第48話

「今日はここまでだよ」

「「「ありがとうございました」」」



 今日はそれ以上の厄介ごともなく終わった。



「楽しかったかい?」



 いつの間にかアルスと俺を除いた三人はお婆ちゃんと仲良しになっている。



「君達は混ざらないの?」



 リーファが尋ねてくる。



「私はアクトの隣に居られれば十分」

「確かに不器用そうではあるけど、そんなにいい人には見えないけどな」

「既に片鱗は掴めている。君もすぐにアクトの良さに気付くわ」



 お前はマジで誰なんだよ。



 俺の評論家か何か?



「それに私はあまり手伝えなかったから」



 アルスは少し申し訳なさそうにそう言った。



「しょうがないよ、体が弱いんでしょ?それでもこうして私達のお店まで来てくれたことが嬉しいよ」



 リーファは心の底から当然という態度でそう告げた。



「それに聞いたんだ」



 リーファは同情するような、傷を舐め合うように



「生まれつきって辛いよね」



 だが当の本人であるはずのアルスは



「いいえ」



 あっけらかんと一言で返す



「え?」



 リーファも目が丸くなる。



「私はこの力が好き」



 だってと



「彼を救えたから」



 俺の服を掴みながらそう答えた。



「リーファ」

「え」



 アルスが名前を言った。



「本当に大切なものを見失ってはダメ」

「本当に……大切な……」



 そして



「アクト、アルス、そろそろ学園に戻らないと」



 桜が呼びかけてくる。



「またね」

「う、うん。また」



 アルスが小さく手を振り、リーファがそれを返す。



「お前の思考ほど読めないものはないな」

「私はいつだってアクトのことしか考えてないわ」

「……そうかよ」



 ◇◆◇◆



「ねえお姉ちゃん」

「……」

「お姉ちゃん!!」

「ん?あ!!レオ。ごめん、お姉ちゃんちょっと耳が遠くなったかも」

「そう……なんだ」



 レオは堪えるように笑う。



「僕、何か変じゃない?」

「変?どこが変なの?何もないのにおかしいなんてことありえないよ」

「それにお部屋も何だか変だよ」

「そう?私はいつも通りにしか見えないけど?」

「……そっか」

「そんなことよりもうご飯だから」



 リーファがお皿を運ぶ。



「いただきまーす」

「お姉ちゃん」

「ん?」

「僕のお皿は?」



 机には一つのコップに一つのお皿。



「ご、ごめんね!!お姉ちゃんうっかりしてて」



 リーファはすぐに■■の分の食器を用意する。



「あれ?何で私お皿を二つも用意してるんだろう」



 ◇◆◇◆



 次の日も同じようにランボルギーニに行く。



「あれ?リーファさんはどちらに?」



 真が問う。



「あの子が連絡もなしに来ないなんて珍しいねぇ」



 お婆ちゃんも困惑気味である。



「すみません!!遅れました!!」

「何かあったのかい?」



 息を整えるようにゼェゼェと息を吐くリーファ。



 顔を上げ



「大丈夫です。昨日は少し眠るのが遅くて……」



 普通に遅刻してしまっただけだと



 リーファは何もないように言った。



「リーファ、あんた」



 リーファは



「どうして泣いているんだい?」

「え?」



 リーファは自身の顔を擦る。



「あれ?ホントだ。どうして私……」



 意味がわからなそうに



「もしかしたらいつの間にかストレスでも溜めてたかもですね。あ!!ここでのバイトが苦ってわけじゃないですから!!」



 そうやって笑って誤魔化した。



「どうしたんだろ、私」

「……」



 俺は無言で店を出た。



 歩くたびに人が減っていく。



「そもそもおかしかったんだ」



 レオ。



 リーファの弟。



 だがゲームでその正体が現れることも明言されることはなかった。



 だが邪神教での依代候補として載っていた。



「確かに存在し、あれだけリーファに愛されているのに、何故か作中で語られることは一度もなかった」



 怪しさ満点だな。



「不法侵入か。ついにストーカーに磨きが掛かってきたな」

「これは内部偵察だ」

「どっちにしろダメだろそれは」



 俺はリーファの家とも言えない住処に入った。



 ◇◆◇◆



 レオの姿はなかった。



「無いな」



 その家には何もなかった。



 いや、正確にはあるのだが、どれも価値があるものとは呼べないものばかり。



「苦労してるな」



 その部屋が生活水準の低さが物語っている。



「最近は忙しくて観察出来なかったが、二人は仲良しだった」



 ゴソゴソと物色する。



「だから自分の食事を我慢してでもオモチャを買ってあげてた」



 周りをいくら探しても何も出てこない。



「綺麗だ」



 不自然なくらい。



「まるで何も無かったかのように」



 俺は作業を続ける。



「何を探しているんだ?」



 どこかに行っていたルシフェルが尋ねる。



「レオに関わる全て」



 だが結局何も見つからなかった。



「やっぱりないか」



 予想通りの結果だな。



「そろそろ教えてくれないか?」



 ルシフェルはむず痒そうに懇願する。



「俺も考察でしかないんだがな」



 俺は地面に座る。



 ルシフェルも同じく俺の隣に座る。



「まずレオは今いない」

「どういうことだ?我は確実にこの目で見たぞ?」



 ルシフェルのキラキラした目に俺の顔が映り込む。



「うわ、最悪なもの見ちまった」

「な!!それは我のことか!!」



 プンプンと立ち上がって地団駄を踏むルシフェル。



「何言ってんだ。アクトの顔が見えちまったんだよ。お前の顔は一生でも見ておきたいくらいだ」

「そ、そうかぁ?」



 今度は照れ照れと分かりやすい神である。



「話を戻す。確かに俺もお前もレオを見た」



 だが



「今これを見てどう思う」



 レオという存在が跡形もなく消え去った部屋。



「む、むぅ〜、不思議なことがあるんだな」

「そう、そして今朝のリーファの態度」



 何かあったのだろう。



 なのにまるで何事もなかったかのような態度。



 そしてゲームだと、真とリーファが出会うのはレオを知らない状態の昨日。



「このことから導かれるのは?」

「消えたのか?」

「多分な」



 ルシフェルが不思議そうに答えた。



「どうしてだ?」

「さぁな」



 そこは俺にも分からない。



「だけど邪神教がレオに目をつけていた。だから邪神教は何かしたと睨んでいるが」



 果たして本当にそうなんだろうか。



「レオが家に居なかった時はなかった。あそこまで溺愛していればすぐに心配するはず」



 おそらくリーファからもレオという存在が消えたのだろう。



「ん?」



 一通り喋った後、触れた地面に何かが落ちていた。



「見えない毛?」



 感触はあるのに見えない。



「ルシフェル、これが何か分かるか?」

「む?何だそれは」



 ルシフェルが訝しむように見えないものを睨む。



「物凄い魔力だ。どうして今まで気付けなかったんだ?」

「ルシフェルが分からんものを俺が知るか」



 だが



「もしかしてレオのものか?」

「うむ。我も万全ではないから詳しく分からんが、おそらくあの小さな人間ので違いない」



 ここに来て正解だったな。



「まだ完全に消えたわけじゃないってことか」



 ゲームの知識を絞り出し、様々な考えを巡らせる。



「どうしてそこまでその人間に躍起になるんだ?」



 ルシフェルらしくない台詞が飛び出る。



「あの人間はヒロインとやらを助けるのに必要なことか?」



 なるほど。



 ルシフェルはつまりこう言いたいのだ。



 今までと方針が違うんじゃないかと。



 そう、レオは消えた。



 消えた存在によってリーファが不幸になるのか。



「記憶ごと消えてるのに悲しむはずない」



 なら何故こんなことをするのか。



「一つ、リーファを救う道の一つに使えるかもしれない」

「む、そうなのか。そういうことなら早く言え」



 ルシフェルも納得した様子。



「そして二つ目に」

「まだあるのか?」



 ルシフェルを見据える。



「お前の依代になるかもだからな」

「……」



 ルシフェルは口を閉じた。



「それについてだがーー」



 ダン!!



「「へ?」」



 砂埃が巻き起こるほどの勢いでドアが開く。



「何してるのかな?」



 そこには怒りで顔をひくつかせたリーファが仁王立ちしていた。





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