第47話

「上手だねぇ」

「ありがとうございます。小さな頃から家事をしていたので」



 桜が照れるように答える。



「あんたは経験者かい?」

「いえ初めてですが、もしかして才能があったりするんですか?」

「凄いねー。初めてでこんなに立派な子は初めて見たよ」



 真が嬉しそうに頭を掻く。



 ゲームでもこれがきっかけでバイトを始めるんだっけか。



「あんたは普通だね」

「そ、そうですか」



 Aは何だか納得いかないようにそう答えた。



「どうやったらそうなるんだい?」

「大気圏で焼いたら速いかなと思った」



 そして最後に



「あんたは作らないのかい?」

「俺様が作る?ありえねぇ。俺様が作らせることがあっても、その逆はありえない話だ」



 アクトの強気な態度を見ても



「そうかい、そうかい」



 お婆ちゃんは優しく答えた。



「マロさんいいの?」

「いいんだよ。来てくれただけでも嬉しいもんだよ」

「マロさん……」



 そして皆のケーキが完成し



「せっかくだから試食会と行きたけど」



 お婆ちゃんがチラリと時計を確認する。



「そろそろお客さんが来る。今からみんなには接客をして欲しくてね」



 皆に色々教え、ついに最初の客がやって来る。



「「「いらっしゃいませ」」」



 真に桜、一般人Aが挨拶をする。



「あんたもしなさいよ」



 リーファが注意してくる。



「誰がするか」

「アクトは私と一緒にいたいから無理らしいわ」

「俺様の腕前を見せてやるか」



 アルスに接客は出来ないため、一人で待機中となる。



「私も仕事するけど、お客様を怒らせないでね」

「うっせーな、速くどっか行けよ」



 俺がシッシと追い払う仕草をすればアッカンベーと返してくるリーファ。



「だる」



 桜は慣れているのかスラスラと接客をこなし、真も緊張しているが持ち前の主人公力で女性客に人気のようだ。



 一般人A?誰だそれ



「おい」

「あん?客に向かってなんだそ……の……」



 俺の姿を見て動きを止める。



「何でアクトがここに……」

「あぁん?」

「アクト様がどうしてこのような場所に」



 男が萎縮する。



 周りの目線が突き刺さる。



「お前は俺様に質問出来るほど偉い立場なのか?」

「け、決してそのようなことは」



 周りは完璧にお通夜モードだ。



「ちょっと君、こっち来なさい」



 リーファに裏へと連れて行かれる。



「ホントに有名人だったんだ」

「最初から言ってるだろ」



 リーファが悩ましげな態度を見せる。



 そして



「正直邪魔」



 遠慮せずそう言った。



「それで?」

「接客はしなくていい。だから大人しくしてて」



 真剣な眼差し。



「気に食わんが、まぁ俺様も面倒だと思ってたし、ちょうどいい」



 俺は誰もいない部屋でポツンと座る。



「悪いなリーファ」



 この店の評判が下がるのは本意じゃないだろう。



 俺もアクトでなければ頑張って手伝ったのに



「いや別に働きたくなかったな」



 俺はただ黙々と時間が過ぎるのを待った。



「静かだな」



 そして異変に気付く。



「客がいないにしても静か過ぎないか?」



 談笑すら聞こえない。



 ここは皆がいる場所から離れてはいるが、それでも微かに声は聞こえるはずだが



「見て来るか」

「なぁアクト」

「どうしたルシフェル」



 ルシフェルが深刻な顔で



「この部屋防音だぞ」



 壁には防音と書かれた貼り紙があった。



「アハハハハ!!何だよ、心配して損したな」



 びっくりした。



 また何か問題が起こったんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ。



「とりあえずここまで来たし、一旦出るか」



 扉を開ける



「ーーー!!ーーーーーーーーーーー!!」

「ーーーーーーーー!!ーーーーーー!!」



 怒鳴り声が聞こえる。



 そして



「これだから劣等種は!!」

「あ?」



 その声と共に俺は走り出した。



 ◇◆◇◆



「……」



 そこには俯いているリーファ。



 それを慰める真。



 そして桜とAが大声で抗議している。



「どうして!!リーファは私達と同じ人間じゃん!!」

「そ、そうですよ!!魔力が多いこと以外に違いなんてありません」



 だが



「違いなんてその見た目で十分だろ!!どう見ても化け物じゃないか!!」



 店の前でデモ活動が起きていた。



 そのプラカードには



『亜人を人間の世界にいれるな』



 と書かれていた。



「私は見たわ!!その化け物が人を吹き飛ばすところを」

「そ、それは突然向こうから襲って来てーー」

「ひぃ!!そうやって綺麗な顔で何人の人間を騙してきたの!!」



 女の声に周りがそうだそうだと声を上げる。



「そもそも魔力によって見た目が変化しただけだと最近は認められたじゃないですか!!」



 Aが尻込みしながらも必死に抵抗する。



「そんなの信じられるか!!」

「昔お前らににどれだけの人が殺されたのか!!」

「それは私のようなエルフをあなた達が迫害したからーー」



 水掛論のように互いに口論となる。



「胸糞悪りぃ」



 こういった害虫どもが大勢いるのが信じられない。



 ここは害虫代表アクトグレイス様の力を見せ付けてやるか



「おい」



 俺は堂々と前に出る。



「お前らさっきからウルセェんだよ」



 先ほどまで救急車のサイレンなんて目じゃない程の声を出していた連中が一気に静かになる。



「アクト様」



 一人がボソリと呟いた。



「どうしてここに」

「何故」



 どよめきが走る。



「うるせぇ」



 全員が一斉に黙る。



「チッ、めんどくせぇ。おい、そこのお前」



 先頭の男を指差す。



「何の騒ぎだ」

「こ、これはですね……」



 ゴニョゴニョと言いにくそうに喋る。



「端的にまとめろ」

「その亜人を追放させに来ました!!」



 こいつはバカだが有能かもしれない。



「どうでもいい、俺様の昼寝の邪魔だ。失せろ」

「な!!」



 男が驚愕を見せた後



「お待ち下さい」



 食い下がる。



「アクト様程高貴なお方がエルフのような下等生物と同じ空間にいて許されるはずがありません。是非とも排除してくださらないでしょうか」



 男が祈るような姿をとる。



「確かに劣等種だな」



 俺の言葉にAが驚き、リーファは悔しそうな顔をし、真は怒りを露わにする。



 桜だけは何もせず、ただじっと俺を見ていた。



「だがお前らも劣等種じゃないか」



 デモ隊がポカンと口を開ける。



「偉大なるグレイス家の子孫である俺様に比べたら、お前らなど皆下等な存在だ。虫ケラ同士で争うのは結構だが、これ以上騒げば」



 凄みを効かせ



「一族郎党皆殺しだ」



 悲鳴を上げながらデモは解散となった。



「やっと静かになりやがった」



 俺は何事もなかったかのように元いた場所に帰ろうとする。



「やっぱり来てくれた」



 桜は笑ってそう言った。



「名前」



 リーファが赤い目のまま話しかけて来る。



「アクトだっけ?」

「だから何だ」



 きまずそうに



「ありがと」



 頭を下げた。



「何勘違いしてやがる」



 俺は無関心を装い元の場所に戻った。



「昼寝ができないって」



 リーファは笑いながら



「あそこ防音室だよ」



 ◇◆◇◆



「あれで終わったと思うなよ」

「何言ってんだ急に」



 ルシフェルがキメ顔で第二形態みたいなセリフを口にする。



「あの人間達は素直に引き下がるのか?」

「ありえないな」



 次は俺がいない時を見計らって来るだろう。



 もしくは間接的な方法で攻撃するか



「大丈夫なのか?」

「難しいな」



 今回は明確な敵がいるわけじゃない。



 戦闘で倒すでもなく、裏で操っている人間がいるわけでもない。



「ある意味敵は世界だな」



 嫌だ。



 それだけの感情で支配された人間達による言葉のナイフ。



 自分を正義と信じて疑わないからこそ、非人道的なことも平気で出来る。



「いつも通りどうせ失敗する作戦は立てないのか?」

「桜の時は一応成功はしただろ」



 作戦か



「あるにはあるんだが」



 多分、今回鍵になるのは



「レオ」



 ◇◆◇◆



「お姉ちゃんいつ帰って来るかなー」



 レオは窓を眺め、いつ自身の姉が帰って来るのかを待っていた。



「あれ?」



 レオは窓に映った自身の姿を見る。



「透明?」

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