第49話

「何してるのかな?」



 リーファの後ろに般若のようなものが見える。



「どうする?」

「わ、我が知るはずないだろ!!」



 絶体絶命とはまさにこのこと。



 どう言い訳したら人の家に勝手に入ることが許されるのだろうか。



 俺の脳内スパコンが弾き出した結論は3つ。



 一つ



 逃げる。



 二つ



 レオについて話す。



 三つ



 土下座する。



「もちろん答えは1だ!!」



 俺は全力で窓?のようなものに手をかけるが



「逃げんな」


 

 一瞬で距離を詰められてしまう。



 さすがはリーファ。



 風魔法を使えば彼女の右に出るものはいないな。



「で?どういうわけかな?」



 拳をピキピキと鳴らす。



「秘密基地かなって思って」

「殺すぞ」



 殺されると思った。



 土下座の覚悟を決めたところで



「はぁ」



 息を吐くリーファ。



「もういいよ、疲れたし。何?私のこと好きにでもなった?」

「そんなわけないだろ(元々大好きです)」

「今回は特別に、本当に特別に許してあげる。次こんなことしたらタダじゃおかないから」



 これで一回でも許せるとかなんて聖人?



「バイトはどうした」

「今日は帰れって」



 トボトボと綿も入っていないような布団取り出す。



「あんたも早く向こう行きなさいよ。てか早く出てけよ変態」

「誰が変態だ!!」



 俺は紳士だ。



「しょうがねぇ。出てってやるよ」

「どうやったらそんな上から目線でいられるの?」



 リーファが普通にドン引きする。



 俺がドアに手をかけた時



「ねぇ」



 リーファが足を止めさせる。



「アルスちゃんの言ってたことでどういうことだと思う?」



 リーファは俺に顔を向けずそう聞いてきた。



「さぁな」



 俺はヒロインの情報を隅々まで知ってるが(紳士)、彼女達が常日頃から何を考えてるかなんて分からない。



「ただアイツの勘は良く当たる」

「なにそれ」



 クスクスと笑う。



「大切なもの、何かあった気がするのにな」



 リーファは虚しそうにそう言った。



「そうかよ」



 俺はリーファを置いて外に出た。



 ◇◆◇◆



「今回はベリーハードだな」



 困ればいつも通り例の公園だ。



「手掛かりは見つけはしたものの、これからの方針が一切たたん」



 レオに関する情報は多分全て消えてしまっている。



「どうすっかなー」



 すると



「あの!!アクト様!!」

「あん?」



 そこには一般人Aの姿。



「ここにいらっしゃったんですね。お店に戻らないと……」

「ちっ、めんどくせぇ。お前如きが俺様に指図するのか?」

「い、いえ!!」

「俺様は忙しいんだ」



 俺はベンチから立ち、Aを背に歩こうとする



「困ってるみたいだね」

「は?」



 突然後ろから聞き覚えのある声



「久しぶりだね、アクト様」

「テメェ」



 そこにAの姿はなく



「サム」

「怖い顔しないでくれよ親友」



 悪戯が成功したように笑う。



「どうやって」



 既にミーカール学園にはサムの存在は警戒されているし、ルシフェルも気付いていなかった。



「ほら!!少年漫画での特訓回みたいにさ。僕も山に篭ってメチャクチャ特訓してきたんだよ」



 謎のシャドーボクシングをお披露目するサム。



「ルシフェル」



 ルシフェルは分からなかったという意志を伝えるように首を振る。



「これだから天才は」

「で?アクト様は何を探しているのかな?」



 サムは不恰好に恭しく尋ねた。



「ちっ」



 サムは信用できるし出来ない。



 協力すれば頼もしいが敵となれば厄介。



 まさに一番の博打だ。



「まぁいい」



 鎌がけ、というより事実確認だ



「レオ、という名前に聞き覚えはあるか」

「レオ?」



 サムの頭に?のマークが浮かび上がる。



「聞いたことないね。僕の記憶力は3Mbもあるけど覚えてないよ」

「依代を記載したノートを持ってないのか」



 サムの顔が一瞬曇る。



「ホントにアクト様って何者?僕はもちろんだけど、邪神教は秘密主義だ。情報を渡すくらいなら自滅を図る連中の情報をおいそれと持つお前はなんなんだ?」



 サムが警戒を見せるが



「まぁいっか」



 すぐにそれを解く。



「邪神教がどうなろうと僕にはどうでもいい」



 お金さえ手に入ればと



「資料だっけ?確かにあるけどバレたら怒られるから秘密にしてね」



 しー、っと指でジェスチャーをするサム。



「貸し1でいいのかな?」

「この前アジダハーカを処理しただろ」

「あれは利害の一致だろ?それに倒したのはアクト様じゃなくてアルスノート。あれは貸しにはできないね」

「ちっ、まぁいい。ただし条件がある」

「何だい?」

「それが彼女のための行動なら手を貸す」



 サムは驚く表情をした後、珍しく心からの笑みを見せる。



「ありがとう」

「ふん」



 俺は資料に目を通す。



「やはり」


 

 俺の記憶も定かではないが



「空欄」



 おそらくレオの名前があったであろう場所が空欄になっている。



「ホントだ」



 横から覗いたサムも興味深そうな顔をする。



「気付かなかった、もしくは気付かないようにされていた?」



 サムが考える。



「心当たりはあるのか」

「さぁ、僕達邪神教は意外とバラバラだからね。時々協力もするけど基本的に幹部で構成されたチームで各々好きに世界を壊すって感じだし」

「ゴミ野郎共が」

「さすがの邪神教もアクト様だけには言われたくないと思う」



 サムが残念そうに俺を見る。



「で?アクト様は何か知ってるの?」

「どうして俺様がお前に教えなければいけない」

「えぇ、ここまで来てそれはないでしょ。僕達はソウルメイトじゃないか」



 いつからソウルメイトなんぞになったかは知らんが、もしサムがこの件を手伝うのならかなり心強くはある。



「チッ、ほら」

「ん?」



 サムに一つの人形を渡す。



「これならお前は裏切らん」

「これは……」



 サムは少しそも人形を見た後



「ホントに何者だよ」



 そして俺はこの件についてサムに話した。



 ◇◆◇◆



「興味深いな」



 サムは熟考する。



「消えた人間、アイツなら同じような出来そうだが、流石に存在ごと消すなんて不可能だ」

「そもそもあのクレイジーサイコが一人に対してそこまで執念深いことするわけないだろ」

「それもそうだね」



 考える。



「正直手の施しようがないね」



 サムはギブアップとばかりに両手を上げる。



「そりゃそうか」



 少し期待していたんだけどな



「でも」



 俺の思考を遮るようにサムの声が響く。



「仮説がある」



 それは大きな一歩だった。



「邪神教には今トップが存在する」

「は?」

「どうやらアクト様も知らなかったようだね」



 邪神教は幹部筆頭ではあるが、独立した個としての長は存在しない。



「詳しくは語れない。だけど、そいつは莫大な魔力を持って一つのものを生み出した」

「一つのものを生み出す?」



 サムはそれ以上を語らない。



 契約に縛られているのだろう。



「ただ分かることは人間を生み出すことも消すことも、アイツなら可能だということだ」

「……」



 まるでお伽噺を聴いている気分になる。



「じゃあ黒幕はそいつだと?」

「さぁ、言っただろ。ただの仮説だって」



 仮説かもだが、俺からしてみれば手をつける術が出来ただけでも前進だ。



「ま、僕は僕なりに調査しておくよ」

「ああ」



 そしてサムはまたAの顔に変わり



「そ、それでは失礼します!!」



 先程とは別人となって去っていった。



 ◇◆◇◆



 俺は図書館へと向かった。



 俺が知らない情報があるかもしれないと調べてみる。



「魔力が与える影響か」



 本を読むなんて久しぶりだな。



「ん?これなんて読むんだ?」

「それはおびただしいよ」

「これは?」

「分からないわ。その字はさっき調べただけだから」

「そうか」



 ペラリ



「魔力量は生まれつき決まるか」



 既存の意識だな。



「だけどアクトは後天的に魔法が使えるわ」

「それは……」



 俺は隣の席を見る。



「いつの間にいたんだアルス」

「ついさっき」



 もはや恒例となった突然隣のアルス。



「店はどうした」

「アクトがいないとつまらないもの」



 そしてアルスは上から目線の破壊力をもってして



「手伝えることがあるなら手伝うわ」



 このお話は思ったよりも深く、過酷なものになるのであった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る