第46話

 職場体験



 まさしく前世でも経験した人も多いであろう行事。



 高校生でまだ働く気なんてまっぴら無いのに強制的に体験させられるあれだ。



「ユーリ様とアクト様がご自宅に行かれますか?」



 教師が恭しく尋ねる。



「私はそうさせてもらうと助かるな」



 ユーリが申し訳なさそうに答える。



「ではアクト様もーー」

「俺様は行かん」



 俺の発言にクラスがざわめく。



 一つはお前来るのかよー、という気持ちと



「お父様もいらっしゃいますよ?」



 アクトという人間が今までと違う行動を取ったからである。



「俺様は行かないと言ったんだ。何か文句でもあるのか」

「い、いえ!!それではアクト様も一般枠ということでよろしいでしょうか」

「聞くまでもないだろう」

「失礼しました!!」



 こうして俺も皆と同じように参加するようになった。



「どうして参加するんだ?」



 ルシフェルが小さな声で聞いてくる。



「大体の行事は大抵何かしら起きる」



 ゲームのお約束だな。



「だから近くに居合わせる方が都合がいい」



 今回大きく関わるヒロインはリーファ。



「真はここでリーファのバイト先を選ぶはずだ」



 リーファはケーキ屋さんで働いている。



 そこの店主はかなりの高齢だが、リーファを快く受け入れてくれる聖人でもある。



「それでは行き先を決めて下さい」



 皆がそれぞれ希望する場所にチェックを入れる。



 だが当然ながらいくら優しかろうとお婆ちゃんのお店に行きたがる人は少なかった。



「予想通りだな」



 そして俺はケーキ屋(ランボルギーニ)にチェックを入れた。



「では行先のメンバーを確認して下さい」



 俺は誰と一緒かを確認する。



 真は確定として、残りはランダムで選ばれるはずだが



「は?」



 表示された場所には



「濃いって」

「よろしく」



 隣から誰か知らん人が話しかけてくるので無視する。



「……」



 遠くで元気一杯に手を振る奴も無視だ。



「どうなってんだこれ」

「それでは事前にグループで集まって下さい」



 ◇◆◇◆



「よろしく」

「仲良いメンバーが集まってよかったね!!」

「……」

「……」

「ひぃーーーー」



 上から順に真、桜、アルス、俺、一般人A(本名)が出揃った。



「桜」

「何?マイダーリン」

「kwbぅづjqhdy(声にならない悲鳴)。ゴホン、お前は子供が好きだろ。何故小学校に行かなかった」

「うーん、最初はそっちにしようって思ったんだけど、あの子に実際に会いたいと思って」



 あの子?実際?



 最近の桜は俺の知らないことばかり喋るな。



「僕も桜におススメされてた場所がまさか同じだったから、つい選んじゃったよ」

「そ」



 なんか勝手に喋り出したなコイツ。



「お前は?」

「私?」



 アルスが不思議そうに首を傾げる。



「あなたがそこを選んでたから」

「どうやって見たんだよ」



 場所決めは将来に関わることだからと、学園側は友達と行きたいからなどといった理由を避けるためにタブレットで見えないようにされている。



「光の反射で確認した」



 魔法でゴリ押しされた。



「あ、あの自分は偶々ここに通ってて、あのお婆さんは優しい方なのでここを選びました!!」

「「……」」

「僕達と似たようなものだね」

「そうなんだ!!よろしくね」



 すると教師が呼びかけをする。



「では来週、この班で現地に行ってもらいます。失礼のないように」



 こうして授業は終了した。



 ◇◆◇◆



「ただいま」

「……」

「あ」



 つい自然と帰宅の挨拶をしてしまう。



「め、目障りだ、消えろ」

「か、かしこまりました!!」



 使用人が去っていく。



「緩んでるな」



 最近何かと自分が出て来ている気がする。



「お兄様」

「ん?」



 神妙な顔をしたリアが声を掛ける。



「もうすぐ職場体験ですね」

「ああ」

「やはり、本館の方に行かれるのですか」



 険しい表情。



「いや、けった」

「え?」



 キョトンとした顔をする。



「それは一体……」

「二度も言わせるな。俺様は一般の枠に入った。それだけだ」



 リアは目に涙を浮かべる。



「す、すみません。勝手に心配していただけですので、どうか気にしないで下さい」



 そう言ってどこかに行ってしまった。



「アクトが前みたいに戻るのが嫌なのか」



 俺はアクトにはなれないことを再認識させられる。



「ああやって期待させても無駄なのにな」



 ◇◆◇◆



「ここか!!」



 月日は過ぎ、気温も最高潮に達して来た時期、俺らは例のお店に着いた。



「わぁ、古風な感じなのに店の名前がランボルギーニって凄いね」

「やっぱり今時はこういうインパクトが必要なのかもね」

「じ、自分もそれが気になってお店に入りました」

「「……」」



 店の前でワイワイと盛り上がる集団。



「おお、たくさん来たねぇ」



 するとお店からお婆ちゃんが出てくる。



「今日はこんな古いお店に来てくれて嬉しいよ。良い思い出になるよう楽しんでいきなさい」

「「「はい!!」」」

「「……」」



 店はそこそこの広さがあり、どこかカフェじみた雰囲気だ。



「おや?」



 するとお婆ちゃんが不思議そうにする。



「一度出禁になった人の魔力を感知するのがあるんだけど、どうしてか反応したねぇ」

「スーーーーーーーーーー」

「まぁ気のせいか」



 アクトの魔力が少ないお陰で助かったー。



「アクト前に何かしたの?」

「俺様が何かするような人間のように見えるか?」

「そうね。アクトが女の子を落とす以外のことをするはずないか」

「おい!!」



 そして店の中へと案内される。



「ほらリーファ、さっさと覚悟を決めなさい」

「うー」



 奥からひょっこりと顔を出す美少女。



「は、初めまして、リーファって言います」



 赤く染まった耳がピコピコと動く。



「グハ(いつも通りの吐血)」

「「なるほど」」



 何故か桜とアルスが納得する。



「綺麗な人」



 真も感嘆の声を上げる。



 俺も完全に同意だ。



「あ!!Aさん」

「お、お久しぶりです。リーファさん」

「よかったー、知ってる人が居てくれて」



 何だか二人の間に謎の暖かい空気が流れる。



「……」

「顔に出てますよ」



 桜がムッとした顔をしながら頬を引っ張ってくる。



 別に俺は嫉妬なんて浅はかなものは感じていない。



「言っただろ、こんな店を選んでくれる子達がリーファを悪く言うはずないって」

「確かにマロさんのお店を選ぶセンスの良い人達だね」

「全く」



 今度は別の意味で暖かい空気が流れる。



「それじゃあ初めにお店の説明から始めるね」



 こうして店内を案内される一行。



「ふわぁ〜」



 俺は大きな欠伸をする。



「君さ、もう少し真面目に聞いたら?」



 すると目の前にはリーファが立っていた。



「あん?お前俺様が誰だか分かってんのか?」

「は?知りませんけど。もしかして有名人か何かですか?もう少し知名度上げてから出直してきてよ」

「あぁん?」

「はぁ?」



 睨み合う。



「何でニヤけてんの?気持ち悪」

「……」

「何でもっとニヤけるの!!」



 可愛い顔を近くで見せるなどなんて卑怯な!!



「ほらほら喧嘩しない。次行くよ」

「はーい、ちゃんと話聞いてよね」

「チッ」



 俺はわざとらしく悪態をつく。



「あの子も落ちるのかな?」

「アクトはカッコいいからすぐ落ちる」



 外野も何故か俺に舌打ちをしてくる。



 ◇◆◇◆



「とりあえず作ってみようか」



 ケーキ屋といえばといった内容に入る。



「火魔法を使えれば自分で調整できるけど、誰かいるかな?」



 すると三人の手が上がる。



「珍しいこともあるんだねぇ」



 お婆ちゃんが驚くのも無理はない。



 この世界には様々な種類の魔法があるが、魔力によって使える魔法は決まっているため、五人中三人が同じ魔法を使えるというだけでも珍しい。



 まぁ真は光以外の全ての魔法を使えるんだけどな。



「アクトと私はお揃っちね」

「お前は何も使えないだけだろ」

「むぅ、アクトも闇魔法以外使えないくせに」



 俺とアルスは素直に与えられたもので作る。



 まぁ俺はサボるんだけどな。



「ちょっと君」



 するとまたまたリーファに目をつけられる。



「サボったらダメじゃない」

「俺様がサボってるように見えるならお前はその程度の人間だってことだ」

「これでもここで働かせてもらって長いんだから。あなた程度の人間に測れるようなものじゃないんだよ」

「チッ、ケーキ如きに熱くなりやがって」

「ケーキすら熱くできない君に言われたくないね」

「あ?」

「は?」



 睨み合う。



「……」

「頬がピクピクしてる」



 なんとか我慢する。



「確かにもうあれは仲良しだね」

「好きな子ほど虐めたくなる。だから私はアクトをいつも虐めてる」



 リーファがはぁ、とため息を吐く。



「まぁ職場体験なんてしたくないのに来た人もいるだろうし、私も熱くなりすぎたかも」



 リーファは頭を下げる。



「ごめんなさい」



 俺は知っている。



 リーファはこの店が大好きであり、職場体験に来た人にもここを気に入って欲しいこと。



 もしかしたら自身のことを差別せずに友達になってくれる人がいるんじゃないかと淡い期待をしていることを。



「ふん」



 俺はそっぽを向いた。



「ごめん、ああいう奴なんだ」



 真がフォローをいれる。



「ぷっ、ウケる」

「似合わない」



 そして外野は何故か笑っている。



「あわわわわ」



 一般人Aは慌てふためく。



「楽しくなりそうだねぇ」



 ◇◆◇◆



 楽しい時間というのはすぐに去り



「ここか」



 すぐに厄災はやって来る。

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