」

「ワタシですか?」



 男はフードを取る。



 そこには包帯に包まれた男。



「ワタシの名前はロイ。邪神教幹部第九席に位置するものです」



 周りにどよめきが走る。



 だが



「嘘だな」



 男は動じなかった。



「アクト様、演出にしてはいささか安っぽいですよ?」



 あくまで気丈に振る舞う。



「おやおや、どうやら信じてもらえてないみたいですよアクト様?」

「馴れ馴れしく話しかけるな」

「おっと申し訳ございません」



 謎の男は綺麗なお辞儀をする。



「まぁワタシとしてはアクト様にお話しがあって来たのですが、移動して下さらないようなので」



 突然周りに煙が撒かれる



「眠っていただきましょうか」



 およそ一万ほどいたであろう人が皆すべからく一瞬にして眠りに落ちる。



「ワタシを利用しようとするなんて邪神教よりも肝が据わってますね」

「お前らなんぞ一つも怖くないからな。それに気付いてたなら来なければいいだろ」

「そんなそんな、ワタシは普段は引きこもってはいますが、実はお喋りなんですよ」



 そう言って包帯の向こう側が不敵に笑う。



「それではお聞かせ下さい。レオ、神が創った存在について」



 ◇◆◇◆



 疑問に思った。



「何故奴の名前を覚えている」

「それはワタシも聞きたいことなのですが、まぁいいでしょう」



 ロイが水晶を取り出す。



 中には



「気色悪い」

「安心して下さい、生きていますよ」



 脳だけになった人間を生きていると称するか。



「イカれ野郎が」

「ワタシはあのクソ女の命令によって少年を消す前に残しておこうと思ったのです」



 更にもう一つの水晶を取り出す。



「これはただの映像ですよ」



 問題ないとばかりに見せられた映像には傷だらけの人。



「まずは体という枷から解放された人間に少年のことを刷り込み、この人間達にはレオという名前以外の一切を忘れさせました」



 笑顔で説明を始める。



「その結果なんと!!こいつらは記憶がないにも関わらず無意識にレオという名前を口ずさみ、そして脳だけとなった人間は微かにレオについてのエピソードを覚えていたのです!!」



 まるで難しい問題を解いたことを自慢する様に結果を意気揚々と説明する。



「ですがワタシの部下に同じく気付いたものがいたのですが、彼は何者なのでしょうか」



 捕まえて拷問すればよかったとロイは惜しそうに小さくつぶやいた。



「ワタシの説明は以上です。それで?アクト様は何故少年のことを?」



 好奇心が抑えきれないと顔を近付けてくるロイ。



「加護だ」

「なるほど」



 俺もなんで自分がレオのことを覚えてるか知らないが、恐らくルシフェルと共にいるからだろうと結論立てた。



 だがルシフェルについて話すわけにもいかないため、俺は加護という主人公連中以外(幸福教は別)持ち合わせていない存在を示した。



「アクト様は加護をお持ちということですか?」

「あぁ」



 これがいけなかった



「うひ」

「笑い方キモ」



 ロイは笑い出す。



「加護持ち!!実に素晴らしい!!あぁ調べたい。条件を、能力を、理由を、知りたい!!」



 完全に興奮している



「あぁ連れ去ってもよろしいですか?」

「よろしいわけないだろ」

「では無理矢理にでも」



 だがすぐにロイは冷静になる。



「あぁ、化け物ですか」



 遥か遠く、星と錯覚してしまうほど綺麗な存在が空に微かに見える。



「はぁ、ペインが失敗してなければこんなことにならなかったのに」



 ロイは大人しく距離を取る。



「アクト様が加護持ちと知れただけでもラッキーですね。それで?他に聞きたいことは?」



 ロイは目的を遂げたためか一気にやる気がなくなる。



「どうやってレオを消した。どうやったら元に戻せる」

「アクト様、逆ですよ。あれは元々この世に存在していません。この世にいないことこそが元に戻ったというのが正しいです」

「トンチはいい。早く答えろ」

「承知しました」



 ロイは一つのものを取り出す。



「あの女に渡されたものです。調べても全てにエラーが発生しました。これを仕掛けて一日程で消えましたよ」

「……それで?元に戻す方法は?」

「さぁ、ワタシが知りたいくらいですよ。神にもう一度人間の形をした何かを創らせるなんてどうすると言うのです?」

「……」

「お話しは以上で?」

「……」

「それではそろそろ危険ですので、ワタシはこれで」



 そのまま去ろうとしたロイだが



「最後に一つ」



 思い出したかのように



「レオの魔力はリーファとソックリでしたよ」



 そして一瞬で消え去るロイ。



「最後に収穫ありって顔だね」



 どこかに隠れていたサムが顔を出す。



「やっと物語が動き出したな」



 ◇◆◇◆



 次の日



 職場体験最後の日だ。



「リーファ本当に大丈夫?」

「大丈夫!!問題ないよ!!」



 桜がリーファに声を心配の声をかけるが、リーファは空元気を見せる。



「むしろ一人でいる方が辛いから」



 リーファは一人の少女を見据えて小さく呟いた。



「それにしても昨日の新聞見た?」



 真が話題を変える。



「この前の難癖つけてきた人達が揃いも揃って道で倒れた事件?」

「うん、どうやら邪神教が現れたみたい」

「ひぃ、邪神教が近くにいるだけで恐ろしいです」



 一般人Aが恐怖の表情を見せるが、その本人が邪神教幹部なのだから面白い話である。



 だがあまり桜とリーファに近付くな殺すぞ?



「ひぃ」

「コラアクト、A君いじめない」



 桜に怒られてしまう。



「いつか殺す」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいい笑いいいいいいいいいいいいいいいいい」



 ◇◆◇◆



「真君に桜ちゃん、この前言ってたバイトの話だけど、是非ともよろしく頼むよ」

「本当ですか!!」

「ありがとうございます」

「え?二人ともここで働くの?」

「これからよろしくね、リーファ」



 リーファが喜びの涙を流す。



 本来なら桜はいないはずだが、桜は俺のお願いを聞いてくれたのだろう。



 もしかしたら桜の存在のおかげでリーファは助かるかもしれない。



「最後だけどみんな頑張ってね」



 お婆ちゃんの掛け声に皆が元気に返事する。



「ふあぁああ」

「アルスちゃんは頑張って起きようね」

「珍しいな」



 夜更かしでもしたのか?



 ◇◆◇◆



 昼休憩時



「ふぅ」



 リーファが外の風を吸う。



「おい」

「え?」



 リーファが振り向いた先には



「黙ってついて来い」



 目つきの悪い紫髪の男がいた。



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