第50話
「お前に何かしてもらうことなんてねぇよ」
「そう」
そう言ってアルスはただ俺が本を読むのを隣でジッと待ち続けた。
「ん?」
そして俺はある文章を見つけた。
「神との親和性?」
そこにはこう書かれていた。
「魔力はそれぞれ固有のものであるが、稀に人間と神で似通った魔力の性質を持つものがあらわれる」
ページを捲る。
「その際に神はより人間との接触を大きく持てる」
ふむ
「分かったようで分からんな」
隣のアルスを見る。
真剣な顔で寝ている。
「ルシフェル」
小さな声でルシフェルを呼ぶ。
「ふぇ?」
こいつはアホ面で寝ていた。
「この文章を見てみたんだが、人間との接触を大きく持てるってのはどういうことだ?」
ルシフェルが目をパシパシさせながら
「ああ、おそらく制約のことだろう」
「制約?」
「前も話したと思うが、我は全くこの世界で力を使うことができない」
確か何万だが何億分の一しか力が使えないと言っていたな。
「それがこの世界のルールであり、我達神がパワーバランスを壊さないようにするためだと思う」
「なるほど」
そうなってくると
「真や桜は親和性が高いのか」
だからあそこまで強くなれる。
「おそらく他のヒロイン達にも何かしら近い神の存在がいるのかもな」
もう一度隣のアルスを見る。
「可愛いな」
少しほっぺを押してみればむにゃむにゃと可愛らしい寝言をたてる。
「続けるか」
俺は本を読む速度を早めた。
◇◆◇◆
「収穫なしか」
アルスはランボルギーニに届け、俺は道をプラプラしていた。
図書館では結局9割は俺の知ってる内容と同じ、もしくは俺以下の内容でしかなかった。
「そりゃ神様やらを作った存在の資料を見た男だ。情報戦でもすればこの世界で最強は俺だな」
「だがバカだからどうせーー」
ルシフェルのうるさい口を俺の拳で黙らせていると
「リーファ?」
街をプラついているリーファの姿を見つけた。
「どうして俺は咄嗟に隠れたんだ?」
「ストーカーだからじゃないか?」
俺は伺うようにリーファの姿を観察する。
「何か探してるみたいだな」
俺は少し気になって後をつけてみることにした。
「……」
「何も喋らんな」
「アクトの周りの人間は独り言が多いだけだぞ」
リーファはオモチャを手に取っては元の場所に戻し、食器をみれば子供用の品をよく観察している。
「違和感を感じてるんだろ」
突然人生の記憶の半分が消えたようなものだろうからな。
「何やってるんだろ私」
リーファは悲しげな目をする。
「なんでこれが気になるんだろう」
そこには小さな花柄の髪留め。
リーファが自身の緑色の髪を撫でる。
「似合わないはずなのに」
リーファはただそれをジッと見つめ続けた。
◇◆◇◆
「何してたのかな?」
桜が笑顔で問い詰める。
俺が店に戻った時には既に職場体験は終わっていた。
「別にいいだろ」
桜の前で取り繕う必要はもうないはずだが、クセか、もしくはこれ以上仲を深めないようにするためか少し素っ気ない態度を取る。
「今度はリーファを助けるの?」
「……」
ムスッとした顔をした桜だが、次の瞬間
「少し聞いて欲しいことがあるの」
真剣な顔になる。
「なんだ」
「リーファってさ、弟がいない?」
「!!!!」
どうしてそれを
「やっぱり知ってるんだ」
「何故それを……」
「私もよくわかんないんだけど、私はリーファを見たことがあるんだ」
初対面じゃないのか?
「ううん、昨日初めて会ったよ」
「そこで弟を見たのか?」
「その、はずなんだけど」
桜は悩ましげな態度をとる。
「夢ってさ。起きてすぐは結構覚えてるけど、すぐに忘れていくことが多いじゃん?」
「さぁ」
「そうなの!!」
何だか迫真であった。
「それでさ、リーファには弟が居たはずなんだ。でも、その名前も、姿も、どんどん薄れていく」
桜がレオについて知っていることにも驚いたが、それを今だに覚えてることに驚愕する。
ずっと長く居たはずのリーファですら忘れてしまうのだから。
「ん?」
ならどうして俺は覚えてるんだ?
「……」
隣に立ちムシャムシャとかっぱのエビを食べている少女を横目にする。
「何かまたあるの?」
心配そうにする桜。
「あるにはあるが、心配するな」
「怪我しない?」
「ああ」
「無茶は?」
「多少」
「そっか」
桜は一呼吸置き
「私に出来ることはある?」
「…………リーファを見ておいてくれ。昨日の連中がどうせまた何かを仕掛けてくる」
「分かった」
それは真の意味での初めての頼る行為だった。
「ただし!!」
桜の声が大きくなる。
「リーファにあまり近寄らないでね!!」
「も、元々そのつもりだけど……」
「絶対だから!!これ以上は私無理だから!!」
「何か知らんが善処する」
俺の本来の動きは影からヒロインを助けることだからな。
リーファに興味も持たれずに華麗に解決してやるよ。
何故か桜にジト目を向けられた。
「更に大きな光が現れた時、どこに影ができるのだろうな」
ルシフェルがボソリと呟いた。
「桜!!そろそろ行こう」
真が声を掛ける。
「あぁそれとアクトにもう一つ」
「ん?」
「真についてだけど」
◇◆◇◆
「あれ?誰かと話してたの?」
「ううん、独り言」
「独り言か。そういえば最近の彼は独り言が多いよね。まるでもう一人誰かがいるみたいにさ」
「そうだね」
桜は見えなくなったアクトの幻影を捉える。
「あの子は誰なんだろうね」
◇◆◇◆
今俺の抱えている問題は3つ。
一つはリーファを救うために必須な亜人を排除しようとする者達。
一番楽なのは奴らを皆殺しにすることだが、それはルシフェルのためにもやめておきたい。
二つ目はレオを元に戻す。
多分俺の考えが正しければ、リーファがゲームで差別に耐えてこられたのには弟の存在があったからであろう。
ゲームをしている時も、リーファは真の存在のおかげで周りの目を気にしなくなったが、選ばれない場合はストレスで押し潰されてしまう。
それまで耐えてこられたのは何故かずっと気になっていたが、その背景にはレオの存在があったからであろう。
真の代わりとしてレオという選択がおそらく最もリーファを救う道において確実であろうと思う。
三番目は邪神教。
サムの言っていたまたしても俺が知らない存在。
こいつがレオの件に関わっている可能性が大いにありえる。
レオが依代であることにも関係がありそうだ。
「難しいことはわからんが、それって全部一つの問題じゃないか?」
「ん?」
邪神教倒す→レオ復活→リーファ助かる
「なるほど」
確かに一つの問題だな。
「まぁ逆に言えば一つが解決すれば芋づる式に終わると思えば楽だろ」
「我は芋が食べたくなってきた」
「買いに行くか」
街に着くと
「祭りか?」
そう思わせるほどに人が集まり、大きな声が飛び交う。
「いやこれは」
大きな声というより罵声であった。
「チッ」
その中心には
「エルフは危険だ!!」
「殺せ!!」
「人間の世界に入ってくるな!!」
例の団体が行列を作っていた。
「この前より人が増えていないか?」
「おそらくリーファの噂を聞きつけて各地から集まって来てるんだろ」
暇なこったな。
「なぁ、これが進んでいる方向って」
「ああ、おかしな店名のケーキ屋だな」
それは奴らからしたら魔王を倒す勇者の気分なのだろう。
だが彼女からしたら
「お前らこそ化け物だよ」
「僕も同意見」
俺の隣に急に立つのって流行ってるのか?
「疾く本題に移った方がいい?」
「ああ」
「幹部9席が来てるで通じるかな?」
「……」
「うわぁ、やっぱり知ってるんだ。きもぉ」
サムはわざとらしく自身の体を抱き寄せる。
「僕が彼の正面に立って聞いてみたんだよ。この欄空いてませんか?って、そしたらアイツメチャクチャ嫌な顔しててさ。これはビンゴだって感じだったね」
「やはりレオが消えたのは邪神教の仕業だったわけか」
「うーん、それは少し違うかも」
「あ?どういうことだ?」
「アイツが消したというより、調べた結果危険と分かったから元に戻したって感じかな」
「待て、言ってる意味が」
サムは表情を変えずに
「元々居ないんだよ。この世にそいつは」
……居ない?
「いやー、カッコつけただけなんだけど実際は例の人物の名前忘れてたって話はーー」
「端折りすぎだ。説明しろ」
「ふぅ」
サムはデモを何の感情もない目で見据える。
「依代の資料から消えたが、空欄があった。つまり何かしらの形で証拠は残っている」
「そうだな」
「だから僕は彼女に目をつけた」
リーファの弟なのだから当然だろう。
「色々分かったよ。彼女がどこで生まれ、どういう人生をたどり、今に至ったか。例えば彼女の生まれがとある名家とかね」
「一日で結果を出し過ぎだ」
「お褒めに預かり光栄だね。だけど、消えた人物のものは一切出てこなかった」
「それはお前が見落としただけーー」
「僕のこと舐め過ぎじゃない?」
「……それで?」
「僕は考えたんだよ。どうしていくら探しても見つからないのか、そしたらあることに帰着した」
自慢する様に
「そいつは彼女の弟じゃない」
だって関係がないのなら見つかるはずないからねと
「意味が分からん。リーファは家を追い出された後にレオをどこかで拾ったってことか?」
「それにしてはおかしいね。僕が聞いた話だと、その男の子は彼女と同じ髪色。そうそう居ないよね、あんな髪色。それこそ姉弟でもなければ」
「言ってることが矛盾してる」
「なら導き出せるじゃないか」
サムは怪しく笑った。
「レオはリーファの弟として生み出されたんだよ」
神によって
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